転生×魔弾の王×萌えもん=カオス
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十五本目
「……ドラゴンタイプ」
それもかなり大きい。
恐竜のようなシルエット。
大きく開いた口には牙が並んでいる。
その名前はガチゴラス。
XYで登場したTレックスモチーフのポケモンだ。
その基準サイズは二メートルから三メートル。
しかし、眼前の月明かりを受ける巨体はその数倍はあるだろう。
異常個体だ。
「ほう。あの大きさの竜を飼い慣らすとは」
「ガチゴラス。タイプは岩と龍だ」
「なるほど地龍か」
そうしている合間にもライトメリッツ兵がガチゴラスに凪ぎ払われる。
「距離を取れ!遠距離攻撃で足止めするんだ!」
兵達が僅かに後退する。
が、ロケット団もソレを見て態勢を建て直し始めた。
いつぞやのガブリアスは森の中という状況故にトラップを仕掛けられた。
だが、この平原では…
「くそっ…」
ガチゴラスに矢は通じないだろう。
だから、ライトメリッツ兵がガチゴラスを足止めしてくれている間にロケット団の団員を射つしかない。
「龍とは予想外だった。だから褒美に…
ちょっとした技を見せてやる」
エレンがガチゴラスへ向けて走り出した。
「エレン!奴に飛行タイプは相性が悪い!
鋼タイプで攻めるんだ!」
だが、エレンの取ったのは俺の助言とは逆の手段だった。
「アリファール!」
エレンが剣に呼び掛けると、呼応するように剣が青く輝いた。
振り上げられた剣の周囲には、風が光となって収束していた。
光は螺旋と化し、やがて竜巻や嵐のような、人智を越えた災厄となる。
そして…
「大気ごと薙ぎ払え……レイ・アドモス!」
エレンが剣を振り下ろした。
暴風の刃がガチゴラスへ叩きつけられる。
風…つまり飛行タイプの技は半減される。
だと言うのに、ガチゴラスは悶え苦しみ、やがて地に伏した。
瀕死となった切り札に、ロケット団の誰もが呆けたように立ち尽くしていた。
「エレン!なんだ今のは!?初めて見たぞ!」
「当然だ。初めて見せたからな」
エレンが剣を鞘に戻すと、纏っていた光が霧散した。
こちらへ歩いてくるエレンに駆け寄る。
「威力が威力なのでな。普通の相手には使わないと決めている。
私の部下でもこれを見た物はほとんどいない。
お前は運がいいぞ」
「そんな運はいらない。あんな半減しても一撃で龍を倒すような技を使わなければいけない相手とは戦いたくないよ」
ドラゴンタイプは、普通のポケモンとは桁違いの能力を持つ。
この世界はゲームではない。
長く生きれば経験を積むし、体が大きければ単純に頑丈になる。
あの大きさの、それもドラゴンタイプを仕留めるとなればそれこそ一撃必殺級。
「くく…半減か。うん。半減。普通ならばな」
「なに?」
するとエレンは唐突に俺の頭に手を置いた。
「お前は小さいから知らないだろうが、岩や地面でさえも風によって崩されるのだぞ」
「風化?」
「なんだ知っていたのかつまらん奴だ」
そうか…ヴィラルトは、普通のタイプ相性とは別…いや、一段上のレベルの相性を持つのか。
アリファールによって放たれたさっきの技は確かに飛行…つまり風だ。
岩石は風によって風化して砂と化す。
まるで、自然の摂理を圧縮したような…
刹那、突風が吹き荒れた。
エレンはアリファールを鞘に収めている。
ならば…!
敵の…ロケット団の方を見ると、巨体が空を舞っていた。
「飛竜か…!?」
青い巨体に大きな赤い翼。
空を舞う西洋竜のような姿…
「ボーマンダ…だと…!?」
その背中には、一人の男が乗っていた。
おそらくは、指揮官だ。
ボーマンダはこちらを攻撃する事なく、高度をあげていく。
そして、クルリと反転してこちらに背をむけた…逃げる気だ。
「さっきので風をつかってしまった…
今周囲にある風では届かない……!」
エレンが悔しげに声をあげる。
矢を届かせる事だけならばできる。
だが、ボーマンダはドラゴンタイプだ。
射程ギリギリの矢でダメージを与えられるような存在ではない。
『竜を射ちなさい』
え?
