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世界に痛みを(嘘) ー修正中ー

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一条の光

 此処はドラム王国と呼ばれる冬島の沿岸

 誰の目にも留まらぬこの場所で2人の人物が対峙する。
 一人はある少女を救い、間接的にこのドラム王国を守るために衝突していた。

 もう一人はこの島を再び己の手中に収めることで支配し、王の座へと返り咲き、王政復古を成し遂げるべく激突していた。

 しかし、既にドラム王国は己の身の可愛さから君主が逃げ出した瞬間から道を違えている。
 悪政の国王はいい加減に己の身の程を弁えるべきだ。

 だが、傲慢不遜な国王であるこの男はどこまでいっても諦めない。
 奴は貪欲に我欲を貪り、国民達を人とも思っていないほどの悪政の王なのだから

 此度の騒動で奴は自分達に逆らう国民共を毒殺することを企んでいた。
 その企みを成就するためならば奴は実の兄さえも利用する。

 最初からこうすれば良かったのだと奴は豪語し、バクバクの実の能力により自身の兄を食い尽くした。

 唯一の肉親であるムッシュールさえも奴にとっては駒に過ぎなかったのである。
 ムッシュールは純粋に弟であるワポルを想っていたというのにも関わらず、この始末だ。

 そして、その身に胞子爆弾(フェイタルボム)を宿したワポルはドラムロッキーの頂からこのドラム王国全土に猛毒を散布する企ても失敗していた。

 アキトの手によりドラムロッキーでの胞子爆弾(フェイタルボム)の発射を阻止され、何故か胞子爆弾(フェイタルボム)そのものも発動されることはなかった。

「「何故!何故ッ!何故だ!?」」

 能力そのものは問題無く発動している。
 しかし、体内に溜め込んだ胞子が出てこなかった。

 自分の身に何が起きている不可解な現象に理解が追い付かない。

「「体内の胞子の量も、発射準備も全てが完璧だったはずだ!?なのに何故!?何故胞子爆弾(フェイタルボム)が発動しない!?」」
「そう、慌てるな。順を追って説明してやる」

 そんな中、アキトは騒ぎ立てる奴らを説き伏せるように静かに口を動かす。

「お前達が体内の胞子を対外へと放出できない原因はこれだ」

 アキトは実に緩慢な動きで自身の右手を前へと差し出した。

 訳も分からずムッシュールワポルキャノンと化したワポルは前方のアキトを睨み付けた刹那─



 アキトの掌の上に電磁波とも呼ぶべき黒き雷のようなモノが迸った。

 それはアキトの掌の上をまるで螺旋状に循環し、一箇所へと集束している。
 その黒き物体は幾度も循環・圧縮・凝縮を繰り返す。

 その現象を生み出しているアキトの顔は正に真剣そのものであり、この謎の物体の生成に余程集中していることが伺えた。
 その様子を固唾を飲み込みながら眺めるワポルとムッシュールの2人

 圧縮・凝縮が繰り返されること幾度
 幾度の緻密な操作を経ることでその黒き謎の物体は遂にその正体を現そうとしていた。

 見ればアキトの周囲は何らかの前触れか雪が浮かび上がっている。
 その黒き力の本流はアキトの掌へと集まり、球状へとその形を変化させていく。

 やがて生み出されるは黒き小さな球体
 その大きさは想像以上に小さく、容易に握りつぶすことが出来るのではないかと思えるほどの大きさだ。

 しかし、その内に秘めたる力の大きさは計り知れず、その黒き球体は周囲に積もっている大量の雪を際限なく引き寄せていく。

 ワポルとムッシュールは自分達の理解の範疇を越えた目の前の現象に唖然とすることしか出来なかった。

「自身の体を媒介に磁界を生み出し、引力と斥力を生み出す能力。その名をジカジカの実。それが俺が食べた悪魔の実の力だ」

 驚きの余り言葉を失っている2人に構うことなくアキトは説明を続ける。

「これは俺の能力を応用して作り出した強力な引力を持つ球体であり……」

「そして先程、ドラムロッキーの山頂からこの場に移動する間にこれを口を通す形でお前の体内へと侵入させておいた。毒の胞子を対外へ放出することができないのはそれが理由だ」
「「何……ッ?」」

 アキトはそう説明する最中、自身の掌の上で生成していた雪の塊を破壊する。
 引力の力の影響を受けることで幾度も圧縮されて出来上がっていた巨大な雪の塊は甲高い粉砕音を立て砕け散った。

 その異様な光景がアキトの能力の強大さを如実に表していた。

 Dr.くれはから胞子爆弾(フェイタルボム)の脅威とその特性、彼女が知りうる全ての情報を聞き及んでいた。
 アキトは最初から、最善にして最高の策を準備しておいたのだ。

 もしも、ムッシュールの胞子爆弾(フェイタルボム)が発動するような事態に陥った場合、この方法で奴を処理することは決めていた。

 対外へと放出させてはいけない代物ならば、そもそも発射させる時間すら与えなければいい話だ。
 その代償に自分は大量のスタミナを失ってしまうことになるが、ナミとこのドラム王国を救うことができるのならば安い代償である。

