英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇
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第21話
リグバルド要塞に向かいながらリィン達は時折襲い掛かってくる魔獣達を撃破し続けた。
~北アルトリザス街道~
「よし……!」
「ふむ、この先は魔獣が手強くなっているようだな。」
「ん、慎重に、でも迅速に先を急ごう。」
「………ははっ。」
魔獣の撃破を確認した後のエリオットやラウラ、フィーの反応を聞いていたリィンは懐かしそうな様子で微笑み
「?どうかされたのですか、お兄様。」
「いや……こうしてみんなと街道を往くのも懐かしいなって。内戦の頃や特務支援課に派遣されていた頃を思い出すというかさ。」
「………ふふ、そうだね。」
「そう言えば、”特務支援課”という部署は”旧Ⅶ組”や”新Ⅶ組”と非常に似た存在だったそうですね?」
「そうね。ま、要するにどれも遊撃士の”パクリ”よ♪」
リィンの言葉にフィーが静かな笑みを浮かべている中ステラの疑問にレンがからかいの表情で答え、レンの答えにリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「アハハ……僕達も自覚はしていたけど……」
「そっちももうちょっと遠回しな言い方をしたらどう?」
「フフ、しかし”特務支援課”か。話には聞いてはいたが、クロスベルの警察の部署でありながら活動はレン皇女殿下の話通り我等と共通している所はいくつかあったと聞く。そんな部署に派遣されていたリィンが我等Ⅶ組と関わる事になるとは、これも女神のお導きかもしれないな。」
「ま、それはあるだろうな。何せ俺やリィン達はクロスベルでその”女神”――――”空の女神”とも実際に会った事があるしな♪」
「ア、アハハ……ですがエイドス様がラウラさんの今の話を知れば、『何でもかんでも私のせいにしないでください!』って言いそうですわね……」
我に返ったエリオットは困った表情で呟き、フィーはジト目でレンに指摘し、苦笑しているラウラの言葉に頷いたフォルデはからかいの表情で答え、フォルデの話を聞いて苦笑しながら口にしたセレーネの推測を聞いたエリオット達は再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「そ、そう言えばリィン達はクロスベル動乱を鎮める為に突如現代のゼムリア大陸に降臨した”空の女神”やその両親に先祖とも会って、”空の女神”達とも一緒に戦ってクロスベル動乱を解決したんだったね……」
「フム……クロスベル動乱を解決し、天界へと戻られるまでの”空の女神”のゼムリア大陸での精力的な活動を考えるとセレーネの推測も強ち間違っていないかもしれないな。」
「というか精力的な活動って言っているけど、ぶっちゃっけ”空の女神”は自分のやりたい放題にゼムリア大陸を引っ掻き回しただけじゃん。各国の観光旅行に各国の音楽家達を集めて、更に自分達も参加したコンサートをするとか、どう考えてもハチャメチャ女神じゃん。……まあ、わたしからすればあんなハチャメチャ女神が先祖だからエステルみたいな”子孫”もできるんだと思ったね。」
「ハ、ハハ………」
(これでエイドス様は天界に戻ったのではなく、”自分の時代に戻った事”を知ればエリオットさん達は再び驚くでしょうね……)
エリオットの言葉に続くように呟いたラウラの推測をジト目で指摘したフィーの言葉を聞いたリィンが冷や汗をかいて乾いた声で笑っている中、セレーネは苦笑していた。
「”エステル”………カシウス卿のご息女にして、かの”ブレイサーロード”か……」
「もしかして仕事の関係で、フィーは”ブレイサーロード”と会った事があるの?」
