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魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者

作者:niko_25p
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第四十四話 ナンバーズ 2

逮捕した少女は口を閉ざす。

誰も彼女を説き伏す事ができない中、アスカがルーテシアに近づく。

だが、そこにナンバーズの影が……





魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者、始まります。





アスカside

この紫色の髪をした女の子、ルールー?とアギトとか言う融合騎を逮捕したまでは良かったが、この子ぜんぜん喋んないんだよね。

もっとも、ヴィータ副隊長を始めとしてスバル、ティアナ、ギンガさんがあの二人を取り囲んで尋問してんだから、怖くて声なんか出ないわな。

なんて事を口にしたら、オレも尋問喰らうから言わないけど……

とりあえず、この場はスターズ+1に任せて、ライトニングは周辺警護と行きましょう。

と、その前に……

『ライトニング5からロングアーチへ。空の状況とヘリの様子を教えてください』

念話でオレは確認を取る事にした。

コッチは落ち着いたし、後は空で戦っている部隊長とヘリの決着がつけば、この事件は終了の筈だ。

『こちらロングアーチ3。八神部隊長の方はもう少しで……いや、いま終わったよ。追加戦力の確認はされず。ヘリはそろそろ廃棄都市を抜ける頃かな。ヘリの現在地データ、いる?』

アルトさんが詳しく説明してくれた。一応、データをもらっておくか。

『お願いします、アルトさん』

『はーい』

カワイイ返事をして、アルトさんはデータをラピに転送してくれた。

いや~、戦場でオペレーターの声って癒しになるね。

向こうの4人には無いし。

っと、変な事を考えてると何故かバレるから気をつけなければ。

オレは送られてきたデータを確認する。

「もうチョットで廃棄都市を出る、か」

何となく、ヘリが飛んでいる筈の方角に目を向ける。

「見えませんよ、アスカさん」

うん、見えないね。

エリオの言う通り、その方向にはデカいビルが立ちはだかっていて、当然の事ながらヘリは目視する事ができない。

「あのビルの向こうを抜けないと見れないか」

まあ、ここまできたら大丈夫だろう。

ガジェットを投入したって、隊長も向かってきてるんだ。何があっても大丈夫。

とりあえず、コッチの容疑者を何とかしないとな。

スバルとティアナが尋問しているけど、ルールーとやらは目を瞑って何も答えない。

時折、ヴィータ副隊長も口を出すけど、何の反応も無し。

歳の割に、いい度胸してやがる。

うし、じゃあちょっとお話してみますか。OHANASIじゃないよ?





outside

口を閉ざしたままのルーテシアは、スバル達の声に耳を貸さなかった。

アギトも黙ったままで辺りを睨みつけている。

「ちょっといいッスか?」

それまで様子を見ていたアスカがルーテシアの前まで移動してきた。

「ん、何だ?」

ヴィータがアスカを見る。

「ちょっとだけオレに任せてもらえませんか?ダメならすぐに引っ込みますんで」

「……いいだろう、やってみろ」

今のままでは埒が明かないと考えたヴィータは、アスカにやらせてみる事にした。

その途端、それまで大人しくしていたアギトが騒ぎ始める。

「やい、てめぇ!ルールーに変な事をするんじゃないだろうな!」

何をどう思ったのか、アギトが怒鳴りつけるがアスカはそれに付き合わない。

「ちょっと黙ってろ」

アギトを軽くいなして、アスカは両膝をついてルーテシアと同じ目線になる。

「お前、名前は?」

「……」

ルーテシアは目を瞑ったまま答えない。

「あっちの融合騎、アギトって言ったか?あいつがお前の事を”ルールー”って呼んでいたけど、それが本名か?それとも愛称か?」

「……」

無反応である。

「……まいいや。じゃあ本題だ。オレは今、怒っている。何でか分かるか?」

「……?」

ルーテシアは初めてアスカを見た。

スバルやティアナは、自分の身元、事件を起こした動機など聞いてきたのに、目の前の少年は怒っている理由が分かるかと聞いてきた。

なぜそんな質問をするのだろう?

「地下水路で、お前はオレの大事な仲間に攻撃した。だから怒っている」

怒っていると言っているが、口調は穏やかだ。

「オレ達は管理局員だ。戦闘で怪我するなんて当たり前だけど、仲間が怪我をすると、凄く悲しいんだよ。分かるか?」

「……」

コクン

ルーテシアは頷いた。初めて、反応を示したのだ。

「そうだよな。お前だって友達が怪我をしたら嫌だろ?アギトが怪我をしても平気か?」

「……」

フルフル

首を横に振るルーテシア。

「うん、そうだよな。友達が怪我をしたら悲しい。何だ、お前はオレ達と同じじゃん」

「?」

アスカの言っている意味が分からず、ルーテシアは首を傾げる。

「友達を大事にするって所がだよ。そう思わないか?」

「……」

ルーテシアはジッとアスカを見つめる。

(同じ?この人と私が?)

