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問題児たちが異世界から来るそうですよ?  ~無形物を統べるもの~

作者:biwanosin
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外道の執行

 
前書き
かなり抑えましたが、念のために。グロ注意です
大丈夫だとは思いますけどね 

 
その時の彼は、こんな心境だった。

彼女の決定に、怒りはなかった。
その女神の主張は正しく、その女神の行動は正しく、その女神の裁きは正しかった。
その対象は大切ではなく、その対象は必須ではなく、その対象の死は悲しくはあっても喪失ではなかった。
大切に区分される逆廻十六夜が傷つけられはしたものの死んではおらず、自業自得であったが故に思うところはない。

故に彼の発言は、「反吐が出る」という処刑宣言はそこに向けられたものではなかった。
では一体何に向けられたのか。それは、女神の在り方そのものだった。

正義を決定づける存在、それは存在するだろう。だが気に食わない。
正義を実行する存在、それは存在するだろう。だが気に食わない。
裁かれなければならない存在、それは存在するだろう。だが気に食わない。
レティシアは死ぬべき悪である、それは事実だろう。まあそれはどうでもいい。

ああそう、つまり。絶対的な悪と絶対的な正義を決定づけることのできる彼は、絶対的な悪と絶対的な正義を決定づけることのできる彼女の存在が、ただ鬱陶しかっただけなのだ。



 ========



外道は感情の宿らない目で周囲の情報をとらえ、刀を抜く。妖刀師子王、社に祀られ神刀へと足をかけた一振り。神をも切りうる名刀。

相対する正義はその対立を悲しく思い、剣を構える。鎚は裁きを下すためのものであり、剣は悪を両断するためのものであり、天秤は善悪を測るためのものである。それ故に、相手の目を覚ますために振るうは剣だ。


双者は交叉した。そしてその結果は、明確であった。
第一に、双者の格に大きな差は存在しない。積み重ねた霊格こそ異なれど、正義の体現者と境界の体現者。境界を定め、それ故に主催者権限を封じる権利を持つ存在。運命への干渉は打ち消される。
故に、その結果を定めたのは目標にあった。女神は心の在り方を正すことを目的に振るい、外道は殺すために振るった。剣は両断され、足は切り落とされ、足の機能は失われた。
その瞬間、女神はようやく、一つの事実を認識した。躊躇うことなく足を狙い、罠を仕掛け、苦痛を与えるためだけに鈍らせたその刃に。相手は自分を苦しめるつもりでいるのだと・・・明確な悪意(・・)を察知する。
それを認識すれば、もはや躊躇うことはない。何故という困惑こそ残るものの、正しく裁くために主催者権限(正義)実行(開催)する。天秤が現れ、その瞬間に彼女はゲームを正しく進行するためだけの存在(歯車)へと移り変わる。後は目に移る罪状を天秤へと導くのみ。しかし、その皿は何も乗せずに消滅する。

重ねて発動されるのは、外道の主催者権限。正義がゲームを開始するよりも早く、強制的に終了させられる。ゲームによって対処を縛ることが出来たのは、ほんの数瞬。切断された足はすでに生えているが、有利を取れるほどの時間ではない。・・・むしろ、ゲームの終了に伴って戻ってきた感情は、今見ることのできた罪を理解しきれていない。

一族の敵を、必要以上に苦しめて殺す姿があった。
一族を皆殺しにされた恨みの発散にしては、強すぎる行為だ。

会社内に潜む敵を探りだすために、無差別に関係者を拷問する姿があった。
罪人の行った無差別殺害()は重い。だが、無関係な人間も巻き込んだ。

せめて娘が独り立ちできるまで待ってほしいと頭を下げる父親の目の前で、娘と妻を射殺し「もう理由はなくなったな?」と残酷に告げる姿があった。。
やむを得ず手を汚したお人よしに、自分のせいで愛する妻子が死んだという責め苦であった。

強さをもとめて辻斬りを繰り返した中華の守護者は、生きながらミンチとなった。
民を守り続けた英傑はただ無情に刻まれ、屍は烏についばまれる。

妄執の果てに人間をやめた肉塊(賢人)は、虚無に呑まれて消滅した。
国を個人の欲望から解き放つための研究は、ゴミにもならないと嘲笑いながら破壊された。


それを直視したが故に、彼女は全て理解した。一つ、彼は互角の殺し合いに興奮する異端者である。二つ、彼は命を奪うことにためらいを覚えない殺戮者である。三つ、そもその殺しの動機すら必要としない機械である。
こんなものが正義であるものか。しかし、これは悪でもない。義務ではなく、権利も存在しない。感情に従った結果ではなく、仕事として行ったわけでもない。欲求に従ったわけではなく、必要に迫られたわけでもない。

