IS~夢を追い求める者~
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最終章:夢を追い続けて
第69話「天才の姉、努力の妹」
前書き
―――……強くなったね、箒ちゃん
箒VS束です。
……ぶっちゃけ、箒には強化描写がないので、過程や理由のないパワーアップをしているようなものですが、秋十同様にずっと努力をしていました。
今に至るまで、篠ノ之流を学びなおしていたりもします。
=箒side=
姉さんは、天才だ。
それは、今や世界中の誰もが知っている事だ。
天才で、なんでも出来て、そのせいで周りと上手く関係を持てなかった。
“なぜ、自分のように出来ないのだろう”と、そう思ってしまっていた。
そのため、周りを下に見てしまい、関係が持てなかったのだろう。
そんな時、千冬さんと桜さんに姉さんは出会った。
桜さんは姉さんのように、千冬さんは別方面で天才だった。
だからこそ、意気投合し、また頭脳では天才ではない千冬さんがいたからこそ、周りに対する理解もマシになったのだろう。
「………」
……そんな天才な姉さんの本気を、私は見た事がない。
なまじ天才なため、実力を出し切る機会がなかったのもある。
桜さんや千冬さんが本気を出させた事があっても、私は直接見た事はない。
父さんも篠ノ之流の当主として立ち会った時、見た事があったらしいが……。
「っ………」
そんな姉さんが、今、私の相手として立っている。
対峙する。それだけで理解ができた。
“普段から本気が見られない”。その訳が。
「(隙が……ない……!)」
私の知る、ふざけた態度の姉さんとは大違いだ。
これが姉さんの本気であり、私に対する誠意なのだろう。
「………!」
篠ノ之流は、何も“剣道”だけじゃない。
“剣術”としても知られている。
道場として機能しているのは、基本的に“剣道”の方だが……。
高校生まで、私は家の流派を“剣道”としてしか習っていなかった。
だが、今は“剣術”としても篠ノ之流を修めている。
……それが、何を意味するかと言うと……。
「……っぁあ!!」
「っ!」
ギィイイン!!
今の私なら、例え全力の姉さんが相手だろうと、立ち向かえるという事だ。
「……まさか、真正面から来るとはね」
「どこからでも同じでしょう」
短く会話を交わした瞬間、私のブレードが弾かれる。
そのまま返すブレードで私を狙ってきたので、しゃがんで躱す。
同時に足払いを掛けるようにブレードを振るう。
「っと」
「っ!」
だが、それはあっさりと跳躍して躱され、落下を伴った振り下ろしが繰り出される。
咄嗟に横に転がる事で、それを回避する。
「くっ!」
ギィイイン!
そして、起き上がる前にブレードを盾のように構える。
そこへ斬撃が叩き込まれる。
「っ……!つぁっ!!」
「ッ!……っと」
受け止めた状態から何とか逸らし、気合と共に一閃。
結果は避けられたが、これで一度間合いを取る事ができた。
「(力、速さ、鋭さ、判断力、洞察力、全てで上回られるか……!)」
分かっていた。わかっていた事なのだ。
……だが、それでも驚かずにはいられない。
「(属性……いや、ダメだ。姉さんは全属性扱えると言っていた。使ってもまともに敵うはずがない)」
そもそも、今は互いに属性を使わない状態で戦っている。
私が属性を宿していないから、姉さんも対等であろうと手加減してくれているのだ。
……手加、減……?
―――ギリィッ……!
思わず、歯ぎしりしてしまう。
「(この期に及んで、手加減……だと?ふざけるな、ふざけるな!殺し合いではないとはいえ、これは真剣勝負だ!手加減なぞ……!)」
いや、そもそも、そうさせたのは誰だ?どうしてなんだ?
……私だ。私が属性を宿していないから、こうなっているんだ。
「っ……!」
憤りを感じた。姉さんにではない。私自身にだ。
一体何をしているんだ?この期に及んで“甘え”が出ているぞ?
……全力でぶつからなくては意味がないだろう?
ギィイイイン!!
「ッ……!」
「っとぉ……!」
「は、ぁっ!!」
ギギギギギィイイン!!
