| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

とある3年4組の卑怯者

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

106 褒美(すきやき)

 
前書き
 スケートの大会で藤木は難しい演技を成功させた結果、見事に金賞を獲得した。その一方、各務田に殺害される危機にあった永沢達は警察の介入で救われたのだった!! 

 
 全ての参加者の演技が終了した。あとは結果発表のみだった。実際のオリンピックとは異なり、各選手の演技終了と同時に点数が発表される訳ではないため、藤木は自分の番が終わってからも心が落ち着かなかった。しばらく結果の集計として、再び休憩に入った。
「やあ、藤木君」
「和島君・・・」
「キミの演技は素晴らしいよ。だけど、ボクを抜けるかはわからないけどね」
「絶対に抜いて見せるさ・・・」
「結果発表です。参加者の皆さん、リンクに集まってください!」
 誘導係から呼ばれ、藤木や和島も含む参加者達はリンクに向かった。自信満々の表情の者、緊張を続けている者、失敗を恥じている者、表情は様々だった。
「出場者の皆さん、お疲れ様でした。皆さん、自分の持ち味を十分に見せてくれたと思っています。結果が待ち遠しいでしょう。銅賞、銀賞、金賞の順に発表します。それでは、まずは銅賞から!」
 藤木は願った。銅でも銀でも金でも賞が欲しい。しかし、その際、和島より上位の賞を取りたいと。
「銅賞は・・・、エントリーナンバー18番、井原良太君、草薙小学校!」
 呼ばれた井原という少年が前に出た。
(こうなったら銀か金だ。ただし、僕が銀だとして和島君が金だったら僕は負けだ!皆に見せる顔もない・・・)
「続いて銀賞行きます!銀賞は・・・」
 藤木は唾を飲んだ。
「・・・和島俊君、船越小学校!!」
 和島は当然だろというような表情で前に出て、楯を貰った。
(和島君が銀だって!?なら僕は金を取らないとだめだ!!でもその可能性はあまりにも低い・・・。もう諦めた方がいいのかな・・・?)
 藤木は窮地に立たされた気分だった。
「さあ、いよいよ、金賞の発表です!金賞は・・・」
 藤木は半分諦めていた。みどりと堀は藤木が金賞である事を祈った。
(お願いします!藤木さんでいてください・・・!!)
「・・・藤木茂君、入江小学校!!」
「・・・え?」
 藤木は耳を疑った。まさかその低い可能性に当てはまった?しかし、これは夢ではなかった。
「藤木茂君!前にお願いします!」
「あ、はい!」
 藤木はスケート協会の会長から楯を貰った。
「ありがとうございます・・・」
(僕が金賞・・・?やった、やったー!!)
 藤木は勝ち誇った気分になった。みどりも堀も嬉しくなった。片山はやはりそうだろうと藤木を信じていたような表情になった。
「茂が金賞なのかい!?嘘じゃないよね?あんた?」
 藤木の母は一瞬疑った。
「いや、嘘じゃない。茂が金賞を獲ったんだ!!」
 藤木の父は確信していた。
「藤木さん、おめでとうございます!!」
 みどりは思わず叫んだ。
「藤木君、よかったわね・・・」
 堀は小声で呟いた。
『これから閉会式を始めます』
「えー、金、銀、銅に輝いた皆さん、本当におめでとうございます。残念ながら選ばれなかった皆さんもこの大会に出場した価値は大いにあります。賞を獲った皆さんは三週間後に松本で行われる中部大会が待っています。是非頑張って下さい!これにてアマチュアスケート静岡県大会小学生部門を閉会します。忙しい中お越し頂いた皆さんも本当にありがとうございました!」
 こうしてアマチュアスケート大会静岡県大会小学生部門は閉会となった。

 リリィと笹山は永沢達が搬送された総合病院へと向かった。病院に到着すると、先に着いた警察官達が回復を祈り、太郎が一人の婦人警官に抱えられていた。
「あ、あの、私達の友達は・・・?」
 笹山が一人の警官に聞いた。
「ああ、今手術を受けているよ」
「そうですか・・・」
 二人は永沢と城ヶ崎が死なない事を祈った。

 大会が終わり、藤木は服を着替えた。和島が藤木に声を掛けた。
「藤木君、やるね・・・。ボクの負けだよ。だが、この仮は中部大会で返すからね。お、ぼ、え、と、け、よ!」
「望むところだよ・・・」
 和島はそう言って去った。
 その時、両親やみどりと堀がエントランスで出迎えていた。
「藤木さ~ん!!」
 みどりが駆けつけた。
「おめでとうございます!私、ずっと藤木さんを信じていました!本当に最高でした!あの、これ、どうぞ!」
 みどりは嬉し泣きしながら花束を差し出した。
「あ、ありがとう、みどりちゃん・・・」
 藤木は花束を受け取った。
「茂、お前よくやったな!さすがスケートだと日本一、いや、世界一だな!」
「父さん、ありがとう・・・」
「藤木君、凄いわ、よく頑張ったわね!」
 堀は藤木に拍手した。藤木は堀に対して赤面した。
「これで学校の皆も貴方を見直してくれるわ」
「うん、そうだね、そうだといいな・・・。あ、堀さん、大会を勧めてくれて本当にありがとう・・・」
「え?ど、どういたしまして・・・」
 堀も藤木に照れた。その時、片山がその場に現れた。
「藤木君、君の最後のアクセルからのスパイラルでの着地は私でもやった事がないくらいの技だったよ。実に素晴らしかった」
「片山さん・・・。あ、ありがとうございます!」
「貴方が元オリンピック選手の片山さんですか?私達この子の親です。本当にありがとうございます。息子はスケートだけが取り柄でして・・・」
「いえいえ、それは私も同じですよ。でも茂君は最高のスケーターです。彼ならきっとスケートで世界一になるでしょう」
 片山は藤木に顔を向き直した。
「藤木君、今回の大会は君にとってまだ序の口に過ぎない。これから中部大会が待っているし、そこで賞を獲れば全国、そして世界へと次なるステージが待っている。どうだ、世界へ羽ばたく自信と覚悟があるか?」
「世界へ・・・」
 藤木は一瞬考えた。
「はい、是非やってやろうと思います!!」
「よし、いい心だ。では、また会おう・・・」
 片山は去って行った。
(藤木茂・・・。君は私が今まで見た中で最高の原石だ・・・!)
 片山は藤木の底知れぬ実力をまた見てみたいと考えていた。
「それじゃあ、私達はこれで帰ろうか、吉川さん」
「はい、藤木さん、さようなら!」
「藤木君、また会おうね」
「うん、じゃあね・・・」
 みどりと堀は帰って行った。
「それじゃあ、俺達も帰るか」
「そうだね。そうだ、茂に頑張ったご褒美に今夜はすき焼きにしようか」
「え、いいのかい!?でもお金が・・・」
「そんな事気にしなくていいよ。たまにはいい御馳走してあげようじゃないか」
「うん、ありがとう、母さん、父さん・・・」
 藤木達も帰って行った。