本当に、何の要素もなくなった存在が、ただ殺しを行ったのだ。

行動に意志は無く、結果が善悪双方存在するが故の、外道。表す言葉があるのなら、最大のクズ。当然、悪ではなくとも世界に存在していいものではない。剣を構え、次の瞬間、対象は眼前にいた。空っぽの瞳。何の感情もなく、ただ剣をいなして刀で足を抉る。正義の体は容易く転がり、外道はその胴へ刀を突きさす。女神は、神刀によって地面へ縫い付けられた。
たかが腹部を刀で貫かれた程度。ギリシア神群より不死を賜った体にはその程度なんでもなく、すぐに修復された足も駆使して立ち上がろうとするが外道はそれを許さない。上から抑え込み、四肢の骨を破壊して、その体に呪符を貼りつけ、九字を切る。続けて、不動明王真言が唱えられた。不動金縛りの術。金縛りの文字通り、その身の自由を縛った。
この世の善を定める女神はここに、自由を簒奪された。

「ふぅ・・・」

敵の自由を奪い、鬼道一輝は感情を再構成した。腕を、足を、半身を何度も消し飛ばされつつの機械的な攻撃。それを行うために削除した感情を、これまでそうしてきたように作成して、鬼道一輝という本体に読み込ませる。といっても全て取り戻すのはまだ先の話。今は、今必要な感情だけを取り戻す。

そうして、感情を取り戻して目の前にいる女神をどうするか吟味する。ギリシア神群から道案内に出されたものから聞いたところによれば、目の前にいる女神は箱庭にて不死を与えられたらしい。だとすれば、殺すのは容易ではない。そもそも可能な限り限界まで苦しめるため、その方法を考えるために感情を取り戻したのだからサクッと殺すわけにもいかない。さてどうしたものかと考え・・・一つの結論に至った。

「我が百鬼より来たれ、鬼」

奥義の発動。その身に宿る檻から、『鬼』などいう大雑把なくくりで異形が解放される。そうして現れるのは、まさに人がイメージし、様々な物語にて悪役として登場させた鬼であった。
筋骨隆々、角と牙を持つ人間の敵。かつて鬼道の一族が例えられ、未だにその名に一文字を刻む存在。もっともありふれているが故に数も尋常ではない鬼の軍勢が、限定的に開放された。

「犯していいのかい、我が主?」

欠片も主とは思っていない声の主に対し、一輝は首を振る。

「却下だ。感情が戻ってないころならともかく、今は不快だ」

女が強姦されているのを見るのが不快なのではなく、それでは殺すことが出来ないことが不快。無駄なことに時間を浪費するのを、彼は許容できなかった。そうでなくとも、それでは相手の心を折ることができない。
であれば、殺すことが出来る手段であればいいといっているわけであり。

「なら、どのように?」
「ハッ、決まってる。―――喰え。女神の踊り食いだ、そう言うの好きだろ?」



 ========



その言葉と同時、鬼の一人が飛び出した。これまでくらってきたモノと比べるまでもなく極上のエサがそこにあり、好きなだけ喰らえるとわかった以上躊躇う理由がない。砕かれた足へと手をかけ、一思いに引きちぎる。クチュクチュと、すぐ後ろを追っていた鬼が断面より滴る血を吸い、内モモへと舌を伸ばす。色情からではない。そこの肉が柔で美味であると知っているからだ。食いちぎり、噴き出す血で喉を潤す。

膝から下を引きちぎった鬼は断面よりこぼれる血を飲み干したのち、骨付きの肉を喰らう要領で・・・否、事実その通りの動作でもって女神の肉を喰らう。生肉特有の弾力、それを自前の牙で食いちぎり、嚥下する。そこまで時が過ぎると、残りの鬼も殺到した。足へ、腕へ、乳房へ、臀部へ。暴れる柔肉の全てへ手を伸ばし、抑え込み、我先にと口を近づける。舌で触れ、次の瞬間、グチュリ、と生音が。肉を喰らう音、血を啜る音、女神の放つ悲鳴で奏でられる三重奏。次の瞬間、そこに歓声が加わった。

