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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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マザーズ・ロザリオ編
  第254話 助ける為に

 
前書き
~一言~

やー、早くに投稿出来てほんとーに良かったのですが……… 話を広げ過ぎた様な、こんな子供いねーよ!! って大声でツッコミそうになったり、思ったりしちゃってました……。話を難しくさせ過ぎたせいか 何だか執筆途中で自分も混乱しそうになっちゃって……(涙)なので 変なトコがあったりするかもですが、ご了承くださいです……。

最後に、この小説を読んでくださって、本当にありがとうございますっ!! 今年こそは! マザロザ編を完結させれるようガンバリマス!


                                 じーくw 

 
 1月12日、午後12時50分、第2校舎3階北端。

 昼休みだからだろう、喧騒がかすかに届くこの場所は電算機室で、明日奈と玲奈は2人して、背筋を伸ばして椅子に腰かけていた。

 いつもの制服……ブレザー姿なのだが、そこには1つだけ違う部分がある。右肩部分に昨日までは無かった物が備え付けられていた。それは細いハーネスで固定された直径7センチほどのドーム状の機械。基部はアルミの削り出し材で、ドーム部分は透明なアクリル製、その内部に収められているのはレンズ。明日奈と玲奈 其々の基部のソケットから2本のケーブルが伸び、1本は2人の携帯端末、そしてもう一本は近くの机に鎮座した小型のデスクトップPCへと接続されていた。

 PCの前には勿論 和人と隼人……だけではなく、メカトロニクスコースを同じく受講している2人の生徒が頭を寄せ合って、あれこれ考えを口にしたり、時折は隼人にアドバイス等を受けていた。 ある程度は理解できるとは言え、明日奈も玲奈も 専門用語が多すぎだから、まるで呪文めいた言葉に聴こえるのは仕方ない事だった。

 
 当然、遊んでいる訳ではなく、1つの目的に向かって皆で知恵を出し合っているのだ。


「だからさ、これじゃジャイロが敏感過ぎるんだって。視線追随性を優先しようと思ったら、ここんことのパラメータにもう少し遊びがないと……」
「んー…… でも、それじゃあ、急な挙動があった時に追いつかず、ラグるんじゃないか?」
「そのへんは、この最適化プログラムの学習効果に期待するしかねえよカズ。……さて、前準備はこの辺が限界だって思うし、ついでにもう ここまでの点数を隼人せんせーに付けて貰おうぜ」
「おっ、それもそうだな。何せ、オレらの特別講師だからなぁ」

 先程まで、和人相手にあーでもない、こーでもない、と言っていたのに、3人の視線が一気に隼人に集まった。それを感じ取ったのか、隼人は頭に手をやり、二度、三度と頭を叩く。

「……やれやれ。今更ながらほんと厄介だな。こういうのって苦手だ」
「でも超得意専門分野なんだしさ。教えるのくらいぶっちゃけ片手間って感じだろ? んじゃ 早速オレの採点も頼むぜー。『はくぎんのちょうゆうしゃせんせー』っ!」

 ニヤニヤと笑う和人を軽く一瞥した隼人は2人に向き合った。指差し棒を手に持ち 肩に二度三度当てる姿は、本当に教師に見えなくもない。これまで、教える事と言えば VR世界ででの攻略系ばかりだったから、こう言った勉強方面も悪くないと思ったりもしている。

「先ずはさっきのレートジャイロに遊びを設ける考えだ。オレは良い判断だと思う。口出しはしなかったが、確かにあの数値じゃ敏感にさせ過ぎだな。バランスを保つ具合も確かに重要だが 今の判断がベストだ。視線の追随性を意識したのも良いポイントの1つだ。生徒向きなら既存のままでも十分だが、目的…… 彼女達(・・・)の事を考えたらな。大人しくはしない可能性が高いと思うからな。後タイムラグについては、手動調整には当然限界があるから、下手に弄るよりは最適化プログラムに任せた方が良い。今回の判断は間違いないとオレも思う。……と言う訳で今回に関しては2人には其々実技点80点、と先生達には報告しておく。だが、正式じゃないからな。ちゃんと出すもの出しとけよ?」
「「っしゃあ!! サンキュー 隼人っ!!」」
「……ってか、筆記の方もこれくらい情熱もってやれば、楽勝じゃないか? お前らだったら」
「「ぅ……」」