「難しい事じゃない。アギトだって、お前が心配で、大切に思っているから助けにきたんだろ?オレだって、仲間が困ってたら助けに行くよ」

優しく語りかけ、アスカはルーテシアの目を見つめる。

「あ……」

その瞳に魅入られるに、ルーテシアもアスカの目を見つめた。

「お前がレリックを必要としているなら理由を教えてくれないか?お前個人が必要としているのか、それとも別の人が必要と……って、やっぱ何か嫌だな」

「??」

急にアスカは話を止めた。

「やっぱり、名前を教えてくれよ。お前って呼ぶの、なんか嫌だし」

アスカは困ったように笑った。

ルーテシアは不思議な感覚を覚えた。

この少年の言葉が、なぜか素直に自分に入ってくるのだ。

アギトや、ゼストのように。

「……あなたの名前は?」

ルーテシアが初めて言葉を発した。

「オレか?オレはアスカ。アスカ・ザイオンだ。管理局では二等陸士をしている」

ルーテシアから反応があったせいか、アスカは少し嬉しそうに答える。

「……ルーテシア。ルーテシア・アルピーノ」

ルーテシアが名を名乗る。

「アルピーノ!?」

成り行きを見守っていたギンガが、ルーテシアの名前を聞いて驚いたが、それを気にする者はいなかった。

「そうか。ルーテシア・アルピーノか。綺麗な名前だな」

アスカがそう言うと、ルーテシアは少し恥ずかしそうに身を縮めた。

「じゃあ、ルーテシア。何でレリックが必要なんだ?レリックがないと困るのか?」

アスカは、なるべく優しく話しかけるように心がけた。

(……困った……何か、この人に喋っちゃいそう……)

ルーテシアは、アスカに対しての自分の感情に戸惑いを覚えていた。

さっきまで自分を取り囲んでいた人達は威圧感があったが、アスカにはそれが感じられない。

それに、怒っていると言っていたのに、優しく話しかけてくれている。

それを見ていると、つい話したくなる自分がいる事に気づくルーテシアだった。

「ルールー!話す事なんてないぞ!」

ルーテシアの変化に気づいたアギトが怒鳴り声を上げた。

「どうせこいつらも調子のいい事を言って、用がすんだらポイだ!」

「こいつら”も”?」

アスカはアギトの言葉に引っかかりを感じる。

(どういう事だ?この二人とガジェットは繋がりがない?いや、そうじゃない。利害一致しているから協力体制はとっているって所か?じゃあ、スカリエッティとルーテシアの目的は別?)

