世界をめぐる、銀白の翼
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第七章 C.D.の計略
四人の死闘
赤い夜の中、さらに真っ赤に染まるドーム状の結界。
ドーム内の赤は紅蓮の炎。
さらにその中には鎖が伸び、敵を縛り上げ逃がさない。
その敵の男は、炎の中で――――――
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赤い夜に包まれた新綾女。
ランドマークタワーに続くタイルの敷かれた大通りは、あったであろう戦い―――それも激戦の激しさを物語るかのようにボロボロになっていた。
その中でやっと襲撃犯を鎖につなぎ、結界に閉じ込め、炎で焼いて終わりにしたところ。
その結界の前で多少肩を上下させるのは、この世界に取り込まれ襲撃を受けた少年少女。
即ち
「い、一体なんだったんでしょうか・・・・」
守護天使アブラクサスを使役する少女・橘菊理
「さあ~・・・だけどこれ、完全にオーバーキルじゃないですか?」
驚異的な回復・再生能力を持つ少女・広原雪子
「何言ってんだよ。やらなきゃこっちがやられてたぜ?正当防衛、自業自得ってやつだろ」
強力な自然発火能力を有する少年・田島賢久
「賢久の言う通りだ・・・やらねばやられていた」
そして陰陽師草壁家の血を受け継ぐ少女・草壁美鈴
この四人である。
「・・・で?駆は何だって?」
「ああ・・・妙な赤い夜と、それを使う敵が現れたからと。そこで途切れてしまったから、全容はわからないが」
「じゃあそれってこいつってことだろ?なんだ、終わっちまったじゃねえか」
戦いは激しいものだった。それは間違いない。
ショッピングに行こうと集まる女子三人。
荷物持ちにと駆り出された男子一人。
賢久は山のような荷物を抱えさせられ、他の三人は熱いからということで喫茶店で一息ついたところだった。
午後6時をまわったものの、残暑の空はまだ明るい。
暗くなる前に家には着こうか、次はあれも買いたい、今度は絶対駆もつれてきてやる、等々。
思い思いに話が弾み、そろそろ出ようかといったところで美鈴の携帯が震えたのだ。
そこからは諸兄の想像通り。
襲い掛かった男が赤い夜を展開、四人を取り込み仕掛けてきたのだ。
炎が舞い、鎖が走り、刃が光り、斬撃が空を裂く。
その末に「苦労したな」と言えるくらいの疲労を感じさせながら、敵の男はお縄について今、ドームの中だ。
「駆たちは?」
「わからん。場所を聞く前にこっちに来てしまったからな」
「でも駆さんの話を聞くよりも、堅かったけど思ったより強くなかったですよね?」
「まあ相手は無抵抗だったから、な・・・・」
まて
(何故無抵抗だった?駆君の話は半ばで途切れたが、彼とてリーゼロッテ・ヴェルクマイスターと戦い、そのほかにも強敵と戦いを繰り広げてきた男だ)
その駆という男が、あれだけ声を荒げて警告を促してきた敵が・・・・?
(我々が倒せたというのはまだいい。だが無抵抗?無抵抗の敵を、駆君がそんなにも警告するものか・・・・?)
美鈴の思考が脳内を駆け巡る。
異形、非常識の類である魑魅魍魎を相手取る陰陽師の彼女だからこそ、不可解な敵の行動が目についたのだ。
だが遅い。
この段階ではすでに遅い。
ぶつぶつと考えうつむく彼女には気づけなかった。
その時彼女は足元を見るのではなく、もっと周囲の状況を見るべきだった。
あれだけの炎を、身動きが取れない中、ドームに覆われて全身晒されているにもかかわらず
「みなさん・・・おかしいですよ・・・・」
菊理は気づいた。
周囲を気遣う彼女の普段の性格の良さが、その場の異常に気付いたのだ。
「赤い夜が」
そう、この赤い夜は男の物。
それは発覚している。その男が今あんな状況であるにもかかわらず
「まだ・・・・」
赤い夜は、解ける様相もなく健在なのだから。
「「「!!!!」」」
残りの三人が気付いた時にはそれはすでに迫っていた。
ドス黒く染まった魔力の巨大な塊が、隕石のように四人の真上に落下してきたのだ。
四人は思い思いにその場から飛び出し、それ自体は回避する。
だが地面に落下したその隕石は地面に埋まるとバラリとほどけ、何匹もの禍々しい化物となって悲鳴のような鳴き声をあげた。
「ら、ラルヴァ!?」
「さっまで全然居なかったのに・・・・」
「ラルヴァ」と呼ばれる、この「赤い夜」という世界限定の敵。
闇精霊ともいわれるこいつらは、生きるものを標的に襲い掛かる存在だ。
雪子、賢久は地面を転がってドームとは対角線上に一緒に回避し、菊理はアブラクサスに抱えられて空に。
美鈴は頑強な鉋切長光、そして幅広の火車切広光をビル壁に突き立てその上に立ち状況を見る。
バキン!!