 当然だが採点は教師が行う。だが、この班は別だった。
 隼人の事を特別扱いを~ と言った事ではない。専門分野において知識や技術に関しては 世界一の腕を持つ隼人を超える者が教師を含め、この学校にいる訳もない。だからか、退屈をしない様に(隼人自身は退屈を否定しているが)と先生がユニークな教育方針を立てたのだ。

 知識や技術面ではなく、他人に教える事、そして評価をしてみる事、それらも、向上性を刺激する。隼人には 誰かを教える力を養ってもらうと言う考え、と言う訳だ。これが結構良い具合に回ったらしく、他の生徒達にも良い刺激を与え、隼人も試行錯誤を繰り返していたが、同じく良い刺激になっていた。

 採点に関しては、出来具合を再度先生が確認するから、不正や賄賂? 的なモノは通用する事は無いのは当たり前で、……そもそも 隼人自身がその手のモノに乗る訳がない、と言うのは何回か行って証明済みだから、教師側も安心して任せているのだ。
 

 隼人は100点満点をつける事は基本的には無い。
 これは答え等は当然ない。極論すれば100人いれば100人の回答が存在するからだ。何を思って作るか。何をさせたくて作るか。思い1つで驚くほど変わるから。
 そして何よりも、100点を付ければ そこから先の伸び代も無いと思えてしまうからだ。まだまだ先は天井知らずであり、何処までも行けると思っているからこそ、その期待値を込めて、隼人の中では80点を上限としている。その点は先生達に伝えていた為 実質満点に近い評価点、となるので、2人は非常に喜んでいるのだ。

 筆記テストに関しては、やっぱり実技の方が面白さが上回って頑張れるけど そっちは………と言う様子だった。
 
 そして、当然次は和人。

 今回のテーマの発案者であり、(ユイの為)誰よりも力を入れている科目だから 非常に自信があった様だ。それまでのプログラミング等も大体の骨組みは和人が行ったし、今回の主役は間違いなく和人だと言う事は他の2人も判ってる+認めてる為 文句の類は一切なかった。

 と言う訳で、お預けをくらった子犬が美味しそうなご飯を前にウズウズさせているかの様な視線と仕草をさせてる和人を見て隼人は、にこっ と意味深に笑った。 目を細めて、絵にかいた様な笑顔……まず、間違いなく…… 某女子たちに絶対嫉妬されそうじゃね? って思うくらいの良い笑顔。レア度で言えば5つ☆クラスな隼人のスマイル。

 ……だが、それに冷や汗を感じるのは和人だ。この手の笑顔で話す時は決まって……。

「桐ケ谷和人君。キミ、29点。欠点赤点落第点」
「な、ななな! なんでだよっ!!」

 男達にとって良くない事が起こる前触れである。

「加点方式だ。視聴覚双方向通信プローブのテーマを掲げた時点で、着眼点も面白いし、実用化も出来そうだってことで、何社かのスポンサー企業も期待している、って言葉を貰ってる。……その時点で満点に近い高得点を上げたい」
「ほっ…… なんだよー 冗談止めてくれって……。オレそんな成績は余裕ないんだかr「最後まで聞く様に」っ……」

