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最低で最高なクズ

作者:偏食者X
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ウィザード・トーナメント編 前編
  「11」 その3

 
前書き
今更ですがこの作品の略称を決めました。
よく友達とこれについて話すときに
(さい)クズ」と読んでいるので、
気に入った方は是非「最クズ」で覚えてやって下さい。 

 
「まぁこれはヒントだけど、いわば答えみたいなもんだよな。今日こそ会ってくれるかなぁ.....へへへッ。」


犯人の青年は犯行現場に血が付着していないナイフを置くとその場を去った。
その後、アヴァロンホテル宛に手紙を書く。
もちろん、送り主の名はジャック・ザ・リッパーだ。
メッセージに使うインクの色は敢えて赤にしてみた。
色から血を連想してくれるとかそんな悪趣味なことを考えたからだ。
















翌朝のことだ。
また点呼のタイミングに合わせて事件の報告がされた。
2度あることは3度あるというのもあり、一般の生徒の中でも独自に考えを巡らせる人が出ていた。
しかし、3度目も成功した今は犯人が同じ生徒なんじゃないかと疑心暗鬼に陥るものも無理はない。

同時刻。
俺を含む犯人捜査メンバーは生徒会長からの連絡で別室に集められ、点呼を取って話に入った。
生徒会長に会ったのは入学式以来だ。
話によると、日本にある魔術師の家系では最高位の権威を得ており世界的に有名な魔術師一家の1つらしい。
どんな強面な奴かと思ったが、実際に会うと花のように綺麗な女性で優しさとカリスマ性を備えていた。


「報告です。犯人から予告状が届けられました。」

「ッ!!」


一同は騒然とした。
いよいよ犯人も行動が大胆になってきた。
確かに犯人との読み合いにおいてこちらは3回とも後手に回っていた。
予告状に書かれていたのは10ヶ所の犯行のポイント。
捜査メンバーの人数が10数人だからポイントによっては一人で警戒する必要がある。
グループ分けをして、俺はシルバー・スティングと組むことになった。


「よろしく頼むよ造偽誠くん。」

「誠で良い、俺もお前のことはシルバって呼ばせてもらうぞ。」

「あぁ、構わないよ。」


俺はその後3度目の事件現場を訪れた。
奇跡的にまだ現場検証は進んでいないようで、女子生徒の血痕などが周囲に飛び散っていた。
その血液の量は一見失血死してもおかしくないような量に見えるわけだが、これで生きているのだから相手はよっぽど人体について知識があるんだろう。
何せ、意図的に殺さないというのは一番匙加減が難しく殺してしまうほうがよっぽど簡単だからだ。

俺は現場で妙な物を発見する。
血のついていないナイフが一見、無造作に放り投げられているような状態だが、何故だろうか。
どうも違和感を感じてしまうのだ。


「どうしたんだい誠くん。」

「いや、このナイフに妙な違和感を持ってな。」

「確かに凶器を落としたにしては新品のナイフというのは違和感があるね。」

(シルバもこう言ってるけど、俺の深読みのし過ぎか?)

「なぁシルバ、お前朝見せられた予告状に書いてあった犯行現場の位置って分かるか?」

「申し訳ないが、正確な場所までは覚えていない。」

「だよな。」


俺は念のために写真を撮って一度ホテルに引き返した。
俺は会長にお願いして予告状に書かれた10ヶ所のポイントをコピーしてもらった。
会長は不思議そうにしていたが、副会長のほうは何かを察しているような雰囲気がした。

個室に戻って予告状とナイフの位置を確認すると、ナイフの延長線上に1つのポイントが当てはまる。
俺はそれを間違いないと確信し、副会長に報告した。
しかし、副会長の返答はこうだった。


「仮にそこが本来のポイントだったとしても、そこに人を集中して配置するとかそういうことはしないぞ。」

「なぜですか?」


犯行現場は間違いなくここだ。
俺は確信を持って言える。
人を集中して配置すれば、安全で確実な戦闘が可能なはずで、少数相手で太刀打ちできる相手とも限らない。
犯人が次に狙っているターゲットを保護することも考えれば、ここに人を集めるのは当然のはずだ。