「あう!」
「そいつら?邪魔だからずっと空にいてもらっただけさ」
そうしていると、菊理が思わず声を発し、直後炎のドームからも声がした。
全員が理解した。
バキンという音。
それは、菊理のアブラクサスがあの男をしばりつけていた鎖の砕けた音だ。
ドームからの声。
その涼しげな音は、あの男がまるでダメージを負っていないということを。
ギィギィと鳴き声を荒げるラルヴァ共は、やっと四人を発見したのか襲い掛かろうと触手をうねらせる。
だが
「ヘ・ン・シ・ン・・・ッ」
ドォッッ!!!
「なっ!?」
「うっそだろぉ、おい・・・・」
男―――赤嵜紅矢は無事だった。
それどころか、全く意にも介さず鎖を引きちぎり怪人態に。
自らの鬣を引き抜いて、ガラス状になったそれを握り砕いてさらに姿を変える。
その変身の余波は――――美鈴の結界を砕き、賢久の炎を吹き飛ばし、その場のラルヴァを一体残らず蒸発させた。
「ば・・・かな・・・・!!!」
「バカな?それはこの戦力差のことか?」
「クッ!!!」
一切を消滅させて立つ男。
仮面ライダー闘牙は、その場に普通に、実に普通に立ち
「俺にとっては予想通りだ」
そして普通にそう言った。
「ハッ!!」
「行きます!!!」
「オォッ!!」
アブラクサスの鎖が伸び、雪子がメガネをはずして臨戦態勢に。
このままいけば、鎖が闘牙を縛り身動きを封じる。
仮に敵の力が強くとも、それが一瞬だとしても、その一瞬を縫って雪子のナイフは標的に襲いかかることが可能だ。
だがそれらは時間稼ぎ。
賢久の超圧縮高火力レーザー砲「ローゲフィンガー」が準備段階に入り、同時に美鈴は詠唱を始める。
トップクラスの攻撃力を有するこの二人だが、いざ発射までのタイムラグが弱点だった。
それは往年よりも縮んだものの、やはり存在する絶対的な時間。
だが自分たちには仲間がいる。
明日を共に生きようと誓った者がいる。
何よりも信頼できる、最高の友がいれば、いかなる敵だろうとも決して無事では済まさない――――
「捉えた!!」
「ハァあ!!」
アブラクサスの鎖が、闘牙の左腕に絡まり自由を奪う。
その瞬間、雪子のナイフが闘牙に襲い掛かる。
「ッ!?」
最初に気づいたのは、アブラクサスの鎖越しに菊理が。
さっきもこの鎖でとらえたが、変身後にもなるとこんなにも違うのか。
いや、違う。さっきが本気じゃなかっただけだ。さっきの状態でも、本気を出されていれば捕えられたかどうかわからない。
左手一本だというのに、菊理はそれ以上鎖を全身に広げられなかった。
これより奥に行けばこっちが引きずられる。
でもここから引けば、縛りの意味が霧散する。
まるで何メートルもある細い板の端を持ち、反対側の一点にピンポン玉を置き落とさないように調節する、そんな状態。
今、菊理は縛りながらも敵のその力で
(逆に縛られて・・・いる・・・!?)
と、そのことを知ってか知らずか雪子が襲い掛かる。
かつては「殺人マシーン」として一切の感情をそぎ落とし、そのオンオフをメガネの着脱でつけていた彼女だが、今となっては単純に戦闘のオンオフだ。
だから驚愕もするし、引き際もわかる。
あのころよりも手数のバリエーションははるかに多く、強くなった。
だが、敵はあのキバやイクサをも退ける男。
(こいつ、全部!?)