 本当に先生? って思えてしまう。和人は ずるっ と椅子から落ちそうになるのを何とか堪えて、背筋を伸ばした。 隼人の視線が急に冷たく、暗くなった気がした。

「―――学校で、オレの事を名以外で呼べば(アバター名は可)-XX点(その時の気分だ)。……いつぞやの時に口酸っぱく言った筈だがもう忘れたか? それに和人自身も 『マナー違反はダメだ』って何度か言ってたと思うんだが…… オレは幻聴でも聞こえる様になったのか? 確か、『はく~』 何とかだの、『ちょうゆう~』 なんとかだの聞こえた気がするんだが……? それって オレのアバター名より 厄介なモノだって知ってると思うんだがな……」

 因みに隼人が上げているのは、レコンとリーファの件の事だ。

 レコンがしきりに、リーファの事を『直葉ちゃん』と呼ぶ事が多く、困っていた時があって 兄として和人はきっちりマナーについて 直葉と共に説教に加わったりしていたのを隼人は見ていたのだ。

 隼人の場合、『リュウキ』と言う名はキャラネームと言うよりは云わばもう1つの名前も同義だから、別に問題ないのだが その他諸々は、自他ともに認める程のご法度だ。(ゆうしゃ~ は初めて和人から言われた為、それも結構響いてる)
 エギルによく言われていて、『ソレヤメロ』と言うのは彼の口癖だったのだが……、あまりに度が過ぎるので、実力行使と言う事で、『取引をしない様に検討しようか……』とつぶやいた所、エギルはあっという間に白旗を振った。と言うのも皆知ってるから、からかうのが幾ら楽しくても、ほどほどにしよう、と暗黙のルールが出来上がったりしてるのだ。

 因みに結構 踏み込んでいけるのは女性陣のみである。


「ぅ…… そ、それは判ってるけど、そこまで言ってないだろっ??」
「だから言っただろ? さっき言ってたのがけっこー 良い具合にムカついた。だからもれなくサービスマイナスポイントだ。どうだ嬉しいだろ?」
「全然うれしくねーし! マイナスって時点で! それに採点に絶対私怨入り過ぎだろーーっ! も、もーちょっとこーへいにしてくれーーっ!!?」
「オレはいつもいつも公平だ」
「うそつけー! ぜーーったい私怨入ってるだろっ!? 今までの分まとめてるだろー!? アルゴのとか、クラインのとかのオレに纏めて!?」
「……さぁ、どうだろうな。オレ、判らん。ってか、私怨だろうが何だろうが、和人が言ったのは事実は変わらないだろうが」
「そ、そのとーりです! オレ悪かったです! すんませんでしたぁ!!」

 この2人の光景も 結構恒例だったりする。面白おかしくケンカする2人を見るのは本当に微笑ましかったりするから、先ほどまで喜んでいた2人もニヤニヤと笑ってみていた。

 だが、別の2人…… ずっとお預け状態になってしまってる明日奈と玲奈。いつもなら同じく笑っているだけなのだが、今日はそうはいかない。

「ちょっとー! 遊んでないでよー。キリトくーん、リュウキくーんっ!」
「そうだよーっ! お昼休み終わっちゃうよー?」

 実を言うと、PCにプローブと携帯端末が繋がれている為、2人はずっと固定状態。姿勢固定を強制されている様なもので、そんな状態が、隼人を除いた3人であーでもない、こーでもない、と約30分。更に 隼人の点数発表会+はしゃぎタイムに5~10分。流石に焦れてしまった様だった。

『あはははっ。リュウキとキリトってば、ほんっと仲良いよねー? 姉ちゃんやアスナ、レイナが妬いちゃうんじゃないかなー?』
『……ユウ?』
『わひっ! や、ねーちゃんっ! ゲンコツはダメーーっ』