ギリシア神群より不死を与えられたその体は、正しくその祝福(呪い)を発揮する。修復されてゆく体。今間違いなく喰われた体は、血痕以外何の痕跡も残さず修復された。無限に喰らい続けられる至極の食事。喜びは声から行動へ変わり、女神が身につけていた衣服(パッケージ)を引き裂く。完全に何も隠すものがなくなり晒された裸体。さすがは女神と言うべき美しさを持つ裸体であったが、今彼女を囲んでいる者たちが抱いているのは肉欲ではなく食欲である。鋭い爪が突き刺さり、血によって汚された。蛇腹のような形をした長い物(小腸と大腸)が引き出され、麺類のように啜られる。

一対の大きな()が取り出され、握りつぶして一口に飲み込まれる。わざわざ取り出すのも億劫だとばかりに穴へ口を近づけ、直接内臓を喰らう。あまりの痛みに身を捩り目を見開けば、そこには老婆が一人。単眼の老婆、ミカリババアはその眼へ指をつき立て、抉り取る。尻尾の付いた球体を飲み込むと、満足したのかケケケと笑い檻へと帰る。さらに高まるはずだった悲鳴は、同時に口周りを喰らわれたことによる驚きで埋められた。喉元にも一つ。声帯ごと喰らわれ、しかしすぐに治る。治った端から喰らわれる。当然のこととして女神も何度も抵抗を試みた。腕が治った瞬間近くの鬼を殴り飛ばし、次を狙ったところで一輝の操る空気によって押し潰される。同時に断面へと喰らいつくよう鬼へ命令を出す。手羽先のように喰えなくなったと不満を漏らす声はあるものの、それ以上に美食を喰らうことに意識を持っていかれていた。食事は続行される。ふと、拳大の塊(心臓)を取り出したとき、一瞬女神が停止したが、すぐに再起動。心臓の喪失はさすがに意識の停止を引き起こしたが、祝福(呪い)によって再び。悲鳴は演奏へ返り咲いた。

捕食は終わらない。満足した鬼は檻へと帰り、新たな鬼がその美食を喰らうため表に出る。63もの代を重ねた一族の殺してきた鬼だ。その総数は到底、数えられるものではない。終わることのない責め苦。痛みを感じ、屈辱を感じ、そして何よりも自分が延々と喰らわれる。如何に希薄した感情の持ち主であっても、その精神は確実に弱り、すさんでゆく。
死を願う女神は、やがてその解へたどり着く。



 ========



目の前で起こっていることを、飲み込むことが出来なかった。いや、理解はできている。弱者が強者に喰らわれる光景。動物園で起こることはなかったが、水族館では起こったのを見たこともあるし、双方の言を聞いたこともある。自然界では言うまでもない。蜘蛛が蝶を喰らう姿・・・いや、蟻が集団でもっと大きな存在を喰らっている時が、最も近いか。
しかし、やはり飲み込むことが出来ない。起こってもおかしくはないと思っていた。事実、箱庭に来たときグリフォンのご飯になる覚悟をしていた。それでも、実際にそうなっているのを見て、どうしようもないと思ってしまった。

いや、違うか。やっぱり、どう考えても、この光景が異常なのだ。終わることなく、化け物が一人の女を喰らっていく。それを一人の、同世代の人間が指示して行っている。しかも、指示した当人は何の感情も抱いていない。

ふと、ユースティティアが暴れ回る過程で目があった、ような気がした。そこでふと、その姿に。女性的尊厳が捨て去られ、その上でそれとはまったく別のところを犯されていくその姿に、自分が重なった。それでようやく、その事実に思い至る。あそこにいたのは、別に自分でもおかしくなかったのだ、と。それが一輝という人間で、寺西一輝という外道で、鬼道一輝という英雄の姿なのだ、と。

例えば、箱庭に来たとき。別行動をしていなかったのなら私は、彼に殺されていたのではないかと思う。
箱庭に入ってしばらくした後、彼がガルドの誘いを受けていたらそれに乗って私たちの敵になっていたのではないかと思う。
もっと簡単な例として。一輝と湖札の召喚先が逆だったのなら、今とは全く別の結果が現れていただろう。

