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龍が如く‐未来想う者たち‐

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井上 慶介
第一章 禁じられた領域
  第八話 疑惑

井上は、檜山と共に夜の蒼天堀へと繰り出していた。
ネオン明るいこの街も、神室町に負けじと活気付いている。
しかし一度裏の道に入れば、消されていたはずの闇の手が蔓延(はびこ)っていた。
いつしかその闇が、心地よく感じるようになった井上が作り上げた復讐。
今、その復讐の一歩目を踏み出そうとしていた。

桐生を神室町へと運び出す。
誰にも気付かれずにという、難易度の高い条件付きだ。
だがその条件は、井上にとっては好都合だった。
この事を知る者さえ消してしまえば、桐生を簡単に人質に取る事が可能なのだから。


「せやけど、車なんて安易すぎるんとちゃうか?」

「安心しろ、ナンバーは別の奴の車からパクってきたやつだからナンバーから足がつく事はねぇ」


随分と用意周到だ。
まるで始めからこうなる事を予期していたような口振りに、違和感がまた沸々と湧き上がる。

檜山と共に入ったのは、小さなビルの地下駐車場だった。
薄暗い中にポツンと黒い車が1台止まっている。
少し高そうな見た目だが、それ以外は普通に走ってても違和感はない。
鍵を受け取った井上は、運転席へ乗り込んだ。
窓を開けて外を見ると、檜山は一向に乗り込む気配は無い。


「井上、お前は運転得意か?」

「普通の運転しかやったことねーぞ」

「普通でいいんだよ。とりあえず先に車で、さっきの近くに行ってくれ」

「何で一緒に来ない?」

「こっちにもいろいろ準備あんだよ」


エンジンをかけ、井上は小さく舌打ちした。


「悪いけど、今の俺はアンタをずっと疑っとんねん」

「ほぉ……何を疑ってる?」

「俺に話しとらん隠し事があって、俺を巻き込もうとしてる気がしてならんねん」

「まぁ、俺自身が胡散臭い見た目だもんな」


自虐的に笑う檜山だが、逆に井上の神経を逆撫でする。
あとから追い付くと言葉を残し、奴はその場を去った。
イライラしながらも鍵を挿しこみ、周りを気にしながら車を発進させる。

かなり年老いた身なりだが、飄々(ひょうひょう)としていてあまり自分を表に出すことが無い檜山。
だがあの目は、まだ何かをやろうとする意思さえ汲み取れる目だった。


「俺を利用する気なら、俺だって利用してやる……!!」


ハンドルをきつく握り、車は田宮たちの待つ建物へと向かった。



闇が空を包む中、車は目的地に辿り着く。
幸い建物自体が裏路地にある為、人気(ひとけ)は殆ど無い。
車を前に停めると、建物から出てきた桐生を抱えた田宮と何故か後から来ていたはずの檜山の姿があった。
遥は抱える2人を健気にサポートしている。


「檜山……!!何でアンタが……!!」

「蒼天堀は俺の庭だ。抜け道は幾らでも知ってる」


気に食わなかったが、今はいがみ合ってる場合でも無かったので2人の手伝いに入る。
鍛え上げられたガタイのいい男を狭い車に運び入れるのは、とても簡単な事では無かった。
だがこれだけ揺り動かしているのにも関わらず、全く起きる気配が無いのに少し違和感を覚える。


「狭いが、堪忍な……遥ちゃん」


井上がそう謝ると、遥は首を横に振る。
微かに見せる彼女の笑顔で、何故か心地よく安心出来た。


「さぁて、井上。ここからが勝負だぞ」

「何でや?ここまで来たら安心とちゃうんか?」

「馬鹿だなぁ……嗅ぎつけられてる可能性も、無いわけじゃないだろ?」


胡散臭い言い回しを軽く聞き流し、ようやく全員が車に乗り込んだ。
このまま無事に、何事も無く辿り着けますように。
もし神様が本当にいるなら、井上は心の底からこう願っていただろう。
雲行きは、どんどん怪しい方へと進んでいた。 
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