アギトの言葉からアスカはここまで連想した。だが、だからと言って何かが解決した訳ではなかった。

「アギト……」

どうしたらいいのか分からなくなったのか、ルーテシアは困ったようにアギトを見る。そこに……

『ハァ~イ、ルーお嬢様』

場違いなまでに脳天気な念話がルーテシアに届いた。

『クアットロ?』

『何やらピンチのようで。お邪魔でなければ、クアットロがお手伝い致しますが?』

緊張感の無い、どこか人をくったようにクアットロは言う。

『……お願い。なんか、いろいろ喋っちゃいそうだから』

ルーテシアからの返事に、クアットロはニヤリと意地悪な笑みを浮かべる。

『あらら、それは大変!無口なルーお嬢様を喋らせようだなんて、なんてヒドイ連中なのかしら』

クアットロは芝居がかったように言い、ルーテシアに指示を出す。

『では、お嬢様。クアットロの言う通りの言葉を、目の前の赤い騎士に伝えてくださーい』





ルーテシアはアスカから視線を外して、ヴィータをジッと見た。

「??」

急に視線を外されたアスカが、同じようにヴィータに目を向ける。

「アタシに何かあるのか?」

ヴィータが言うと、ルーテシアはコクンと頷いた。

「んじゃ、交代と言う事で」

アスカは立ち上がってルーテシアから離れた。

「って、なんで残念そうにしてんのよ!」

ちょっとガッカリしているアスカに突っ込みを入れるティアナ。

「いや、ようやく喋ってくれたのになーって」

「……アスカ、アンタ結構子供好きよね」

「かもな」

ティアナの呆れ気味の言葉に、アスカは素直にそれを認めていた。





その頃、なのはとフェイトは高速で移動していた。

「見えた!」

なのはがヘリを目視する。

「よかった、ヘリは無事だ」

フェイトとなのはが安堵する。

だが……

「あっ!」「えっ!」

安心したのもつかの間、二人は大きなエネルギーを察知した。





機動六課の司令室でも、エネルギーを確認していた。

「市街地にエネルギー反応!大きい!」

突如現れたエネルギーに、シャーリーが驚愕の声を上げる。

「まさか、そんな!」

前兆のなかった反応に、ルキノも動揺する。

「砲撃のチャージ確認!物理破壊型、推定Sランク!」

アルトの声が司令室に響いた。





ビルの屋上で、ディエチがカノン砲を構えてエネルギーをチャージする。

「インヒューレントスキル。ヘビーバレル発動」

ディエチのIS、ヘビーバレル。

彼女の体内で高エネルギーを生成する能力。それを固有武装であるイノーメスカノンにそそぎ込む。

ディエチは、その能力をヘリの破壊の為に使おうとしていた。

その横で、クアットロは邪悪な笑みを浮かべている。

「さあ、ルーお嬢様。行きますわよ?逮捕はいいけど……」





アスカside

ルーテシアがヴィータ副隊長を見て口を開いた。

「逮捕はいいけど」

「ん?」

なんだ?急に何を言い出すんだ?

逮捕されてもいいって事か?

ヴィータ副隊長も同じ事を思ったのか、首を傾げている。

だが次の言葉に……

「大事なヘリは放っておいていいの?」

「「「「「「「!!!」」」」」」」

全員がハッとした。

「スバル!あのビルにウイングロード伸ばせ!」

オレはさっき眺めていたビルを差して叫んだ。

「え?でも届かないよ!あんな遠くまでなんて!」

「いいから早くしろ!」

今は説明している暇はない!

「わ、分かった!ウイングロード!」

スバルのウイングロードが真っ直ぐに目的のビルに向かって突き進むが、当然途中で途切れてしまう。でもそれでいい!

オレはウイングロードの上に立って、角度計算をする。

「あと2度だけ上に上げてくれ!」

「えっと、こう?」

オレの指示通りにスバルはウイングロードの角度を修正する。

「ラピ!ソニックムーブとエリアルウォークのコンボやるぞ!計算は任せる!」

《了解!》

オレはウイングロードを滑走路代わりにして魔法を発動させる。

「カタパルトダッシュ!」

一気に目的地のビルの屋上に着地する。

《マスター!高エネルギー反応です。推定Sランクの物理破壊型砲撃!》

「エネルギー発生地点とヘリの直線コースで足場のある場所は!」

間に合うか!?いや、間に合わせる!

《下方に100メートル先の中規模ビルです。そのビルの上空30メートルを砲撃が通過する予測です!》

100メートル……あれか。

「アスカ!一体どうしたの?」

そこにギンガさんが追いついてきた。ナイスタイミングだ!

「ギンガさん!あのビルに向かってウイングロードお願いします!」

「え?う、うん」

特に説明しなくても、ギンガさんはオレの言う通りにしてくれた。

オレはギンガさんのウイングロードを使って、再びカタパルトダッシュでそのビルに移動する。

着地と同時に、オレはカードリッジが六発装填されているマガジンをラピに差し込んだ。

「間に合えよ!カードリッジフルロード!」

《了解!》

カードリッジの魔力がラピに流れ込む。

オレはその魔力を一度リンカーコアに戻して加速させる……

くっ……さ、さすがに…きついな…で、でも、これをやらないと!

「ア、アスカ!?」

ギンガさんが再び追いついてきたけど、いま説明している余裕はない!

「魔力回路最大加速!多重バリア展開!いけぇっ!」

オレの素の魔力+カードリッジの魔力。これを魔力回路の加速で最大限に増加させて、最強のバリアを上空30メートル地点に展開させる!

「ビーハイブ!」

ラピから伸びた白い魔力光が、上空で多重の六角形に変形する。

蜂の巣のようなバリアが上手く広がった。

さあ、きやがれ!