フィーの話を聞いたラウラは考え込み、エリオットはフィーに訊ねた。
「ん。ちなみにエステルはクロスベル動乱を解決した件で史上初の”SSランク”に昇格している。」
「え、”SSランク”……!?」
「確か遊撃士の最高ランクは非公式である”Sランク”であると聞いた事があるが……」
フィーの話を聞いたエリオットが驚いている中ラウラは困惑の表情をした。
「詳しい話はわたしも知らないけど、エステルは今までの遊撃士の中で”規格外な存在”かつリベールのクーデター、異変、そしてクロスベル動乱を解決した事から”Sランク”の上の史上初の”SSランク”に認定されて、その事からエステルは”ブレイサーロード”の異名の他にも”ブレイサーオブブレイサー”の二つ名が遊撃士協会本部から贈られたって聞いている。」
「”ブレイサーオブブレイサー”………”遊撃士の中の遊撃士”を意味する二つ名か……史上初という事はゼムリア大陸で唯一の”SSランク遊撃士”という事になるから、まさにSSランクに相応しい二つ名だな……」
「サラ教官よりも二つも上のランクの遊撃士って、どんな人なんだろう……?」
「ふふっ、クロスベル動乱の時に私達もエステルさん達と会って共に”碧の大樹”を攻略しましたけど、存在するだけでその場を明るくしましたからまるで太陽のようなとても明るい方でしたよ、エステルさんは。」
「しかも仲間や恋人であるエステルの周りの連中もリィンのハーレムメンバーとも並ぶくらい色々な意味でとんでもないメンツだったしな♪」
「うふふ、言われてみればそうね♪」
「何でそこで俺が出てくるんですか……」
フィーの説明を聞いたラウラは静かな表情で呟き、エリオットの疑問にステラは微笑みながら、フォルデとレンはからかいの表情で答え、フォルデとレンの答えを聞いたリィンは疲れた表情で呟いた。
「リ、リィンの周りの女性―――セレーネやアリサ、それにアルフィン皇女殿下達とも並ぶくらい”色々な意味でとんでもないメンツ”って……」
「ふふ、機会があれば会ってみたいな、そのエステル殿という人物に。」
一方エリオットは冷や汗をかいてリィンに視線を向け、ラウラは苦笑していた。
「ま、エステル達もラウラ達にも興味はあるようだし、機会があればいつか会えると思うよ……それにしてもあれから1年ちょっとか。」
「うん……皆、見違えるほど逞しくなったものだ。」
「あはは、ラウラがそれを言う?」
「そうだな……アルゼイド流の”奥義”も完全に受け継いだみたいだし。」
ラウラへの指摘に対するエリオットの言葉に頷いたリィンは昨夜の結社による襲撃の際に放ったラウラの奥義を思い返した。
「フフ、まだ完全に使いこなせているわけではないが。あれを完成させるためには更なる精進が必要となろう。―――かの”鉄機隊”に後れを取らぬためにも。」
「……昨夜の”神速”が所属してる部隊でしたね。」
「250年前の獅子戦役で槍の聖女リアンヌが率いていた”鉄騎隊”と似ているんだっけ……?」
ラウラの話を聞いたステラは静かな表情で呟き、エリオットはラウラに確認した。
「うむ、父上にも出立の間際、かの隊には注意せよと言付けられた。何か他にも事情がありそうな雰囲気ではあったが……今は成すべき事を成すのみだろう。」
「ふふ、ラウラらしいね。」
「それにしても”鉄機隊”だったか?肝心の”主”はメンフィルに寝返ったって言うのに、何で未だに結社に残っているのか連中の考えが未だにわかんねぇぜ。」
「まあ、1年半前の件で”神速”の件も含めて”鉄機隊”はメンフィルに散々な目に遭わされたから、幾ら敬愛する主がメンフィルに寝返っても過去の経緯で自分達もメンフィルに寝返る気持ちが湧いてこないんじゃないかしら?」
