魔法科高校の劣等生 〜極炎の紅姫〜
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襲撃その後
前書き
今回は完全オリジナルとなっています。
後半キャラ崩壊アリです。
テロリストが学校に襲撃してきた日の夜、深紅と達也の二人は九重八雲の寺を訪れていた。
「二人共、今日はお疲れ様」
明かりのついていない、暗い中いきなり声をかけられる。
しかし達也は勿論、深紅も驚きの声一つあげなかった。
「こんばんは、師匠」
「はじめまして、九重八雲さん。
ご存知とは思われますが、わたしは不知火深紅。司波達也くんの友達です」
深紅はにこりと微笑みを浮かべる。
「はじめまして、不知火深紅くん。
不知火唯一の生き残りで、最後の火神子……いや、紅姫といったほうがいいかな?」
「どれも正しいですから、なんでもいいですよ。まぁ、普通に深紅とお呼びください」
「では深紅くんと呼ぼう。
……それにしても、君たち二人が並ぶと、ある意味素晴らしいね」
「えっ?」
「ある意味素晴らしい、ですか」
いきなり納得したように頷かれ、深紅と達也は思わず首をかしげる。
「うん。相手を圧倒するよ。強く、美しい」
「は、はぁ……」
「また、霊気のことですか?」
「その通り。よくわかったね、達也くん」
「レイキ?」
聞き慣れない言葉に、深紅がますます不思議そうな顔をする。
「霊子放射光、言ったほうがいいかな。
いやぁ、これほど美しい紅色の霊子を見たのは初めてだよ。この霊子の色こそ紅姫と呼ばれる所以かい?」
「あ、えっと……わからないです。紅姫というのは、不知火家で女性の火神子のことを指す言葉ですから」
深紅が家族を殺され一人になったのは八歳の時だ。
故に、不知火家のことをよく知らなかった。
「ふむ、まぁそれはいいんだけどね。
君たち二人が一緒にいると、お互いの輝きを引き立たせていると言うか……二人の相性の良さがわかるよ」
「相性の、良さ………!」
細い目をさらに細くし、さらにニヤリと笑いながらの八雲の言葉に、深紅が素直に頬を染める。
一方、完全に揶揄われていることに気づいていた達也は、思わず苦笑を浮かべてしまった。
嬉しいことは嬉しいのだが。
「それより、本題のところです。師匠は深紅に訊きたいことがあるとか」
「おお、そうだったね」
途端ニヤニヤ笑いを消し、真面目な表情となった八雲を見て、深紅の背筋が思わず伸びる。
「単刀直入に訊くよ。
……深紅くんは、復讐を望んでいるかい?」
深紅がまるで、撃たれたかのような顔をした。
目を見開き、わずかに開いた口から小さく息を吸う音が聞こえる。
深紅の隣に立っていた達也も、予想外の問いに驚きを浮かべた。
「そ、れは……不知火家を、滅ぼした奴らに対し、ということですか……?」
微かに震えた声で深紅がそう問い返す。
それに対して八雲は大きく頷いた。
「深紅くんは、不知火を滅ぼした奴らを知ってるかい?」
「知り、ません。わたしは当時八歳でしたから。あまりよく覚えてもいません。
……八雲さんは、知っているんですか?」
この問いに対し八雲は、顎に手を当てて、少々態とらしくうなってみせた。
「調べれば、わかるだろうね」
「っ……!
わたしにその情報を教えてくれますか」
深紅は一瞬驚愕を浮かべた後、殆ど意識せずにそう尋ねた。
「そこで最初の質問だよ。
君は、復讐を望んでいるかい?」
「……わたしは…………」
深紅は心の中で自問自答を繰り返していた。
−−−わたしは復讐を望んでいる?
