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とある3年4組の卑怯者

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100 地区大会

 
前書き
 藤木のスケートを高評価している元オリンピック選手という設定の片山次男という人物の名前のモデルは戦前に活躍した元フィギュアスケート選手の片山敏一と長谷川次男からとしています。 

 
 みどりはいつもより早く目覚めた。藤木を応援するために興奮が止まらないのだった。
(藤木さん、間もなくそちらに向かいますからね・・・)

 朝食の時、藤木は和島の家族とばったり出会った。
「やあ、藤木君、おはよう」
「和島君、おはよう」
「キミも精々頑張ってくれたまえ」
「君もミスには気を付ける事だね」
「何、ボクは本番ではそんな無様な事しないぞ!キミの方がよほどできなさそうじゃないか」
「そんなの分からないだろ!?」
「分かるね」
「くう~」
「おい、茂。こんな所で喧嘩するな!飯食え!」
 藤木の父が息子を叱った。和島も両親に嗜められ、その場を離れた。
(絶対に僕が勝ってやる!!)

 永沢は城ヶ崎の家で目を覚ました。傍で太郎も寝ている。他所の家で寝泊まりしているという事を除きこれといった違和感はなかった。しかし、昨日の事は夢ではない。いつまでこのような逃亡生活を余儀なくされ続けるのか落ち着かなかった。。
「父さん、母さん・・・。僕と太郎は無事だよ・・・」
 その時、誰かが戸を開けた。城ヶ崎の母だった。
「あら、永沢君、起きたの?」
「あ、おばさん・・・。おはようございます・・・」
「大丈夫よ。警察には電話してあるからきっとまたお父さんとお母さんに会えるわ」
「はい・・・」
 しかし、各務田の正確な居場所さえ確認できなければ、この胸騒ぎを収めることはできないだろうと永沢は落ち着かなかった。

 藤木は両親と共に大会の開催地であるスケート場に向かった。朝食の時、和島と少し前哨戦をしたが、弱気になってはならないと思った。
「茂」
 母が呼び掛けた。
「何だい、母さん?」
「周りの人に圧倒されちゃだめだよ、お前が自慢できる技術を見せればそれでいいんだよ」
「うん・・・」
 藤木はこの母の言葉だけでも気を落ち着かす事ができた。
(今日はみどりちゃん、堀さんも来るんだ。絶対に失敗しないぞ!そして自分のこれまでの特訓の成果を見せてやる!!)

 みどりの家の前に堀の車が到着した。堀はみどりを呼んだ。
「吉川さん!」
「お待たせしました」
 みどりはいつもよりおめかしをしていた。
「えへへ、藤木さんの晴れの舞台ですから少しお洒落に時間がかかってしまいました・・・」
 対して堀はいつもの服装だった。
「うーん、別に結婚式とか高級レストランへ食事しに行くわけじゃないんだからそこまでしなくても・・・」
「何言っているんですか!折角応援に行くのに藤木さんに失礼です!!折角お花屋さんにまで行って花束まで用意したのに!!」
 みどりは手に持った花束を見せた。
「そ、そうなの・・・、藤木君、きっと喜ぶわよ」
 堀はみどりが藤木よりも気合いが入っている事に変な雰囲気を感じた。
「では、行きましょう!」
「そうね!!」
 みどりと堀は車に乗り、堀の父は車を発進させた。

 藤木家は大会の会場へと到着した。藤木の母は受付に交通費と宿泊費の領収書を提出した。係員からは後日振り込まれますので通帳を確認してくださいと言われた。本番は午前11時開始となっており、それまでは練習時間に当てられた。藤木は出場者用の控え室で準備運動をしていた。その時、大会の関係者が出場者全員を集合させた。
「大会本番までは皆出席番号順で6班に分けて15分ずつ練習させてもらいます。皆さんの健闘を十分井祈っております」
 番号の1番から6番までの参加者が呼ばれスケートリンクに向かい、練習を始めた。藤木は自分の番が来るまで待機するという形になっていた。
「やあ、藤木君」
「和島君、君はまだなんだね・・・。君の番号はいくつ何だい?」
「10番さ。キミは?」
「僕は14番。一緒に練習することはないか」
「まあ、ボクはキミの練習なんて興味ないな。キミなんて足元にも及ばないからね」
「君の足元に及ばないなら僕は最初からこの大会に出ていないよ。それにやけに僕につっかかってくるという事は本当は僕の凄さに恐れてライバル視しているんじゃないのかい?」
「な、そんなわけないさ!ボクはキミと同じ清水に住んでいるからただ話しかけてるだけさ!」
 和島は否定した。
「なら、最後にどっちが笑うか、結果を待とうじゃないか」
「ああ、いいとも」
 藤木は自分の練習の番が来るのを待っていた。そして7番から12番の出場者が呼ばれ、10番の和島はリンクへと向かった。

 片山は既にスケート場の観客席で各参加者の練習の様子を見物していた。
(うーむ・・・、どの選手もなかなかやるな・・・。まあ、これは練習だから本番ではもっと本気を出すだろう・・・。それから、私が目を付けた藤木君はそれ以上の成果を見せる筈だ・・・)
 13番から18番の出場者が練習を行うように催促された。片山は藤木が現れた事に気付いた。藤木が練習を始める。藤木はステップを踏み出し、ジャンプおよびスピンを始めていた。トリプルサルコウ、トリプルルッツ、そしてトリプルアクセルを見せた。
(うむ、素晴らしい・・・、まさに優勝候補の一角だ。だが、どの技も高得点に値するが、決定的な技がどれか判りづらい・・・、はて、藤木茂、君はどの演技を必殺技とする?!)
 片山は藤木のプレイを期待した。

 永沢は城ヶ崎の家で朝食を御馳走になった。その後、電話が鳴り、城ヶ崎の父が出た。
「もしもし、城ヶ崎です」
『あ、城ヶ崎さん。永沢です』
 永沢の母だった。
「永沢さん!?どうしましたか!?」
『息子の太郎は大丈夫かなと・・・』
「ええ、無事です。あと、君男君も此方で預かっています」
『お兄ちゃんも!?しかし、あの子は藤木君の家に・・・』
「それが藤木君の家には誰もいなかったので、私らの方で泊めてあげることにしました」
『そうですか、ありがとうございます・・・。此方は大丈夫だと伝えてください』
「ええ、では失礼します」
 城ヶ崎の父は電話を切った。しかし、離れようとして途端、電話が再び鳴った。
「ん、なんだ?」
 城ヶ崎の父は受話器を取った。
「もしもし」
『おい、聞くけどよ、城ヶ崎ってとこの家だな!?』
 粗雑な声だった。城ヶ崎の父はまさかこの声が各務田出吉という男なのかと疑った。
「あ、ああ、それが何か?」
『そっちに、永沢って奴のガキ泊まってねえか!?』
 城ヶ崎の父はこの男こそが各務田、そうでなくとも、各務田の仲間かと疑った。
「生憎だが、ここにはいない」
『そうか、いたらこっちに差し出せ!わかったな!?』
 電話は切れた。城ヶ崎の父は機転を利かして嘘をついたものの、いつばれるかは時間の問題であった。
 城ヶ崎の父は娘の部屋に向かった。 
 

 
後書き
次回:「連絡網」
 城ヶ崎家に各務田から永沢が泊まっていないかという電話が来た。城ヶ崎の父はその場を誤魔化すが、永沢を守るために娘に連絡網でクラスの皆に注意を呼び掛けさせ・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 
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