ラウラの説明にフィーが苦笑している中疲れた表情で呟いたフォルデの疑問に答えたレンの答えにリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせ
「1年半前の内戦や”七日戦役”の件で鉄機隊の筆頭であるデュバリィさんを散々嵌めたり、弄んだ張本人であるレン教官がそれを言いますか……?」
セレーネは疲れた表情で指摘した。
「うふふ、成長していると言えば、リィンお兄さん達もそうよね♪たった1年半でみんな、領主やその補佐をする秘書として随分と力をつけてきたもの♪」
「フフ、恐縮です。これもレン皇女殿下達による教育の賜物です。」
「ま、今の内に苦労をしておけば、リィンの親父さんみたいにさっさと気楽な領主生活を送れるようになりますしね。」
「だから、何でそんな事に限って父さんを見本をするんですか……」
「ま、まあまあ……お養父様も領主としては素晴らしい方である事には間違いはないのですから……」
「ふふ、領主の娘として私もそなた達を見習わなくてはな。」
レンの指摘にステラは微笑みながら、フォルデはいつもの調子で答え、フォルデの答えに脱力して疲れた表情で指摘したリィンを宥めるかのようにセレーネはフォローの言葉を口にし、ラウラは苦笑していた。
「リィン達が成長している事で気になったけど……そういうレンは成長しているの?身体的成長とは違う意味で。ぶっちゃけ、前会った時と全然変わっていないように見えるんだけど。」
「ちょっと、フィー……幾ら何でもその言葉はレン皇女殿下に失礼だよ……」
ジト目でレンを見つめて問いかけたフィーの問いかけを聞いたエリオットは不安そうな表情で指摘し
「うふふ、むしろレンが特務部隊や旧Ⅶ組のメンバーの中で一番成長しているのよ?何せクロスベル動乱では今ではクロスベル帝国を動かす重要人物として働いている”六銃士”やヴァイスお兄さんの為にわざわざ異世界からやって来たヴァイスお兄さんの”仲間”の人達の”知識”も吸収したしね♪」
「そ、それってもしかして……」
「かの”D∴G教団”に誘拐され、投与された”グノーシス”なる薬物によって覚醒させられたレン皇女殿下の能力の一つである”相手の記憶を読み取る”事ですか……」
「というかそれってどう考えても反則技じゃん。人が時間をかけて、手に入れた知識を横からかすめ取っているようなものだし。」
レンの説明を聞いてある事を察したエリオットは表情を引き攣らせ、ラウラは困った表情で呟き、フィーはジト目で指摘した。
「うふふ………―――そう言えば、まさかかの”西風の妖精”が真逆の存在である遊撃士に就職するなんて正直ちょっと意外だったわね。」
「はは……エレボニアでは厳しい立場にあるがやっぱりサラさんの影響か?」
「ま、ね。それに、わたしの”目的”に一番近い道だと思ったから。」
「大陸最強の猟兵団の一つ、”西風の旅団”……か。」
「……あれから何か手掛かりは掴めたの?」
レンとリィンの指摘に対して答えたフィーの話を聞いてフィーの目的を察していたラウラは静かな表情で呟き、エリオットはフィーに訊ねた。
「……残念ながら。でも必ず尻尾は掴むつもり。ゼノやレオに近づくためにも。」
「………フィーならきっとできるさ。」
「前にトヴァル殿から聞いたが最年少で正遊撃士の資格を取ったとか。何でも、リベールで活躍する”ブレイサーロード”―――いや、エステル殿を含めた若手遊撃士達以来の快挙だそうだな?」
「……みたいだね。でも、頑張ったっていうならエリオットもそうだと思う。演奏だけじゃなく魔導杖のほうも腕を上げているみたいだし。」
「あはは……巡業旅行の合間に何とかそちらも鍛えてるからね。」
フィーの指摘に対してエリオットは苦笑しながら答えた。
「デビューしたばかりですのに、すでに人気が出始めてるんですよね?去年のヘイムダルのコンクリートでは音楽院の在学中に優勝してかなり話題になったと聞いていますよ。」
