逆襲のアムロ
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最終話 ラストリゾート
* ゼウス 大西洋上空
ハマーンとジュドーは地球の重力に必死に耐えていた。各々、モビルスーツのコックピット内へと戻っていた。
ゼウス自体、そもそも浮遊する動力は存在しない。よって自然落下、それを最早制御する術はなかった。
地球突入時にある程度は計算して、大海への落下軌道に乗せていた。
体積、重量が大きい分、地球へ進入するとものの数分で派手に着水した。
その揺れに2人共モビルスーツ内ながらも振動で驚く。
「ぐっ!」
「うわっ・・・こいつは」
そして周囲が華々しく放電し、周囲の灯りが落ちた。
漏電して、ゼウスの機能が止まったことを意味していた。
ハマーンは深く息をついた。
「ふう~。これでこのデカブツの脅威が無くなったか・・・」
ハマーンの声にジュドーが周囲を見渡して頷く。
「・・・ああ。嫌なプレッシャーが嘘のように消えた」
すると、自分たちのいる区画に少しずつ海水が入って来ているのを見た。
ジュドーが元来た道を見て、ハマーンに急かした。
「おい、急ごうぜ。まだ水位が低いが・・・」
「ああ。共に海底に行く気はさらさらないからな」
2人共、機体を要塞出口へと走らせていった。
* 地球内 上空
アムロはνガンダムと共に大気圏を抜けて地球上空にいた。
機体が持つシナンジュの胴体部は焼けただれて、ボロボロだった。
アムロは地球のどの位置にいるか調べた。するとそこはモルディブの上空だと分かった。
アムロは少し笑った。
「フッ。楽園とも言われ名高いリゾート地か。終末にはもってこいだ」
アムロはある程度の高度まで自然落下に任せて、近場の島へ墜落しないように着陸した。
その後、シナンジュを砂浜へ転がした。
アムロは一息ついた。すると、連邦軍の通信回線が入った。
アムロは回線を開くと、ウッディとマチルダがモニターに映し出された。
「おい、英雄。生きているか?」
ウッディはジョーク交じりでアムロへ語り掛けた。アムロは肩を竦めた。
「よしてください。オレはそんな大したもんじゃないよ」
隣りのマチルダが首を振った。
「いいえ、貴方は貴方にしかできないことをしたんのです。少なくとも連邦の皆がこの成り行きを見ていました。落下してきたのも、すべてね」
ウッディが頷く。
「そうだ。お前は英雄だ。もう少し待っていろ。今近くまでミデアで迎えに出ている。一旦通信切るぞ」
アムロは救助が来ているということを理解した。
「ああ、わかった。ありがどう」
そう言って、アムロは通信を切った。
アムロはコックピットを降りて、シナンジュへと近づいた。
「・・・シャア」
アムロがそう一人呟く。
シナンジュのコックピットと思われるところを覗いた。
箇所では触る部分手でも壊せるぐらい傷んでいた。
ハッチの部分はそうもいかなかった。
アムロはブラスターを持って出力を調整し、工具のようにハッチを切った。
そして中を開けると、そこに赤いノーマルスーツを着込んだ男がそこにいた。男は赤いメットを付けていた。
「・・・お前は、誰だ」
アムロがそう男に尋ねた。男はアムロの声に気が付いて反応した。しかし体の動きが鈍い。
「・・・ああ・・・私は、また・・・負けたのか・・・」
その声をアムロは聞いた。
「シャア、お前なのか?」
男はゆっくりとした動きでコックピットよりはい出ようとしていた。アムロはその動きより先にそこより離れた。
ゆっくりとコックピットより出た男ははいながらも砂浜へ出て、仰向けになった。
そして自分でゆっくりとメットを外した。そこより長い金色の長髪が出て、アムロが知る顔がそこにあった。
アムロは倒れた男の顔を立ちながら覗き込んだ。そして深呼吸した。
「ふう・・・。シャア、でいいのか?」
尋ねられた男はアムロを見て、その問いに答えた。
「君は・・・私がシャアであったら、いいのか?」
アムロは男の答えに、それについて自分でも不明だった。
「・・・分からない。シャアの存在をお前の機体に感じたのだ」
男は横に首をやり、綺麗な海辺を見ていた。
