非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜
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第68話『初陣』
「う、ん……」
目が覚めると、そこは知らない場所だった。目に入るのは鬱蒼と茂る木々。どうやら森かどこかに連れてこられたらしい。
身体を包むのはヒンヤリとした空気。外で寝ていればそうなるのは当然だが、石の上に寝かされているのも要因だろう。
結月はゆっくりと身体を起こして、自分の状態を確かめた。
「手足が…縛られてる」
縄でもなければ鎖でもない、黒い禍々しい何かに手足がそれぞれ縛られていた。力が上手く入らず、これでは起き上がれても立つことはできないだろう。魔術を使おうとするも、この物質のせいか使うことができない。
その時、結月は近くで草を踏む足音に気づいた。拘束された体勢のまま、すぐに身構える。
「…あっれ、もう起きてるじゃーん。お、いいねぇその目つき、堪んねぇわ」
「ふざけてる暇はありません。抵抗される前にもう一度寝かせましょう」
結月の視界に映ったのは男女の二人組だ。男はボサボサの金髪をしていて、鋭い目と口が特徴的である。女は黒髪ロングで、前髪によって目が隠れていた。率直な感想としては、この二人が横に並ぶのは違和感でしかない。
「えぇーせっかく起きてんだから、少しくらい話させても貰っても良くね? てか良いよな?」
「ダメです。そうやって逃がしてしまっては元も子もありません。この娘はイグニスの"生贄"となるのですから」
「…っ!?」
女が淡々と述べた言葉に結月は絶句する。明らかにされた拉致理由は、結月の予想の範疇を超えていた。
「ボクが…生贄…?」
「あーあ、目的がバレちまったじゃん。ま、いずれわかっちまうことだし問題ねっか。自明ってやつ?」
「口を滑らせてしまいましたが、そうですね。自明の理です」
二人は発言を否定しなかった。となると、この二人は魔王軍の一味である。イグニス復活を目論んでることから、それがわかった。
つまり、結月はよりにもよって魔王軍に攫われてしまったのだ。実に不覚である。
「あれ、あの仮面は…?」
その時、結月はあることに気づいた。自分を攫った張本人は仮面の奴である。この二人のどちらかという可能性もあるが、奴の雰囲気とはどこか異なっているため、その可能性は低いと見た。
「仮面? あぁ、ミストの奴か。アイツならここにはいねぇよ。なに、仮面の下が気になっちゃう的な? 俺も俺も~! でもアイツ見せてくんねぇんだよなぁ」
「うるさいですよブラッド。無駄話は止しなさい」
「へいへい、相変わらず真面目だなぁウィズは」
結月抜きで話を進める二人だが、何人かの名前が判明させたことに気づく様子はない。
とりあえず目の前の二人の内、金髪の方がブラッド、黒髪の方がウィズ、そして結月を攫った仮面がミストと云うらしい。
・・・いや、そんな情報は今は必要ない。第一に、ここから逃げる方法を模索せねばならないのだ。ただ、手足が封じられている以上、他力本願ではあるのだが・・・
「ハルト…」
想い人の名を呟き、結月は助けを待ち望んだ。
*
一騎当千とはよく言ったものだが、ここではそれに近い戦闘が行われようとしていた。数百の軍勢に対して、迎え撃つのはたったの四人。普通に考えて、まず四人に勝ち目は無い。しかし、その四人は少しばかり特別で──
「部長、ありがたく使わせて貰います!」ジャキン
四人はそれぞれ武器を取り出した。刀、槍、弓、銃と、種類は様々である。もちろんこれだけで戦うとしたら、せいぜい数体が限度だ。しかし、これらがただの武器と思ったら大間違いである。
「「魔術、起動!」」ヴン
その時、四人の足元に魔法陣が浮かび、武器は光を発した。これこそ彼らの秘密兵器、『魔道具』である。簡潔に説明すると、魔術が使えない者が魔術を使えるようにするためのものだ。
「こんな時の為に、部長に作って貰っといたんだよ!」
「こんな時が来るとは思わなかったけどな」
「おかげで使用するのも初だし」
「待って、それってヤバくない?」
自信がドンドンと下がっていく。