間合いを詰め、斬る。
ただ我武者羅にではなく、篠ノ之流を修める者として、狙いを定めて斬る。
私の突然のスピードアップに、姉さんは即座に対応してきた。
だが、僅かに遅い。間髪入れなければ、こちらが優勢だ……!
「甘いよ!」
「っ!!」
……尤も、“優勢”なだけで、勝てる訳じゃない。
攻撃と攻撃の合間に繰り出された一閃に、思わず後退してしまう。
「(実力が私の方が劣っているというのに、優勢になっただけで勝てる訳がないだろう。私は馬鹿か……!)」
姉さんは積極的に攻めてくる事はない。
だが、お互いに隙を伺っている。
ジリジリと、距離を保ったまま部屋の中を回る。
「(さっきのように行く事は絶対にありえないと思え!ここから先は姉さんも属性を使うはずだ。……ただ全力でぶつかる!!)」
搦め手などが苦手な私は、結局それしかあるまい。
普通にやっても通じないのであれば、通じるまで試せばいい。
「はぁああっ!!」
「っと」
ブレードを振るう。防がれる。
再び振るう。今度は躱される。
また振るう。逸らされ、反撃が繰り出された。何とか躱すも、体勢を崩す。
だが、そこを踏ん張り、再びブレードを振るう。
……姉さんの目が、少しだけ見開かれた。
ギィイイイン!!
「ぐ、くっ……!」
「っ……はっ!」
「っあ……!」
体勢を立て直しつつ、防がれたブレードを押し込もうとする。
すぐに押し返されてしまうが、同時に間合いを取る事で反撃を躱す。
「っっ……!」
「……!」
即座に踏み込み、ブレードを振るう。
だが、やはり当たらない。
「(でも、それがどうした)」
当たらないのは百も承知。だから焦る必要はない。
今必要なのは、常に神経を研ぎ澄まし続け、ひたすらに一つ前の攻撃よりも早く、重く叩き込む事を意識する事だ……!
「ふっ!」
「っっ……!」
ギィイイン!!
ブレードで薙ぎ払われ、防御の上から私は後退する。
当然だ。“風”と“水”しか宿していない私では、四属性を宿す姉さんに力で勝てるはずがない。
「は、ぁっ!」
何度弾かれようと、やる事は変わらない。
ただただ心の赴くままに、ブレードを打ち込む……!!
=out side=
「(……一体、何を……)」
箒の攻撃を受け続ける束は、箒が何を狙っているのか探っていた。
実力の差もあり、束は積極的に攻める事はない。否、必要なかった。
だから甘んじて攻撃を捌き続けているのだ。
「(何を狙って……ううん、これは、もしかして……)」
何度も攻撃を仕掛けられれば、束は当然のように狙いが分かる。
そして、今回も気づいていた。
「(……攻撃を重ねるごとに、重く、速く、鋭くなってる……!)」
戦闘を続けるに連れ、体力は落ちていく。
そのはずなのに、箒の太刀筋はより洗練されている事に。
「はぁあっ!!」
「っ……!」
ギィイン!ギィン!ギギィイン!
何度も、何度でも、箒は斬りかかる。
いくら避けられようとも、受け止められようとも、弾かれようとも。
束が反撃に出ない事を良い事に、ただただ攻撃を重ねた。
「(やっぱり、間違いない……!)」
「は、ぁっ!!」
ギギィイン!!
「(箒ちゃん、この戦いの中で、成長し続けている……!)」
洗練されていく太刀筋を受け止めつつ、束は確信する。
ありえない程のスピードで、箒は束に追いつこうと成長しているのだと。
「っ……!?」
「そこだ!」
「くっ!」
ギィイイン!!
ついに、躱そうとしたところで束にブレードが掠る。
それに一瞬動揺した事を箒は見逃さずに追撃。
束は即座に意識を切り替えてその追撃を防ぐ。
「っ、まだまだ!」
「ッ……!」
ギギィイイン!!