 明日奈と玲奈の肩に乗っているプローブからも楽しそうな声が聞こえてきた。
 それは聞き覚えのある声――と言うか、間違いなく《絶剣》と《剣聖》の2人だ。

 観客(ギャラリー)がいつもよりも結構多い現状を思い出したのか、隼人も和人も咳払いをさせつつ定位置に戻った。


 勿論――あの採点は やり直す………よ? 多分。最終的に点を付けるのは先生だから 別にこのままで良いや! と思うかもしれないが、悪しからず。



「……とりあえず、今の目的を考えたら初期設定はそれでで全く問題ないよ」
「わ、判った。何だか不安な感じだが…… 待たせてるしな。さて、お2人さん。ユウキさん、ランさん。聞こえますか?」
『はーい! よく聞こえるよー!』
『はい、聞こえてます。キリトさん』
「さっき声したし 訊かれてるの判ってて言ってるだろ……」
「うっ…… わ、判ってるって。一応だよ、一応」

 と、またまた漫才を始めそうになる2人。この場にリズ事里香さんが入ればナイスなツッコミが入ってさきさき進めそうな気もするが、現在いないので 致し方なしだ。
 それに、もう始まったから。

「こほんっ と言う訳で、2人とも、これからレンズの周りを初期設定(イニシャライズ)しますんで、視界がクリアになったところで声を出してください」
『はーいっ、りょーかい!』
『了解です。宜しくお願いします!』

 うぃぃん……と、レンズがフォーカスを調整するモータ音が静かに響く。時間にして2~3秒後だろう。ユウキとランの2人は これぞ、双子だ! と拍手してしまいそうになるくらい、見事なタイミングで『『そこっ!』です!』とハモっていた。それに、ランだけが丁寧語で話すから、更に笑いが起きそうで更に微笑みが生まれる。

「よし、これで終わったな。確かに隼人が言う様に、学校生活を堪能する。授業を受けるのが基本だし、これで十分の筈だ。だけど2人とも。一応スタビライザーは組み込んであるけど、急激な動きは避けてくれよ。それに声もあんまり大きくさせない事だ。囁くくらいで十分伝わるからな」

 和人の説明を聞きながら、目を輝かせる明日奈。玲奈も笑顔になりながら、ちらりと隼人の方を見た。隼人は、軽くウインクをして親指をぐっ と上げたサムズアップで答えてくれて、備えはばっちりだと言う事、その最大限の保証、お墨付きを得て もう不安は何もない。

「了解、りょーかいっ!」
「ありがとうっ、キリトくんっ! リューキくんっ!」

 本当はもうちょっと注意事項はあるのだが、今にも飛び出しそうな2人を見ていると、少し抑えた方が良い……と判断した和人。その点の判断は満点だ。まごまごしていると、其々の肩の上で今は大人しくしている絶剣と剣聖もしびれを切らせて飛び立ってしまいそうな気がしそうだから。

 その後は和人の注意点をしっかりと頭に入れていた様で、肩口に小声で話しかけていた。
 何度か話をした後は、『これから先生に挨拶に行こうっ!』と言う事で、4人にもう一度向き直って手をひらっと振って外へと出ていった。

「嵐の様な時間だったなぁ……」
「突貫だったし、でも オレは隼人に高得点貰えたから満足だ。姉姫、妹姫の笑顔も見れたしな?」

 2人は よっこらせ、と年寄り染みた掛け声を出しつつ、椅子から立ち上がると。

「オレら、次の授業の準備担当に振られてるから、先行ってるぜ? カズ、隼人」
「おう。今日はありがとな」
「良いって事よ。おっ、そうだ。今度プログラミングの授業でC言語、基礎編からちょっとやりたいんだけど…… 付き合ってくれっか?」
「それ位ならお安い御用だ。これを手伝ってくれたんだ。全然安い」
「サンキュー! ってか、隼人は世界一の先生だぜ? 見てくれるだけで金いるんじゃね? ってオレは思っちまうよ」
「いやいや、自分が出来るのと教えるのは全然違うだろ。……オレの場合、もう身体の一部みたいなもんだから、感覚に頼る事が多いし、優秀とは言えないって思うぞ」
「それでもメッチャ頼りになんのっ。ぜんっぜん優秀なの! てな訳でカズも頑張れよ? ……確か、隼人に追いつく~ って聞いたぜ?」
「……果てしなく高過ぎて、遠目からでも頂き見えないのが辛いトコだが……」
「あのな? 目標って思ってくれるのは正直嬉しくも思うし、光栄だ。(少々照れくさいが……)でも、年季ってもんがあるだろ? 流石に一朝一夕で 追いつかれたら、逆に立つ瀬無いぞ……。オレの十数年はなんだったんだ、ってな具合に」

