相談役毒蛙の日常
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六日目
先ずは俺だけが月光鏡の正面に立つ。
「あ~テルキス?」
「なんだ、いきなり月光鏡なんて使うから驚いたぞ…
ん?お前闇魔法スキル上げてか?」
「え~っと…一つ話…というか報告がある」
「なんだ」
「シルフ、ケットシーが同盟を組み数日中に世界樹攻略を行う」
「ふむ…」
「俺達もコレに参加したいと思う…ダメか?」
「…………………サクヤ、ルー、そこに居るのだろう?」
長考の末にテルキスはサクヤとアリシャを呼んだ。
「まぁ、今の話の流れからすればわかるか」
「そーだネー、久しぶり!テルキス!」
「ああ、久しいな。
お前たちが同盟を結んだ事はとても嬉しい。
我々の主張はことごとく無視されていたからな。
だが攻略に参加するかはそちらの同盟の条文を聞いてからだ」
「いいだろう、先ずは……………」
「いいだろう、我々も攻略に参加しよう」
これで世界樹を攻略できる、そうすればアルフにな…れ…あ…
「待て、テルキス。一つ大事な事がある」
「なんだ、トード、この同盟は至極真っ当だが?」
「サクヤ、アリシャ一つ忘れていた事がある」
「なんだ?」
「どしたのトード?」
「もしも、もしもカオスブレイブズの、シルフ、ケットシー以外の種族の者がたどり着いたらどうする?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
沈黙…
「カオスブレイブズのアタッカー隊の四分の一はシルフ、テイマー隊も居るが…それだけでは到底足りんだろう」
とテルキスがいい放つ。
「いっそ俺達は援護に回るか?」
「それはお前たちに悪いだろう」
「そーだネー、どのみちキリト君が行くんなら一緒だしネ」
「それもそうか…」
「む?キリトとは誰だ?」
と、テルキス。ああ、言ってなかったな。
「スプリガンのプレイヤーだ。
何でもリアルで連絡が取れない相手が居て、その相手が世界樹の上に居るかもしれないんだと」
「ふむ…」
「ああ、あとシルフのスピードホリックも一緒だ」
「スピードホリック…」
「ほら、一周年イベントのレースで優勝した」
「ああ、あの直刀使いか…」
テルキスも直刀使いだ、同じ得物という事で記憶に残っているらしい。
「ならば考えても同じか…」
「ああ、だから何時でも攻略できるよう、超越議会<イクシーズ>を一度召集して欲しい」
超越議会<イクシーズ>とは簡単に言えばカオスブレイブズの幹部会である。
「超越議会か…まぁ、奴らなら殆どが今もログインしているだろうが…」
「なるべく急いで欲しい、シルフ・ケットシー同盟は既に資金を集めている。
装備の調達、移動その他を含めても最速で明日の6時にはアルンまで行けるだろう…
いや、ケットシーの飛竜隊が有るからもう少し早いかもしれん」
と俺が言うと。
「分かった、直ぐに集めよう」
「ありがとう、テルキス、トード」
「ありがとネ!」
「話は以上か?トード?他に何かあるのだろう?」
なんでバレてるんだよ…
「なななな、何の何の何の事を言って言っているんだか全然全然全然わからわからないないないないなないな」
と、某鬼畜吸血鬼の真似をしてみた。
「…………吐け」
「サー!イエッサー!」
「余裕有るネー」
「え~っと、今回の条約締結を邪魔したい勢力がありまして」
「レネゲイズか?サラマンダーか?」
「後者です…」
「で?」
「シルフに内通者が居てさっき襲われてた」
「撃退したのか?」
「ああ」
「ふむ…だいたい分かった、無許可で相談役を名乗った件については今回は不問とする」
何故分かる!?鋭すぎやしねーか?
「あ、あと伸したサラマンダーから装備かっさらったから」
「なに?」
「一千万は有るぞ、これで装備を整えられる」
これで俺の株も…上がらねぇんだよなぁ…
「………はぁ…40%」
「は?」
「ペナルティ、上納金40%」
今の俺の上納金が総所得の10%だから…
「嘘だろオイ!規約違反だ!」
四倍じゃねぇか!