「そうか。・・・私は最期にこの上ない見事な景色で終えることができることが勿体無いと純粋に思える。・・・時代、力、思惑、才能、すべてを翻弄しながらも・・・最上の去り方だ・・・」
その後、男が声を出すことはなかった。アムロは特別確認することもしなかった。
アムロはその場に寝転がり、大の字になって天を仰いだ。
「・・・多分、終わったのだろう。宇宙は、世界は大丈夫なのか?」
アムロは今までの激戦の疲労か、スーッと眠りに付いた。
・・・
アムロは夢の中に居た。
そこにもう一人のアムロが居た。
アムロは本来のアムロだと理解した。
そのアムロが声を掛けてきた。
「君は、英雄だった。この世界を救った英雄だ」
アムロは尋ねた。
「救った?オレはすべきことをした。したいことをやっただけだ」
本来のアムロは頷く。そして悲しそうに話す。
「そう、それが君の願いで、後悔だった。それを実現するために同等の条件が必要だった。彼がその糧になってくれていた」
アムロは首を傾げた。
「糧?一体何の話だ」
「シャアだよ。あの存在が君が存在するための均衡だった。それを調整するためにララァという存在を産んだんだ」
アムロは目を瞑り、本来のアムロの答えを素直に、全て受け入れた。
「未練が、オレの未練がこの世界をこう変えた。代償を払って・・・か」
本来のアムロは拍手をした。
「見事だよ。きっとこの選択も、幾千、幾万、無数の糸のひとつなんだろうね。でも、その糸を切ることなく紡ぐことは簡単にはできない」
拍手が鳴りやむとアムロは再び尋ねた。
「どういうことだ?」
「果たして、世界が滅ばず済む糸は無数にあるうちのどれぐらいかと想像する?オレは幾らでも終わらせることができる選択肢が浮かびやすいと思うがな」
自分が話すことだからそれについてよく分かった。
「諦めることは・・・容易いか」
「そう、やり遂げる事は難し・・・だ。さてと、何か聞きたいことはあるかい?」
アムロは少し考えて、答えた。
「・・・まあ、責任感じるな。この後はどうなったのかな?」
本来のアムロは簡潔に答えた。
「元の平和な宇宙、世界に戻ったよ。オレも、英雄だのに祭り挙げられて、君に大いにクレームを付けたい」
アムロは笑った。
「そうか。じゃあ、親父とは上手くやれよ」
本来のアムロは複雑な顔をした。
「ああ、君が変に取りまとめたから、気持ち悪い感じがするよ」
「あと、ベルトーチカは、好きにしてくれ」
アムロは更に複雑な顔をした。
「それもしんどいんだよ」
本来のアムロがそうクレーム付けると、アムロの周囲が白く輝き始めた。
アムロは意識が段々と薄れていく気分が分かる。
「成程な。後はオレの知る所じゃないな」
本来のアムロがアムロへ尋ねる。
「これ以上は何もないか?」
「・・・ああ、ないな」
「そうか。多分、ありがとう、なのだろうな」
アムロはそのお礼に首を傾げた。
「何故だ?」
「オレには、周囲を笑顔にする力が無いからさ。オレがオレのままで生きていたら、不幸だったかもしれない」
アムロは少し考えて、言った。
「それも選択だ。不幸だったかもしれない。今の結果もオレがお前の7年余りを奪った結果だ。できれば、重荷に思わずオレの7年をお前が継いでもらいたい。これがオレにとって幸せだったかどうかはオレにも分からない」
本来のアムロは頷いた。
「そうだな。何が良いなんて、誰にも分からない」
アムロは目を瞑った。そして思った。
やるべきこと、やりたいこと、その場その場で選んできたこと。
全力で自分の思うことをそれなりにやってきたと。
シャアを糧に、ララァを出汁にしてしまったかもしれない。
オレの未練が、またはシャアと共に生まれた未練かもしれないが、
それがこの世界で生きて、駆け抜けた。
これはオレが思った夢なのかもしれない。
消えた後、違うベッドの上でまた目覚めるのかな?
それはまた起きてから考えよう。
とアムロは適当なことを思い馳せながら、意識が薄らいで、目の前が真っ白になった。
<了>
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