 はははっ、と4人で少しだけ打ち上げならぬ、談笑を行った後に2人は出ていき、和人と隼人の2人になった。

「……改めてオレからも礼を言うよ和人。正直、オレも時間が足り無かった。助かった。ありがとな」
「そりゃそーだろーよ。あのスケジュール見たぞ? あれに加えるなんて絶対無茶だって。以前の比じゃねぇじゃん。……それにしても玲奈にバレなくて良かったな? 今でこそ、あの2人に付きっ切りなトコあるけど、隼人の事は当然誰よりも見てるし、誰よりも心配かけやすいんだし」

 和人は、両手を頭の後ろで組み、ぐーっと背筋を伸ばした。

「はぁ~ でもやっぱ凄いな隼人は。マジで尊敬する。尊敬し直した」
「……止めろって。オレはオレの出来る事を全力でしただけの事だ。それに、じぃ…… オレの親のおかげでもある。それなりのコネクションがあったから、比較的に実現が早かった。本当に助かった」
「マサチューセッツの病院の名医たちもきたー……だっけ? 他にもいろんなトコの、オレでも聞いた事がある病院のトップや教授たちが総動員で横浜の病院に来た時って 病院の皆、目を白黒させてたんじゃないか?」
「その点は大丈夫だろ。ちゃんと事前に連絡はしてるんだから」
「………いや、まぁ 連絡確認とかその辺は心配して無いケド…………、連絡来ただけでもスゲーんじゃね? って思ってさ」
「ん? そうか?」

 さらっと言ってしまえる辺り、やっぱり脱帽してしまう和人。因みにこれでも最近は比較的慣れた方なのである。

「……後は 皆を信じて願うだけだ。……いや、きっと大丈夫。……見守ってくれてる筈だから。絶対……な」
「そうだな。オレも信じてるぜ。隼人だって絶対無理、絶対的なシステムの壁だって超えてみせた。 ちょっとクサイけど、想いの力ってヤツは絶対ある。この世界で一番強いって思ってる。もう大分前だがお前と再会できた時一番思った。……勿論、技術だって知識だって必要なのは判ってるケド、そのどっちのレベルもMAXなんだ。いけるって 絶対」
「………ありがたい言葉だが、和人だって結構大概だからな? あまりオレを持ち上げ過ぎないでくれって……」
「他の連中がいない時くらい良いじゃねーか」

 皆がいる時、からかう様に言う事はあっても、ここまで真剣には和人だって言わない。和人……キリトであっても なかなか言えない事だ。だけど 今は聞いているのは隼人、リュウキだけだから、本心が少なからず出るのだろう。
 
 隼人は、苦笑いをしつつも 和人に倣ってぐっと背伸びを1つした。

 皆に笑顔が戻った事に、本当に喜びを感じた。
 仕事を通して、ここまで人を笑顔に出来た事…… 仕事先の相手は 何度かあったらしいが(基本的に接触は綺堂が行う)、隼人自身はそこまでは体験した事が無かった。
 
 それが最愛の人。……助けたかった人。大切な仲間。そして 隼人……リュウキは感じた


 命のバトン。それをあの時に。

 
 ユウキ達に全てを教えてもらって、また彼女に、……サニーに会えるかもしれない。また話をする事が出来るかもしれない。自分自身の思い出を語り、成長出来た所を見せれるかもしれない。レイナには妬かれるかもしれないが、リュウキは 少なからず思っていた。
 だからこそ、真実をしった時 ユウキやランの様に悲しかった。だけど それ以上に感じたのは 目の前の少女たちの事、そして その背後に 確かに視えたサニーの事だった。