「ぐぅぅ……!」
さらに追撃しようとする箒。
だが、次の瞬間に咄嗟に防御を行った。
そこへ叩き込まれる束の“反撃”。
防御の上から箒は大きく後退した。
「……強くなったね、箒ちゃん」
「ッ……!」
体勢を立て直し、再び斬りかかろうとして……踏鞴を踏む。
束から改めて放たれた剣気に、攻撃を躊躇してしまったからだ。
「最初はしばらく受け続けるだけにしようと思ったんだけど、それだと負けそうだから……」
―――今度は、私からも行くよ?
「ッ―――!!」
ギギギィイイン!!
それは、偶然と言えた。
束がそういった瞬間に、箒はその速さに束の姿を一瞬見失った。
その間に間合いを詰めた束の斬撃を防げたのは、箒の直感が良い方向に働いたからだ。
「く、ぅっ!」
「甘いよ!」
ギィン!ギギギィイン!!
“風”と“水”を宿していても、その動きは見切れない。
それほどの速さで束は攻撃を仕掛けてくる。
さらには、体勢を立て直す暇もないため、箒は防戦一方になってしまう。
それでも防げているのは、動き自体は見えているからだろう。
「く、っぁああ!!」
ギィイイン!!
「っ、はっ!」
「ぐぅうっ!?」
だが、箒も“意志”では負けていなかった。
床を蹴るように無理矢理体勢を立て直し、ブレードを振るう。
その一撃は、束の攻撃を一度阻止する事に成功した。
尤も、第二撃がすぐに放たれ、箒は防御の上から床に転がされたが。
「ふっ!」
「っっ……!」
ギィィイン!
起き上がろうとする箒へ、ブレードが振り下ろされる。
ブレードを盾にし、横に逸らす事で、箒はその攻撃を凌ぐ。
同時に、弾かれるように横へと転がり、その勢いのまま起き上がる。
「シッ!」
「くぅっ!」
ギィイン!ギギィイン!!
袈裟や突き、様々な動きで束は箒へ斬りかかる。
それらを何とか凌ぐ箒だが、防戦一方になってしまう。
「(このままで……終われるものか!)」
ギィイン!!
「っ!?」
「くっ……!ぁあっ!?」
負けられない意志が、箒の体を突き動かす。
束の突きを、箒は最適な形で受け流し、反撃を繰り出した。
残念ながら、その攻撃は躱されてしまうが、束もそれに驚愕していた。
箒は反撃を防御の上から喰らい、大きく後退させられる。
追撃を逃れるために、すぐさまその場を飛び退いた。
「(……本当に、凄い。……次々と、私の予想を超えてくれる……!)」
「(まだだ!まだ、姉さんには届かない!もっと早く、鋭く!)」
妹の成長に歓喜する束に対し、箒はただ冷静に、それでいて熱く思考を巡らせる。
この動きが通じなければ、別の動きを、それも通じなければさらに別の……。
そうする事で、箒はあり得ない程の速度で成長し続けている。
「はぁっ!」
「っ!」
ギィイン!ギギィイン!
「くっ……!まだだ!」
「っと……!甘い!」
ギィイイイイン!!
「ぁあっ!」
「くっ……!」
ギギギィイン!!
箒はとにかく速く動き、何度も攻撃を繰り出す。
束はそれに対し、適格に防御。そして反撃を繰り出していた。
“火”と“土”の分、箒は反撃を防御しきれずに何度も後退していた。
だが、それに構わず何度も箒は斬りかかる。
当然、その度に箒は体力を減らしていった。
「ぉおっ!!」
「っ……!?」
……だと言うのに。
「まだ、だっ!!」
「っ……!」
その剣筋に、一切の衰えが見られなかった。
むしろ、さらに磨きが掛かっていた。
「(ありえない……って言いたいんだけどなぁ……)」
「はぁっ!」
「っ、はっ!」
「ぐっ……!」
どんどん剣筋が鋭くなるのをその身で感じて、束は冷や汗を掻いていた。
「(元々、下地はあったって事なんだろうね)」
「くっ……!」
だが、例え途轍もないスピードで成長するとしても、それでも大きな差があった。
元々全てにおいて束の方が優れており、その上“地”と“火”の属性の有無。
そして、“四属性を扱えるかどうか”だけでも相当の差があった。
いくら成長しようと、その差を埋める事は不可能と言えた。
「はぁっ!」
「っ、甘い!」
ギィイイン!!