outside

アスカとギンガがいなくなった現場では、ヴィータがルーテシアを睨んでいた。

「おい!どう言う意味だ!」

ルーテシアに詰め寄るヴィータ。

そのヴィータに、ルーテシアは感情なく言い放つ。

「貴女はまた、守れないかもね」

「!」

その言葉に、ヴィータは目を見開く。その瞳は、水色に変色していた。





砲撃が発射された。

Sクラスの高エネルギーは真っ直ぐにアスカのバリアに直撃し……

「貫通した!?一秒で!!」

バリアを貫いたエネルギーは、そのまま吸い込まれるようにヘリに向かい、そして、爆煙が舞い上がった。

「そ、そんな!」

ギンガが茫然となり、その場にへたり込んでしまう。

「……」

アスカはその爆炎を睨むように見た。

そして、砲撃が飛んできた方向に振り返り、ニヤリとふてぶてしい笑みを浮かべた。

「一秒あれば、充分だ!」





「砲撃……ヘリに直撃……」

「そんな筈ない……現状確認!」

「ジャミングが酷い!データきません!」

混乱しているロングアーチの通信がスバル達にも届く。

その内容は絶望的なものだった。

信じられない、いや信じたくない内容にヴィータが茫然とする。

「そ、そんな……」

エリオも、麻痺してしまったかのように動けずにいる。

「ヴァイス陸曹とシャマル先生が……「てめぇ!」!!」

ティアナが言い終わらないうちにヴィータがルーテシアに掴み掛かった。

「副隊長、落ち着いて!」

今にも殴りかかりそうなヴィータをスバルが抑えようとしたが、振り払われてしまう。

「うるせぇ!おい!仲間がいるのか!どこにいる!言え!」

冷静さを失ったヴィータが激しくルーテシアを掴む。

「だ、だめです!ヴィータ副隊長!」

引き離そうとするスバルだったが、外見からでは想像もつかない怪力でヴィータは押しのける。

この騒動に、全員の注意がヴィータとルーテシアに集中した。

その為、ティアナがそれに気づいた時には、もう遅かった。

レリックのケースを持つエリオの足元に奇妙な物が接近していた。

それは、人の手首だった。

「エリオ!足元に何か!」

「え?」

エリオが下を見た瞬間、地面から突然人がわき出てきた!

「わぁっ!」

鮮血が舞い、エリオはレリックのケースを離してしまう。

「いただき!」

突如現れた水色の髪をした少女はケースを奪い取ると、再び地面の中に潜って行った。

「この!」

ティアナがクロスミラージュを撃つが、地面に当たるだけで少女を捕らえるに至らない。

「くそっ!」「くっ!」

ヴィータとティアナが少女が消えた地点に走る。

「……」

ルーテシアは冷静に現状を見ていた。

赤毛の少年はセインの攻撃を受けて負傷し、ピンクの髪の召喚士にヒーリングをかけてもらっている。

赤い騎士とオレンジ色の髪の射手はセインの潜った地面を調べているし、ローラーブーツのアタッカーは、その場を動いていないが、注意は射手と同じく地面に向いている。

誰もルーテシアとアギトを見ていない。

そのルーテシアに、念話が送られてきた。

『ルーお嬢様。ナンバースの6番、セインです。私のIS”ディープダイバー”にてお助けします。フィールドとバリアをオフにして、ジッとしててくださいね』

ルーテシアは念話の主の言うとおりにジッとして目を閉じた。

「失礼します、お嬢様」

セインがルーテシアの目の前に現れ、彼女とアギトに手を伸ばす。

「あ!」「こいつ!」

ティアナとヴィータが気づいた時は、地面に潜っている最中だった。

ヴィータが飛びかかるが、間に合わずにルーテシア達は高架橋の地面に飲み込まれて行った。

「ルーお嬢様にアギトさん。お怪我はありませんか?」

ルーテシアを抱え、頭にアギトを乗せたセインが二人に尋ねる。

「ねぇよ……」

不機嫌丸出しで答えるアギト。

「大丈夫。セイン、ありがとう」

ルーテシアはちゃんと礼を言う。それを聞いたセインは、人懐っこい笑顔を浮かべた。

「はい。じゃあ、合流地点に急ぎましょう。トーレ姉が待ってますから」

高架橋を抜けて、その下の地面へセインは潜って行った。





「反応、ロストです」

リインが悔しそうに報告する。

「くそっ!」

ヴィータが地面に膝をついたまま拳を叩きつけた。

「……ロングアーチ……ヘリは無事か?あいつら、落ちてねぇよな!」

祈るようにヴィータは叫んだ。





「あら~、なんかに引っかかったみたいだけどぉ?」

砲撃の瞬間に発生したバリアを確認したクアットロがディエチを見る。

「結構硬かった。貫通するまでに一秒ほど掛かった」

ディエチがイノーメスカノンを引き戻しながら答える。

「あっはっはっ!一秒くらいじゃ、ノロマなヘリさんは逃げられないわよねぇ!」

さも可笑しそうに、クアットロが声を上げて笑い出す。

「……」

しかし、ディエチは別の事を考えていた。

(本気じゃなかったとは言え、私の砲撃を一秒も防いだ……いったいどんなヤツ?)