ちなみにウチの上納金はノルマ制ではなく所謂『累進課税制度』のような物で俺やイクシーズは10%、一般団員はせいぜい5%だ。
「黙れ、モーティマーに何を言われるか」
「はぁ!?無視しろよ!中立域での被害と先日の一件の慰謝料だよ!」
「まぁ、とにかく40%だこれ以上いうならもっと上げるぞ」
「わーったよ!40%だな!」
「サクヤ、ルー、他にはあるか?」
「ないな」
「ないヨー」
「ではカオスブレイブズギルドマスターの名に於いて、カオスブレイブズ相談役ポイズン・トードにシルフ・ケットシー同盟との条約締結を命ずる」
「カオスブレイブズ相談役ポイズン・トード、ギルドマスターの命によりシルフ・ケットシー同盟との条約を締結します!」
「なんで復唱なんだ…軍隊じゃあるまいし…」
そういう規則なの。
「以上だ」
「アリシャ、もういいぞ」
と、言うと月光鏡が光となって消えた。
「ふぅ…疲れたヨ」
「嘘こけ、疲れる訳ねぇだろ。ホレ」
ポーイとMPグランポーションを放る
パシッ!っと受け取った、尻尾で…
「おっと…いきなり投げないでヨ…」
「大道芸かよ…」
「いやぁ…暇潰しに尻尾の扱いを極めてみたんだヨ。
これを出来るのは数人しか居ないヨ」
「暇人どもめ」
「おいトード」
「なんだ?サクヤ?」
「暇人なんて言ってるが…お前リアルでは高校入試直前だろ?」
「あんなの勉強せんでも受かるっつーの、公立の定員割れした高校だしな」
「いや…そういう話では…」
「親も『あ?〇〇高校なんて名前さえ書いとけば受かるだろ』って言ってるし」
英語の問題も英検準二級よりも難しいという事は無いだろう。
「そうか…ならば何も言うまい」
「でだ…テルキスが条約結べって言ってたんだがどうする?」
「どうすると言われても…」
「特に無いなら条文の最後に"カオスブレイブズは世界樹攻略にシルフ・ケットシー同盟と共に臨む"って書いといて」
「いいだろう」
「いいヨー」
「じゃぁ…誓約書を出せ、ここで調印しよう」
俺の言葉と共にサクヤが誓約書を出した。
「ではまず私から」
とサクヤが自らのPNを書き込み印を押した、各領主が持つ印だ。
「次は私だネ」
同じくアリシャがPNを書き込み印を押す
「最後に俺か」
俺はストレージからシギルを出した。
システム上のサブマスターなので一応所持できる。
POISON TOADと書き込み印を押す。
「サクヤ、アリシャ」
「なんだ?」
「なに?」
シャリィィン…
「お前たちも得物を出せ、やるぞ」
「ああ、アレか」
「懐かしいネ」
領主二人は分かったようだが護衛はそうでは無いようだ。
「おい!警戒する必要は無い、条約締結必要な事だ!」
俺が言うと領主二人が得物を抜き、部下を征した。
カチン、三つの得物が合わさる。
「我、ポイズン・トードは以上の条約に従う」
「我、サクヤは以上の条約に従う」
「我、アリシャ・ルーは以上の条約に従う」
「「「我が刃に誓って!」」」
"刃の誓い"、誰が始めたかは知らないが、ALO黎明期からのトッププレイヤーの間で約束事をするときの儀式のような物だ。
「では、これで」
「なんだ、もう行くのか?」
「今日中には着きたいからな」
「ここから…四時間ってところだネ」
「ああ、夜になる前に着きたい」
「そうか…では我々も退散するとしよう」
その言葉と同時に護衛が撤収準備を始めた、領主二人はキリト、リーファの方を向いた。
「何から何まで世話になった。君の要望には極力添えるよう努力しよう、キリト君」
「役に立てたなら嬉しいよ」
「サクヤ、連絡まってるわ」
その後握手を交わし飛び立って行った。
「行ったか…」
「ああ、終わったな…」
さて、夜になる前に出来るだけ進もう、そう言おうとした俺の声を鈴の鳴るような可憐な声が遮った。
「全くもう、浮気は駄目って言ったです、パパ!」
「わ!?」
「むっ!?」
俺はいきなり聞こえた声に戦闘態勢を取った。
「な、何をいきなり…」
「領主さん達にくっつかれた時ドキドキしてました!」
現れたのは手のひらサイズの妖精だった。
恐らくは先程サラマンダーの来襲を教えてくれた声。
妖精と言い合っているキリト、リーファをよそに考える。
プライベートピクシー…βテスターに抽選で配布された専属ナビ…だがアレはあそこまで自然な言動はしない筈だ。
いや、それ以前にプライベートピクシーを持っているのはALOのβテスターのみ…ならばキリトもそうだと考える他はない。
しかしキリトの戦闘スキルは以上だ。
常軌を逸して居ると言ってもいい。
それほどの才があれば必ず噂になっている筈だ。
例え過疎エリアでのみ活動していてもALOで完全に隠れることは不可能だ。
ただ、最古参プレイヤーならば黎明期の時代を知っている筈だ。
いや、アレが演技って線も有るが………うん、無いな。
ますます解らない。キリト…アイツはちぐはぐだ…
「おーい!トード!早く行こうぜー!」
「置いてくわよ!妖獣使い!」
「はいはい!今いくよ!」
まぁ、奴が何者でもかまわない。
SAOサバイバーでも最古参プレイヤーでも、世界樹攻略には力強い味方なのだから。
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