英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇
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第23話
~パルム間道~
巨大な門の前に仲間達と共に到着したリィンはハイアームズ侯爵から受け取った鍵を使って門の鍵を開いた。
「ふう……やっと開いた。」
「これだけの厳重さ……やはり”ハーメル村”に”百日戦役”以外の”何か”があるようだな。」
「ええ……”ハーメルの惨劇”を公表してもなお、ハーメル村に続く道をここまで厳重に閉じていますし……」
「問題はその”何か”ですが……」
「ま、少なくてもロクでもない事には間違いないだろうな。」
厳重な鍵を解いた事にフィーが一息ついている中ラウラとセレーネの呟いた言葉に続くようにステラは考え込み、フォルデは疲れた表情で溜息を吐いた。
「フン……やはりそこに繋がりやがるか。」
するとその時アガットがリィン達に近づいてきた。
「あ………」
「アガット、来たんだ?」
「トヴァルさんから連絡を?」
「ああ、それと俺の方でもタイタス門周辺を探ってな。領邦軍の監視を掠めるようにこっちの方へ大量の人形どもを移動させた跡を見つけた。侯爵やレーヴェの野郎から仕入れた情報の裏付けにはなるんじゃねえか?」
「そうでしたか……」
「……弱体化した領邦軍の目を盗んで拠点にしたんだね。」
「うふふ……結社なら領邦軍が弱体化しなくても目を盗んで拠点にする事くらいできるでしょうけど、あえて”ハーメル村”を拠点にするなんて、”盟主”や大半の”蛇の使徒”が死んでも悪知恵は未だ顕在のようね、”身喰らう蛇”は。」
アガットの話にリィンが頷いている中エリオットは複雑そうな表情で呟き、小悪魔な笑みを浮かべて呟いたレンの言葉を聞いたその場にいる全員は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「結社も、内戦で様々な策略で散々貴族連合軍どころか自分達まで陥れた”殲滅天使”に”悪知恵”って言われる筋合いはないと思うだろうね。」
「ああ、まったく同感だ。………しかし結社の連中もこの先の場所をぬけぬけと利用するとはな。」
ジト目のフィーの言葉に頷いたアガットは真剣な表情で考え込んだ。
「そう言えば侯爵閣下は高位遊撃士の方ならば、”ハーメルの惨劇”を公表した後でもなお、未だ”ハーメル村”に正規軍や領邦軍がおいそれと手を出せない場所である事を知っているような事を仰っていたが……」
「もしかしてアガットも知っているの?」
「ああ、大凡の事情はな。」
「えっと……リベールの方、なんですよね?」
ラウラとフィーの質問に頷いたアガットの答えを聞いたエリオットはアガットに確認した。
「ああ―――――行くんだったら俺も付き合わせてもらうぜ。”後輩ども”への義理と、………俺自身を見つめ直す機会をくれたあの銀髪野郎への義理を果たす為にもな。」
「あ………」
「……サラから、ちょっとだけ聞いた事があるけど……」
「ヨシュアさんとレーヴェさんの事ですか………」
「―――わかりました。ありがたく力をお借りします。」
アガットの答えを聞いたエリオットは呆け、フィーとセレーネは複雑そうな表情で呟き、リィンはアガットの申し出を受け入れる事に頷いた。
「”重剣”の名、聞き及んでいる。A級遊撃士としての実力、是非とも学ばせていただこう。」
「ハッ……サラと同じく殆ど我流だがな。”光の剣匠”の娘に見せられるモンがあるといいが。―――”連中”が何のためにこの先に入り込んでるかは不明だ。だが、ここまで仕込んでる以上、相当ヤバイ状況が待ってるだろう。覚悟はいいな――――トールズ士官学院”旧Ⅶ組”とメンフィル帝国軍”特務部隊”?」
「ええ……!」
「とっくに完了。」
「いつでも”彼女達”と戦う覚悟―――いえ、彼女達を討つ覚悟もできていますわ。」
「ま、サクッと終わらせようぜ。」
「エレボニアの地に漂い始めたモヤを晴らす為にも……!」
「そしてこれ以上”結社”による暗躍を防ぐ為にも……!」
「この先に待ち受ける闇。我等の手で払ってみせよう!」
「うふふ、それじゃあ”要請”開始、ね♪」
アガットの問いかけにそれぞれ決意の表情で答えたリィン達は先へと進み始めた。
「へっ……ドンピシャだったな。」