確かに彼らは魔道具を使うのは初めてである。何せ、魔力を埋め込むという設計だから、魔道具は有限なのだ。練習は比較的するものではない。だからしなかった。
「いやいやいや! そんな付け焼き刃でどうにかなるのかこの状況!?」
「イメトレだけはしっかりしてたからな。何とかなる」
「そういう問題!? 俺もしてたけど!」
「という訳で、自己紹介でもしてやろうぜ」
戦闘の前には自己紹介するのがルールというものだ、たぶん。そして実はこんな展開の為に、かっこいい自己紹介を各々考えていた。四人は武器を構え直し、大きく息を吸い込む。
「俺の槍はあらゆる盾を貫く! 北上、参上!」
「俺の銃は百発百中! 南雲、見参!」
「俺の刀は全てを断ち切る! 東、出陣!」
「俺の弓は狙った獲物は逃がさない! 西片、抜錨!」
その自己紹介が終わるやいなや、彼らの武器が光り始めた。実はこれは魔道具発動の合図である。
「っしゃあ、行くぞ!」ビュン
「速っ!?」
ストックされた魔力によって武器自体を強化するだけでなく、使用者の身体能力まで強化してしまうのがこの魔道具。即ち、筋力が上がったり、足が速くなったりもする。
「おらぁぁぁ!!」ジャキン
「せいっ!!」ドスッ
東と北上の二人が疾風の如く戦線へ飛び出し、早速獲物を駆逐していく。慣れてないとは口にしたが、いざ使ってみれば身体が勝手に動いてくれた。
戦わなきゃ死ぬ。その想いが、彼らを突き動かしているのだろう。
「俺らは援護射撃だ!」パァン
「よっしゃ!」ヒュッ
南雲と西片も初めての武器のはずなのに、一撃一撃が確実に敵を射抜いていた。センスなのか、はたまた武器の恩恵なのか・・・
「にしても、やっぱり数が多いな! 全然減らねぇ!」
「絶えず矢が飛んでくるのも心臓に悪い。とりあえずこの辺の奴を盾にしとくか」
「うわぉ、若干サイコパス!?」
どうしてか、戦場においても減らず口を叩いてしまう。楽しいから・・・だろうか。戦うのが楽しいなんて、そんなの嘘だと思っていたけれど。
斬って、撃って、貫いて、穿って・・・全ての感覚が新鮮で、そして心地よかった。
時々矢が皮膚を掠める。でも魔道具のお陰でダメージは少ないし、むしろ戦闘に身を投じている自分に興奮してきた。
「こうして思うと、中々の変態じゃねぇか俺ら」
「あんな部長の元に付いてたら、そりゃそうなるだろ」
「さらっとディスってくね…」
いつもの様に駄弁りながら、四人は戦場を駆ける。初陣とは思えないほどその身のこなしは軽く、そして鮮やかである。
なんと数十分が過ぎた頃にはもう軍団は壊滅的で、立っている無魂兵はいなかった。ただ一体、例外を除いて。
「さてさて、あのデカいのがボスってことか?」
「骸骨将軍ってか。何かかっこいいな」
「楽観してる暇はねぇぞ。あの鎧は強敵だ」
「遠距離攻撃は役に立たなそうだな…」
四人の目の前に立ちはだかったのは、軍団の長と思われる、身長が2mもある無魂兵だ。その鎧は今までの奴らとは格が違うようで、易々と攻撃が通るようには見えない。
加えて、人型の骸骨の癖に腕が四本ある。それぞれが太刀を握っており、刀身が1mはあった。
「ボスだからって詰め込みすぎだろ!?」
「全員で掛からないと倒せないな…」
「けど、今の俺らになら魔術は使えるんだ!」
「見せてやろうぜ! 魔道具、解放!」パァァ
四人の武器が新たに光を放ち始める。魔道具の真骨頂、"固有魔術"の発動の証だ。固有魔術とは、魔道具が本来持っている魔術のことであり、それはストックされている魔力に由来する。ちなみに、その魔力とは・・・
「「部長の・・・"夜雷"!」」バリバリ
黒雷が荒れ狂い、森が騒がしくなる。もはや二年生自身にも制御できないほどに。
しかしそれでも、彼らは不敵な笑みを浮かべた。
「「これで終わりだぁ!!!」」バリィ
雷の刀が、雷の弾が、雷の槍が、雷の矢が・・・巨大な骸骨の鎧を跡形もなく破壊する。そして、四つの黒雷によって骸骨は焼かれ、みるみる内に灰燼と化した。
こうして、二年生の初陣は幕を閉じた。
*
「魔道具・・・そんな物を作ってたんですか…」
「驚いたか? 俺がいっつも変な物ばっか作ってると思ったら大間違いだぜ」
「変な物って自覚あるのね…」