「ほう、そうだったのか。」
「やるね、エリオット。」
「えへへ、僕なんてまだまだ駆け出しだと思うけど。でも……この巡業中にできるだけたくさんの人達に音楽の力を見せられたらいいな。去年の”北方戦役”あたりから、エレボニア全体が変な流れになりつつあるっていうか……」
ステラの話を聞いて自分に対して感心している様子のラウラとフィーの言葉に苦笑しながら答えたエリオットは気を取り直して真剣な表情を浮かべた。
「……うん、私も各地を巡る中で肌で感じている。ノーザンブリアの併合を称揚し、新興の大国であるクロスベルに加えて1年半前の戦争で敗戦した相手であるメンフィルをカルバードに代わる”宿敵”と見る流れ……正直言って”怖い”くらいだ。」
「ああ………これもきっと”計画外に起こった出来事”を修正させた”彼”の描いたシナリオなんだろう。」
ラウラの言葉に頷いたリィンは静かな表情で推測を口にした。
「お兄様……」
「……そなた……」
リィンが言っている人物が誰であるかを察していたセレーネは心配そうな表情で、ラウラは真剣な表情でリィンを見つめた。
「はは、悪い。気にしないでくれ。――――リグバルド要塞まであと半分くらいだな。とにかく、今は先を急ごう。」
「……了解。」
そしてリィン達は再びリグバルド要塞に向かい、時折襲い掛かってくる魔獣達を撃破しながらリグバルド要塞に到着し、要塞の近くまで来ると青年の将校がリィン達に声をかけた。
~リグバルド要塞~
「――君達、この要塞に何か用かい?」
「すみません、自分達は――――……あれ?その声、どこかで聞いた事があるような……?」
近づいてきた青年士官に名乗り上げようとしたリィンだったが青年士官の声に聞き覚えがある事に首を傾げ
「―――ああ、もしかして君はリィンか!?どうしてこんなところに!?」
「えっと……すまない、声に聞き覚えがあるのは確かなのだが貴方は誰なんだ?」
「なんだよ~、俺の事を忘れちまったのかよ……まあ、俺は”Ⅶ組”程リィン達と頻繁に接していないし、あれから1年半も経っちまっているからな……って、おおっ!?よく見たら”Ⅶ組”の面々までいるじゃないか!?しかも”特務部隊”の面々まで!?ははっ、久しぶりだなあ!俺の事覚えてないか?」
リィンの問いかけに苦笑した青年士官だったがエリオット達に気づくと驚きの声を上げ、懐かしそうな様子でエリオット達に声をかけた。
「そなたは確か、フェンシング部の………!」
「もしかして―――アラン君!?」
青年士官―――アランの顔をよく見て何かに気づいたラウラとエリオットは驚きの声を上げた。
「帝国正規軍・第四機甲師団所属のアラン准尉であります!ははっ……なんてな。みんな、本当に久しぶりだ!」
そしてアランは敬礼をして自己紹介をした。その後リィン達はアランの案内によって要塞の責任者の元へと向かい始めた。
「……改めて凄いな。主力戦車に加えて、新型の機甲兵があんなに……」
「よくもまあたった1年半で”ここまで”立て直したな……」
「ええ………エレボニア帝国はクロスベル帝国によってRF(ラインフォルトグループ)との兵器売買の取引について様々な”制約”が加えられているというのに……」
「うふふ、1年半の件で衰退したエレボニア帝国があれらを購入する為の”軍資金”は一体どこから調達したのでしょうねぇ?」
要塞内に入り、戦車や機甲兵が整列している様子を見て驚いたリィンや呆れた表情で溜息を吐いたフォルデの言葉に頷いたステラは考え込み、レンは意味ありげな笑みを浮かべていた。
「……見て、あれ。」
するとその時一際大きい機甲兵――――”ゴライアス”に気づいたフィーは静かな表情で呟き
「あ、あの大きいのは確か……!」