「ぐぅ……!」
既に五度、箒は防御の上から吹き飛ばされ、床を転がっている。
それでもなお、箒は立ち上がる。
「(……一体、箒ちゃんを何がここまで突き動かしているの……?)」
想いか、信念か、執念か。箒を突き動かす原動力が、束にはわからなかった。
だが、考えている余裕は徐々になくなっていく。
束の動きに、箒も慣れてきたのだ。
「そこだ!」
「っ……!」
束の反撃を回避し、カウンターを放つ。
それを避ける束の表情には、余裕はなかった。
「(まだか!)」
「(危ない……!)はぁっ!」
ギィイイイン!!
「ぐっ……!」
回避した直後に束は回し蹴りを繰り出す。
それを顔を逸らす事で箒は回避するが、追撃のブレードで大きく後退する。
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
「………」
既に箒は息を切らしている。
対し、束は先程の一撃で少し息が乱れた程度。すぐに整う程度しか疲れていない。
「(……だと、言うのに……)」
「はぁ……はぁ……っ……!」
「(どうして、“何かある”と、そう思えるの……!?)」
いくら成長が著しくても、最初の実力差は歴然だった。
戦闘を続ければ続ける程、不利になるのは箒だ。
実際に、こうして箒の勝ち目はほぼ完全に潰えた。
どうあっても、油断さえしなければ負ける事はない状況だった。
そして、現在の束は一切の油断や慢心をしていない。
……だと言うのに、束は全くそれで終わると思う事が出来なかった。
「……なぜ、諦めないのか」
「っ……!」
「姉さんは今、そう考えていますね?」
図星だった。ただ、厳密には“何を原動力に”諦めないのか、だが。
「……単純で、聞く人によっては馬鹿らしい理由だ。……秋十は、これ以上の苦境を諦めずに過ごしてきた。なら、それをどうする事も出来ない……いや、苦境の一端を担っていた私が、この程度で挫ける訳にはいかない」
「………」
「そして、そんな苦境を乗り越え、強くなった秋十に、私はただ追いつきたい。……そんな想いで、今立っている。……それだけだ」
「……なるほど、ね」
箒の言葉を聞き、束は一時戦闘を中断して少しの間考え込む。
確かに、聞く人によっては自分勝手で馬鹿らしい理由だ。
だが、その理由を以ってどれほどの原動力を見せるのかも、人による。
詰まる所、それだけ、箒は覚悟を決め、そして実際に見せているのだ。
「……馬鹿になんか、出来ないよ。それだけ、箒ちゃんの想いは強い」
それを理解し、束は構えなおした。
その瞬間、箒も理解する。……ここからが、本当の本番だと。
「……その信念、その想い。私の全力を以って受け止めてあげる。……だから箒ちゃん」
「………」
「……乗り越えてね?」
―――その瞬間……。
ギィイイイン!!
「ッ……!?」
箒は、“体が勝手に動く”と言うのを実感した。
「(早い……!少しでも鍛錬を怠っていたら、今ので負けていた……!)」
何度も鍛錬を重ね、仮想敵に束を据えて何度もシミュレーションをしていた。
また、秋十の伝手で高町家の面々とも手合わせを何度もしていた。
……その事もあり、束の不意打ち染みた全速力の一撃を受け止める事が出来た。
「シッ!」
「ッ!!」
ギギィイン!!
体勢を立て直すと同時に迫る束の斬撃。
それを、何とか受け流す事で、直撃を避ける。
だが、それだけで箒は大きく後退する。
「はっ!」
「くっ……!」
そこへさらに追撃が迫る。
箒は辛うじてその一撃を避け、そのまま反撃を繰り出す。
しかし、それを束は“水”で避ける。
「ぐ、はぁっ!」
「ふっ!」
ギィイイイン!!
