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名探偵と料理人

作者:げんじー
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第二十四話 -競技場無差別脅迫事件-

 
前書き
このお話は原作第19、20巻が元になっています。 

 
―――ワァァァァ!

「ねえねえ、今決めたの誰、誰?」
「えっとですね……スピリッツのヒデですよ!」
「流石はヒデだぜ!」

子供たちは先制シュートを決めたシーンについてあれこれと盛り上がっていた。

「すごい熱気やねぇ。サッカー観戦なんて初めてやけどいっつもこんなんなん?」
「俺も新ちゃんに連れられて何度か来た位だから何とも言えないけど。まあ今日は天皇杯の決勝だからね。盛り上がりはいつもの試合よりはすごいはずだよ……お?今度はBIG大阪の選手がボールを持って上がってきてるね。この感じは11番の選手かな?…センタリングを上げて8番がゴール前でヘッドで合わせようとしてるけどあー、キーパーに阻まれたね」
「……ねえ。あなた、本当に目が見えていないの?今日私たちを連れて電車に乗った時も思っていたけど」

今日の俺は両目に黒い包帯を巻いて、サングラスに帽子を被っていた。久しぶりに「太陽の実」という食材を調理したんだが、手順を間違えて至近距離で発光した実を見てしまい目を焼いてしまった。一応再生している最中なんだがその間に光を見るとうまく再生できないので光を完全に遮断できる包帯を巻いているというわけだ。なので観戦には耳の感覚を広げている。
俺が子供たちを連れて、BIG大阪VS東京スピリッツの天皇杯決勝戦を見に来ている経緯はこうだ。元々の予定だと子供たちだけで来る予定だったらしいのだが流石に国立競技場に小学一年生だけで行かせるのはいかがなものか(中身10代が二人いるとは言え傍目は小1五人組)ということになり、博士を頼ることにした……いや、他の保護者もたまには動けよ…が、博士は博士で用事があるらしくダメ。そこで巡り巡って俺に打診が来たというわけだ。俺もそして電話を受けた時に近くにいた紅葉も夜からは予定があったが試合の時間帯は空いていたのでデートも兼ねて了承したというわけだ。チケットは向こう持ちで用意してくれた。

「眼?全然見えてないよ。新ちゃんに試合前に選手がどんな配置になっているか聞いていたろ?その時に呼吸の癖や心音のリズムを覚えて後は試合の中それを聞き分けてピッチでどんな動きをしているかを頭の中で想像してるってわけさ。だから選手の顔は分からないよ」
「……息遣いがこんな歓声の中から、しかもこんな離れた所から聞こえるわけないでしょう?ましてや心音なんて直接胸に耳を押し付けでもしないと無理。あなた、私をバカにしているの?」
「さて……ね。まあ哀ちゃんのことをバカにしてなんかいないさ」
「……」

ありゃ、無視されちゃった。まあ科学者の彼女にこんな非科学的なことを言えばこうなるか。この事を知ってる人が割と受け入れてくれたから麻痺してたけど、普通こんなこと言われたらこうなるわなー。

「おい、灰原!オメーも前に来て試合見ろよ!折角来たんだからよ!」
「嫌よ。私は付き添いで来たの。それにもしTVにでも撮られたりしたら幼少時から組織にいた私は奴らに気付かれてしまう……っちょっと!」

新ちゃんは哀ちゃんの付けていた眼鏡……多分サングラスか?を外して自分の被っていた帽子を彼女に被せて強引に手すりに引きずり、観戦に戻った。…しかしTVねえ。俺らが座っているのはメインスタンド。向かい側(バックスタンド側)にはピッチ内にある心音と機械音からしてカメラは一台しかないみたいだし彼女が恐れているようなことは無いだろう。俺も一応カメラは気にしないとね。

「ありゃまあ、新一君も大胆というか強引というか」
「それが彼のいい所さ。それに目まぐるしくボールが入れ替わるねえ。あ、また盗られた」
「ウチは右に左に追うのが目まぐるしくて疲れてしまいそうや。それにこの歓声も。最近耳が冴えるようになって長時間はつらくなりそうや。それにしても子供たちは……哀ちゃん以外は楽しそうやな。新一君もあない興奮して」
「新ちゃん、サッカー小僧だからね」

試合はしばらく膠着状態が続いた。新ちゃんと哀ちゃんはその間になにかを……ああ、小さくなってからの生活について話をしているようだった。それにしても「84歳」って。明美さんが25歳って言ってたしその年齢はあり得んでしょうに。新ちゃんも明美さんに会ってるし、その妹の哀ちゃんがその年齢はあり得ないって気づきなよ……!?
――――パスッ!