「トリスタ奪還作戦の時に、ノルティア領邦軍を苦戦させた結果ベルフェゴール様達に出て貰って破壊した機体ですわね。」
「かつての貴族連合軍の切り札……あんなものまで配備されているとは。」
「ああ………(……それにしてもこの軍備の規模はいったい……)」
ゴライアスを見たエリオットは驚き、セレーネとラウラの言葉に頷いたリィンは真剣な表情で考え込んでいた。
「……あそこにいるのは閣下の御子息じゃないか?」
「ああ、例の巡業旅行で立ち寄ったのかもしれないな。」
「って、一緒にいるのは”灰色の騎士”か!?」
「それによく見たら”聖竜の姫君”や”小さな参謀”、”奔放の懐刀”に”魔弾の姫騎士”もいるぞ……!」
「おおっ、あれが……!」
「―――敬礼!」
「ようこそ、我等がリグバルド要塞へ!」
リィン達に気づいた兵士達は演習や作業を中断してそれぞれリィン達に対して敬礼をした。
「……参ったな。」
「うーん、わかってたけどここまで注目されるなんて。」
「ちょっと恥ずかしいですわよね……」
「しかもいつの間にか二つ名まで付けられているしな……俺なんて得物は槍なのに、”懐刀”って色々とおかしいだろ。」
「そういう意味での”懐刀”ではないと思うのですが……まあ、私も幾ら伯爵家の令嬢だったとは言え”姫騎士”は過剰評価だと思っていますが……」
「うふふ、まあレンにとってはそこそこ可愛さもあるからまあまあな二つ名だけどね。」
「確かに”殲滅天使”と比べたら可愛げはあるだろうね。」
兵士達からある程度距離を取った場所で立ち止まったリィンは溜息を吐き、エリオットとセレーネは苦笑し、フォルデとステラはそれぞれ疲れた表情で溜息を吐き、小悪魔な笑みを浮かべて呟いたレンにフィーはジト目で指摘した。
「リィン達―――特務部隊の武勇伝はいまだに流れているみたいだからな。すまない、裏口から案内するべきだったか?」
「いや、気にしないでくれ。それにしても、アランが正規軍入りしていたとは……しかも第四機甲師団に配属されていたなんて。」
「正規軍最強の師団……訓練もかなり厳しいのではないか?」
「はは、まあね。毎日シゴかれてクタクタだよ。でも、正規軍入りを決めた事を後悔はしてないつもりさ。……”あいつ”のいるこのエレボニアをこの手で守りたいからな。」
ラウラの問いかけに対して苦笑しながら答えたアランはある人物の顔を思い浮かべて決意の表情をした。
「フフ、男子の誉れ、か。」
「うふふ、そう言えばアランお兄さんはブリジットお姉さんと卒業後に婚約したんだったわよね?」
「ええっ、そうなの!?」
「ほ~?そう言えばブリジットって確かステラと同じ貴族のお嬢様だったな……幾ら幼馴染の関係とはいえ、エレボニアの貴族に結婚を認めてもらえるなんてやるじゃねぇか。」
「ふふ、おめでとうございます。」
「俺からも祝福の言葉を贈らせてくれ……―――ブリジットとの婚約、おめでとう。」
「ゴチソーサマ。」
「というかレン教官はどうしてそんな情報まで知っているのでしょうか……?」
アランの言葉にラウラが静かな笑みを浮かべている中レンが口にした情報を知ったエリオットやフォルデ、ステラやリィンが様々な反応を見せている中フィーはジト目でアランを見つめ、セレーネは表情を引き攣らせてレンに視線を向けた。
「ハハ……ちょっとクサかったか。」
「――来たか。」
リィン達の反応にアランが恥ずかしがっていたその時金髪の将校がリィン達に近づいてきた。
「お疲れ様です!」
「ようこそ、”特務部隊”。エリオット坊ちゃん。アルゼイドにクラウゼル、それにレン皇女殿下も。」
「貴方は……ナイトハルト少―――いえ、中佐……!」
「ふふっ、お久しぶりですわ。」
「うふふ、実際に会うのは1年前のⅦ組の最後の”自由行動日”以来ね。」
「ども。」
「ハハ、相変わらず俺の知り合いと良い勝負をする堅物だね~。」