誰かが囁いた気がした。
だけど、周りにはエレンしか居ない上、エレンの声ではない。
『もう一度言うわ。竜を射ちなさい』
まただ。
戦場の喧騒とは違う、落ち着いた柔らかな声。
ドクンと握った弓が脈動した。
まさか…
弓が黒い光を纏っていた。
竜を射て…お前が言ったのか?
いいだろう。射ってやる。
射てるだけの力がお前にあるんだよな?
矢をつがえ狙いをつける。
弓にまとわりついた黒い光が矢に宿る。
矢を離した瞬間、自分の中の何かがごっそりと消えたような気がした。
放たれた矢は、今まで見た事のない速さでボーマンダに迫る。
しかしその側面を掠り、態勢を崩しただけだった。
矢はどこかへ飛んでいき、ボーマンダは態勢をすぐさま立て直した。
「ティグル!なんだ今のは? 私でもヴィラルトでしかあのような光景を目にした事はないぞ…?」
俺にもさっぱりだ。
ただわかるのは…
「この弓の力…だとおもう」
次は…当てる。
再び矢をつがえると鏃に闇が集束する。
「風は私が操る。お前は矢の狙いだけを定めろ」
つがえた矢の隣に銀閃が添えられた。
闇が風を巻き込んで肥大する。
「当たれ!」
射離した瞬間、風を纏った闇が天に登った。
そして…ボーマンダを貫いた。
瀕死となった竜はまっ逆さまに落ちていき…沼に墜落した。
ガチゴラスとボーマンダ。
二つの切り札を失ったロケット団は潰走する。
だが、例えぼろぼろだろうと逃しはしない。
罰を受けてもらわなければいけない。
「逃すな!やり過ぎても構わん!捕らえろ!」
俺の声に、兵達が団員を拘束する。
こうしてマサラタウンに襲撃を仕掛けたロケット団は、全て捕縛された。
捕縛したロケット団を半数の兵に見張らせ、マサラタウンへ戻る。
何も隠さず、堂々と歩く。
危機が去った事を知らせなければいけない。
その途中、当然ながら弓の話となった。
「戦姫のヴィラルトに弓はない」
エレンが淡々と告げた。
「そもそも弓があったとはいえお前がヴェーダと同等の威力の攻撃をできたというのが…」
エレンが熟考に入った。
「不思議な弓と言えば、一つだけそんな伝承を聞いた事があります」
リムが思い出したかのように言った。
「ある男が女神より必中の弓を授かり、あらゆる敵を射倒しついには王となり、人は彼を『魔弾の王』と呼んだそうです」
「王って例の黒龍の化身か?」
「いえ、公国の神話に女神は登場しません。
それよりも古い時代の話でしょう」
するとエレンが嬉しそう…いや楽しそうに俺を見つめていた。
「『魔弾の王』か」
その顔は揶揄いたいと言っているような物だ。
「悪くないな。お前の事をそう呼ぼうか」
「じゃぁおれも『戦姫様』とか『銀閃の姫君』とよぼうか」
トンと頭をこづかれた。
「私が言ったのは王になるくらいと気概を持てという事だ。
揶揄っている訳ではない」
「ならそのニヤニヤした顔をどうにかしろ。
あと王にはならん」
仮にこの弓がそんな物だとしても、俺はそれで王になろうとは思わない。
「王になりたくないのか?」
とエレンに聞かれた。
「やだよ面倒くさい」
するとクスクスと笑われた。
「あぁ、そうだ。ティグルお前に言っておく事がある」
「今度はなんだ?」
エレンが俺の脇に正面から手を入れ、持ち上げた。
「お前は私の物だ」
そのときのエレンの顔は年相応で、可愛かった。
「そうだな。まずはあの侍女の事でも聞かせて貰おうか。
あのときのお前はとにかく必死だったからなぁ」
侍女…? あぁ、ティッタの事か。
たしかにティッタはエプロンドレスを着ているが別にメイドじゃぁないんだけどなぁ…
「楽しみだな。ティグル」
後書き
次回からぐだぐだします。
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