「「え!?」」

新ちゃんと哀ちゃんが同時に声を上げた。どうやら哀ちゃんが被っていた帽子がグラウンドに落ちてしまい下を向いていたため目撃したようだ。……サッカーボールが射撃されたのを。俺は撃った男の捕縛に動きたかったがその前に新ちゃんがグラウンドに降りてしまった。……仕方ない。

「ちょっと龍斗!?」

俺も新ちゃん同様スタンドから飛び降り新ちゃんと銃弾の発射地点の射線から彼を隠すように体を挟んだ。男の匂いは覚えたしそいつは離れているが新ちゃんの行動に気付いてまた戻ってくるかも分からないので盾になるつもりだ。

「た、龍斗!?」
「まったく、第2射があるかもしれないのに無茶な行動しないの。おかげで取り押さえに動こうとしたのに新ちゃんの盾をせざるを得なくなっちゃったじゃないか」
「あ。わ、わりい龍斗」
「まあいいさ。匂いで追跡は出来るから……あ、すみませんスタッフさんこの子は俺が上に上げますので!……ほら、俺の体でスタッフからは影になってるからさっさと銃弾抉り出して!」
「わ、わかった!」

その後、男は戻ってくることなく俺はスタッフが拾ってくれた帽子を受け取った。新ちゃんも銃弾の回収を終えたようだったので彼を抱えてスタンドにジャンプした。

「龍斗おにいさん、すっごいジャンプ!」「すげえぜ!」「……お猿さんみたいね」
「ありがとうね、みんな…それで、どうするの新ちゃん」
「とりあえず、この国立競技場から出て警察にこの銃弾を持っていくよ」

拳銃を発砲した男は今も追跡できるし、その男の居場所を警察に伝えたらこの事件は終わりかな?





7人で競技場を出るとすでに警察が到着していた。どうやらTV局の人がすでに通報していたらしい。
新ちゃんは目暮警部とTV局の人の会話に割り込み銃弾を差し出した。警部はそれからこの事件を愉快犯の犯行ではなく、拳銃を持った犯人による危険な事件であることを認識し観客の避難を開始させようとした。だが…

「ダ、ダメですよ!電話の男が言っていたんです。試合を止めたり客を逃がしたり妙なそぶりを見せたら無差別に銃を競技場内に乱射するって!」
「な、なんだと?!」

つまり、この大観衆を人質に取られたわけだ。……拳銃を発砲した男、俺が気づいたのは拳銃を撃って数瞬あとだがそんなこと言っていたか?電話を切ってから撃ったのかな。
ディレクターの人によると、要求は日売TVに5000万円、ハーフタイムまでに用意する事だった。警部は私服警官を動員し観客の中を監視するように指示を出していた。次の要求が来た際に電話をしている人間をしょっ引くつもりのようだ。

「ここは危険だ。君たちはもう帰りなさい。……龍斗君、子供たちをってどうしたんだいその目は!?」
「あ、はは。ちょっと調理中にミスをしてしまって。しばらくは目を開けられないですよ…(しまった、目が見えないのに犯人が分かるって言ってもどう説明すれば…)」
「あれ?そこの帽子の子は女の子なのかい?」
「失礼ねー。見ればわかるでしょう?」

俺が目暮警部にどう説明しようか四苦八苦していると子供たちと脅迫の電話を受けたディレクターの金子さんが話をしていた。

「変だなあ、確か電話の男は「5人のガキの一番左端の青い帽子をかぶったボウズ」って言ってたんだけど」
「「「!!!」」」

「警部さん、ちょっと待ってください。取り押さえるって言うのはやめといたほうがええですよ!」
「え?」
「紅葉ねーちゃんの言うとおりだよ。ボールは僕たちの真下に転がったんだ。ってことは近くから拳銃を撃ったってことだよね?」
「ああ、拳銃の射程距離なんてたかが知れているからな……はずれても洒落にならんからな……」
「だったらなんで灰原……この子を男の子って言ったの?彼女はスカートで服装を見ればすぐに女の子だって分かるのに」
「そりゃ、スカートが壁で見えなかったから…」
「つまり、僕たちのいたメインスタンドで銃を撃った人と電話をしてきた人は別人でバックスタンドにいたってことだよね?つまり犯人は二人以上いるってことだよ!」
「!!おい、無線で各員に伝えろ!ワシが指示を出すまで何もするなと!」