 病院に城ヶ崎の両親が駆けつけた。
「あ、君達、姫子は・・・!?」
 城ヶ崎の父がその場で回復を祈るリリィと笹山に話し掛けた。
「今手術している所です!」
 笹山が答えた。
「姫子、永沢君、無事でいてくれよ・・・!」
 永沢は各務田にあちこち殴られた事で体の各部位にヒビが入っていた。城ヶ崎は肩からの大量出血で生死に関わる惨事であったが、輸血は何とか間に合った。
二人の手術は成功した。二人は暫くの間入院する事になった。リリィと笹山は各々の家に連絡してから帰り(この後リリィは首を突っ込んだ事で自分も命の危険に晒される可能性があったと両親から叱られた)、太郎は永沢の両親と連絡が着き、引き取りに来るまで城ヶ崎の両親が養う事にした。

 藤木達は清水に帰って来た。
(遂に帰って来たんだな・・・。皆、もう不幸の手紙の事何か吹き飛ばしてやるぞ!!)
 藤木達は家に帰り、荷物を整理した。
「茂、あのみどりちゃんって子から貰った花、花瓶に生けようか」
 藤木の母が提案した。
「うん、そうだね」
 藤木の母がみどりから貰った花束の花を花瓶に生け、藤木はそれを手伝った。それは玄関に飾られた。
(みどりちゃん、応援してくれて本当にありがとう・・・)
 藤木は堀のみならずみどりにも謝意を示さない訳には行かなかった。不幸の手紙事件の後にスケート場で会って自分が卑怯者だと明かした時、どんな時も自分の味方であると言ってくれた。そして、みぎわと冬田に遭遇した時、自分としては少し情けなく思ったが、みどりは自分を庇ってくれた。自分はみどりは好みでないが、彼女のこの好意には答えてやろうと思った。そう思いながら、藤木は貰った楯を自分の部屋の棚の上に飾った。
 夕方になり、藤木は両親と鍋料理専門の店へと向かった。そしてすき焼き入りの鍋が運ばれてきた。それを店員がガスコンロ上に乗せ、火をつけた。
「それじゃあ、金賞を獲った茂に乾杯だ!」
 藤木の父がビールの入ったグラスを片手に持ち、乾杯した。
「本当に贅沢していいのかな?」
「もちろんだよ。茂が頑張ったんだから」
「うん・・・!」
 藤木達はすき焼きに手を付けた。そのすき焼きの肉は藤木にとって非常に旨く感じた。肉だけではない。豆腐も、椎茸も、葱も、白瀧も、人参も、白菜も、全てが美味だった。

 永沢は目を覚ました時は病室の中にいた事が分かった。自分は救われたんだと今感じた。
(僕は、助かったんだ・・・)
 永沢は顔を横に向けると、隣のベッドに城ヶ崎が寝ていた、右腕に三角巾が付けられていた。
(城ヶ崎・・・。そうか、城ヶ崎が太郎を最後まで守ってくれたんだな・・・。いつもは嫌な奴だけど・・・)
 永沢は各務田の言葉を思い出した。
《てめえにとって藤木や城ヶ崎って何なんだあ!?友達じゃねえだろ!?ただのお邪魔虫だろ!?》
(僕にとって藤木君や城ヶ崎は・・・。どれだけ卑怯でも、生意気でも、大事な同級生なんだ・・・!)
 永沢は藤木や城ヶ崎の人間関係を顧みた。

 藤木は意気揚々と学校へ向かった。
(この事を笹山さんやリリィに言えば僕の事を見直してくれるだろうか・・・。いや、これは直ぐに言わない方がいいかな?どの道学校にも連絡が来て戸川先生が言うからその時に皆が驚いてくれればいいか!)
 3年4組の教室に入った。しかし、何かと皆そわそわしていた。
(な、何だ?この嫌な雰囲気は!?)
 藤木は何事かと感じた。 
 

 
後書き
次回:「絶望」
 学校に向かった藤木は昨日彼に連絡が付かなかった事で卑怯者と非難を受ける。藤木はそれで発狂し、以前と変わらない事で絶望し、体育館裏へと逃亡する。そんな時、藤木の元に訪れたのは・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