天体の観測者 - 凍結 -
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神は既に死んでいる
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ではどうぞ
オカルト研究部を支配するは恐ろしいまでの静寂。
先程まで殺伐とした雰囲気を醸し出す元凶であったゼノヴィアとイリナは驚愕に口を閉ざしてしまっていた。
そう、ウィスから放たれた衝撃的な言葉によって。
「主が…我らが神が既に死んでいる…だと…!」
「そんな、……嘘っ!?」
2人は茫然自失と化し、言葉が出てこない。
否、理解したくなかった。
「信じられないと言わんばかりの顏ですね。ですが、初対面である貴方方に私が嘘を言う理由はありませんよね?」
反論が仕様が無い程の正論。
ぐうの音も出ないとはこのことだ。
「……疑問に思うことはなかったのですか?幾ら聖剣遣いとは言え明らかに格上的存在であるコカビエルに対して一切の援軍も無く2人だけで派遣されたことに。聖剣には聖剣、と言えば聞こえは良いですが聖剣の破壊ないしは奪取が最優先事項だというにも関わらず貴方方が選ばれたことに。本来ならば上位の天使が出張るべき事態にも関わらず貴方方が選ばれたのは、
──そう、既に貴方方が信仰する神はこの世界の何処にも存在していないからです。」
貴方方は良いように使われたのだとウィスは言外に彼女達に説き伏せる。
一度も疑問に思うことはなかったのか、とウィスは残酷なまでの事実と織り交ぜて突き付けた。
「……それに紛れもない証拠は木場が見せてくれます。」
ウィスは否定仕様の無い証拠を突き詰めるために木場を指名する。
そう、聖書の神が死んでいるという残酷なまでの事実を。
木場、君に決めた。
ウィスからのご氏名を受け、木場は前へ出る。
己の神器を掲げ、主であるリアスにさえも一度も見せたことがない二段階目の解放を行う。
「先に謝らせて頂きます、リアス部長。」
天へと掲げ、木場は自身の神器の第二段階目の解放をオカルト研究部の室内にて行った。
創造された魔剣に聖なる力が付与され、その輝きを増していく。
「リアス部長、これが僕の禁手、双覇の聖魔剣です。」
顕現するはこれまでの常識を逸した力を有した亜種の禁手。
聖と魔、光と闇の本来ならば相反する存在が融合し、創り出された聖魔剣だ。
これこそが聖書の神が死している確たる証拠。
聖と魔、光と闇の境界が神の死により壊れ、曖昧なものとなることで生まれた禁手である。
「木場、貴方、何時の間に禁手を……。」
リアスは空いた口が塞がらない。
「すいません、リアス部長。つい先日ウィスさんとの修行で禁手することに成功していたのですが、ウィスさんと相談した結果、暫くの間は内緒にしておこうと決めていたもので…。」
口を濁す木場。
「これが神が死んだという否定の仕様が無い証拠です。」
これで認めざるを得ないだろう、聖書の神の死を。
「聖と魔の融合…。」
「そんな、有り得ないわ…。」
ゼノヴィアとイリナの2人は打ちひしがれることしかできない、目の前の事実に。
「聖書の神が死んだことによって聖と魔のバランスが崩れ、このような亜種の禁手が生まれました。」
そして神が死んだ証拠はこれだけではない。
「そして世界に散らばる数多の神器の中枢的器官であるシステムを扱う神が死ぬことによって不具合が生じ、例外的なこの禁手が生まれ、アーシアの様に異端者として追放される存在が生まれたんです。」
ウィスはどうしようもない事実を容赦無く突き付ける。
「神とは…、人々の信仰や自然現象が具現化した存在であり、人々の献身と信仰が無ければ存在を保てない完全でありながらどこか不完全な存在です。故に悪魔さえ癒してしまう神器である聖母の微笑を持つアーシアは追放せざるを得なかったんですよ。」