あと、一人か、それ以上。それを特定するまで俺達は動けないってことか。

「新ちゃん、新ちゃん」
「なんだよ龍斗こっちは今犯人がどこにいるかを……」
「それなんだけどね。拳銃を撃った男はスタンドを歩き回ってるみたいだよ」
「わ、分かるのか!?」
「ああ、拳銃を撃った後すぐに誰かって目星をつけていたからね。しかし競技場内に入ってる私服警官は全員拳銃所持ってすごいね。相手が拳銃所持しているからかな?」
「音だったり、匂いだったり……普通の人間が…いやどんな存在でも競技場の外からそんなのが分かるわけないでしょう。ばかばかしい。あなたも探偵ならそんな与太話信じてるんじゃないわよ」
「いや、龍斗はな……」

なにやら俺と新ちゃんの話を聞いていた哀ちゃんは俺の言っていることに一々否定の言葉を吐いてくる。それに対して俺がいかにおかしいかを説明する新ちゃん…っておい、その説明はいかがなものかと。

「紅葉紅葉。何か書くものと紙ない?」
「そないな物、持っとらへんよ。あ、でもTV局の中継車にいったらあると思うし貰ってくるよ」
「ああ、お願いするよ。俺は子供たちを見ているから」

この子たちは少年探偵団を結成するような子たちだ。こんな事件が起きれば首を突っ込むに決まっている。今は一度外に出てしまったのでこの事件についてあーだこーだいうだけですんでいるが。もし半券を提示すればもう一度中に入れることを知ってしまえば入って「捜査」といって動き回るだろう。流石にそれは保護者として見逃せん。

「龍斗ー。貰ってきたで。白紙の紙とペン」
「ありがと、紅葉。じゃあ、さっさと事件を終わらせますか。保護者としてあの子たちが危険に首を突っ込む前にね」

俺は受け取った紙に競技場の見取り図を描き、俺が嗅ぎ取った銃の鉄の匂いの位置、そしてボールを撃った犯人が置いた銃の位置を書き込んだ。……そう、ボールを撃った犯人はなぜか拳銃を手放したのだ。
書き込んでいる最中、犯人から電話が来た。金が用意できたかの確認と受け渡しの指示だった。……なるほど、この人がもう一人の犯人か。だが一応犯人が3人以上いることを考えて警部に確認するか。
俺は、今電話してきた男がいる場所、犯人が捨てたであろう拳銃の場所に丸を付けて警部さんに……って、

「君たち、どこに行こうとしている?」
「灰原さんにチケットの半券見せたら中に入れてもらえるって教えてもらったから」
「僕たちも捜査の協力をするんです!なんたって僕たちは…」
「少年探偵団だからな!」

俺は哀ちゃんの方を見るとばつが悪そうに視線をそらされた。

「それじゃあいこうぜ!少年探「待った!」……なんだよー、いいとこなんだからじゃますんなよ…な…」
「た、龍斗おにいさん…」
「え、笑顔が怖いですよ…」
「恐い?そりゃあもちろん。怒ってるからね。君たちが子供で相手が拳銃も持っている脅迫犯だからってものあるけど。君たちは犯人に姿を見られている。その君たちが試合を見ずにうろちょろ動けば犯人は勘づくかもしれない。「俺達を探している」って。だから競技場内に戻るのは許可できないな」
「で、でも「かもしれない」ですし僕たち子供ですよ?」
「そうだぞ、オレ達なら大丈夫だって!」
「そうよ、歩美たちなら大丈夫!」

子供たちは根拠のない自信で満ち溢れていた。自分は大丈夫、犯人を捕まえられる、と。
それを打ち砕くのは簡単だけど。小学一年生にすることじゃないよな。さてと。

「そう、大丈夫かもしれないし大丈夫じゃ無いかも知れない。俺は君たちの親から君たちの面倒を見るように頼まれたんだ。だから君たちをみすみす危ない目に合わせるようなことは見過ごせない。それに君たちは犯人とおそらく連絡をし合うのに通信機器を使う警官さん達の見分けがつかないでしょう?競技場内には58人もの私服警官がいるんだよ。だから君たちにはTV局の撮影した映像から怪しい人間がいないか見てほしいんだ。警察の人は競技場内の捜査で手一杯だからね。あ、半券は預からせてもらうよ」

