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真田十勇士

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巻ノ百三十六 堺の南でその七

「紀伊の和歌山城もな」
「憎むべき浅野家の城も」
「裏切り者の城もですな」
「攻め落としそうして」
「我等のものとしますな」
「そうじゃ、そして南の憂いを完全に絶ち」
 そこから先も言う治房だった。
「そしてじゃ」
「さらにですな」
「今度はですな」
「返す刀で平野の方に向かい」
「敵を討ちますな」
「幕府を」
「大御所殿の首も挙げるぞ」
 浅野家の面々の次はというのだ。
「よいな、では岡部殿と塙殿にはな」
「先にどんどん進み」
「そうしてですな」
「浅野家の軍勢を討つ先陣をしてもらう」
「そうしてもらいますか」
「そう伝えよ」
 治房はこう言った、だがここでだった。
 家臣の一人が治房にだ、怪訝な顔で尋ねたのだった。
「殿、それでなのですが」
「何じゃ」
「はい、その先陣ですが」
「岡部殿と塙殿のか」
「そのことですが」
 治房に怪訝な顔で話した。
「やはり塙殿は」
「先陣を務めて頂いていることはか」
「あの方はとかく功を逸りますので」
「先陣にするとか」
「真っ先に突っ込み」
 そうしてというのだ。
「無駄に命を散らされるかも」
「言われてみればそうじゃな」
 治房も言われてみてこの危惧を覚えた。
「あの御仁はな」
「はい、ですから」
「塙殿の先陣はか」
「今からでもです」
「第二陣に回してか」
「岡部殿にされては」
「そうじゃな、しかしな」
 ここでだ、治房はその家臣に難しい顔でこう述べた。
「今わしがこう言ってもな」
「最早ですか」
「一旦先陣に出て引っ込む塙殿と思うか」
「いえ、あの方はそうしたことはです」
 まさにとだ、その家臣も答えた。
「間違ってもです」
「聞かれる御仁ではないな」
「そうなれば最早です」
「誰が何と言ってもな」
「先陣を務められます」
 無理にでもそこに居座ってだ。
「そうされます」
「だからじゃ」
「それで、ですか」
「もうな」
「先陣を務めてもらうしかありませぬか」
「そうじゃ、思えばな」
 後悔も感じてだ、治房は述べた。
「塙殿についてはな」
「この度の出陣、先陣を申し出られた時に」
「止めるべきであった」
 先陣を受けることもというのだ。
「その時にな」
「そうですか」
「しかしな」
「ことここに至っては」
「塙殿の武運に期待するしかない」
「無事に浅野家の軍勢を退けて」
「そのうえでじゃ」
 まさにというのだ。
「和歌山城までの先陣もな」
「務めてもらうしかないわ」
「そうなりますか」
「しかも岡部殿よりもじゃ」
「塙殿の方がですな」
「戦をご存知じゃ」
 加藤義明の下で多くの戦を経てきた彼の方がというのだ。 
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