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コバピーハザード!

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第一章「災難の始まり」


 ある朝、僕は何事もなく目覚めた。
 窓に掛かったカーテンの隙間から朝の清々しい陽の光が射し込み、僕の顔を上手い具合に照らし付けていた。
「暑っ!」
 うん、最高の目覚め方だ。
 僕はそのウザったい陽射しに叩き起こされ、渋々とベッドから這いずり出てカーテンを全開にした。
 目の眩むような光が部屋の中へと注ぎ込まれ、薄暗い闇を一気に払拭した。
「さぁってと、今日も頑張りましょ。」
 間の抜けた言葉を欠伸をしながら発し、僕はノロノロと着替えを済ませた。
 僕は父と二人暮らしで、父はなんかの研究者だ。内容はよく知らん。
 取り敢えず、僕は朝御飯を食べるべく一階の台所へと向かったのだが…。

-ドッカ~ンッ!-

 何とも古典的な擬音だが、ここではやむを得まい。
「ってか、今度は何やらかしたんだよっ!?」
 僕は急いで階段を駆け降り、父の研究室の扉を叩いた。
「ダディ!何やったんだよ!?」
 僕がそう言って扉を叩き続けていると、暫くして中から父が出てきた。
「いゃ参った参った!」
 こいつ…何言ってんだ?ってか、僕はなんでこんなヤツのことを「ダディ」なんて呼ばにゃならんのだ?
 いや、そんなことを考えている場合ではないな。
「今の爆発音はなんなのさっ!?」
「あはは、ちょっち失敗ししちった。あ…リツ君、大丈夫かい?」
 父がもくもくと煙る室内に向かって声をかけた。
「はい。なんとか生きてますぅ。」
 なんとものんびりとした返事が返ってきた。この声は、父の助手であるリツさんの声だ。
「で、ダディ?何やらかしたの?今度は…。」
 僕がジトリと父を見上げると、父は爽やかな笑顔でこう言ったのだ。
「いやぁね、我が子がこんな三頭身なのが憐れでなぁ…。友達でも作ってやろうかと…」
「それおかしくね!?まず身長を伸ばすとかしねぇのかよ!」
 ってか、僕って三頭身だったのね…。

 僕の名はコバピー。なぜかこんな変な名だが、これこそつけた人間に言ってくれ。
 父は研究者で、名を秋山 誉。さっきもそうだが、毎回失敗ばかりしている。このお陰で、我が家の家計は火の車だっての…。
 で、さっき声だけ出てきたのが助手のリツさん。名字は知らん…。
 リツさんは通いで、ほぼ毎日来てくれているので、何だか家族同然となっている。
母はって?そりゃ、こんな男だから、愛想を尽かして出て行きましたって。
 でも父は、息子の僕が言うのも癪にさわるけど、かなりの美形だ。顔だけだと次の嫁さんも直ぐに見つかりそうなんだけど…こう毎回爆発させちゃねぇ…そりゃ、誰でも逃げてくっしょ?
 リツさんは独身だと思うけど、どうも父とはそういう関係にはなりそうもないし…まともな朝食はいつになったら食べれるやら…。

 いや、いけない。そんなことをボケッと考えてる場合じゃなかった。
「ダディ、早くリツさんを!」
「あぁ、そうだった。」
 気の抜けるような声で父は答えると、二人で煙漂う研究室へ入ろうとした。
「先生、入っちゃダメですぅ!」
 その時、中から何とも危機感のない声で、リツさんが僕達が入るのを止めた。
「リツさん、中で何かあったの!?」
「それなんですがぁ、あ…!」
 研究室の奥から、何やらワラワラと声がする…。
「な、なんだ…?」
 父もさすがにビビってるようで、恐る恐る中へと入って換気扇のスイッチを入れた。
 換気扇は見る間に漂う煙を外へと追い出し、段々と視界を鮮明にしていったが、そこにあった光景があまりにも想定外だったため、僕と父は顎を外しかけた。
「なんじゃこりゃっ!!」
 そこには…<僕>が山のように存在していた。ってか、居やがった!
「おい、ダディッ!テメェ何研究してたんだ!?」
「だからぁ、我が三頭身の息子のために友達でも…」
「って、これ僕じゃないですかぁ~!何かまだ奥の機械からニョキニョキ出て来てるんですけどっ!?」
 これは量産型ですね!一家に一台コバピーを!!って、いらねぇよっ!!
「あ、変なのがいるぞ!」
「ほんとだ。三頭身なんておっかしぃ!」
 何か面白い玩具でも見つけた子供のように、僕のコピー達が一斉に喋り始めた。研究室は彼らの声で充満して、耳がキンキンと痛くなった。
 僕と父はあまりの五月蝿さに、この声の中から出ようとした時だった。
「あ、変なのが逃げるぞ!」
「逃がすな!」
 コバピー擬き達は目を光らせ、出ようとする僕達へと迫ってきた!
「逃げるぞ、ダディ!」
「アイアイサ!って、あ…。」

-カプッ!-

 走り寄ってきたコバピー擬きに、父が手に噛みつかれてしまいました…。
「ダディ!」
 噛まれた父はその瞬間、他の擬き達と同じ様に三頭身になり、姿まで僕そっくりに…。
「嫌ぁぁぁぁ~ッ!!」
 気持ち悪…。これはかなりの確率で気分を害する現象だ!
「ってか、自分の姿なのに気色悪いなんて!」
 僕は仕方なく、直ぐ様研究室の扉を閉めて非常用ロックを掛けた。
 中ではコバピー擬きが暴れているようで、ドタバタと大きな音が響いている。