その言葉に渋々といった表情で俺に半券を預けTV局の中継車の方に子供たちを歩いて行った。紅葉には3人の子たちのお目付け役を頼んだ。

「あら?あの子たちが入るのを止めたのね。……まあ私も考えが足りなかったわ」
「……まあ気付かなかったのなら仕方ないけど。子供はある程度大人が守ってやらなきゃすぐに危ないことをするからね。ねえ新ちゃん?」
「うっせ、オレを引き合いに出すな!」
「ははは、それじゃあ目暮警部の所に行きますか」
「そーいやオメー何書いてたんだ」
「ん?競技場内の拳銃の位置」
「は!?」

そんな言い合いをしながら、俺は目暮警部の所に行き、俺はさっき書いた見取り図を目暮警部に差し出した。貰った警部は何のことかわからなかったらしいので説明をした。見取り図には×マークが60。これが拳銃の位置。うち2つは犯人のもので一つはボールを撃った拳銃でこれは犯人が置いて犯人は所持していないもの。そしてもう一つは電話してきた人間の声を金子さんの携帯から漏れた物と競技場内から電話しているものとを照らし合わせて判明したもう一人が持っている拳銃だ。その人はバックスタンド前から撮影しているカメラマンだった。他に共犯がいないかということを知りたかったので私服警官の数を聞いてみると、58人と犯人を抜かした拳銃の数と一致したので犯人は二人組であるとなった。
最初は半信半疑だったが警官の配置、そして実際にごみ箱に捨てられた拳銃を回収できたことから信憑性がましたようで、ハーフタイムになった瞬間に事件は解決した。金をとりに来た犯人と同時に、こっそりとグラウンドに降りた警官にカメラマンは取り押さえられた。


― 


犯人がハーフタイムで逮捕出来たので俺達は後半から試合を見ることができた。どさくさに紛れて離れたから後でどうやってあの場所を探り当てたのか警察で聞かれるんだろうなあ。……どーしよ。拳銃の匂いって言っても信じてくれるわけないしなあ。

「それにしても……龍斗のお蔭でスピーディに解決できて良かったぜ」
「まあ俺が手を出さなくても新ちゃんがいたし解決できたんだろうけど。今回は保護者としてあの子たちを無事に帰すって責任があったからね」
「……それにしても。目の当たりにしても未だに信じられないわ。匂いで人を判別するなんて…しかもあんな距離で…てことは音についても事実ってこと?……いやそんなことは…」
「あーあー。哀ちゃん常識人やから混乱してしまっとりますよ。どないするん?」
「こういうのは新ちゃんに任せとけばいいんだよ。ね?新ちゃん」
「オ、オレかよ!?…ま、まあ84歳のババアになっても世の中なんて知らないことばかりなんだよ!気にすんな!!」

いや、丸投げしたのは俺だけど女性に年齢の話題ってどうなのさ。

「……なによ、私の歳は貴方とお似合いの18歳よ!……それから緋勇龍斗!あなたも工藤君共々興味的な素材として認定してあげるから覚悟しなさい!」
「「「はあ?」」」

そういって、びしっと指を突き付けてくる哀ちゃん。突然の発言に呆気にとられる俺と紅葉と新ちゃん…あ、これ混乱してて我を失っている感じだ。ま、まあお手柔らかにお願いします? 
 

 
後書き
今回のお話について
・小1五人だけでは絶対に行かせませんよね、5万6千ものひとがいる国立競技場に→保護者同伴
・今回は目をわざわざ潰したのは発砲時に感覚を開いている言い訳が欲しかったためです。目が見えていないのに普通に動いていることに灰原が不審の目を向けさせる効果もありますしね。
・コナンがグラウンドに降りたってナイフで地面抉るのは「ナイフもってるぞこの小学生」ってのもありますが第二射で撃たれることを考えなかったのかって事でこうなりました。
・この頃の灰原って子供たちが危険なことに突っ込むのに無関心な気がします。「純黒」であんなに心配してたのに、19巻時点では拳銃を発砲した犯人の捜索の手助けをしてますし。最初はそのことについて説教を書いていたんですが灰原の心情をうまく書けなかったので没になりました。
・今回は「保護者」として来ていたのでコナンに頼ることなくスピード解決しました。だって子供って目を離したらすぐどっかに行って危ないことしますしね。 
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