砲撃に関して言えば、ディエチは絶対の自信をもっている。

例え一秒であろうと自分の砲撃を防いだ人物が気になったようだ。

ズームで遙か遠い、その局員の背中を捉える。

髪の長い少年の背中が見えた。その少年が振り返る。

「え……!」

見覚えのある少年の顔に、ディエチが驚く。

「アスカ……まさか、管理局……」

動揺するディエチ。高笑いをしているクアットロはそれに気づかない。

アスカの口が動く。もちろん、聞こえる訳がない。

ディエチはアスカの唇を読んだ。

「一秒あれば……充分だ?ま、まさか!」

ディエチが慌ててヘリに目をやる。

「……!」

爆煙の隙間から、ヘリのローターが見えた。

それで全てを理解したディエチ。

「失敗した!防がれた!」

「おーっほっほ……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

高笑いから一転、驚愕の声を上げるクアットロ。

「ど、どういう事なの、ディエチちゃん!?」

狼狽したクアットロがディエチに聞く。

爆煙が晴れ、そこから現れたのは無傷のヘリと、守るように立ちはだかる白い影が見えた。

「エース・オブ・エース!」

「バカな!計算じゃギリギリ間に合わないタイミングだったのにぃ?」

「一秒……」

「え?」

「あの一秒だ。私の砲撃をバリアで一秒防いだ。エース・オブ・エースには、その一秒で充分だったんだ」





『スターズ2とロングアーチへ。こちらスターズ1、ヘリの防御に成功。ライトニング5、ナイスフォローだよ』

なのはからの報告に司令室が湧き立つ。

「限定解除!なのはさんとレイジングハートさんのエクシードモード!」
シャーリーが興奮気味に叫んだ。





アスカside

『ライトニング5、ナイスフォローだよ』

高町隊長からの念話に、オレは胸をなで下ろした。

どうやら、あの一秒が効いたらしい。

『後はお任せでいいですか?』

『うん!アスカ君はみんなと合流して。後はヴィータ副隊長の指示に従って』

『了解です!』

よし、流れは良い方向に向かっているようだ。

「よ、よかった~」

へたり込んでいたギンガさんが、大きく息を吐いた。

そりゃそうだよな。目の前で味方のヘリが砲撃されたんだから。

オレも結構ドキドキだったし。

「もう大丈夫ですよ。犯人は今頃、後悔してますよ」

むしろ、犯人にちょっと同情してしまう。

何しろ、管理局の白い悪……もとい、エース・オブ・エースが本気になって動いてるんだ。良くて砲撃、悪くて砲撃しかない。

まあ、それはともかく、オレはへたり込んでいるギンガさんに右手を差し出した。

「うん、ありがとう」

そう言ってギンガさんがオレの手を取って立ち上がる……

あれ?

なんだ?何か気に掛かる?

「ん?どうかしたの?」

「……いえ、何でもないです。じゃあ、ウイングロード、お願いします」

オレは取り繕うように言って、ギンガさんが出したウイングロードの上を走り出す。

後はこのままスバル達と合流なんだけど……

さっきギンガさんの手を取った時に、なぜかディエチの顔を思い出したんだ。

なんでディエチの顔が浮かんだんだ?

いや、答えは分かっている。

ディエチと握手した時に感じた違和感。

それが、ギンガさんからは感じられなかったんだ。

ディエチが担いでいた大きな荷物。そして、今回の物理破壊型の砲撃。

何だ?オレは何を気になっているんだ?





