インフィニット・ゲスエロス
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16話→そして、世界は間違える
前書き
面白いから軍備を続ける者はいない。恐ろしいから軍備を続けるのだ。
【ウィンストン・チャーチル】
その時、誰もがこの事件の全体像を把握出来なかった。
踏みしめる月の大地で、ぶつかり合う二つの黒い機体。
「どうした?楽勝ではなかったのかい?太郎くぅん?」
「俺を名前で呼ぶなクソ社長め!」
「はっ!当てが外れて残念だったねえ。便利なものだよ、連戦による疲労も、加速による重力も、関係ないこの体はね?これで貴様を半殺しにして、兵器鎮圧で弱った二人を脅せば、私の管理する新世界は間近さ」
狂気と暴力が渦巻く戦いが月であった。
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「……これで100機!次はどこを潰せば良い?」
「もう送った!人命救助はこちらでやるから、ちーちゃんは敵を潰すのに専念して!」
声を張り上げる千冬に、即座に答える束。
後に、『白騎士事件』と呼ばれる戦場の最中に、彼らはいた。
話す間にも、粛々とミサイルは放たれる。
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「おい!どういう事だ。何故我が国の兵器が、『勝手に』動いている?」
ある国の上官がそう怒鳴り立てても、技術士官にしてみれば困惑するしかない。
『オフライン』であるはずのイージス艦や自動戦闘機の操作を奪うなど、魔法のような現象をどう説明していいか、分からないのである。
トロイの木馬を仕込んだにしても、明らかに対処している人型兵器に向けて撃つ武器の照準が合いすぎている。
「失礼ですが反乱の線は?」
「今乗っているのは、宿直の入隊半年以下のボウズ二人だけだ。しかも先輩兵士に当番を無理やり変更された……な。動かす所かパスワードの一つも分からんよ」
「では何故、動いたんですか?」
「それを調べるのが貴様らの役割だ。俺達の首が繋がっている間にな!」
理由が分からなくとも、兵器は『そこ』にあった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『ふふっ、やっぱり、花火は沢山射った方が楽しいわね。たーまやー!』
世界初の『触れたら感染する』特性を持つ自立ウイルスプログラム、『クリス』。
かつて、ダイナマイトや核を、開発者の意に沿わぬ形で悪用した者達のように。
まるで科学に寄りかかった人類に対するアンチテーゼとして、彼女は『そこ』に確かに存在していた。
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「…………一夏か?」
荒い息を整えながらそう口にする義兄に、最初に一夏が覚えたのは違和感だった。
兄は、あまり自分の動揺や疲れを表に出さない。
それは外だとより顕著で、少なくとも兄がこんな形で電話をするなど、少なくとも自分の記憶にはない。
だからこそ、焦る。
一体、この国に何が起きているのか?
まず、最初の異常は、姉が出ていった早朝から数時間後に起きた。
ミサイル等の攻撃が日本に向かっている事を示すアラートが『連続』して携帯に鳴り響き、町内はパニック状態。
あらかじめ合流していた山田家でこの騒ぎが収まるまで待つものの、テレビでは自宅から出ないようにと壊れたラジオのように繰り返し言うだけで、収まる気配はない。
ネットでは湾岸地帯でミサイルを撃つ戦艦や戦闘機の噂が流れるものの、何故か証拠となる写真がサーバーにアップできないなど、混乱が加速していた。
分からない、何もかも。
だからこそ、このタイミングでかかって来た、兄の電話に、蜘蛛の糸のようにすがる。
「兄ちゃん、俺はどうすれば良いの?何をすればいい?」
訳の分からない状態で、何も出来ないというのは、恐怖や心配という感情を増大させる。
何でも良い。何か兄からやることを貰って、集中していたかった。
「…………ふう。悪い、息がやっと整った。良いか、よく聞くんだ一夏。やってほしい事は3つ」
「うん!」
頷きながらメモと鉛筆を持つ。
兄の言葉を、願いを聞き逃さないために。
「一つ、俺の部屋を開けて、引き出しにある二つの手紙を持ち出す。そして、お前宛の手紙を読め。二つ、もうひとつを真耶に渡せ。最後に…………千冬をしばらく頼む」
「えっ!?兄貴…………兄貴!」
もう、電話は切れていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「はぁっ!またあの夢かよ」
被った布団を上半身で跳ね上げて、一夏は起きた。
事件から数年たっても、消えないあの日の記憶。
それは友人から能天気と言われる一夏を、未だに過去に縛りつけていた。
「兄貴…………」
枕横にある携帯を開く。
そこには、幼い自分を抱える太郎と、まんざらでもなさそうに腰を抱かれる姉さんがいた。
「どこに居るんだよ…………」
行方がしれない兄を心配する声が、無意識に口から漏れた。
その瞬間、携帯に着信がある。
ショートメールか、誰からだ。
何気なく、携帯を操作した一夏は、目を見開いた。
この番号に覚えがある。
それはそうだ、いつ帰って来ても大丈夫なように、その番号の料金を払い続ける手続きをしたのは自分、なのだから。
そこには、こう書かれていた。
【至急、IS学園に来い。山田太郎】
【白騎士事件】より、連絡の取れなかった兄からの、久しぶりの連絡に、一夏は何の疑いもなく、喜んだ。
その数日後、自らの身に何が起きるのか、未だ分からぬまま。
後書き
不利は一方の側にだけあるものではない。
【ウィンストン・チャーチル】
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