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獣篇Ⅰ

作者:Gabriella
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25 壁に耳あり、障子に目有り。

聞いていると、こんな会話が聞こえてきた。

_「意外だったよ、沖田くん。
  君が僕の側についてくれるとは。
  君らは真選組結成前からの付き合いだ、と聞いていた。きみは完全に「土方派」だと思っていたが。」

これは、伊東の声だ。

_「「土方派」?
  そんな派閥があったのは、今の今まで知りやせんでしたよ。」

_「 フフン)
賢い男だ。望みはなにかね?」

_「望みはもちろん、副長の座でさァ。」

_「 フン)
僕につく限りその望み、果たすことを約束するよ。」

襖が閉まる音がする。
話は続いているようだ。


_「よろしいので?」

_「構わんよ。副長の座くらい、くれてやる。」

_「しかし、それでは土方を廃した意味が…」

_「篠原…君は副長などという役職を得たいが為だけに、あの男とくだらん権力争いを繰り広げていた、とでも思っているのか?」


とうとう出したな、本性を。


_「君も僕を理解し得ないか、篠原くん。
  武士にとって最大の不幸は何だと思う?
  それは、理解されないこと、さ。
  いくら才能を持ちあわせていようと、
  いくら努力していようと、それに見合うだけの評価をされない。
  器に見合うだけの餌がもらえない。
  これほどの不幸はない。

  (ちょう)の李牧しかり、南宋の岳飛しかり。
  愚鈍な君主に仕え、その才と共に消えていった名将の、なんと多いことか。
  僕もまた、真の理解者を得なかった。
  学問所で神童と謳われていた時も、名門北斗流で皆伝を得、塾頭に任じられたときも。ついには時流に乗り攘夷の徒、とさえ交じりあった。
  だがどこへ行こうとも、僕の器が満たされることはなかった。それが、まさかこんなところで出会えるとはな。土方(あのおとこ)こそ、僕の最大の理解者だ。あの男は知っている。僕が真選組に収まる器じゃないことを。
  僕が近藤ごときの下で終わる男じゃないことを。僕の渇きを!

  僕にとって最大の不幸は、最大の理解者が敵だった、ということさ。
  まぁ、いい。理解できる者がいないなら、自ら認めさせるまで。最も危険な男は消えた。あとは…近藤勲を暗殺し、真選組を我が物にする。」


前方で山崎が動いた。
だが、山崎が逃げた方向に向かって、何かに話しかけている姿を確認した。

味方への連絡か?


胡散臭い男だとは前々から思っていたが、
彼が”彼”ならば、我々の前に立ち塞がるのは、
万斉だろうか?


走って、そちらに向かう。
そして、万斉と山崎の姿を確認した。


_「山崎先輩ッ!!」


万斉は、私の登場に驚いているようだ。
無理もない、私は逃げたことになっているはずだからだ。


_「お、お前は…鬼兵隊…人斬り…河上万斉…ック…
  伊東…き、貴様…敵と内通していたか!…」
 
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