そうなれば、今あの場で。裸体をさらし、悲鳴を上げて、失禁してもなお止まることなく喰われ続けていたのは、自分だったかもしれない。その考えに至った瞬間、体が震え出した。ただでさえ力の入らない体がさらに崩れ、自覚した段階で五感が情報を受け取りだした。視覚は飛び散る赤を。聴覚は捕食音を。嗅覚は鉄臭さを。味覚は空気中を漂う血の味を。触覚は悲鳴による空気の振動を。ああどうして、どうしてこの状況に、私は直面しているのか・・・・・・!
恐怖から詰問しようとしたところで、視界がふさがれた。

「えっ・・・」
「すいません耀さん、しばらくの間失礼しますね」

湖札の声と手の温度に、少し体の震えが治まった。考えてみれば彼女も一輝と同類だというのに、なぜ安心したのだろうか。年の近い同性の相手、というだけで安心したのだろうか。そんなことを考えていると、ピリッとした感覚が。

「兄さん、一切考慮してないですからね。確かに箱庭で生きていくって考えると必要なことですけど、個人的にはさすがにまだ酷かな、って思いますので」
「え、っと」
「しばらく、五感が落ちます。時間経過で元通りになるので、安心してください」

そういって、手を外される。目を開ければ、言われた通り視界がぼやけていた。他の感覚も平時に比べて落ちている。まだ視界にも入るし聞こえても来るが、それ以外で感じることはなくなった。ちょっと安心してしまう。自己嫌悪は、抱かなかった。

「さて、改めてお話しましょうか。色々と察してはいたようですけど、あれは想定外でしょう?」

その通り。あれだけの残虐性は想定内であったが、あの様子は完全に想定外。どうしてあそこまで無感情に、あそこまでむごいことを行えるのか。

「そう言うわけではっきり言わせていただくと、あれが兄の本性です。これまで同じ屋根の下で過ごし、同じ旗の下で戦ってきた、一輝という人間の本当の姿」
「もうあれ以上、隠してることはないんだ」
「鬼道のことを除けば、何一つ。まあ、耀さんや飛鳥さんが気付いていることも含めて、ですけど」

その上で、仲間だと思えますか?と。そう問われ、すぐに返すことはできなかった。この状況を見て、恐怖を抱いてしまったから。それ故に、耀は問いに問いを返す。

「湖札たちは、どうしてるの?」
「なんだか色んなところで聞かれてる気がしますけど、まあ同類(ヤシロと湖札)だったり道具(スレイブ)だったり諦めて受け入れて(音央と鳴央)いたり、です。本当に色々ですよ」
「そ、っか」

歪に過ぎる関係を知り、はてどうしたものかと思考していると、悲鳴の舞台から大きな輝きが。目を向けると、何か黄金に輝く塊が発生している。

「あれは・・・?」
「ユースティティアの魂、でしょうね。殺されたことで兄さんに封印される、と言ったところでしょう」
「でも確か、ユースティティアはギリシア神群から不死を与えられたって」
「ええ、確かに不死を与えられていたようです。ですが、当然ながらそれはギリシア神話における不死・・・ケイローンの逸話をご存じですか?」

言われて、思い出した。ギリシア神話において、不死とは手放すことが出来るものなのだ。その思考に至った時、先ほどまで行われていたこともまたギリシア神話の再現・・・プロメテウスの逸話から来ているのだと察した。

「きれいに輝くんだね、魂って」
「霊獣か神様だから、というのもありますけどね。ただの妖怪や人間の魂は輝きません」

所詮人間なんざそんなもんだと言われたようで、釈然としない。そんなことを考えながら、全てのことを終えて近づいてくる一輝を見る。どんな表情で接すればいいのか、判断がつかなくて頭が真っ白になる。

「さてと、だ。ひとまずこれ、預けるわ」
「え?あ、うん・・・え?」

渡されたのは、Dフォンだった。確かこれは、隷属関連の重要なものだったはず・・・

「じゃ、しばらく任せた」
「え?・・・・・・え!?」

しれっとそう告げた一輝は、煙球を地面に投げつけ・・・兄妹そろって煙がはれる間にいなくなっていた。しばし無言で呆れてから、ポツリ、と。

「なんでこー、なるの」

春日部耀の口かららしくなく、そんな言葉が漏れた。

 
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