結月及び竜の祭壇に向かう道中、一行はそんな会話をしていた。終夜は二年生の秘策を既に把握していたため、あの場面を任せたのだとか。
「それでもアイツらにとっちゃ初陣だったし、正直心配だな。つか、『守ってやる』って言ったのに置いてきちゃったよ」
「そういえばそうですね」
「まぁそんな過保護じゃアイツらは成長しねぇよ。これで良かったんだ」
「…そうですかね」
後悔の色を見せる終夜にカズマが一言。力がある者が力のない者を守るのは妥当だが、それでは力のない者は力のある者にあやかるだけである。その言葉に納得したのか、終夜は安堵の表情を見せた。
「あそこは彼らに任せて、儂らは先に急ぐんじゃ。もうじき幹部も動くじゃろう」
「ミスト…でしたっけ。あの霧は厄介ですね…」
「でも逆に言えば、怖いのはそれだけだ。アレさえ無効化できれば、勝てない相手じゃねぇさ」
幹部を迎え撃つにあたって、走りながら作戦を練る。
"霧使いのミスト"。それがこの先に居るであろう魔王軍幹部が一人の異名である。彼が使う霧は世界すらも隠す恐ろしいものだ。他にもどんな手が有るかわかったものではない。
「それに、他にも幹部が居る可能性も有るんすよね?」
「もちろんじゃ。儂の見立てじゃと、"吸血鬼のブラッド"と"魔女のウィズ"も居るじゃろう」
「聞くだに面倒そうな相手っすね…」
晴登としては、吸血鬼や魔女と聞くと少し高揚するのが本音だが、さすがに楽観ばかりはしていられない。本物ならば、生身の人間で立ち向かうのは非常に危険である。
「でも、世界を救うためにはやるしかないですよね」
「あぁ。俺だって一度決めたことはねじ曲げたくはねぇ。最後までやり切ってやるよ」
その言葉に申し訳なさそうにしている婆やを横目に、晴登はある人物を脳裏に思い浮かべた。
「結月…絶対に助けてやる」
静かにそう口にして、覚悟を決める。
──その直後だった。
「霧…!!」
突然辺りを覆う白いモヤ。一寸先は霧と言うべきか、もはや自分たちと足元以外は真っ白で、何も視認できない。
言わずもがな、この霧の正体は・・・
「──後ろだっ!」ブン
気配をいち早く察知し、カズマが背後を刀で切り裂く。しかし手応えは無く、空を斬っただけであった。霧と共に。
「何て荒技…!?」
「俺にゃ力で振るしかねぇからな」
カズマの霧払いにより、視界が明瞭になっていく。
先ほどまで居た森の中。その片隅の岩に、一人の人物が立っていた。
「"霧使いのミスト"だな…?」
この前はよく見えなかったが、今はハッキリと見える。漆黒のマントに不気味な仮面。それが彼の特徴であった。
「結月をどこに攫った?」
「……」
「答えろ!!」
「……」
晴登は怒気を露わにするが、ミストの応答は無い。焦れた晴登は右手に風を纏い始めたが、そこである者が制止した。
「…暁君?」
「訊いたところで、この先に居ることに…変わりはないだろ。安否なんて気にしてる暇があったら、先に進む方が良い。ここは・・・俺が引き受ける」
登山によって息を切らしながら、彼は力強く言った。
この先に幹部が何人居るかはわからない。それに魔王もこの先に居るはずだ。だから、なるべく強者を温存する。それが彼の作戦だと、すぐにわかった。
「暁君……お願い」
「任せろ」
伸太郎にミストを託し、残りの一行は先に進んだ。
ミストが後を追おうとするが、それよりも早く伸太郎の炎が放たれる。ミストは軽やかにそれを躱した。
「行かせねぇよ。お前の相手は俺だ」
「……」
ミストは伸太郎に向き直り、仮面の奥から赤い双眸を覗かせる。すると突如、ミストの足元から霧が徐々に発生した。
「三浦……上手くやれよ」ダッ
両手に炎を灯し、伸太郎は力強く駆け出した。
後書き
二年生の名前が解禁! 一つの拘りを除いて適当です!
もし良ければ、俺の代わりに名前付けても良いんですよ?(←さらに溢れ出る適当感)
そして、更新が遅れたことは申し訳ありません。ほら、この時期って色々あって色々忙しかったから…ね?(上目遣い)
・・・よし、皆さんの気分を害したところで、おさらばしたいと思います。次回もよろしくお願いします。では!
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