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真田十勇士

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巻ノ百十八 方広寺の裏その四

「大御所殿はな」
「それはされぬ」
「そこまではですか」
「それが一番だとご存知でも」
「決してですな」
「やはりあの方も武士じゃ」
 家康もというのだ。
「幕府を開く前後から謀も備えられたがな」
「それでもですな」
「そうした謀は用いられぬ」
「絡め手は使われても」
「それでもですな」
「うむ、あくまで豊臣家に切支丹を認めることを諦めさせて」
 そしてというのだ。
「そのうえでな」
「それが出来なかった時は」
「戦ですか」
「そうなりますか」
「そうじゃ、そしてじゃ」
 幸村はさらに話した。
「ことここに至ってはな」
「戦になりますか」
「茶々様は幕府のお話に従われぬので」
「それで、ですか」
「最早戦は避けられぬ」
「あの方の過ち故に」
「そうなる、我等も覚悟を決めておくぞ」
 幸村は十勇士達にあらためて告げた。
「戦になればな」
「はい、その時は」
「すぐにこの山を出てですな」
「そのうえで大坂に入り」
「戦をしますか」
「そして何としてもじゃ」
 秀次の顔と彼に最後に告げられた言葉も思い出していた。
「右大臣様をな」
「お助けしましょうぞ」
「関白様との約束でした」
「それならば」
「関白様も拙者を認めてくれた」
 幸村は今もそのことを忘れていなかった、自分を認めてくれたそのことへの恩義をである。
「そしてその関白様のお願いであった」
「右大臣様をですな」
「頼むと」
「あの方の為に腹を切らされた様なものなのに」
「そう言われましたな」
「そのお心無駄にはせぬ」
 決してというのだ。
「何があろうともな」
「その為にも」
「大坂に入りますか」
「その時が来れば」
「おそらくその時は近い」
 これが幸村の見立てだった。
「だからな」
「我等もですな」
「その時が来れば」
「すぐにですな」
「大坂へ」
「共に来てもらう、よいか」
 十勇士達にこのことを確認した。
「そうしてもらいたいが」
「無論です」
「我等は常に殿と一緒です」
「死ぬ時と場所は同じと誓った身」
「それならばです」
「喜んで参りましょう」
「大坂に」
 十勇士は皆幸村に笑顔で答えた、それが彼等の返事だった。幸村もその返事を受けて笑顔になった。
 そうしてその日に備えて修行も続けた、彼等はそうした日々であったが。
 大坂はこの時大騒ぎだった、当然ながら方広寺のその話を聞いてだ。茶々は怒り狂って周りの者達に言っていた。
「あれはどう思うか」
「はい、言いがかりです」
「そうとしか思えませぬ」
「あれは漢文の読み方すら怪しい」
「そうしたこじつけです」
「そうとしか思えませぬ」
 周りの者達は茶々の剣幕に戸惑いながら答えた。
「最早です」
「そうとしか思えず」
「幕府は釈明の者を駿府にと言っていますが」
「どうされますか」
「言いがかりに黙っておられるか」
 直情的な茶々は即座にこう言った。 
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