「あはは……坊ちゃんはやめてくださいよ。」
「お久しぶりです、少佐―――いえ、今は中佐でしたか。」
「遅くなりましたが昇進、おめでとうございます。」
「フッ、皆変わりないようでなによりだ。いや―――違うな。驚くほどに見違えたものだ。かつて君達を教えた身として、そして共に戦った身として誇らしい限りだ。」
リィン達がそれぞれの反応を見せている中金髪の将校―――第四機甲師団の師団長の補佐を務めているナイトハルト中佐はリィン達の成長を感じ取り、静かな笑みを浮かべた。
「中佐……」
「ふふっ……ありがとうございます。」
「―――閣下がお待ちだ。ここからは私が案内しよう。ご苦労だったな、准尉。」
「ハッ!」
その後リィン達は要塞の責任者がいる場所にナイトハルト中佐の先導によって到着した。
「―――閣下。彼らをお連れしました。」
「うむ、入るがいい。」
ナイトハルト中佐の言葉に対して紅毛の将官―――第四機甲師団の師団長にしてエリオットの父でもあるオーラフ・クレイグ将軍が答えるとリィン達がナイトハルト中佐と共に部屋に入って来た。
(オーラフ・クレイグ将軍……相変わらずの威厳と風格だな。)
(ああ、大将に昇進されてからも一層活躍されてるみたいだが……)
(クク、だがその威厳や風格もすぐにぶち壊されるだろうけどね♪)
(うふふ、そうね♪何せここにはエリオットお兄さんもいるしね♪)
クレイグ将軍がさらけ出す威厳や風格をラウラやリィンが感じ取っている中ある事が起こる事に気づいていたフォルデとレンがからかいの表情を浮かべたその時
「――――よーく来てくれた、エーリオットォオオオ!!」
クレイグ将軍が満面の笑みを浮かべてエリオットを抱きしめようとしたが、エリオットは一瞬の隙をついて回避した後軽くクレイグ将軍の肩を叩いた。
「ハイ、それはいいから。さっそく本題に入りたいんだけどいいかな?」
「頼もしくなったな、我が息子よ。父は嬉しいぞ……」
(そう言っている割には寂しそうに見えますわね……)
(フフ、エリオットさんを溺愛している将軍閣下からすれば色々と複雑なのでしょうね。)
(お約束だね。)
(ああ、エリオットの躱しっぷりも慣れたものというか。)
(うふふ、確かにエリオットお兄さんは確実に成長している証拠ね♪)
エリオットとクレイグ将軍のやり取りに冷や汗をかいて脱力したセレーネとステラは苦笑し、フィーの言葉にリィンは頷き、レンは小悪魔な笑みを浮かべて呟いた。
「コホン、とにかくよくぞ来た。―――本来であれば招かれざる客だがまずは歓迎させてもらおう。」
「……!」
「父さん、ひょっとして……」
「………我等が訪れた理由も大凡察せられているようですね?」
「無論―――帝国南部の治安維持は本要塞の主要任務の一つでもある。期待には沿えないだろうが……一応、話を聞かせてもらおうか?」
その後リィン達はクレイグ将軍に事情を説明した。
「―――結社に関する一連の状況は既にこちらでも把握している。―――だが、現時点で第四機甲師団が直接的な作戦行動を行う予定はない。たとえおぬしらの頼みであってもな。」
「父さん……」
「アランドール少佐の言葉通り……あくまで動向を見守るだけですか。」
「……腑に落ちないな。正規軍も、結社の人形兵器を野放しにしていいわけないよね?」
クレイグ将軍の答えを聞いたエリオットは複雑そうな表情をし、ラウラは真剣な表情でクレイグ将軍を見つめ、フィーは真剣な表情でクレイグ将軍に問いかけた。
「……ここに来るまでの間、その”意味”を考えていました。この要塞が備える戦力ならば結社の動きなど、それこそ半日足らずで片づけられるでしょう。にも関わらず、正規軍が頑なに動こうとしない本当の理由――――」
「あ………」
「……………」
「へえ?」
