身内のみ

　だからだ、ファン達も言うのだ。
「喜代原もないな」
「ないない、しかもあいつタイトル新人王だけだぞ」
「おまけに素行も悪い頭も悪いだろ」
「覚醒剤やっててもヤクザと付き合いあってもおかしくないぜ」
「そんな奴コーチにも出来るか」
「あいつは問題外だよ」
　例え生え抜きのスターでもというのだ。
「それなら同じ高校だった桒田の方があるさ」
「頭もいいし人望もあるしタイトルも獲ってる」
「人気もあるしな」
「その辺り西藤もだな」
「あと牧原もな」
「しかしこの三人ってな」
　人気も実力も監督の資質も全てありそうだが、だ。
「フロントにも言いそうだな」
「自分の意見言いそうだな」
「それじゃ三人共ないか」
「二軍監督が精々か？」
「桒田とか面白そうなんだけれどな」
「自分の考え絶対に言うだろうしな」　
　野球理論がある、しかしそれだけにその理論をフロントに言ってこのチームが育成よりも遥かに熱を入れている補強にも言うというのだ。
「桒田はないな」
「自分達に強く意見する人間嫌うフロントだしな」
「特にオーナーはな」
　通称日本版北の将軍様だの日本最悪の老害だの言われている輩だ、邪悪の象徴と言えるこのチームの中でも最大の悪とも言われている。
「あいつはそういうの嫌うしな」
「自分に意見する人間自体な」
「選手なんかたかが選手だろ」
「絶対に意見する奴許すか」
「桒田は特にないだろ」
「だから条件はな」　
　このチームで監督が出来る条件はというと。
「生え抜きで一度も他のチームに行ってない」
「タイトルを獲得する位活躍していて人気もあった選手だな」
「しかもフロントに意見しない」
「結局采配とかどうでもいいって感じだしな」
「ミスターの采配相変わらずだしな」
　現監督の彼の采配は以前から言われている。
「生え抜きのスター選手でフロントにも逆らわない」
「ついでに采配もよかったらいい」
「じゃあ誰だろうな」
「羽良しかいないんじゃないか？」
　ここで彼の名前が出た。
「総合コーチのな」
「ああ、羽良か」
「タイトル獲ったし人気もあったしな」
「まあ采配はどうかわからないけれどな」
「フロントに逆らうタイプでもないし」
「なら羽良か」
「羽良が次の監督か」
「そうなるか？」
　彼ではないかというのだ。
「というか何か羽良しかいない感じだな」
「生え抜きのスター選手でフロントにも逆らわない」
「しかもチームへの愛情凄いしな」
「だったら羽良か」
「羽良しかいないか」
　ファン達はこう見た、そして実際にだった。
　長洲が監督を辞任した時に監督になったのは羽良だった、ファン達は彼の引き締まった端正な顔を見て言った。
「やっぱり羽良になったな」
「監督になれるってあいつしかいないか」
「今の虚塵だとな」
「羽良しかいないんだな」
　監督になれる条件を満たしているのはというのだ。
「采配どうだろうな」
「結構変なことも言ってなかったか？」
「ミスターよりはましだろ」
「そうだろうな」
「幾ら何でもな」
　珍采配で知られた長洲よりはというのだ。
「まだましだろうしな」
「育成もしてくれそうだし」
「じゃあ羽良か」
「ＯＢでミスターと仲のいい広丘も推してるみたいだしな」
　現役時代は長洲と三遊間を組んでいて西部レオポンズで名監督だった。
「それならな」
「大丈夫か」
「やっぱり羽良か」
「羽良で決まりか」
「羽良が次の虚塵の監督か」
「そうなるか」
　こう話す、そして実際にだった。
　羽良が次の監督となったがだ、ファン達はまた話した。