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とある3年4組の卑怯者

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87 本性(ひきょうもの)

 
前書き
 不幸の手紙を出した事でクラスで干された藤木。自分が好きなリリィと笹山にすら嫌われ、全てを失くした藤木はスケート場に向かう。その先に出会ったのは自分に恋する女子・吉川みどりだった!!

 今まで保留にしていた藤木と堀さんの対面、ついに実現します・・・!! 

 
 リリィはココアを飲みながら母親に今日の不幸の手紙事件の事を話していた。
「もう本当、藤木君って酷い事したのよ!私もうあんな人なんかと仲良くなんないわ!!」
「そうだったの?でも私には藤木君はそんな子には見えないと思うけど・・・」
「今まではね!でも不幸の手紙なんか送ったのよ!それでまるちゃん達皆怒ってたんだから!!」
「でも藤木君は面白がって手紙を送ったの?」
「いや、確か・・・、えっと覚えてないわ」
 リリィがなぜ藤木が不幸の手紙を出したか、朝の会で言っていた筈だが怒りのあまりで忘れてしまっていた。
「でもあの子貴方が好きだったんでしょ?正直な子だし、あんまりきつく当たっちゃだめよ」
「う、うん・・・」
 しかし、リリィは既に藤木にきつく当たっていた。思い出すだけで怒りが込みあがるだけだったので藤木の事は必死で忘れようとした。