outside

その頃、ディエチとクアットロは退却をしようとしていた。

「マズイわねぇ。エース・オブ・エースがこっちに来る前に逃げないと」

緊張感のない声を出すクアットロ。

「何を呑気な……危ない!」

異変を察知したディエチが、イノーメスカノンを放り出してクアットロを抱え上げた。

そのまま隣のビルに飛び移る。

次の瞬間、それまでいた場所に黄色の魔力弾が雨のように降り注いだ。

「見つけた」

移動したにも関わらず、背後を取られるディエチ。

「えぇ!こっちも!?」「速い!」

振り向きざまにフェイトを姿を確認した二人は、その場から逃走する。

「止まりなさい!市街地での危険魔法使用及び殺人未遂で逮捕します!」

フェイトが警告を出すが、それで止まるような二人ではない。

「今日は遠慮しときます~!」

クアットロが空を飛び、ディエチがそれを追いかけるようにビルを飛び移りながらフェイトを振り払おうとする。

だが、フェイトのスピードから逃れるには、二人は遅すぎる。

「くっ……IS発動、シルバーカーテン!」

クアットロが己の幻術、シルバーカーテンを発動させた。

忽然と、フェイトの目の前から二人が消える。だが……

「はやて!」

フェイトは慌てずに、遠くにいる親友に合図を出す。

『位置確認、詠唱完了!発動まで、あと4秒!』

「了解」

はやてからの返事を聞き、フェイトは犯人とは正反対の方向に向かってスピードを上げる。

「離れた、なんで?」

道路に着地したクアットロとディエチが姿を現す。

「八神はやてはまだ海上にいた筈……まさか!」

嫌な予感がしたのか、クアットロが上空を見上げる。

二人の頭上には、黒く大きな球体が放電現象を起こしながら巨大化していく姿があった。

「広域空間攻撃!」「うっそ~ん!」

広域攻撃なら、姿を消していても意味はない。

その場所全体が攻撃対象だからだ。





遠く離れた海上で、はやては魔法を完成させた。

「許さへんよ。大事な家族を、仲間を危険な目にあわせたんやから!」

凛とした表情で、はやては発動トリガーを口にした。

「闇に沈め……デアボリックエミッション!」

はやての命を受けた黒い球体が一瞬圧縮されたかのように小さくなる。

その刹那、爆発するよう膨張して辺りを飲み込んだ!