「・・・・・」
雪子の二刀流ナイフ術。
その攻撃を総べて、右手の掌で受け止めていた。
雪子のナイフの斬撃は、的確に急所に襲い掛かっている。それだけでなく、装甲の隙間であろう場所にもだ。
だがそれらはすべて抑えられる。
しかも相手は片手だ。
一刀流と二刀流の力の差などここで議論しても仕方のない話だが、単純な手数の差で言えばこっちが優るはず。
それをこいつは簡単に超える。
(じゃあ・・・バージョンアップですよっ!!)
動きを変える。
雪子の動きが、線だけのものでなくなっていく。
緩やかな曲線、一点の突き。
更にフェイント、体術までも混ぜ合わせて、隙あらば背面にまで攻撃の手を伸ばす。
だが
「な・・・ッ!?」
今度は驚きが声に出た。
闘牙の顔は(マスクに覆われているが)至って変わらず。
腕の動きに、身体がぶれていく様子もない。
闘牙はその体制のまま、腕の動きはそれなりに早くなり
(本命どころか、この男・・・・!!!)
本命どころかこの男、雪子のフェイントや背面からの攻撃、突き蹴りなどの体術までをも右手一本で押さえているのだ。
しかも隙あらば背面、と実際に背面に回って攻撃して雪子は悟った。
背面に回るだけのスキがあるんじゃない。この男は背面に回らせて、うまく防御しているだけだ・・・!!
「それすらわからぬ愚鈍じゃないか」
「ッ!!!」
底が知れない。
こうなったら、自分の再生能力をフル活用して決死の突貫まで視野に入れるか・・・・いや。
雪子が思案する。
だが、それよりも早くタイムリミットが来たのだ。
「おぉぉオオらぁ!!!」
賢久のローゲフィンガーが放たれる。
そのタイミングを知っていたからこそ、誰も掛け声をしなかったし、雪子自身もギリギリのタイミングまでこいつを引き付けて離脱できる。
ナイフの一本を闘牙の面前に放り、ドロップキックで叩き付ける。
顔を斬ったり刺突の為ではない。
ナイフの面を向けての蹴りだが、相手の視界を奪うのが目的だ。
だがこの男はそれよりも早く行動していた。
「キャぁっ!?」
「菊理さんッ!!!」
雪子が蹴りによって離脱した瞬間、闘牙は左腕を強引に引いた。
それによって、菊理はアブラクサスごと引き寄せられ、ローゲフィンガーにさらされてしまう。
「ォオオァアアア!!!」
雪子が吠える。
彼女がギリギリまで敵を引き付けるのは確実な命中の為でもあるが、それ以上にこういう時に仲間を救うためだ。
だが、敵が規格外すぎる。
あの離脱は、本当にギリギリのタイミングなのだ。
鎖を引くのは十分考えられる。
雪子自身を盾にするのもわかる。
だから、ああやって敵の視界を潰したうえで離脱するのだ。
でもこいつはそれを一切意に介さずに、この行動に移った。
最初からそのつもりだったのか、全く迷いのない行動だった。
雪子が身を捻り、無理矢理に着地。
そこから体勢も整わないまま駆け出し、菊理の身体を抱えてその場から飛び出した。
「キャぁっ!?」
「アッ・・・グゥゥウウウ!!!」
だが、それでも間に合わなかった。
ガシャァ!!とカフェのオープンテラスに二人は突っ込み、菊理は気絶し、雪子の背中と脚は焼けただれて動けない。
その状況を見ては、この男がだまっていられるはずがなく
「テンめェぇえええええ!!!」
右手に続き、左手のローゲフィンガー。
一回目は雪子や菊理を使って弱めたか回避したのだろう。
だが二回目はない。
この砲撃で仇をとる。
「こいつで跡形もなくッッ!!!」
「なんだ?」
ズォッ、と。
大きく振りかぶって、今まさに投げつけるかのようにローゲフィンガーを発射しようとした賢久の前に、爆炎から出てきた闘牙が現れる。
真正面、至近距離。
命中は間違いない。
だがこの距離では賢久自身も――――
しかし、闘牙の右腕を見てそれは吹き飛んだ。
本来、このコンビネーションはローゲフィンガーと放つと同時に美鈴が切り込み攻撃する。
敵が砲撃を避けても、彼女が火車切で炎をまとめ上げて敵を切り裂くのだ。
今回もそのつもりだった。
だが砲撃は至らず、雪子と菊理が負傷し、そして美鈴は
「見せろ、底力を」
「この・・・・」
「やれよ」
「くそヤロウッッ!!!」
闘牙の右腕に捕まり、首根っこを掴まれてぶら下がっていた。