リィンの言葉を聞いたエリオットは呆け、ナイトハルト中佐が重々しい様子を纏って黙っている中レンは興味ありげな表情を浮かべた。
「正規軍―――いや、帝国政府は待っているんですね?今度こそ貴族勢力が音を上げるのを。」
「…………………」
「またえげつない事を考えたもんだねぇ、エレボニアの政府―――いや、”革新派”は。」
「貴族勢力にとってはまさに”泣きっ面に蜂”でしょうね。」
「ええ………しかも民達まで巻き込もうとするなんて、相当悪辣なやり方ですね。」
「1年半前の件で貴族勢力は相当衰退したのに、どうしてそこまでして貴族勢力を……」
リィンの推測を聞いたクレイグ将軍は否定することなく黙り込み、事情を察して呆れた表情で溜息を吐いたフォルデとレンの言葉にステラは頷き、セレーネは悲しそうな表情をし
「……そういう事か。なんとか存続しているとはいえ、領邦軍の規模は縮小の一方……そんな状況で”何か”が起きれば―――」
「”領邦軍とは名ばかり”……そんな主張が成り立つわけか。その存続と引き換えに”北方戦役”で自らの手を汚した准将達の功績すら打ち消す形で。」
「ひいては貴族勢力の存在意義すらみんなに、国民に疑問視させる……―――父さん、ナイトハルト中佐もそれでいいんですか……!?」
フィーやラウラに続くように帝国政府の狙いを口にしたエリオットはクレイグ将軍とナイトハルト中佐に問いかけた。
「………それは………」
「……わかっている。内戦では争ったが、領邦軍も本来、エレボニアの地を共に護る同胞―――窮地にあるのを見過ごすなど、帝国軍人の誇りに悖るだろう。だが――――我等が”軍人”だ。そして軍の統括権は陛下にあり、ひいては帝国政府に委ねられている。その決定を覆す形で勝手に動くわけにはいかんのだ。」
「………父さん……」
「……ま、それもそっか。納得はできないけど。」
「―――ならば、情報については?結社がこの地に築いた”拠点”―――当然、目星も付いているのでしょう。」
答えを濁しているナイトハルト中佐の代わりに答えたクレイグ将軍の答えを聞いたエリオットが複雑そうな表情をし、フィーが静かな表情をしている中ラウラは真剣な表情で質問を続けた。
「それは………」
「―――当然、こちらの方でもある程度の当たりはつけてある。だが、現時点で確たることが教えられるような状況でもなくてな。」
「?それは一体……」
「意味が全くわかんないぜ……」
「そんな……!それすら駄目なんですか!?」
結社が拠点にしている場所の目星すら教えられないというナイトハルト中佐の回答にステラが不思議そうな表情をし、フォルデが溜息を吐いている中エリオットは信じられない表情で訊ねた。
「―――案の定”レンの読み通り”だったようね。」
「え………”読み通り”という事は……」
「もしかしてレン皇女殿下は将軍閣下達からも結社が拠点にしそうな場所の目星を我等に教えてくれない事も察していたのですか……?」
するとその時呆れた表情で呟いたレンの答えにセレーネが呆けている中、ラウラは真剣な表情でレンに訊ねた。
「ええ。ま、レン達に教えない理由は帝国政府の意向もあるかもしれないけど………別の意味でも正規軍としては、”あの場所”にレン達に入って欲しくないものねぇ?」
「…………!」
「……………」
意味ありげな笑みを浮かべたレンの問いかけを聞いたある事を察したナイトハルト中佐は目を見開き、クレイグ将軍は重々しい様子を纏って黙り込んだ。
「――――なるほど。だから、レン教官はクレイグ将軍の許可が必要だからリグバルド要塞に向かうと仰ったのですか。」
「え………リィンさんもレン皇女殿下が仰っている”あの場所”について何かお分かりになったのですか?」
するとその時レンの話を聞いてある事を察したリィンの答えを聞いたステラはリィンに訊ね