 しかし、刻一刻と自分にタイムリミットが近付いているのも事実であり、表面上では平静を装ってはいるが今にも体力が尽きてしまいそうだ。
 故に、早急に奴を始末する。

「これから自分の体がどうなってしまうのか理解出来たか?」
「「ま、まさか……!?」」

 アキトは驚愕するワポルとムッシュールに掌を向け、奴らの体内に存在する自身の力に大きく干渉した。

 ワポルは己の意志とは関係なく空へと飛ばされていく。
 アキトも同じく島の沿岸から飛翔し、遥か上空へと飛び立っていった。



 地上から遠く離れた天空にてアキトとワポルはの対面する。

「「あぁ、あぁっ……」」

 ワポルは最早、自分達に残されている選択肢は命乞いのみであると理解せざるを得なかった。
 此方の生死は全て奴の掌の上であるのだと理解した。

「「ちょ、ちょっと待って!?お前に地位と勲章をやろう……!?」」

 最後の最後にワポルの口から出てきた謝罪の言葉ではなく懐柔の言葉であった。
 どこまでも自分本位であり、独占的な言葉としか言いようがない。

 人がわざわざ現状を根絶丁寧に教え、事態の深刻さを自覚させることで生き延びる選択肢を選ぶ時間を与えたというのにそんなことしか頭にはないのか、とアキトは失望した。

本当にこいつらは……



「醜いな……」

 アキトはそれ以上にワポルとムッシュールという男を表す言葉を知らなかった。

 自分は決してそんな言葉を求めているわけではないのだ。
 お前達は殺めた国民達への謝罪の言葉を思い付きもしないのか。

 奴らに少しの良心でも残っているのならば自分は命まで取るつもりはなかった。
 だが、奴らは純粋な悪であり、救いようがない程に良心の欠片も持ち合わせていなかったようだ。

 奴らだけは生かしておいてはならない。
 此処で奴らを殺さなければ奴はまた再び何処かで害悪を撒き散らすだろう。

 これは確信にも似た予言だ。

 10年前に起きた胞子爆弾による大虐殺事件
 胞子の爆弾によりドラム王国の多くの国民達が命を落としたと聞く。
 それもムッシュールの能力の試運転などというくだらない企みによって
 
 実に軽率であると同時に愚かな行為だ。
 許されることではない。

 当時の凄惨な傷跡は今なおこの国の国民達の心に深く残り続けている。



お前は一度でも国民達の事を顧みたことがあるのか?

愛する者を失った者の事を考えたことがあるのか?

無残にも殺された国民達はお前達を憎悪したはずだ

殺したい程に憎んだはずだ

死にたくなかったはずだ

例え、悪政を敷かれている国であろうとも生きていたかったはずだ

きっと犠牲者の中には子供達も多くいただろう

お前達は子供達の可能性ある未来を奪い、多くの人々の命を私利私欲に弄んだのだ

だというのに多くの人々の命を奪ってきたお前達だけが今なおのうのうと生きているのは都合が良すぎるんじゃないか?

お前達の愚行は決して許されることではない

許されざることではない

この国の国民達はお前達の欲求を満たすための駒などではない

お前は断じて王などではない

王とは皆に認められた者のことだ

国の民達を自らが指標となることで導き、次世代の子供達を育て、未来ある明日へと繋げていく存在のことだ

自らを律し得ず、国民達の事を顧みないお前が王などと認められていいはずがない

お前はただ自らを王だと独りでのたまい、自己顕示欲を隠そうともしない哀れな王に過ぎない

今この国は悪政を敷いていた王の支配から解放されたことでようやく平和への架け橋を築き始めているのだ

その邪魔をさせはしない

この国の未来ある明日にお前達は不要だ

そして、お前達がこれまで殺めてきた人々の苦しみを、憎しみを、恨みを、嘆きを







─ 痛みを知れ ─







 人を呪わば穴二つ、正に因果応報
 アキトは慈悲を与えることなく左手を一気に握り締めた。
 
「「ならば副王様の座を……!?」」

 途端、ワポルとムッシュールの表情が激変する。

 ワポルとムッシュールは身動きが取れない空中でもがき苦しみ、悶え始めた。
 喉を掻きむしり、何かに必死に縋るように大きく振るわせながら手を空へと掲げる。

 ムッシュールとワポルの両者の顔は絶望の色に染まり切り、身体は呼吸をするのも困難な状況に陥いる。

 見れば想像を絶する痛みの影響か目は大きく肥大化していた。
 瞳からは大量に涙を流し、眼球は今にも飛び出してしまいそうだ。
 最後に、ムッシュールワポルキャノンの体は腹部が大きく凹み、肉が潰れ、その肥えた体が一気に縮まっていく。

 抗う術も無く体内から圧縮され、捩じられ、砕かれ、破壊される。
 骨は砕け散り、無残にも内臓へと突き刺さっていく。
 ワポルとムッシュールの2人は最早悲鳴を上げることも出来なかった。

 暫くの間、ドラム王国から遠く離れた遥か上空にて欲望の限りを尽くした男達の悲鳴が鳴り響いた。




「……」

 数秒後、アキトの眼前には先程までワポルとムッシュールであったモノが浮かんでいた。

 アキトは感無量といった様子で左手を振り下ろし、そのオブジェを眼下の大海へと墜落させる。

 見るに堪えぬその肉塊は落下による摩擦熱により瞬く間に引火し、その身を赤く燃え上がらせる。
 アキトの能力と重力の後押しを強く受け、途轍もない速度で眼下へと一直線に落ちていった。
 まるで隕石が如し速度と熱量だ。

 これがドラム国を長年苦しみ続けてきた悪政の王とその兄の人生の終焉であるのと同時に成れの果ての姿であった。

 この日、ドラム王国の国民達は見た。

 空に浮かぶ雲を突き抜け、大海へと堕ちる一条の光を

 やがてその一条の光は『開国にして解放の光』として国民達は後世へとその存在を語り継いでいくことになる。


─ 今此処にドラム王国の支配は終わりを迎え、国民達は平和への架け橋を登り始めた ─ 
 

 
後書き
ワポルとムッシュールは星になったのだ
そう、真っ赤なお星様にな…… 
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