投げつけられるローゲフィンガー。
美鈴は全身に切り傷があるため、見た目の出血はひどいものだが、傷自体は深くなく実際には致命傷はない。
その美鈴を放り投げてから両腕を広げて賢久の一撃を受ける闘牙。
爆発。
それは、赤い夜をも焼き尽くすかのような紅蓮の炎であり、その中心の二人は――――
燃え上るかのように高々と昇っていく煙。
何がそれを染め上げるのか、真っ赤な煙が周囲を覆う。
その、煙の中から声がする。
「ふぅ・・・・いや、しかし」
声と共に紅蓮の煙の中から姿を現したのは、少し表面が焦げた程度の闘牙の全身。
その手には少年の右腕が掴まれており、ズルリと力なく引き摺られた賢久の全身も現れる。
「思った通りの・・・・この程度・・・か」
ゴロリと放るように賢久の身体を転がし、右肩を回し、疲れをとっていくかのように鳴らしていく。
「だが欠片でこれほど、ということは・・・揃えれば頂点に達する力が手に入る」
自分の考えは間違ってなかった。
そう結論付けて、闘牙の視線が倒れる賢久に向く。
「身体のどこにあるかわからないからな。苦しめるつもりはない。まずはその命を」
そう言って右手の指をまっすぐに揃え、その先端が頭部に向けられる。
そこから少しずれて喉元へと標準が定められ、それが振り下ろされた時
ガギンっ!!
「む・・・!」
振り下ろされた闘牙の腕を止めたのは、空間にヒビを入れて乱入してきた刃。
それがビキビキとさらに空間の裂け目を広げ、そして最後まで振り上げられたとき、白き装甲の戦士が赤い夜に飛び込んできた。
「止めなさい・・・!!!」
「また貴様か・・・」
乗り込んでくるのは仮面ライダーイクサ。
賢久の身体を避難させ、勇猛にも闘牙へと向かっていく。
そうしているうちに、イクサの通ってきた穴から渡と駆、ゆかの三人も駆けこんできた。
「大丈夫か!?」
「うわ、ひどい・・・」
「駆くんとゆかさんはみんなを安全な場所に移してください」
仲間がやられた姿を見て、駆の拳が強く握られる。
だがそれより早く、渡の言葉が彼を制した。
震えている。
あれがファンガイアで、レジェンドルガだというのであれば、あれを倒すのは自分の役目。
自分があの時無様にやられなければ、彼らが傷つくこともなかった。
渡は自責の念に駆られる。
それが彼を突き動かす。
事実、悪いのは闘牙だ。
それに議論の余地はない。
だが、彼という男はそういった考え方をしてしまうような人だ。
そしてそれを使命、運命と捉え、どんな敵にだって立ち向かってきた。
「キバット・・・・」
「ああ!!」
「行くよ!!」
「ガブッ!!」
翳される手、飛び込んでくるキバット。
自らをかませてエネルギーを身体に送り込み、それを開放して渡は再び夜の一族の王となる。
「変身!!」
甲高い笛の音と共に、渡の全身が銀のような、ガラスのような装甲に覆われ、それが砕けるように散った。
そこに立つのは、仮面ライダーキバ。
「闘牙は、絶対にここで倒す!!!」
叫ぶ。
これ以上の被害は許さない。
立つ。
アイツを倒すために、ここに。
仮面ライダーキバ
過去最強の敵へと、挑む。
to be continued
後書き
渡が闘牙と戦ったのは、喫茶店も締まる午後5時ころ。
4人が襲撃されたのはそのあとだから、まだ空も明るい午後6時半ころ、ということでお願いします。
それにしても名護さんすげぇよ!!
なんであんたそのタイミングでいけんの!?
名護
「おかしなことはない。私ほどになれば、悪の波動など容易く見つけられるのですから」
ぱねぇ。
駆
「何とか闘牙を引き剥がしてたけど、イクサってそんな馬力が?」
いえいえ、あれは闘牙の油断です。
人の首裂く程度にそんな力はいらないでしょうし、驚いて押されてしまったのでしょう。
とはいっても、押し退けるイクサのほうは万力のごとき力を込めて何とかやっとのこさ、ですけどね。
そんなことより、今のところキバにいいとこなし。
まあここから一気に言ってくれると
思いますよ?
堅いけど・・・・・
渡
「うわ不安」
ゆか
「次回。渡さん、頑張ってー!!」
ではまた次回
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