たった八つのわたしから家族を奪い、この胸に恐怖を刻み込んで行ったあいつらを……。
いいえ。復讐など望んでいない。今更のことなのだから……。そう、全ては過去のこと。過去を変えることなど、できない……。
でも、わたしは……。
「復讐など、望んでいないです。やっぱり、その情報はいりません」
「ほぉ」
悩んだ末の返答だった。少々意外だったのか、八雲が器用に片方の眉だけ上げてみせる。
「本当にいいのかい?」
「はい。全ては昔のことですし、復讐など無意味です。
でも、一つだけお尋ねしていいですか」
「なんだい?」
「不知火を滅ぼしたのは、どこの国の人ですか?」
これを聞いた八雲は、またしても顎に手をあてる。
「どちらの可能性もあるだろうね。今度調べてみるつもりだけど、聞くかい?」
深紅はわずかに迷ったそぶりを見せた後、
「いえ、結構です」
と言った。
「そうか。訊きたいことはこれだけだよ。今日は悪かったね」
「いえ。こちらこそ、夜分にお邪魔しました」
「失礼しました」
深紅と達也は軽く会釈をし、九重寺を出て行った。
♦︎♢♦︎♢
「ごめんね、わざわざ送ってもらっちゃって」
「いや、大したことない。
……それより、本当に良かったのか?」
迷うように瞳を彷徨わせてから、達也がそう尋ねる。
「うん。別にいいの」
「そうか……じゃあ、おやすみ」
「おやすみ達也」
バイクにまたがり去っていく達也の姿を、視界から完全に消えるまで、深紅は目で追い続けていた。
♦︎♢♦︎♢
「お前たちは……誰だ?!」
「…………」
その日もいつものように平穏だった。
しかしそれを壊しに、突然侵入者が現れる。
「我等は、不知火を、滅ぼしに来た」
「お前たちは、力を、持ちすぎた」
意識的にか、それとも本当に慣れていないのか、少しカタコトの日本語が耳につく。
声は妙にエコーがかかったようにくぐもっていた。
そいつらは、全員黒ずくめで、顔の部分だけは真っ白な仮面で覆われている。
靴で揃えているのか、身長も殆ど同じように見えた。
「私たちを、滅ぼしに……くそっ!」
漆黒の髪に紅色の瞳を持ったまだ若い男性が、側に立つ美しい女性と、その女性にしがみつく二人の少女を庇うように立った。
「魔法は、使わせない」
黒ずくめの侵入者がそう言った途端、不快なノイズが響き渡る。
「父さま! 母さま!」
「怖い!」
「……!」
「これは……キャストジャミング!」
男性と女性は不快感に顔を歪め、幼い少女たちは恐怖に顔を歪める。
「死ね」
静かで短いが、絶対の力を持った声が聞こえ、ノイズを掻き消すかのように、男性の絶叫が響き渡る。
「紅輝さんっ!」
「父さま!」
「いやぁっ!」
残された三人が叫ぶ。
しかしすぐに、また二つの絶叫が響いた。
「母さまぁっ!! 伊紅!!」
父親と、母親と、妹の血を被り、その死体の後ろで悲鳴をあげる少女。
「お前が、最後だ」
黒ずくめの一人が血を纏った剣を振りかぶった。
しかし、再度血が流れることはなかった。
「ああああぁぁぁぁぁ!!!」
突如、キャストジャミングのノイズが掻き消され、世界が紅に染められた………。
♦︎♢♦︎♢
「っっ!!」
小さく悲鳴をあげながら、ベッドを飛び起きた。
心臓が激しく波打ち、呼吸が荒い。
「なんで……」
軍に特尉として入ってから一度も見ていなかった悪夢を見て、少女は激しく動揺していた。
しかし、『なんで』と言いながらも、その理由はわかっている。
あんなことを聞かれたからだ。
−−君は、復讐を望んでいるかい?−−
その言葉は、今まで必死に目を背けて来たことに嫌でも向き合わせられた。
−−過去を変えることはできない−−
それがわかっていたから、復讐者の情報を彼女はは拒んだ。
しかし、彼女は自分の本心がわからなかった。
復讐など無意味なこと、ずっとそう言い聞かせて来たのに、復讐者の情報が手に入ると聞き、彼女は無意識尋ねていた。
−−わたしにその情報を教えてくれますか?−−
本当に復讐を望んでいなかったら、こんなことは言わない。
「たす、けて……」