互いに“水”と“風”の効果で避け続ける。
だが、地力では束の方が上だ。
よって、ついに箒が攻撃に移るまでに束の対処が追いついてしまった。
「くぅっ……!」
「シッ!」
「ッ!はぁっ!!」
“火”と“土”の有無による差で箒は後退する。
そこへ放たれる追撃の刺突を、箒は顔を傾ける事で掠るに留める。
「ッ、ここだ!!」
ギィイイン!!
「なっ!?」
攻撃を避けた箒は、束本人ではなくブレードへと攻撃を叩きつける。
しかも、属性を宿さずに。
「隙あり!」
「ッ!」
束が動揺した瞬間に箒は肉薄する。
ブレードを振り下ろすのではなく、ブレードを持っていない手で体勢を崩すように掌底を放ち、逆手にブレードを持ち替えると同時にそのまま柄で突いた。
「ぐっ……!」
「っ……」
そこから箒は、深追いせずに下がった。
深追いをすれば反撃を喰らうと読んだからだ。
「……驚いただろう。姉さん」
「……まぁね。一体、どうやったのさ?」
先ほどの自身に当てた一撃……ではなく、ブレードを弾いた一撃。
本来なら、“水”か“風”を宿している時点で対処できるはずだった。
「私には、姉さんに対抗できるほど属性を極める事も、宿す事も出来なかった。だから、その代わりに“弱点”を探った」
「……“弱点”、ね」
「“火”や“土”、“風”はともかく、“水”は攻撃を当てるのに単体だけでも厄介だ。同じ“水”を扱うか、相手の反応速度を上回らなければならない」
この辺りは属性を扱う者の間では当たり前の事だ。
「だが、その必要はなかった。……属性を扱わずとも、いや、扱わない且つ似通った性質の一撃なら、通じる」
「…………!」
箒にも目に見えて、束は驚いた。
この事は、束はおろか桜も知りえなかった事だ。
否、二人程の実力者だからこそ気づけなかった事でもある。
何せ、弱点が露呈する程の戦闘になった事がないのだから。
「今ので確信を得た。……超えさせてもらう……!」
「っ、そう簡単には、負けないよ!」
ギィイイン!!
再びブレード同士がぶつかり合う。
だが、束の動きが、若干攻撃を躊躇いがちになっていた。
箒から弱点を聞き、その弱点を突いてこないか警戒していたからだ。
「ふっ!」
ギギィイイン!!
「っっ……!」
依然、束の方が押している。
だが、時たま放たれる属性を宿していない斬撃が、束の攻撃を弾いていた。
「っ、ちぃっ……!」
「(危ない……!)はっ!」
「ぐっ……!」
ブレードを弾いた事で作った隙を突き、箒は貫手を放つ。
だが、それはギリギリで躱され、代わりの反撃である回し蹴りを手で受け止めた。
「ッ……!ぁあっ!!」
「っ!?」
ギィイイン!!
後退する所を、箒は無理矢理前へ踏み込み、ブレードを振るう。
追撃しようとしていた束に、必要以上に接近したため、互いに全力の一撃にはならず、お互いに体勢を崩す事になる。
「っ、まだだ!!」
「嘘っ!?」
ギィイイン!!
お互い体勢を崩したため、体勢を立て直そうとする。
だが、箒はさらに前に出るように足を踏み出し、ブレードを振るった。
そこまでごり押してくるのは束にも予想外で、充分に“土”の力を振るえずに攻撃を受ける事となった。
「っづ、ぁ、あっ!?」
そして、そのまま箒に押し負け、壁に叩きつけられるように吹き飛んだ。
「さら、に、鋭く……!?」
疲労が溜まり、ダメージも溜まり、何よりも万全の体勢じゃなかった。
だが、それにも関わらず、箒が放った一撃は、さらに鋭く、重くなっていた。
「ふ、ふふ……」
「………」
壁に追い込まれた束は、笑みを漏らす。
それに対し、箒は無闇に攻めずに様子を見る。
「本当に、本っ当に……最っっ高だよ!!他ならぬ箒ちゃんが!私を超えようと!何度でもぶつかってくる!!」
「っ……」
歓喜の声を上げる束に、箒は若干気圧されて一歩下がる。
恐れて……ではない。ただ単に、あまりの喜びように驚いただけだ。
「ずっと、ずっと待っていた!同じ天才じゃない。積み重ねた“努力”で強くなった相手に、全力でやって負ける事を!空を自由に飛べる日の次に、私は待ち焦がれてた!」
「姉さん……」
「それが!今日!両方訪れるなんて……!本当に……!」
「ッ!」
ギィイイイン!!