-ドンドンッ!-

 中から出せと叩いているが、この扉はそう簡単には開きません。
「はぁ~……。なんでこんな目に…。」
 その時、玄関のチャイムが鳴らされた。
「全くこんな時に…!よし、居ないふりっと…。」
 それでもチャイムは鳴り止むことなく続いている。そして…

-ドカッ!!-

「うひょ~!玄関のドアが!」
 ぶち壊された…。そしてそこから悠然と出現したのは…。
「けぃ様が登場してやったゼ!」
「やったゼじゃねぇよっ!」
 あまりの仕打ちに僕はキレてしまい、ついつい急所に飛び蹴りをかましてしまいました。
「グフォッ!」
 けぃは真っ青になってのたうちまわってるが、人ん家の玄関扉をぶち壊しといて、これで終わりだと思わないでほしい…。後でしっかりと修理させねば…。
「もう…何でこうも災難が…?」
 暫くすると、のたうちまわってたけぃが復活し、頭を抱える僕へと声を掛けた。
「なぁ、コバピー。研究室の扉…。」
 僕はそりゃもう険悪な目付きでけぃを見たが、けぃが顔を引き攣らせて指差す方向に視線を移すと…。
「な、なんじゃこりゃ!?」
 その分厚い研究室の扉にコピーが体当たりしてるためか、<僕>の形が浮き出ていたのだった。
「って、何でこんなクッキリと!?」
 父よ…あなたは一体何を作ったと言うんでしょうか…?新手の盗賊団でも組織するつもりだったのでしょうか?ってか、何なんだよこれはっ!!
「なぁ、博士は?ってか、リツさんはどこだよ!あぁ、愛しのマイ・ハニー!」
「ああ、あの中だよ。」
「…………。」
 暫くの間、二人の間に沈黙が続いた。聞こえるのは研究室で騒ぐコバピー擬き達の奇っ怪な叫び声…。
 そして、その沈黙をけぃが破った。
「なぁにぃをぉ~っ!!」
 そう叫んだ瞬間、けぃは後ろから思い切り叩き倒されのだった。
「うっせぇよっ!このストーカー野郎が!」
「あ、みほ殿。お早う。」
「コバピー、こりゃ一体どうしたってんだ?」
「うん、そうだね…。僕は君の名前がどうなってんのか知りたいんだけどさ…。」
 これまた不法侵入してきたのは、けぃと大して変わらないストーカーであるみほ殿だった。この名前で男なんだから、大概この世界はおかしいと思う…。
 この二人、外見は中々イケてる(ダディの比じゃないが…)だが、父の助手であるリツさんに執拗に言い寄っているのだ。
 ま、リツさんにはその気はないみたいだし、二人の前はいっつも素通りしてるんだけどね。
 しかし…この二人がそろうのはかなり危険だ。とにかく、ここから二人を遠避けなくては…。そうしないと、父の研究仲間んとこへ行けない…。
「このドアの向こうに、僕の愛しのリツさんが閉じ込められてるんだ!」
 復活の早いけぃが、研究室の扉を指差して叫ぶ!
「いや、そんなことよりお腹空いたね!外でご飯でも…」
「ぬぁにぃ~!?こんな扉、直ぐにでも蹴破ってしまえ!!」
 これは一大事ですよ!かなりやばぁい状況ですって!
「あ!ダメだってば!そんなんしらたあいつらが外へ!!」
 僕の叫び声は虚しく宙に四散した…ってか華麗に無視されてしまったのでした。まぁ、このバカ二人は、誰にも止められないんだけどねぇ…。
 この二人の蹴りは最強だ。恐らく、どんな防犯扉も蹴破ってしまうだろう…。
 やっちゃダメだけど…。
 そんな僕の不安を他所に、目の前で研究室の扉が美しく蹴破られてしまったのだった。
「やっりぃ!リツさん、今行きますから…」
 開いたが最期、そんな悠長なセリフを聞いている奴らではない…。
「やったぁ!お外へご飯食べに行こう!」
「僕は街の中でクレヨンで絵を書くぞ!」
「やっぱりバッハを街の皆様に聴かせないと。」
「いやいや、ここはやっぱりモーツァルトでしょう!」
「あ、ケーキとコーヒーが僕を呼んでる!」
 そんな言葉と共に、研究室から湧き出す湧き出す!そりゃもう湯水の如くですって!
 ワラワラと研究室から出て行く時に、隙を見てけぃとみほ殿に「カプッ!」と噛み付いたようで、奴らが去った後には、僕一人がポツンと残されていたのでした…。
「うそぅん!!」
 こりゃ…とてつもなくヤヴァイ状態なのではなくって?このままでは、街が大パニックに…。

-キィィィィ~、ガッシャ~ン!-

 あ、あれは何の音かしら?聞かなかったことにしても宜しくって?
「ってか、オリジナルの僕はどうすりゃいいっての!?」
 ここは慌てても仕方あるまい。とにかく、四散したコピー達の暴走を食い止めるべく、僕は一人街へと向かったのだった。

「あ、朝御飯食べてないじゃん…。」



 
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