「そんな…、なんでだよ!?」
余りにも勝手で、残酷なアーシアの処遇に一誠は我慢できずに声を荒げてしまう。
「システムが正常に機能していない今、アーシアの様に少しでもシステムに影響を与える可能性を秘めた存在は追放するのが妥当な判断だからです。」
遂にアーシアは泣き出してしまう。
彼女が追放された理由の背景には信仰していた教会に加え、天界の天使達でさえ関与していたのだ。酷すぎる。1人の少女が背負うには重すぎる事実だ。
だが彼女は真実を知る必要がある。
見れば嗚咽を漏らすアーシアを一誠は優しく抱きしめていた。
「……ですがそんなに悲観することではありませんよ、アーシア?」
だがウィスの語りはこれで終わることはない。
「確かにアーシアは信仰していた存在に裏切られ、追放されたかもしれません。ですがいつだってアーシアは己の良心に従い、自らの意志で行動してきたはずですよね?」
「貴方の信仰心は紛れもない本物であり、悪魔となった今でもその穢れの無い在り方は変わっていません。それで良いではありませんか。」
天使、堕天使、悪魔など関係ない。
種族の違いなど些細な問題なのだから。
「ウィスさん……。」
そう、人々はいつだって神々の思惑を越え、自らの足で歩き続けてきた。
"命ある限り前に進み続けること"、それが人が有する唯一無二の強さだ。
「それに今のアーシアには誰よりも貴方のことを気にかけてくれる仲間と男性がいるはすですよ。」
ウィスの言葉を受け、アーシアは瞳に光を取り戻す。
一誠はウィスの言葉を肯定するように彼女を抱き締める力を強めた。
もう、アーシアは大丈夫だろう。
「さて、すみません。貴方達との会話の途中でしたね?」
ウィスはゼノヴィアとイリナの2人へと向き直る。
「これで理解して頂けましたか?聖書の神の死という事実を?」
「…待て…。」
「これまでの行いは全て主の意向だと思っていたのですか?」
「待て……。」
「主の意志だと信じ、行動してきた自分を崇高な存在だとでも思っていたのですか?」
「……!」
残酷なまでの事実を直視できなかったゼノヴィアは遂にウィスへと突貫する。
なりふり構わず彼女は破壊の聖剣をウィス目掛けて手加減することなく振りかざした。
だが、ウィスは左手の掌を前にかざすだけで受け止める。
「落胆させないでください。この程度ではないはずです。仮にも伝説の聖剣より創り出された聖剣の力は…。」
ウィスは実に緩慢に、流暢な動きで聖剣から手を離す。
「信じられませんか私の言葉が。」
「…当たりまえじゃないか…!」
「ですが"事実"です。」
「嘘だ!」
「聖書の神は既に死んでいただと!?これまでの私の行動は全て独善的なものだったと言うのか!?そんな戯言誰が信じられるか!」
ゼノヴィアは遂に発狂する。
そんなことは信じられないと、嘘だと。
「ならばこれまでの私の献身とは一体何だったのだ!?それではまるで私は、…"悪魔"ではないか!?」
これまで自分は聖書の神の信仰を相手に押し付け、神の名の元断罪してきた。
だが既に聖書の神はいない。
神のため、主のためと相手を切り捨ててきた。
何が神のためだ。
信仰する神の名を利用して傲慢に、独善的に相手を断罪してきただけではないか。
「…随分と面白い事を言いますね。今更とも言いますが…。そうです、今貴方は自分で認めたんですよ。"独善的"、"悪魔"だと。」
「あ…あぁ…あぁ…。」
遂にゼノヴィアは弱々しく目を見開き、聖書の神の死という事実に打ちひしがれる。
隣で意気消沈したように伏すイリナも同様だ。
「無理も無い事です。同情します。」
「この世界には最初から真実も嘘も存在しません。あるのはただ厳然たる事実のみ。にも関わらずこの世界に存在する全ての者は自らに都合の良い"事実"だけを"真実"として誤認することで生きています。そうするより他に生きる術を持ち得ないからです。」