一方その頃リィン達がハーメル村へと続く山道を進み始めている様子をユウナ達―――”特務科”の面々と共に遠くから見守っていたアッシュは不敵な笑みを浮かべ
「ふう……あの子の情報通りだったわね。でも、ここまで離れてなくてもさすがに大丈夫だったんじゃない?」
「……リィン教官とセレーネ教官の気配察知や聴力を考えたらこのくらいの距離は必要かと。同行者達も侮れませんし。」
「ああ……何とか気づかれずに後を追いかけるしかなさそうだ。場合によっては獣道を使う必要があるかもしれない。」
溜息を吐いた後呟いたユウナの疑問にアルティナは静かな表情で答え、アルティナの推測にクルトは頷いた。
「はあ、ここまでするのはちょっと気が咎めるけど……―――でも、ここまで来て蚊帳の外は納得できないよね!……Ⅷ組のアンタがどうして付いてきたのかは知らないけど。あたしたちのこと、気に喰わないんじゃなかったの?」
「ハッ、俺の勝手だろうが。ランドロスとランドルフの野郎共を撒いてコイツを持ってきたのを忘れんなよ?」
ユウナの疑問に対して鼻を鳴らして答えたアッシュは機甲兵―――ドラッケンに視線を向けた。
「はあ……いいのかなぁ。」
「戦力としては妥当かと。」
「どうせ通せない道理……多少の無理は押し通すまでだ。」
その後ユウナ達はリィン達の後を追い始めた。
~同時刻・演習地~
「あれっ……?」
「どうしたんだ?もう訓練が終わったのか?」
一方その頃、サンディとサンディと話していた男子生徒―――スタークは演習地に慌てた様子で戻って来たⅧ組の生徒達を不思議そうな表情で見つめて問いかけた。
「いや、それがねぇ……」
「……少々不味い状況だな。」
「ええっ!?」
レオノーラが答えを濁している中大柄な男子生徒―――グスタフが重々しい様子を纏って答え、グスタフの答えを聞いたカイリは驚きの声を上げた。
「クソッ、やりやがった……!」
「だぁっはっはっはっ!むしろお前どころか、俺まで出し抜いた事は評価すべきじゃねぇか?」
「感心している場合じゃないだろうが!?」
厳しい表情で声を上げたランディだったが、呑気な様子で豪快に笑っているランドロスの言葉に疲れた表情で指摘した。
「ど、どうしたんですか?」
「まさか……また襲撃があったのか?」
するとその時騒ぎを聞きつけてランディとランドロスに駆け寄ったトワとミハイル少佐が二人に事情を求めた。
「……訓練中にアッシュの野郎がドラッケンごと消えちまった。ユウ坊、クルト、アルきち――――Ⅶ組の連中も付いていったらしい。」
「へ………」
「な、なんだと!?」
「………ふふっ。お役に立てて何よりです。」
ランディの説明にトワとミハイル少佐が驚いている中、その様子を見守っていたミュゼは口元に笑みを浮かべた。
~ハーメル廃道~
分校がユウナ達の失踪に気づいたその頃、リィン達は時折襲い掛かってくる魔獣達や結社が放った人形兵器を撃破しながら先を進んでいた。
「ふう……」
「厄介だけど何とかなりそうだね。」
「ええ、内戦時に戦った人形兵器と比べれば大した事はありませんね。」
「ですが油断はできませんわ。アルトリザスやパルムのそれぞれの場所に内戦時で戦った人形兵器や見た事のない特殊な人形兵器もいたのですから。」
「ま、少なくても連中と直にやりあう羽目になったら、嫌でも戦う事になるだろうな。」
「うふふ、今までの事を考えたらもはや”お約束”の展開だものね♪」
人形兵器を撃破し終えて一息ついたラウラとフィーの言葉にステラは頷き、セレーネの忠告に続くようにフォルデは苦笑しながら答え、からかいの表情で答えたレンの答えにその場にいる全員は冷や汗をかいた。
「しかしトールズの”Ⅶ組”にメンフィルの”特務部隊”か……フィーも驚いたが、アルゼイド流のお嬢さんやあのヴァンダールの少佐―――いや中佐の親戚といい、灰色の騎士やツーヤの妹といい、リベールのお姫さんに似た雰囲気を纏っている銃使いのお嬢さんといい、やるじゃねえか。さすがは、あのお調子者や”英雄王”達が設立に関わっただけはあるぜ。」
「お調子者……?」
「”Ⅶ組”の設立に関わったって事はもしかして……」
「オリヴァルト殿下の事ですか?」
アガットの評価を聞いたリィンが不思議そうな表情をしている中、ある事を察したエリオットは目を丸くし、ラウラはアガットに確認した。