「ああ………アルトリザス近郊―――いや、サザ―ラント州の治安維持を司る正規軍の責任者の許可も必要な場所……―――恐らく”ハーメル村”の事だ。」
「あ………っ!」
「ええっ!?ハ、”ハーメル村”って確か……!」
「……14年前の”百日戦役”が勃発した理由にして、レーヴェ殿の故郷でもあるエレボニア帝国が犯した”大罪”の象徴を示す廃村……か。」
「道理でレーヴェも気づいたわけだ。けど何でエレボニアは今でもあの村の存在を隠そうとするの?1年半前のメンフィルとの”和解条約”で”ハーメルの惨劇”も公表したから、今更隠す必要なんてないんじゃないの?」
リィンの答えを聞いたセレーネは昨日の夕方見つけた巨大な門があった場所を思い出し、エリオットは驚き、ラウラは重々しい様子を纏って呟き、フィーは静かな表情で呟いてクレイグ将軍とナイトハルト中佐に問いかけた。
「………それは………」
「……なるほど。レン皇女殿下達が結社に関係する情報と何らかに対する儂の”許可”を求めて来たという知らせを聞いてまさかとは思いましたが、やはり”ハーメル村”に立ち入る許可を貰う為だったのですか………そして特別にハーメル村立ち入りの自由が許可されているレオンハルト准将をこのサザ―ラントに呼ばずにエリオット達を同行させてわざわざ許可を求めに来た理由の一つは”ハーメル村”を未だに国家機密の場所に指定しているエレボニア帝国の”現状や理由”を教える為と言った所ですか……」
「ハ、”ハーメル村を未だに国家機密の場所に指定している”って………」
「それってどういう意味?」
ナイトハルト中佐が答えを濁している中静かな表情でリィン達が来た理由を口にした後レンの意図を口にしたクレイグ将軍の推測を聞いたエリオットは目を丸くし、フィーは不思議そうな表情で首を傾げた。
「うふふ、その件については後で教えてあげるわ。――――という訳でハーメル村立ち入りの許可証を用意してもらえるかしら?パパとシルヴァンお兄様が発行したリィンお兄さんに対する”要請”を妨げるような行為を行ってはいけない事は帝国政府からも知らされているでしょう?」
「……了解しました。ナイトハルト。書筒の用意を。」
「は。」
レンの問いかけに重々しい様子を纏って頷いたクレイグ将軍はナイトハルト中佐に指示をし、指示をされたナイトハルト中佐は書筒の用意を始めた。
「……感謝します、将軍。」
「礼には及ばぬ。―――むしろしがらみに縛られた己の不甲斐なさを痛感している所だ。……やはりヴァンダイク元帥や”彼”と比べればまだまだだな。」
「え………」
「閣下、こちらを。」
「うむ、すまぬな。」
感謝を述べた事に対して静かな表情で答えたクレイグ将軍の言葉にリィンが呆けたその時書筒の用意を終えたナイトハルト中佐が書筒をクレイグ将軍に渡した。
「――――先程レン皇女殿下も仰ったようにハーメル村に立ち入るにはサザ―ラント州における2名の最高責任者の許可を必要とする。」
「”サザ―ラント州における2名の最高責任者の許可”という事はもう一名許可を貰う人物がいるのですか……」
「そしてもう一名の人物は恐らく――――」
ナイトハルト中佐の説明を聞いて考え込んでいるステラに続くようにセレーネが答えかけたその時、書類にサインを終えたクレイグ将軍が書類を手に顔を上げた。
「――――リグバルド要塞司令、オーラフ・クレイグの名において”許可証”をしたためた。これを持ってアルトリザスにいるもう一人の”責任者”を訊ねるがいい。サザ―ラント州統括―――ハイアームズ侯爵閣下の元へな。」
そしてクレイグ将軍から許可証を受け取ったリィン達はハイアームズ侯爵からの許可証を求めてアルトリザスへと向かい始めた―――――
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