「お前のその思考は固定概念のもとでできてるだろ。」

「どういうことです?」

「よは、犯人が単独犯だと決めつけてるってことだ。」


それを聞いて俺はハッとした。
確かに俺の考えは犯人が単独犯だというのを前提条件としてできている。
万が一、犯人が複数名いる場合。
1ヶ所に戦力を集めれば対応ができなくなる。
それに考えてみればこれが犯人からの罠だという可能性も完全には否定できない。
だがそれなら他の2校にも協力を頼めばいいはずだ。
これは身内だけの問題ではない。
大会に関係する以上、3校で協力するのは当然のはずだ。


「ベルズ院とブリッツ学園はどうしてるんですか?」

「それに関しては午後の招集で報告する。」

「それまで待てと?」

「落ち着け。」


副会長の言動には俺の態度や焦りに対する苛立ちは全く無く、俺を冷静に戻すことが目的なのが理解できた。
俺は落ち着きを取り戻し、改めて聞いた。


「今回、2校には協力を頼んでいるが、あくまでも役割分担でそれぞれ仕事を分けた。」

「どういうことです?」

「ブリッツ学園には10ヶ所のポイントから半径300m圏内の人避けと監視を頼み、ベルズ院にはロンドンの交通網の整備を頼んだ。」


その言い方から察するに、犯人と直接交戦するのはマーリン学園の役目だということだ。
一番リスクが高い。
なぜ他の学園に頼まなかったのか最初は不思議に思ったが、考えてみればこちらは提案する側だ。
提案する以上、最大限のリスクを負う覚悟が必要だ。
そんなのもすべて把握したうえでこの作戦を実行する手配を午前中の内に済ませていたのだ。
流石は副会長だと俺は感服した。
俺が自身の考えに辿り着くよりも先に1つのプランを建てて準備に移っていた。
しかも、2校との協力は一般生徒なら提案しても認められないだろうが、副会長の権限となれば話は別だ。


「安心しろ。お前が思っているほど俺も状況が理解できないわけじゃない。常に次の一手を考えながら動いてるよ。じゃあ一旦席を外してくれるか?」

「はい。」


俺は席を外した。
入れ替わりで会長がやって来る。
その表情はどことなく不安そうに見える。


雄様(ゆうさま)。」

「分かってるよマリ。今回は危険な橋渡りだ。無論、最高責任者の役は俺がやる。お前は特別だからな。」

「検討を祈っています。無事でいて下さいね。」


会長と副会長には秘密があった。
というのも、副会長は誠が考えている学園変革の流れを本当に実行して成功させた存在だ。
まぁ初めから話すとそれだけで物語ができそうだから今は深く踏み込んだりはしないけど。













午後3時頃。
再び捜査メンバーに招集が掛かる。
そこで俺は改めて副会長の作戦を知ることになる。
無論、反論もあった。
捜査メンバーの半分くらいは各学年の主席と次席だ。
もし、負傷して出場不可になった場合、それはマーリン学園の知名度の低下や、生徒の安全性を考慮しない教育方針だと認識されかねない。
しかし、誰もそれに勝る案を出すことはできなかった。
誰もが副会長の作戦がベストだと理解していた。


「ポイントごとの配置だ。検討を祈ってるぞ。」


俺はそれを見て驚いた。
俺とシルバの班が俺が特定した例のポイントに配置されていたのだ。
俺はすぐさまそれを指摘しようとしたが、副会長のことだから何か考えがあるのだとも思った。
解散した後、俺は副会長に理由を聞いた。
返答はこうだった。


「犯人が来るだろうって理解できてるんだから、本当に来たとしてもそれなりの心構えでいてくれるだろ?」

「..........はぁ?」


俺の反応も無理もない。
まさか、一番重要な所に感じては何の考えもなかった。
だが今更変更を頼んでも不可能だろう。
なぜなら捜査メンバーは既に解散したからだ。


「はぁ.....。」

「事件終わったらロンドンで飯でも奢ってやるよ。」

「死ぬ可能性あるのに報酬はそれだけですか?」

「じゃあ何が欲しい?」

「......事件が終わってから考えます。」


















その夜。
時刻は22時30分。
俺とシルバは配置されたポイントにて犯人がやって来るのを待っていた。
辺りは街灯によって所々照らされているだけで、そのほとんどは暗闇に包まれている。