顔を半分手で覆いながら、無意識にこう呟く。
夢で見たこと。あれは記憶だ。家族と過ごした最後の記憶。
しかし憶えているのは、夢で見たところまでだった。
最後の最後に残っているのは、視界を染め上げる紅。
ただ、それだけ。
次に目が覚めたのは、病院のベッドの上だった。
「だれか、助けて……。達也……!」
暗い部屋、ベッドの上で、少女−−−深紅は小さく涙をこぼした。
♦︎♢♦︎♢
時が経ち、五月になった。
沙耶香も退院し、深紅たちは完全に日常を取り戻していた。
「ずっと訊きたかったんだけどよ」
その日、達也は珍しく、レオと二人の昼食だった。
深紅や深雪を含む女性陣に、それぞれ用事があったからである。
「なんだ?」
「達也、深紅にはいつ告白するんだ?」
「……はっ?」
予想外の質問に、箸を止めて間抜けな声で聞き返す。
「いや、お前ら傍から見てるといつくっついてもおかしくないのに、なかなか先進まねえからな。他の奴らもやきもきして見てるぞ?」
「俺はそんなにわかりやすかったのか……」
若干ショックを受ける達也に、レオがニヤリと笑う。
「で、告白の予定は?」
「……まだない」
はっきりそういうと、レオは少々大袈裟に驚いてみせた。
「でも好きなんだろ?」
「それは否定しないな」
あえてレオの顔を見ず、おかずを口に運びながら応える達也に、レオは必死で笑いをこらえる。
基本澄ましているこの友人は、この手の話−−特に自分のこと−−になると非常に照れ屋だ。
「でもまぁ、あんまりうかうかしてると他の人に取られるぞ?」
「…………」
揶揄うような笑みを消し、真面目な顔でそう告げるレオに、達也も表情を硬くした。
「深紅は人気があるからな。近づきやすい、っていうのか? 一科二科に関わらず、狙われてるぞ」
「一応、知ってはいたがな」
深紅は好戦的な面もあるが、基本は穏やかで誰にでも優しい。
また深雪に劣らない美少女なのだから、人気があるのも当たり前だろう。
また厄介なことに彼女はかなり鈍感で、自分に向けられている好意を全く感じるとることができない。
−−−殺意には敏感なんだがな。
若干現実逃避気味にそんなことを思ってみる。
しかし鈍感については、達也も人のことを言えない。
「無理やり進めるようなことはしないけどよ、あんまり先延ばしにしないほうがいいぜ」
「あぁ、そうだな……」
レオの言葉に達也は割と真剣に考え込み、覚悟を決めた。
♦︎♢♦︎♢
「ねぇねぇ。深紅はさ、いつ達也くんに告白するの?」
「ふぇっ!?」
達也とレオが食堂にいる頃、深紅に深雪、エリカと美月、ほのかと雫は屋上にいた。
それぞれ用事があるというのは嘘で、この質問をするために深紅を屋上まで引っ張ってきたのである。
もちろん深紅は、そしてレオもそんなことは知らなかったのだが。
「私も気になります。お兄様と深紅は見ていてもどかしいです」
「上に同じ」
エリカの質問に便乗するように深雪が言い、雫もそれに短い言葉で同意する。
さらに隣では美月とほのかが激しく頷いていた。
「こ、告白する予定は今のところ無い、かな」
「エッ、無いの?」
「だって恥ずかしいし……わたしなんか全然だし」
照れながらの深紅の言葉に、みんなが揃って呆れる。
−−−この子、鈍感にもほどがある!
深紅を除く全員が、全く同じことを思っていた。
「でもさぁ、ささっと早いところ告白しちゃったほうが良くない?」
「覚悟を決めていきましょう!」
「勇気を出してがんばりましょう!」
「深紅さんなら大丈夫ですよ」
「上に同じ」
上からエリカ、深雪、美月、ほのか、雫の言葉である。
みんなから激励(?)を受けた深紅は……。
「うぅ〜。やっぱ覚悟を決めたほうがいいのかなぁ」
唸りながらもこんなことを言う。
「そうですよ!」
深雪が言い、それに全員が大きく頷く。
「う、うん。ちょっと頑張ってみる」
深紅も、覚悟を決めたように頷いた。
後書き
次回急展開。
キャラ崩壊がさらに激しい話となります。
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