髭男
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第二章
「ナチスみたいでな」
「あまりよくないな」
「御前はヒトラーじゃないけれどな」
「ヒトラーの髭はな」
「やっぱりな」
「そう、じゃあ別の髭にするわね」
謙信も頷いてだ、別の髭の生やし方にした。今度は口髭の面積を伸ばし少し剃らせてみたのだが。
友人達はその髭を見てだ、また言った。
「ちょっとな」
「その髭も似合わないな」
「赤崎って何かこういう髭似合ってないか?」
「口髭だけだとな」
「どうもな」
「それその髭ってな」
「スターリンだよな」
今度はソ連の悪名高き独裁者だ、果たしてヒトラーとどちらがより悪いか議論の分かれるところか。
「スターリンもどうかな」
「ヒトラーと一緒だよな」
「というかナチスとソ連ってどう違うんだ?」
「社会主義と共産主義の違いか?」
ナチスはドイツ国家社会主義労働者党という意味だ、実際に経済は完全に統制経済であった。
「社会主義と共産主義ってどう違うんだよ」
「一緒じゃねえのか?」
「ナチスも政治将校いたしな」
ソ連と同じくというのだ。
「どっちも秘密警察持っててな」
「一党独裁で」
「それにどっちもユダヤ人迫害してたな」
「それは只の人種主義だろ」
こうした話にもなったが結論はというと。
「まあスターリンみたいな髭もな」
「ヒトラーと一緒でな」
「よくないな」
「どうもな」
「止めた方がいいな」
「そうね、何かあたくしもね」
謙信自身手鏡で自分のその髭の顔を見て言った。
「どうもって感じね」
「ああ、別の髭にしてみな」
「顎鬚とかどうだよ」
「そっちの髭どうだよ」
「髭は口じゃないぜ」
こう言ってだ、謙信に美悦の髭を勧めて謙信も新たな髭にしてみた。今度の髭は顔の下半を覆う感じだった。
その髭の謙信にだ、友人達は今度はこう言った。
「前の二つよりいいか?」
「そうだよな」
「似合ってなかったしな、前は」
「ヒトラーやスターリンだったしな」
「独裁者よりいいな」
「ただ、どうもな」
「そうした髭って痩せた顔にはな」
謙信のそれにはというのだ。
「今一つな感じするな」
「というかこの髭パヴァロッティだよな」
「あっ、そうだな」
「今の赤崎の髭パヴァロッティだな」
「そうだな」
イタリアのテノール歌手の彼だというのだ、ハイCの見事さとイタリアの空を思わせる素晴らしい声で有名だった。
「あの歌手だよな」
「パヴァロッティは太ってたから似あってたけれどな」
「何か赤崎だとな」
「どうもだな」
「というかの髭はパヴァロッティだからか」
「似合うって感じか」
「そうだよな」
彼の堂々とした体格に会う髭だというのだ。
「だから赤崎にはな」
「別の髭がいいか」
「もっとスタイリッシュな感じか?」
友人の一人がここでこう言った。
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