副会長の作戦通り、マーリン学園が犯人との交戦、ブリッツ学園が上空偵察、ベルズ院が交通網の整備を行っていた。


「誠くん。」

「どうした?」

「君は一人目の被害者を事件直前に目撃した。それを踏まえた上で質問がある。」

「内容によるが、可能な限り答えてやる。」

「犯行時刻は23時以降で間違いないのかな?」

「正直なところ確証はない。確かに被害者をホテルで目撃したのは23時以降の事だった。だが俺は犯行現場に遭遇したわけじゃない。何時に事件が起きたのかはまた別の話だろう。」

「なるほど。じゃあ次だ。」

「犯人の人数、君はどう考えている?」

「それに関しては完全に個人の見解になるが、俺は単独犯だと考えている。」

「理由は?」

「それなんだが....犯行手口を考えたんだ。今回の事件の被害者は全員が負傷したにも関わらず、死には至っていない。俺の考えだが、幾ら他人の技を見よう見真似でやったとしてもどこか違いが出るのが普通だ。つまり...」

「複数人の場合、全員が同じようなことはできないだろうっていうことだね。」

「まっそういうことだ。」


時計を見ると時刻は22時59分。
あと1分で23時に突入する。
そして時刻はいよいよ23時に突入した。
自然と俺とシルバに緊張が走る。
ここからは何時(いつ)何処から犯人がやって来るか分からない。
俺は上空偵察中のブリッツ学園の生徒と連絡を取る。


「今のところ何かが侵入した反応はありません。」

「了解です。引き続き頼みます。」


無線を切った。
23時15分頃。
事件はなんの前触れもなく突然起こった。
鼓膜を破るような異常な爆発音が聞こえたのだ。
音の方向からして現場はここから少し遠いくらい。
俺はすぐさま上空偵察部隊に連絡を取る。


「どうしたんですか!」

「分かりません。ですが大混乱が起こっているのは確実だと思われます。」

「シルバ!すぐ現地へ応援に向かってくれ。」

「だが犯人がまだ見つかってない。単独行動はお互いにとって危険なはずだ!」


現時点で考えれば爆発のあった現場のほうが危険度は高いだろうと俺は踏んだ。
俺よりシルバを向かわせるほうが安全性は高いはずだ。


「ここは俺に任せろ。犯人は今、爆発のあった現場にいる可能性のほうが高い。」

「それもそうだけど.......。」


シルバは少し考える。
俺がシルバでも少し考える時間が必要だろう。
だがシルバの答えはあまりにもすんなりと出る。
現場に向かうことにしたのだ。


「15分後には戻って来る。それまでは頼むよ。」


シルバはそう言い残して現場に急行した。
俺は内心ガッツポーズをしていた。
というのも俺はウィザード・トーナメントに出場するために極力怪我はしたくないと思っていた。
可能なら今晩のポイントごとの配置も別のポイントに配置して欲しかった。
ともかく、怪我がなければ俺としてはあとはどうでも良かった。
なんならシルバが犯人と交戦して怪我したとしてもどうでも良いと思っていた。
無論、シルバはそんなこと思わないだろうが。


(俺は思っちまうんだよなー。)


俺は確信を持っていた。
犯人と単独で交戦した場合、俺では勝てない。
まぁその物言いだとシルバなら勝てるのかと問われそうだが、少なくとも俺より勝率が高いのは確かだ。
今となっては言い訳にしか聞こえないわけだが。

「そういえば」という具合に思い出した俺はブリッツ学園の上空偵察部隊と再び連絡を取る。
シルバが離脱した分、警戒はより強める必要がある。
だが、既に俺は妙な感覚を感じ取っていた。
シルバがいた時とは少し空気が変わって来ていた。
変な肌寒さと誰かに見られているような感覚。

上空偵察部隊と連絡を取ろうとしたのはそんな気を少しでも紛らわせたいと思ったのもあった。
しかし、無線の向こうから聞こえてくるのはノイズ音ばかりで、そこに人の声は少しも入ってこない。
恐怖が俺の精神をジリジリと削る。

そして、俺の嫌な感覚はついに確信へと変化した。
コツ コツ コツ
一定間隔で靴の音がする。
その音は最初はぼんやり聞こえる程度で空耳かと思えたが、今ではその音を耳で完全に捉えることができる。
足音は間違いなく迫っている。
俺は耐え切れず、音のする方を向いた。
そこにいたのは................... 
 

 
後書き
今回はここまでです。
ウィザード・トーナメント編 前編は次の一話を持って完結します。
次回もお楽しみに。 
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