「…ですが、世界の大半を占める力無き者にとって自らを肯定するに不都合な"事実"こそが悉く真実なのです。」
「貴方方は事実の全てを知っているのですか?聖書の神が死した後世界にどのような影響を及ぼしたのか。現在の天界と神器のシステムを動かしているのは誰なのか。そして、貴方方が信仰していた聖書の神とは一体何者だったのか。」
ウィスは最早何の反応も返さないゼノヴィアとイリナの2人へと問い掛ける。
「最後に貴方方に言っておきます。神を盲目的に信仰し、神の声に従い行動することは一種の思考放棄、傀儡と化すことと何ら変わりません。何故なら、"信仰とは理解から最も遠い感情"だからですよ。」
それでも神を信仰し続けるのは貴方方の勝手ですがね、とウィスは彼女達の今後の人生を左右する言葉を放ち、口を閉ざした。
「リアス、魔王に連絡を取る必要はありません。」
続けて事態の収拾を行うべく行動しているリアスへとウィスは呼びかける。
「え…?でも今回の一件は私達では手に負えないと思って今すぐにでも連絡しようと思っていたのだけど…。」
妥当な判断だが、今回は例外だ。
「本来なら私は極力手を出すつもりはありませんでしたが、気が変わりました。今回の一件、私が取り持ちます。」
此度の騒動は自分が即刻、即座、即時に物理的に終わらせる。
此処でエクスカリバーを取り巻く聖剣計画とそのふざけた全ての問題に終止符を打つのだ。
「朱乃はコカビエルが所属する神の子を見張るものに連絡を頼みます。」
「はい、分かりましたわ。」
最も神の子を見張るものから派遣された使者が現場に到着したころには全てが終わり、残るは事後処理だけとなっているだろうが。
「木場は今回の件を生徒会に報告を。今夜の校舎を使用する許可を貰ってきてください。結界は不要とも伝えておいてください。」
「分かりました。」
ウィスの指示を受け、リアス達は即座に行動に移した。
▽△▽△▽△▽△
此処は深夜の廃墟。
駒王町の山脈の一つである山にその廃墟は建てられている。
この場には今回の聖剣騒動を引き起こした首謀者であるコカビエルが宙に座していた。
傍には狂気の聖剣計画を企てた張本人であるバルパー・ガリレイと同じく狂気のエクソシストであるフリード・セルゼンの姿が。
途端、廃墟の入り口は粉微塵に吹き飛び、大爆発を引き起こした。
「失礼。」
杖を打ち鳴らし、足を進めるはウィス。
「おんやー?こんな真夜中にこの廃墟に何の用…!?」
ウィスは聖剣の遣い手である白髪のフリードと肥えた身のバルパー・ガリレイの襟元を即座に掴み取り、勢い良く放り投げる。
無論、目的地は駒王学園の校舎のど真ん中である。
両者は廃墟の壁を突き破り、2人仲良く夜の空中散歩をする。
2人の存命を確認したところ此方の目論見通り駒王学園の校舎のグラウンドに頭から上半身を深く埋まる形で埋没している。
虫の息だが何とか生きているようだ。
我ながらナイスコントロール。
「ほお、これはまた面白い奴が来たものだ。」
余興としては申し分ない、と立ち上がったコカビエルをウィスは何の予備動作を要することなく吹き飛ばし、廃墟から強制退場させる。
「なっ…に…!?」
瞬く間に宙へと為す術無くその身を投げ出されたコカビエルの背中へウィスは左腕の肘を容赦することなく叩き付け、駒王学園のグラウンドへと勢い良く叩き落とした。
大気が浸透し、波紋状の衝撃波を生み出し、コカビエルは無様に眼下へと一直線に墜落する。
─リンク65%─
後書き
我らが崇拝するあのお方のお言葉を拝借させて頂きました
いや、もう本当に彼のお言葉はOSRで世界の真理を明確に突き、残酷なまでに相手に世の紛れもない事実を突き付ける素晴らしいお言葉だと感じるこの頃。
感想と評価お待ちしております
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