 サニーが自分達とユウキ達を、スリーピングナイツの皆と引き合わせた、と。

 倉橋氏から、詳しい事は全て聞いていた。スリーピングナイツのメンバー達の病状についても含めて。プライバシーの問題もあるから、本名は一先ず置いといて主に病名や病気のカルテのみを確認。勿論、ユウキとランの事も訊いた。

 皆が戦い続けた相手は、これまで自分達が戦ってきた相手と比べても、引けを取らないどころか、非常に凶悪で、最悪だって言って良い相手だと感じたのは言うまでもないだろう。
 

 そして ユウキとランの2人。


 2人の病名は《後天性免疫不全症候群》。即ちAIDSだった。
 2人が感染してしまったウイルスは 現在日本で承認可能となっている薬では効きにくいもの、即ち《薬剤耐性型》だった。その事実も更に重く、深く彼女達の心と身体にのしかかり、ゆっくり蝕んだんだ。

 病は気から……と言う言葉もある通りだ。 多剤併用療法を生後から行い続けてきて辛い副作用も乗り越え続けどうにか、危険な時期を乗り越える事が出来たのだが……、不幸な事に、様々な事情も重なって数値が危険値にまで急激に下がりだした事だってあった。

 そんな彼女達を救ったのが サニーだった。彼女の屈託のない笑顔。そして優しさ、温もり。それらが2人の心に届いた。生きようとする意欲を再び押し上げ、下がり続ける数値をも止めた。少なくとも倉橋はそう信じていて、話を訊いたリュウキも同じく頷いた。 
 だからこそ、はっきりとユウキとランの傍にサニーがいる様に視えたんだ。



 そこからは、リュウキの仕事だった。



『引き合わせたのには理由がある』




 そう、リュウキの眼にはサニーが視えた。決して幻覚なんかじゃない、と強く思いながら、かつて記憶をなくしていた時に出会ったサニーの事も思い返していた。

 サニーは、いつも誰かの為に 出来る事全部している。だからこそ、その意思をリュウキが受け継いだ。勿論、ユウキやラン、皆を助ける為に。



 皆は今は繋ぎとめているとは言え、まだ綱渡りな状態である事は否定できない。余命宣言までされてしまった者だっているのだから。



 だからこそ、その日から寝る間も惜しみながら、リュウキは行動を開始した。



 医療関係の仕事にも携わっていた事も多々あり、リュウキの親、綺堂の繋がりもあって、海を越えて 海外の医学界へとつなげた。海外では有効性が立証、証明され論文は世界的にも有名になり ノーベル医学賞にも届いた程のモノ……だったが、生憎まだ日本では未承認薬であり、薬剤効果もそうだが金銭面においてもリスクが高かった。

 つまり現状ではメデュキボイドの実用化と言う強みしか持たなかったのだ。

 そこへ、全面協力を申し出てくれた各国の医学界の権威たち。

 和人が言う様に確かに目を白黒させ、興奮した者も多かった。医者を志す者であれば 100%近く知られている様な名の医師たちが一同に集ったのだから。
 未承認で保険が下りない物に関しては、治験も利用し、果ては足りない分の金銭補助まで申し出ると言う異例尽くしだった。


『本当に感謝します。はるばる日本まで来ていただき……』


 リュウキは綺堂と共に頭を下げて出迎える。
 そんなリュウキを全員で抱きしめる勢いで集まってきて、皆が笑っていた。

『君の為なら世界中どこへでも駆けつける』
『我々の力を必要としてくれた事に感謝するよ』
『リュウキともそうだが、キドウともまた話がしたかった。メールのやり取りだけでは味気ない』

