インフィニット・ゲスエロス
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10話→放課後①アリーナ
前書き
主人公のIS
名称;オールドソルジャー(老兵)
色彩;黒銀
メインウェポン;銃器一体型トンファー(アガートラーム)
備考;宇宙探索メイン機体のため、稼働時間・拡張領域は両方共に最長、最大を誇る。
「さて、と。行こうか老兵(オールドソルジャー)」
がらんどうの広大なホールに、居るのはたった二人だけ。
その片割れである太郎があげたその声は、存外に響いた。
その声と共に、太郎の姿が変わる。
ベースを黒、縁を銀で彩った、西洋鎧のような装甲が全身を覆う。
ついで、赤いマントのような物が肩から下を隠すと、最後に縦線が連続するバイザーを着けた、兜が装着される。束が言うには、イタリアのミラノ、キュイラスという鎧を参考にしたらしい。
まあ、俺からすれば仮面ライダー○騎のナイトみたいなやつ、という方が分かりやすいのだが。
閑話休題。
同時に、十メートル程度前にいる千冬の姿が変わる。
白をベースとした、スッキリとしたシルエット、所々に装甲を薄くしたその姿は耐久性が無いように見えるが、ところがどっこい、束いわく、全身をナノスキンという装甲で覆っているからか、初期型の通常バージョンと同じくらいの耐久性を持つとのこと。
最初の『白』の機体をアリスにあげた代わりに、束が作り上げた新型機。
俺が言うのもなんだが、科学の進歩ってすげえな。
最後に鎧武者の兜をフルフェイス&白くしたものが装着され、全ての準備が整う。
次世代型IS『白騎士』
その勇ましい姿に、思わず苦笑いが出る。
未だ十代の放つプレッシャーじゃないよな。
『花嫁にしちゃー、物騒じゃないか、その武装は』
存在を主張する大剣を握りこむ千冬にそう軽口を叩くと。
『ふん、誰彼構わず発情する駄犬をしつける花嫁には、これくらいのものを装備する必要があってな』
即座に目の前で剣を二、三度振るうと、千冬は太郎に言葉を返した。
さてと、では始めるか。
お互い、準備が整ったらスタート。
そう、事前に取り決めていた二人は、言葉の応酬の後、ほぼ、同時に動いた。
瞬間、アリーナ中心に凄まじい音が響き渡る。
停止状態からほぼトップスピードに加速された互いの機体が、中心で激突していた。
白のブレードと、黒の両腕に装着されたトンファーが火花を散らして音を立てる。
一秒に満たない膠着状態。
黒の右足は勢いをつけて白の兜の側面を蹴りあげ……
同時に剣から放した白の左腕は、腰にマウントされたナイフを投げた。
瞬間、同時に飛び退き、互いの攻撃をかわす。
黒の機体のトンファーの前が開き、内部に収納されたエネルギー・ガンを打ち出すと……
白騎士はビットのように宙に浮かせた装甲で体を守りながら、徐々に剣の間合いまで近づいてくる。
殴り合い、斬り結び、撃ち合い、防御し合う。
お互いに癖を知りつくし、研磨しあった長時間の鍛練が成す膠着状態。
四桁の稼働時間を持つ、二人きりの『IS』使いの戦いは、もはや常人の目には見えない。
見えるのはたった二人、お互いだけ。
「だがなあ!」
そう、だが、ここで太郎は賭けに出る。
生まれつきの才能の差を必死で埋めた凡才たる自分が、無茶に耐えてくれた相棒と得たこの技を。
『老兵は死なず、ただ消え行くのみ』
トリガーとなる言葉を吐くと、瞬間、彼の姿が消えた。
そう、視認からもレーダーからも『消えた』のだ。跡形もなく。
「太郎!どこに……」
あまりの事に心配の声を上げる千冬が見たのは
背後で脇腹に拳を打ち出す黒い機体であった。
「くっ!」
即座に反転し、振るった斬撃の線上で、またもや消える黒い機体。
気づけば、彼の機体は二十メートル先にいた。
剣戟で体勢が崩れた白騎士に、エネルギー・ガンを向けて。
次の瞬間、光の雨に晒された白騎士と共に、千冬は試合終了のアラートを聞いた。
「っしゃあ!勝ったぜ!」
目の前で喜ぶ太郎に、私服に戻った千冬は無言でつかつかと近づき……
ガバッ
無言で全身をまさぐった。
「うひぃ!?何すんだよ千冬」
急なボディータッチに焦る
「お前、最後の技はなんだ、あれは!体は大丈夫なのか!?」
珍しい焦る千冬の声に、太郎は抱き返しながら答えた。
「大丈夫、大丈夫だから。心配してくれてアリガトな」
太郎はずっと考えていた。
どうやれば、千冬という戦闘の天才に自分は勝てるか。
最初は近接メインの彼女を圧倒的弾幕で仕留めることを考えた。
数回後に斬り落しの極致のような剣閃を見せられて、止めた。
次は煙幕と閃光弾で視角を奪ってみた。
『勘』と言われて胴を切られた。
止めた。
で、俺は考えた。
俺単体で考えず、ISを着た俺独自の技を考えられないか?
そこからは孤独な戦いだった。
幸運な事に、高校生で弁理士の資格を取った俺は束の、天才の発明を真っ先に見る権利がある。
その幸運を逃さず、国に正式な書類にして提出する際に、何度も何度もその発明を自身のIS戦闘に組み込んだらどうなるかシュミレートする日々。
結果、見つけたのがこの『技』
ISには、武器を量子化して持ち運べる特殊な領域がある。
これは本来、かつて月にて基地のパーツを運んだように、人型のISが宇宙にモノを持ち運ぶ際に利用するものである、が、そこで俺は考えた。
武器も俺も、究極的にいってしまえば、『物質の集合体』であることには変わりない。
ならば、『自分自身を量子化し、再構築することは可能なのではないか』
その案を束に話すと、流石に心配されたが、そこは俺。
『君の事を信じている~』から始まる、常人では歯が浮くような美麗な口説き文句を言いまくり、結果、束に一月かけて調整してもらい、完成したのが、この技である。
束からはワンオフ・アビリティー(単一仕様能力)という名をつけられたISとの融合を極限まで高めたこの能力、個別名称『テレポート』は、俺と装備したISを、10~100メートルの範囲で、量子化したのちに移動させる事を可能とした。
正直、実戦で使うのは怖かったが、流石俺。
やっとこさ千冬に勝てることができて、満足である。
さて、飯食ったら次は『アリス』の面倒を見るか。
未だに心配する千冬の手を恋人つなぎで合わせながら、太郎は夕食を食べにジンの家に足を向けた。
後書き
太郎は『武器の能力を最大限に引き出す』才能に長け、千冬は、『自分の体のスペックを最大限に引き出す』才能に長けている。そのために、千冬を越えるために編み出したのが、今回の太郎の裏技。
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