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真田十勇士

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巻ノ百三十三 堀埋めその三

「そうするしかなくなりますぞ」
「受ければその時点で豊臣の負け」
「それでどうして受けるのか」
「この様なもの受けては」
「もうどうにもなりませぬ」
「そう言われるがな」 
 大野は講和自体にまだ反対する諸将を宥める様にして返した、その顔には誰よりも深い苦悩があった。
「もう茶々様が決められたこと」
「だからですか」
「もう変えられぬ」
「講和のこともこの文を受けることも」
「全てですか」
「そうなのですか」
「左様、右大臣様も言われておるが」
 大野にこの文を見せられてというのだ。
「この文はよく読んでな」
「そうしてですな」
「細かいところまで吟味して」
「そのうえで」
「そして一つ一つ幕府と話をしてじゃ」
 そのうえでというのだ。
「決めるべきだとな」
「その様にですな」
「右大臣様も言われていますな」
「その様に」
「そうなのですな」
「そう言われておる」
「ならそうされるべきです」
 幸村はまた大野に言った。
「ここは」
「では」
「はい、大坂城の主は誰か」
 秀頼であることは言うまでもない、幸村が言うことは正論であった。
「そう考えますと」
「それはそうじゃが」
「茶々様のお言葉だからですか」
「あの方がもう決められた」
 それ故にというのだ。
「もうな」
「この文のまま、ですか」
「受けるしかない」
「馬鹿な、これではですぞ!」
 治房は遂に激昂して言った。
「滅びる様なもの!自ら!」
「いや、それは」
「いや、とは」
「違う、それはじゃ」
「どう違うのでござるか」 
 兄にくってかかって問うた。
「それは」
「講和じゃ」
「だからその講和がですぞ」
「滅びの講和か」
「左様、その為ではありませぬか」
 まさにというのだ。
「それで結ぶなぞ」
「ならぬか」
「断じて」
「しかし決まった」
 まだこう言う大野だった。
「だからな」
「では」
「うむ、幕府には返事をする」
「この文のままでよいと」
「その様にな」
「ですか」
「これでよい」
 苦い顔だがこう言った大野だった。
「もうな」
「ですか、では」
「もうこれで」
「講和ですか」
「茶々様のお考えは変わらぬ」
 それ故にというのだ。
「だからだ」
「ここはですか」
「講和をされ」
「そしてですね」
「茶々様はですか」
「大坂に留まられる」
 それが茶々の考えであることもだ、大野は諸将に伝えた。 
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