 其々が口々にそう言って笑っていた。



 
 そして ユウキとランを見つけた数日後に 横浜港北総合病院にこの全員が集ったのだ。


 勿論、その目的を訊いて ユウキもランも唖然としたのは無理もない。自分を、自分達を治す為に集まってきてくれたと言うのだから。

『ほ、本当に驚いていて…… 感謝してもしきれません。で、ですが 私達だけを特別扱いをしていただく訳には……』
『そ、そうだよっ。ボクもあまり知ってる訳じゃないけど…… 沢山の国、全部合わせたら、日本で暮らす人たちより多い人たちが 待ってるんでしょ? 順番を待ってるんでしょ? その、先生たちにも患者さんが待ってるんでしょ? ……そのひとたちを差し置いて、ボク達が………』

 確かに危機は脱したとはいえ、まだまだ自分自身の命が掛かっている。それでも躊躇したのは、当然同じ病気で苦しむ人たちの事だった。順番待ちをしている人だっている筈。先生の帰りを待っている人だっている筈。
 それを考えると、自分達だけがこんなに優遇されて良いとは到底思えなかったのだ。

 それを訊いた医師たちは、まだまだ幼さが残る少女たちの優しさ、そして強さに驚きながらも微笑みを見せて、翻訳を通じて返事を返した。

『我々を待つ患者は確かに沢山いる。だが、我々は全員を見捨てたりはしない。ジャパンに来て、諸君らを助ける事で遅れてしまう時間があるのであれば、我々の娯楽の時間を、休息の時間を、眠る時間を、全ての時間を必要なだけ削ろう。そうすれば十分に賄える。それに優秀な部下達も控えている。……君たちが心配をする事はない』

 勉強熱心で、トップクラスの学力だった2人だが、流石に英語のヒヤリング万能……とまではいかないので、翻訳の人に何度も確認をしながら言葉を理解した2人。当然、そんな無茶な、と慌てていたが それを見越したのか 2人がそれ以上何かを言う前に再び笑顔を見せながら言った。

『他にもワケがある。こちらが本命だ。……我々は寧ろキミたちに感謝をしているとも言えるんだ。ミスター・リュウキへの恩を返す機会を与えてくれた。彼の仕事のおかげで、我々は苦しむ沢山の人達を助ける事が出来た。このメデュキボイドを初め、世界最先端医療機器のシステムの構築。並の技術者ではこれ程までの速度は不可能だと言える。何年もかかる大事業だった。……全て、彼が協力してくれたから。メデュキボイド自体もこんなに早く実用化できる様になる事だって有り得なかった』

 ちらりと視線を向けたのは、リュウキの方だ。
 今ここの医師達と海外からの医師達とのチームを組んで 今後のスケジュールについての打ち合わせをしている所だった。
 彼が中心になっているのが これ程までに自然に見えた。確かリュウキの職業はプログラマー……ではなかったか? とつい疑問に思うラン。

『彼の医療知識は、並の医師を凌駕している。我々も彼に学ぶ事は山ほどある。……そして、彼ほど優しい少年は他にはいない』

 ユウキとランの肩に手を置き、微笑みを絶やさずに伝えた。

『負い目を感じる必要は無い。ただただ、彼を誇りに思いなさい。そして、ここから先 キミたちにとって決して楽な道ではない。苦しい道がまだ続くでしょう。……頑張って、病気に打ち勝とうと最後まで頑張る事、それこそ、彼への恩返しにもなる。……それに きっと先に旅立ってしまった彼女達も願ってる筈だ。もっとたくさんの思い出を作ってきて欲しいと。……自分達の分まで生きて欲しいと』

 ユウキとランは、涙が出そうになるのをぐっと堪えた。
 それでも流れ出てしまう。そして、それを見たリュウキが心配しながら戻ってきた。
 

 そんなリュウキに精一杯の笑顔を、2人は送るのだった。



 
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