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リング

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38部分:エリザベートの記憶その十六


エリザベートの記憶その十六

「卿がか」
「ああ。縁があってな」
 海賊の首領とは思えない程の穏やかな物腰であった。そして気品もあった。
 何処かの王族、そう言われても通じる程である。タンホイザーはそう思った。
「そして貴殿は」
「私か。私はタンホイザー=フォン=オフターディンゲン」
 タンホイザーもまた名乗った。
「これだけ言えばわかるな」
「チューリンゲンのオフターディンゲン家だな」
「そうだ。そして」
「貴殿の言いたいことはわかっているつもりだ」
 ジークフリートは答えた。
「貴殿の奥方のことだな」
「そうだ。何処にいるか知っているのか」
 暗に彼等が拉致しているのではないかと問うていた。だがジークフリートはそれを聞いても特に気を害したということはないようであった。
「知っている」
 ジークフリートは答えた。
「ほう」
 それを聞いたタンホイザーの眉が動いた。
「ではそこは何処だ?」
「上だ」
 ジークフリートは上、すなわち艦橋を指差して言った。
「上だと」
「そうだ。貴殿の奥方はそこにいる」
「何故それを知っている」
「我々もまた帝国と戦い、その情報を掴んでいたからだ」
 ジークフリートは言う。
「その中で。貴殿の奥方のことも聞いていた。ニーベルングの軍に捉われているということをな」
「ヴェーヌスが」
「知らなかったのか」
「その情報はこちらには入っていなかった」
「そしてここにいるのはどうやらクリングゾル=フォン=ニーベルングではない」
「違うというのか」
「私もここに入るまではニーベルングがここにいるとばかり思っていた」
「だが違うと」
「捕虜にした兵士から聞いた。ここにいるのはニーベルングではない」
「では誰だ」
「そこまではわからない。だが上に行けば全てがわかる」
「上に」
 タンホイザーはその言葉を聞き上を見上げた。
「上にヴェーヌスと。そしてその何者かがいるというのか」
「行くのか?」
 ジークフリートはタンホイザーに問うた。
「上に」
「当然だ」
 タンホイザーはその問いに対して強い言葉で答えた。
「その為にここまで来たのだからな」
「そうか。では行こう」
 ジークフリートは彼を誘った。
「そして貴殿の妻を救い出し」
「その何者かを確かめる」
 二人は頷き合った。そして艦橋へと続く階段に足をかけるのであった。
 階段を昇り上へ進む。昇りきるとそこには機械に覆われた黒い部屋があった。
「よくぞここまで来たと言うべきか」
 低く、それでいて張りと艶のある女の声が聞こえてきた。
「御前だったか」
 ジークフリートは彼女の姿を認めて言った。
 見れば黒い軍服とマントに身を包んだ女がそこにいた。金色の髪と瞳を持っている。その金色の目は美しく、そして妖しい光を放っていた。
「クンドリー」
「クンドリー」
 タンホイザーもその名に反応した。
「クンドリーといえば確か」
「そうだ。ローエングリン=フォン=ブラバントがジークムント=フォン=ヴェルズングに追わせていた女だ」
 ジークフリートが彼に答えた。
 
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