「「うわあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

クアットロがディエチを抱えて逃走を図るが、とても間に合わずデアボリックエミッションに飲み込まれる。

「くうっ!」

ダメージが二人にのし掛かるが、クアットロは出力を上げてデアボリックエミッションの有効範囲から辛うじて逃れる。

が、

《投降の意志なし……逃走の危険性ありと認定》

デバイスの合成音が二人の耳に入る。

「「え?」」

目の前には、バルディッシュを構えたフェイトがいる。

もう、いつでも魔法攻撃に入れる体勢だ。

「マズッ……て、えぇ!」

逃げようと後ろを見たディエチだったが、そこには彼女たちが恐れる、エース・オブ・エースがいた。

なのはがレイジングハートを突きつける。

「しまった!」「あらら~!」

ディエチとクアットロは完全に追いつめられ、動きを封じられてしまった。

「トライデント・スマッシャアァァァァァァァァァ!」

「エクセリオン・バスタァァァァァァァァァァァァ!」

フェイトとなのはの同時攻撃が、ナンバーズの二人に炸裂した。





その様子をモニタリングしていた司令室に歓喜の声が上がる。

「ビンゴ!」

アルトが喜んでパチンと指を鳴らした。

『じゃない!よけられた』

なのはの切羽詰まった声に、ロングアーチ陣は今度は驚きの声を上げる。

「「「えぇぇ!」」」

『直前で救援が入った!』

フェイトの声も厳しくなる。

『アルト、追って!』

「は、はい!」

アルトが慌ててパネルを叩き、トレースを開始する。





廃棄都市の外れに、三つの人影があった。

ディエチとクアットロ。それと、その二人を助けた人物だ。

「ト、トーレ姉様ぁ、助かりました~」

「……感謝」

地面にへたり込むクアットロとディエチ。

その二人を、トーレと呼ばれた女性が睨みつける。

「ぼーっとするな、さっさと立て」

苛立だし気にトーレが言い放つ。

「バカ者共め。監視目的だったが、来ていてよかった」

トーレは不機嫌そうに続ける。

「セインはもうお嬢とケースの確保を完遂したそうだ。合流して戻るぞ」

グズグズしている二人に背を向け、トーレが歩き出す。

「あ、待ってくださいー。トーレ姉様ぁ!」

「……」

慌てて二人が立ち上がり、離れていくトーレを追いかけた。





ロングアーチでは、犯人の追跡を行っていたが……

「反応ロスト。異常反応も消滅」

アルトの意気消沈した声が、皆の気持ちを表していた。

『逃がしたか……』

はやてが無念の言葉を漏らした。





フォワードと合流したアスカとギンガが、ティアナから状況を聞いていた。

「そうか、逃げられたか」

ルーテシアが逃げた事を聞いたアスカが肩を落とす。

「うん……ごめん」

ティアナが俯く。

「別にティアナの責任じゃないだろ?しょうがないさ」

ポン、とティアナの肩に手を置いてニッと笑うアスカ。

不器用だが元気づけているのだろう。それが分かったティアナも笑い返す。

その向こうでは、ヴィータがはやてに報告をしていた。

「……ああ、悪い。こっちは最悪だ。召喚士一味には逃げられて、ケース……レリックも持ってかれちまった。逃走経路も掴めねぇ」

「あれ?」

それを聞いたアスカがティアナを見る。

ティアナは首を横に振り、キャロを指さした。

アスカがキャロに目を向けると、ニコリと笑って頷いている。

と言う事は……

「アスカ、副隊長に説明おねがいね」

スバルがアスカをヴィータの方向に押し出す。

「話してねぇのかよ……」

顔を引きつらせるアスカ。

さっきの悪巧みの事をヴィータに説明しなくてはいけない。

「あ、あの、ヴィータ副隊長……いっ!」

声を掛けた途端、グラーフアイゼンを突きつけられる。

報告してんだから話しかけるな!と目が言っている。

「ああ。フォワード陣はベストだった。今回は完全にアタシの失態だ」

アスカに背を向けて報告を続けるヴィータ。その内容がドンドン重くなっていく。

(あー、やべぇな。言いたかないけど、後でバレた時の方がおっかねぇからな)

思いっきり憂鬱そうな顔をしたアスカは音もなくヴィータの背後に立つと、大きな声で怒鳴った。

「レリックは無事ですよー!!!!」

「うるせぇ!」

ガゴン!

「ぐああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

振り向きざまにグラーフアイゼンで頭をド突かれたアスカ。

悶絶して地面をのたうち回る。

「待て!今レリックが無事だと言ったな?どういう事だ!」

ヴィータはゴロゴロと地面を転がるアスカを強引に捕まえて、肩をガクガクと揺らす。

「いだだだだ!ゆ、揺すらないで!マジで!頭が割れる!らめぇぇぇ!」

悲鳴を上げるアスカに代わって、ティアナが説明に入る。

「あ、あの、ずっと緊迫していたんで、切り出すタイミングがなかったんですけど……キャロ!」

「はい!」

ティアナがキャロを呼び寄せる。

「ケースはシルエットではなく本物でした。アタシのシルエットって衝撃に弱いんで、奪われた時点でバレちゃいますから」

ティアナの説明を、キャロが引き継ぐ。

「なので、ケースを開封してレリック本体に直接厳重封印を掛けて、その中身がここにあります」

そう言って、キャロが帽子を脱ぐ。

「ん?」

帽子の下からは、小さい花のカチューシャが出てきた。

ヴィータは訳が分からずにそのカチューシャを見る。

「こんな感じで」

パチンとティアナが指を鳴らすと同時に、カチューシャがレリックに変わった。

「いっ?」

突然の事にヴィータの目が点になる。

「敵との直接接触が一番少ないキャロに持っててもらおうって」

「なるほどぉ!」

エリオの言葉に、リインが感心したように手を叩いた。

「あ、あはは……」

感心したのか呆れたのか、ヴィータが力なく笑う。

「って言うか!いい加減離してください!副隊長!キャロ!ヒーリング、ヒーリング!」

もう、すっかりお馴染みのフレーズとなった言葉をアスカが繰り返す。

そのドタバタ劇を、離れたビルの上からシグナムとシャッハが見守っていた。

「我々の出番は、どうやら無くなったようですね」

シグナムが隣にいるシャッハに話しかける。

「任務は無事完了のようです。喜ぶとしましょう」

双剣を肩に担いだシャッハがそれに答える。

「しかし、アスカはなぜあんなにダメージを負っているのでしょうか?」

一人のたうち回っているアスカを見て、シャッハは首を傾げた。





スカリエッティのアジトの通路を歩きながら、セインが大きくため息をついた。

「はぁ~、やっと帰ってこれたよぉ」

ルーテシアとアギトを救出したのはいいが、クアットロとディエチが合流してくるまで結構な時間を待たされたのだ。

「お嬢の集団転送のおかげですね。ありがとうございます」

「うん……」

ルーテシアも疲れているのか、トーレの言葉に短く答える。

「……」

そんなルーテシアを、アギトは心配そうに見つめていた。

「あっ!セインちゃん。ケースの中身、確認!」

クアットロが思い出したように、隣を歩くセインに言う。

「あいよ~」

軽く答え、セインは通路の一角にある台の上にケースを置いた。

「へっへ~」

セインはイタズラっぽく笑って、ケースの縁を指でなぞる。

カチッ

それだけでケースのロックが解除され、蓋が少し浮く。

「じゃじゃーん!」

かけ声と共にケースを開けるセイン。だが、

「え?」「あら~」「なに?」

セイン、クアットロ、トーレがケースの中身を見て声を上げた。

中にレリックは無く、代わりに二つ折りの一枚の紙切れがあった。

「なんだ、これ?」

セインは紙切れを取って広げてみる。

それを後ろから見るトーレとクアットロとアギト。

その紙にはアスカの字で一言、こう書かれていた。

ハズレ

「「「「……」」」」

しばし固まる面々。

「……セイン、くじ運が悪いな」

ポツリとアギトが呟く。

「え?ええ??」

訳の分からないセインがキョロキョロと辺りを見回す。

呆れたような視線がセインに突き刺さる。

「ア、アタシはちゃんと運んできたよ!」

焦った声で叫ぶセインだが……

「なら、これはどういう事だ!」

トーレの一喝に首を竦める。

「で、でもトーレ姉!ちゃんとスキャンして本物のケースって確認したんだよ!ホラ!」

涙目になってセインが収集したデータをモニターに出してみんなに見せる。

「あ……」

その騒ぎを余所に、ルーテシアはケースの刻印No.を見て肩を落とした。

No.はⅥ。

ルーテシアが探しているレリックではなかった。

ルーテシアが気落ちしている事に気づかないナンバースは、セインのデータを見ている。

「!!」

データを見ていたトーレの目がつり上がる。

「バカ共が!」

「「え?」」

突然怒り出したトーレに驚くセイントクアットロ。

「おまえ等の目は節穴か!ここだ!」

苛立ったトーレが画像を指す。

それはキャロのサーモグラフ画像だった。

その頭部が、周囲のエネルギー反応に比べて明らかに高い。

「えぇ!まさかレリックを封印して直接身につけていたって言うの!?」

思いも寄らない手に、セインが頭を抱える。

「うぅ~、してやられたよぅ」

がっくりと落ち込むセイン。

「すみません、お嬢。愚妹の失態です」

落ち込んでいるセインをそのままにして、トーレがルーテシアに頭を下げる。

「別に……私が探しているのは、11番のコアあけだから」

ルーテシアはそう言ってナンバーズに背を向けた。

「あ、ルールー!」

その場を離れたルーテシアの後を追うアギト。

「大丈夫だよ、ルールー!アタシがルールーの欲しがっているレリックを見つけてやるから元気出せよ!ゼストの旦那だって手伝ってくれるんだ、な?ルールー!」

ルーテシアの周りを飛び回ってアギトが慰める。

「うん、ありがとう。アギト」

ルーテシアとアギトは、再び転送魔法でどこかに移動した。





「あら、これ六番のコアだったのね?」

クアットロがケースの刻印を見る。

「うぅ~、ヤバイよぉ。コアもマテリアルも管理局に渡しちゃったとなると、ウーノ姉に怒られるよぉ!」

憂鬱そうにため息をつくセイン。

「めんどくさいですわねぇ~」

クアットロもそれに同意する。

トーレはそんな妹達を呆れた目で見ていた。

この二人は放っておいて、ウーノに説教してもらおうと考えていたトーレだが、もう一人の妹の様子がおかしい事に気づく。

「……」

「どうした、ディエチ。さっきから喋ってないが?」

アジトの帰ってきてから一言も発していないディエチにトーレが尋ねる。

「……いや、何でもないよ、トーレ姉。ちょっと疲れただけだから。ごめん、今日はもう休む」

ディエチは元気なくそう言い自室へと戻って行った。

その背中を心配そうに見るトーレ。

「クアットロ、ディエチに何かあったか?」

トーレは行動を共にしていたクアットロに聞くが、

「いえ?特に変わった事は無かったと思いますけどぉ?」

聞くだけ無駄に終わった。





ディエチは俯いて廊下を歩いていた。

「アスカ……何で……」

ほんの短い時間だった。

見ず知らずの自分の為に色々と助けてくれた少年。

地図を調べてくれて、アイスをごちそうしてくれた少年。

その行動に裏は無かった。

ただ純粋に助けてくれたのだ。

だから、自然に手が出た。

彼と握手をした。

「敵……なんだよね……でも……嫌だ……」

ディエチは自分の右手を見て、小さく呟いた。 
 

 
後書き
またもや長文になってしまいました。申し訳ありません。
読んでくださる方々には、大変感謝しております。
上手い文章ではありませんが、これからもよろしくお願いします。

さて、今回はルールーが捕まってからスカリエッティのアジトまでの話を書いてみました。
如何だったでしょうか?

アスカの活躍って、結局誰かの手助けみたいな感じなんですよね。
ディエチの砲撃を1秒だけ防ぐ。でも、なのははその1秒を生かした、こんな感じに。
地味な役回りですね。一応、この先にもっと強くなる予定ではありますが。

さーて、何気にディエチヒロインのフラグが立ったような気がします。
隊長達のヒロインゲージに変化は無し。ヤバイですね……

次回はナンバーズ編のエピローグ的な話になりますが、アスカとティアナが喧嘩をします。
まあ、アスカが完全に悪いんですけどね。


 
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