 藤木はスケート場の入口にてみどりと遭遇していた。彼女と会うのはラーメン屋へ共に食事に行って以来だった。
「藤木さんもスケートしに来たんですか?」
「う、うん・・・、そうなんだ・・・」
「そうなんですか!私もちょうどスケートに行きたかった所なんです!!」
 みどりは藤木と会えて非常に嬉しさで興奮した。その時、堀がみどりに聞く。
「吉川さん、その人は?」
 堀から見て藤木は身長の高さで上級生っぽく見えた。
「あ、堀さん、この人が藤木さんでまる子さんの学校のクラスメイトです。実は・・・、私、この藤木さんが好きなんです・・・!」
 みどりは顔を赤くしながら言った。
「え?じゃあ、この人が吉川さんの好きな男子だったのね!」
「はい!あ、藤木さん、この人が私の友達の堀さんです」
 みどりが堀を紹介した。
「堀こずえです。宜しくね」
「う、うん・・・、僕は藤木・・・、藤木茂っていうんだ、よろしく・・・」
(なんて可愛い子なんだろう、みどりちゃん、こんな子と友達になったのか・・・)
 藤木は堀に一目惚れした。藤木にとって堀は自分が好きだったリリィや笹山、いや、クラス一の美少女と言われる城ヶ崎よりもずっと可愛く見えた。
(吉川さんの好きな人、確かに身長が高くて男らしいわね・・・)
「そうだ、これから三人で一緒に滑りませんか?」
 みどりが提案した。
「いいわね!藤木君、いいかしら?」
「うん、いいよ・・・」
 こうして藤木はみどりに堀と共にスケート場の中に入った。藤木は不幸の手紙の事を必死で忘れようとした。
「藤木さん、スケート凄く上手いんですよ」
「へえ、私も藤木君のスケート見たいわ」
「うん・・・」
 三人はスケートリンクの中に入った。そして藤木は滑走し出した。しかし、それでも頭の中で今日の学校での事が染み付いて普段出しているような迫力がなかった。ステップしても、ジャンプもスピンをしても、その頭の気分は晴れなかった。
「まるでオリンピックの選手ですよね!」
 それでもみどりは藤木の技術に目を光らせていた。
「うん、そうね・・・」
 堀は藤木の表情が暗いのに気が付いた。
「藤木さん、凄いです!!」
「ありがとう・・・」
 藤木は褒められても嬉しさが顔に表れなかった。
「藤木さん、どうしたんですか?元気ありませんけど・・・」
「いや、その・・・」
 藤木は学校の事を言うべきか迷った。しかし、他所の学校の人間に話して本当にいいのか、もしかしたらみどりはショックを受けるかもしれないし、堀に言ったらすぐ自分を避けるだろう。藤木はそう考えた。
「藤木君、私と滑っていいかしら?」
 堀が尋ねた。
「え?う、うん・・・」
 藤木は承諾した。堀が藤木の手を取り、滑り出した。
(こんな可愛い子と一緒に滑るなんて確かに嬉しいけど僕は学校で悪い事したから本当に許されるのだろうか・・・)
 藤木は堀と手を繋いで照れてはいたが、心の闇を払拭しきれなかった。堀は藤木の顔を見た。
(吉川さんが好きな人ってこんな暗い人なの?でも明らかに元気がないわ)
 二人が一周滑ると、みどりは感激した。
「堀さんも凄いお上手ですね!!」
「ありがとう、私転校前は山梨県にいてね、藤木君みたいにスケートが得意な友達がいて、よくスケート場に行ってたの」
「へえ・・・」
 堀は藤木に説明するように言った。堀もみどりも藤木の顔が暗く、気になった。そして堀はみどりに聞いた。
「吉川さん、藤木君なんか淋しそうな顔してるけどいつもそうなの?」
「いえ、いつもはそんな事ないんですが・・・」
「もしかしたら何かあったかもしれないわ。聞いてみましょう」
「あ、はい・・・、あの、藤木さん?」
「な、何だい?」
「今日は元気なさそうなんですが、どうしたんですか?」
「あ、いや、そうかな・・・」
 堀も藤木に声を掛ける。
「そうよ、何だか元気なかったわ。何かあったの?」
「う・・・」
 藤木は不幸の手紙の事を言おうか迷った。しかし、言ったら嫌われるかもしれないと思った。
「お願い、何かあったら私達に話して。私、藤木君とは知り合ったばかりだし、怒ったりしないから」
 堀に言われて藤木は笹山の言葉を思い出した。
《なんであの時私に相談してくれなかったの!?言ってくれれば止める事ができたのに!!味方になってあげられたのに!!そうやってはっきりと言わないから皆から卑怯って言われるのよ!!》
 確かにあの時は誰かに相談すれば少しは助けて貰えたかもしれない。しかし、今更相談しても手遅れだろう。しかもここで初めて会った人に言って本当に何とかなるのか。でもここで言わなかったらまた同じ事になるかもしれない。藤木は自爆覚悟で今日の事を話し、自分の本性をさらけ出してしまおうと思った。
「うん、わかった。言うよ。でも、話したら僕を嫌いになるかもしれないよ」
「大丈夫よ、嫌いになんてならないわ、言わないで一人で抱え込む方が良くないわよ」
 三人はリンクを出てベンチに座り、藤木は不幸の手紙の事を語り出した。
「実は僕の家に不幸の手紙が来て、それで不幸が来るのが恐くて書いてあるように四人に出しちゃったんだ・・・」
「そ、そうだったんですか・・・!?」
「それで、今日学校で皆に責められて、嫌われたんだ・・・」
 藤木は泣き出した。
「誰か相談できる人はいなかったの?」
「いたかもしれないけど、言うと嫌われたりするのが恐くて言えなかったんだ・・・」
「そうだったの・・・。確かに藤木君もそのまま出したのは悪いわね。ちゃんと相談すれば何とかなれたのに・・・」
「そうさ、本当俺はバカだよ・・・。誰にもちゃんと言わないで結局嫌われて・・・。本当に・・・」
 卑怯だよ、と藤木は続けようとしたが、二人とも自分が卑怯者とは知らなかったので止めた。
「みどりちゃん・・・」
「は、はい?」
 藤木に急に呼ばれてみどりは動揺した。
「僕が学校で何て呼ばれているか知っているかい?」
「いいえ、分かりません」
「『卑怯者』さ。僕は何かとんでもない目に遭いそうになるとすぐに逃げたり、見栄を張って嘘をつく卑怯な奴なんだ!君はこんな僕を好きになれるのか!?こんな卑怯者なんかが好きになれるのか!!?」
 藤木は自分の本性を明かした。
(ふ、藤木さんが卑怯者・・・!?)
 みどりも泣きそうになった。
「私は、私は・・・、それでも絶対藤木さんを見捨てません!」
「え?」
「藤木さんはとても優しくて純粋な方です!もし藤木さんが本当の卑怯者だとしても私はどんな時も藤木さんの味方でいます!それに私だって堀さんに会うまでずっと今の藤木さんみたいに学校では一人ぼっちでした。藤木さんのその寂しい気持ち、私にも分かります!もし藤木さんが寂しいならば私はいつでも傍にいます!だって、藤木さんは私の大切な人ですから・・・」
「みどりちゃん・・・、ありがとう・・・」
 藤木は別にみどりは好きでもない。しかし、自分の肩を持とうとしているみどりにありがたく感じた。みどりも藤木とデパートに行った時にクラスメイトの男子に絡まれた所を藤木に助けられたし、社会科実習で取材したラーメン屋に藤木を連れて行った時に美味しかったと言われたし、今度は自分が藤木を助ける番だと考えていた。
「でも、確か藤木君の所にその手紙が来たんだっけ?」
 堀が尋ねた。
「う、うん・・・」
「誰が出したかわからない?」
「うん、差出人の名前がなかったからね」
「おかしいわ。確かに藤木君も悪いけど、藤木君に出した人が一番悪いわ。どうして藤木君に手紙出した人を突き止めずに藤木君を一方的に悪者扱いするのか、それが一番酷いわ」
「そうですね、私も藤木さんをこんな目にさせた人が許せません!」
(みどりちゃん、堀さん・・・)
「藤木君、どう?私達に今日の事を喋って、まだ気が重い?」
「う、ううん、少しスッキリしたよ。ありがとう、堀さん、みどりちゃん・・・」
 この時の藤木の発言は誤魔化しではなく、本心だった。
「ちゃんとはっきり言えば味方してくれる人もいるわよ。今の藤木君は卑怯者なんかじゃないわ」
「堀さん・・・」
「また私達と一緒に滑ろう!」
「うん!」
 藤木はみどりに堀と共に滑った。藤木は自分に真剣に向き合ってくれた堀にやや惹かれていた。

 そして帰る時間になった。
「みどりちゃん、堀さん、今日は本当にありがとう」
「どういたしまして、そうだ、また明日も一緒にスケートしない?」
「うん、いいよ!」
「私も賛成です!」
「それじゃ、さようなら、元気だしてね」
「うん、さよなら!」
 藤木はみどりに堀と別れた。この時の藤木は堀の事を考えていた。
(堀こずえさんか・・・、早く明日になんないかな・・・?)
 藤木は堀と再び会う時を楽しみにしていた。 
 

 
後書き
次回:「機会(チャンス)
 藤木はスケート場で再びみどり・堀と共にスケートをして遊ぶ事になる。堀が藤木にアマのスケート大会への出場を薦めようとした時、藤木はある人物と再会する・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 
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