「ああ、4年前のリベールの異変で知り合ってな。当時あいつは、身分を隠してリベールでスチャラカ演奏旅行をしてやがったんだが……俺の後輩を中心に、一緒につるんで最後には”結社”の陰謀をぶっ潰した。まあ、エレボニアの機甲師団を率いて小芝居を打ったりもしやがったが。」
「うふふ、まさに”茶番”のようなお芝居だったわね♪」
「おいコラ……”お茶会”で散々俺達を振り回した挙句、あのスチャラカ皇子と一緒に小芝居を打った”英雄王”達の関係者のお前だけはあのスチャラカ皇子の事は言えねぇぞ。」
アガットとレンの話にリィン達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中アガットは顔に青筋を立ててレンを睨んで指摘した。
「アハハ……そう言えば、ツーヤお姉様からそのあたりは少しだけ伺った事がありますわ。」
「リベールの智将と英雄王と協力してエレボニア軍の強引な介入を口先三寸で阻止したんだっけ。」
「あはは……つくづく規格外っていうか。」
「フフ、”紅き翼”や我等Ⅶ組の産みの親の一人でいらっしゃるだけはあるな。」
アガットのレンへの指摘にセレーネは苦笑し、フィーの説明を聞いたエリオットとラウラはそれぞれ苦笑していた。
「ああ、だが知っての通りヴァンダール家の守護職は解かれ、今のあいつの翼はもがれちまった。帝国政府―――いや”鉄血宰相”、ギリアス・オズボーンの意向によって。」
「あ………」
「……エレボニアの状況について一通りご存知みたいですね?」
「ああ、別にアイツを助けようってわけじゃないが……内戦やメンフィルとの戦争が収まったにも関わらず異常なまでの軍拡を続ける一方怪しげな連中が動き始めている。そんな状況でも、帝国政府のギルドへの規制は続いたままだ。」
「大陸中部にある、ギルド総本部も流石に見過ごせないって判断した。それで、アガットやシェラザードなんかがリベールから派遣されたみたい。」
「”シェラザード”というと……1年半前の内戦でアルフィン皇女殿下の護衛を担当した女性のA級遊撃士の方ですね。」
「規制されている状況で大陸で20数名しかいないA級遊撃士を二人も送り込むなんて、エレボニアはよっぽどヤバイ状況である証拠だな。」
アガットとフィーの説明を聞いたステラはある人物の顔を思い浮かべ、フォルデは疲れた表情で溜息を吐いた。
「うふふ、そこに補足する形になるけど……ギルド総本部は”エレボニア帝国に接している外国の領土”―――つまり、メンフィルやクロスベルの領土にあるギルドの各支部にもA級遊撃士に加えてエステル達を含めたS級遊撃士も派遣しているのよ♪」
「ええっ!?え、A級遊撃士やS級遊撃士どころか、最近生まれたばかりの大陸で一人しかいないSS級遊撃士まで……!」
「まあ………という事はエレボニアに接しているメンフィルからクロスベルの領土のギルドにエステルさん達も派遣されているのですか。」
「エレボニアの領土に接しているメンフィルやクロスベルの領土に彼女達が派遣されたのは、エレボニアに”何らかの緊急事態”が起こった場合、いつでも応援に向かわせる為ですか?」
「ああ。幸いな事にメンフィル・クロスベルの両帝国政府はエレボニアと違って、ギルドへの規制は特にしていない―――いや、むしろ一人でも多くの高ランク遊撃士を自国の領土に派遣して治安維持に手を貸して欲しい申し出をギルド総本部にしたそうだからな。で、両帝国政府の申し出はいざとなったら、いつでもエレボニアに応援を送れる状況にしたいギルド総本部にとっては渡りに船だったから、エステル達を含めた多くの高ランク遊撃士をエレボニアの領土に接しているメンフィルやクロスベルの領土に派遣したそうだ。特に元エレボニアの領土で、”五大都市”だったオルディス、ルーレ、そしてバリアハートのそれぞれの支部に最低でもA級遊撃士2名を派遣していると聞いている。」
小悪魔な笑みを浮かべて答えたレンの説明を聞いたエリオットが驚き、セレーネが目を丸くしている中ある事に気づいたステラの問いかけにアガットは頷いて答えた。
「そうだったのですか……」
「……つくづくギルドには世話になってしまっているな。」
事情を聞き終えたリィンとラウラはそれぞれ静かな表情で呟き
「ま、エレボニアに何かあったら周辺諸国も他人事じゃねえからな。……本当なら、俺の後輩共―――エステル達がエレボニア入りするはずだったんだが……帝国政府の許可が下りなくて代わりに来たっていうのもある。」