「最っ高だよ、箒ちゃん……!」
「ぐ、ぅ……!」
束のブレードを受け止めた箒は、その重さに顔を苦悶に歪める。
だが、“負けていられない”と、箒は自らを奮い立たせ、持ち堪える。
「っ、ぁあああああああっ!!」
「ッ!」
ギッ、ギィイイン!!
二閃。一撃目の音が響く前に、二撃目をぶつけ合う。
その反動で、箒は大きく後退する。
「つぁっ!!」
「はぁっ!」
ギィイイン!!
その直後、箒は無理矢理踏み込み、ブレードを振るう。
執念の籠った一撃と、束の気合が込められた一撃が、ぶつかり合う。
そして、“火”と“土”の差があるにも関わらず、相殺された。
「追い、ついた……っ!!」
「くっ……!」
例え、いかな成長を遂げようとも、戦いの最中に天才に追いつくのは無理がある。
箒は気づいていない事だが、これは執念などの想いによる一時的なものだ。
だが、その一時的な力が、束を追い詰めている。
「はぁあああっ!!!」
「っ、はぁっ!!」
互いに気合の込められた声が漏れる。
箒の意地と、それを受け止めようとする束の想いのぶつかり合い。
傍目から見れば、それは何とも泥臭く見えた戦いだっただろう。
普通に考えれば、いつもの束の方が綺麗で、強そうな剣戟に見える。
だが、実際に相対している箒には理解できた。
……これが、束の全力で、今までで最も強い状態なのだと。
「(だからこそ、超えるっ!!)」
既に箒の体はボロボロだ。
体中が床などに打ち付けた事で痛みが走っているし、体内も無事ではない。
限界を超えて戦い続ける箒の神経や筋肉は、今にも使い物にならなくなりそうだ。
―――故に、決着はすぐそこにあった。
「ぉおおおおおっ!!」
「ッ……!?」
ギ、ギィイイイイイン!!
束のブレードが、油断も慢心もなく、箒の手によって大きく弾かれた。
さしもの束も、それをすぐさま引き戻す事はできず……。
「っあっ!!」
「か、はっ……!?」
箒によって、無防備な胴へとブレードの峰が叩き込まれた。
「……私の、勝ち、だ。……姉さん……」
「っ……そう、だね」
床に転がり、ブレードを突きつけられた束は、敗北を認める。
箒の執念、気合、ありとあらゆるものが詰まった想いが、束の力を上回ったのだ。
「……理屈とか、まるっと無視して勝っちゃうなんてね……」
「っ、はぁ、はぁ、天才の姉さんに勝つには、理屈なんて、気にしてられません……」
「それもそうだね」
納得したように束が呟くと、箒は崩れ落ちるようにその場に倒れた。
「あ、れ……?」
「……動かない方がいいよ。明らかに無理してたし、これ以上無理に動けば筋肉とかが使い物にならなくなるかもしれないから」
箒の実力で束に勝つには、当然ながら無理があった。
その代償が、今の箒の状態である。
戦闘中は気づいていなかったが、もう少しでも無理をすれば、筋肉がちぎれていた。
「……後は、見届けるだけかなぁ……」
箒も束もすぐには動けない。
お互い、床に転がりながら、残りの戦いを思い描いていた。
後書き
この戦いは実力でのぶつかり合いではなく、意地のぶつかり合いに近いです。
イメージとしては、FateのエミヤVS士郎が近いです。実力差は歴然なのに、それを埋める意地で勝つみたいな感じです。
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