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真田十勇士

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巻ノ百三十五 苦しい断その四

「浪人衆はそのまま残してな」
「戦の用意をはじめたのですか」
「大坂はな、そして幕府もな」
 大坂と対する彼等もというのだ。
「戦を決意したうえで」
「当家にもまた」
「文を送ってきた」
「合戦の用意をせよと」
「そうしてきたわ」
「それでは」
「すぐに戦の用意に入るのじゃ」
 景勝は兼続に確か声で話した。
「よいな」
「わかり申した、それでは」
 兼続も応えた、そうしてだった。
 そのうえでだ、兼続は景勝にこう言った。
「豊臣家の天下はまさに一酔の夢でしたな」
「義父上の詩か」
「はい、ふとこう思いました」
「確かにな、太閤様は天下を統一されたが」
「それは一代だけのことでした」
「天下人となり栄耀栄華も極められたが」
 それもまた、というのだ。
「結局はな」
「一代限りのことで豊臣家も終わる」
「それならばです」
「まさに一酔の夢か」
「そうですな」
「お主の言う通りじゃな、あれだけの栄耀栄華がな」
「今まさに終わり」
「後には何も残らぬ」
 景勝は険しい表情、彼にとってはいつものそれで述べた。
「一切な」
「ですな、しかし」
「大御所様としてはな」
「右大臣殿のお命までは」
「そうお考えじゃ、まあそこはな」
「大御所様次第ですな」
「うむ」
 そうだとだ、景勝は兼続に答えた。
「そうなる、ではじゃ」
「はい、これより」
「出陣の用意じゃ」
 景勝も命じてそのうえでだった。
 上杉家も出陣の用意に入った、他の出陣を命じられた大名達も同じで多くの家がまた出陣に入った。
 この状況にだ、ようやく傷が癒えた大野は苦い顔で言った。
「最早こうなってはな」
「どうにもなりませぬな」
「この状況は」
「最早」
「仕方がありませぬな」
「戦しかない」
 こう己の家臣達に言った。
「だから先日の馬揃えにも出たが」
「しかしですな」
「それでもですな」
「この状況をどうするか」
「それは」
「まだ考える、何としてもじゃ」
 それこそというのだ。
「右大臣様のお命だけは」
「何とかせねば」
「そうしてですな」
「この状況でも」
「その様にですな」
「思っておる」
 今もというのだ。
「そうしてな」
「はい、これより」
「何とかして」
「右大臣様のお命だけは」
「その様にしていきますな」
「そうする、手を尽くしてな」
 こう彼の家臣達に言うのだった。 
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