「政府の許可が下りない………どうして政府は”ブレイサーロード”達をエレボニアに入れたくないんだろう……?」
「エステルとミントの場合、1年半前の戦争相手だったメンフィルから爵位を貰っている事もそうだけどエステルとヨシュアの親――――”剣聖”カシウス・ブライトが王国軍の重鎮だから許可が出なかったと聞いている。」
「……ま、もう一人―――ヨシュアの出身も含めて目をつけられてるみたいでな。それはともかく……村跡までは結構歩くはずだ。気を抜かずに行くとしようぜ。」
「……了解です。」
「そんじゃま、探索を再開するとしますか。」
その後リィン達は再び先へと進み、時折襲い掛かってくる魔獣達や人形兵器達を撃破しながら先を進んでいた。
「ふう……それにしても、どうしてエレボニアは”ハーメルの惨劇”を世界中に公表したのに、未だに”ハーメル村”への立ち入りに厳重な規制を続けているんだろう……?」
「ハイアームズ侯はエレボニアがアルフィン皇女殿下の”想い”をも無下にしようとしていると仰っていたが………」
「………………」
ハーメル村跡までの道のりでの中間地点に到着して溜息を吐いて呟いたエリオットと考え込みながら呟いたラウラの言葉を聞いたアガットは目を伏せて黙り込み
「……アガットさん。ハイアームズ侯が言っていました。ギルドの高位遊撃士であればエレボニアが未だにハーメル村跡への立ち入りに厳重な規制を敷いている事を知っているかもしれないと。」
「それにレン教官も後でわたくし達にも説明すると仰っていましたが……」
「……うふふ、そうね。それじゃあ、そろそろ教えてあげるわね。――――アガットも勿論”ハーメルの惨劇”公表後の”エレボニアのハーメルに対する対応に秘められた真意”に関して知っているのでしょう?」
「ああ……俺はレンと違って、完全に又聞きになるが、それでもいいか?エレボニア人であるお前らやあのスチャラカ皇子の妹を妻にしているシュバルツァーにはちょっとキツい話でもあるだろう。」
「……是非とも。」
「お、お願いします。」
アガットの問いかけにリィン達の代わりにラウラとエリオットはそれぞれ答えてリィン達と共に決意の表情でアガットを見つめた。
「そうだな……―――言うまでもねぇだろうが、”ハーメルの惨劇”はエレボニアが絶対に世間に隠し通し続けるつもりだった”真実”だ。もし、世間に知られてしまえば、エレボニアの国際的な立場は地の底に堕ちるだろうからな。」
「だけど、”ハーメルの惨劇”は”七日戦役”の和解条約によって、”メンフィルとの和解の為にエレボニアは渋々”公表し、その結果アガットの言う通り、エレボニアの国際的な立場はどん底に落ちて周辺諸国のエレボニアに向ける目は厳しくなったわ。――――”ハーメルの惨劇”の公表を和解条約に入れるようにパパに要請した”空の女神”のせいでね。」
「そして、エレボニアは”ハーメルの惨劇”を隠ぺいする為にこの先にあったハーメルという村は今も存在しないという事にしている。エレボニアの地図からも消えてるだろ?まったく、大した情報規制ぶりだぜ。……村人全員が皆殺しにあった真実を知り、その真実を知った”空の女神”の怒りを収める為にその場で謝罪し、更には”贖罪”を誓った自国の皇女の意志を完全に無かった事にしようとしているのだからな。」
「ええ……っ!?」
「……どうするんだ、リィン?話の初めの内容からして、あの皇女さんにとってショックを受けるような内容っぽいぜ?」
「……………勿論、リーヴスに戻った後にアルフィンにも教えます。”贖罪”の件はアルフィンが当事者なのですから、当事者である彼女に教えないのは”筋が通らない”ですし、何よりアルフィン自身が知る事を心から望んでいます。」
「お兄様……」
「アガット殿、それは――――」
レンの後に答えたアガットの答えにエリオットが驚いている中疲れた表情をしたフォルデの問いかけに少しの間黙り込んだ跡静かな表情で答えたリィンの様子をセレーネは辛そうな表情で見つめ、ラウラは真剣な表情でアガットを見つめた。
「ま、とにかく先に進むぞ。”結社”の連中しだいだが……続きはハーメルに到着してからだ。」
「……わかりました。」
「よろしくお願いする。」
その後リィン達は先へと進み、ついにハーメル村に到着した――――
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