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ハイスクールD×D 聖なる槍と霊滅の刃

作者:紅夜空
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第二部 英雄派と月の姫君
  遭遇戦

「……はぁ」

夜の街を駆け抜ける。屋根伝いに走る私の後を、追う影がいくつか。
屋根の上を伝って逃げることで攪乱を狙ったんだけど、どうやら撒くのには失敗しちゃったみたい。
ちらっと路上のほうにも視線を向けてみれば、そちらにも二人ほどの影が。

「……ついてないなぁ」



そもそものきっかけは。

「襲撃組に同行?」

「ああ」

最近の私たちの活動は、メンバーの勧誘から曹操曰く『第二段階』に映ったらしく、三大勢力の重要拠点に次々と構成員と、レオナルドの作りだしたモンスターを送り込んで襲撃を繰り返している。
何でも、禁手(バランス・ブレイカー)に至る使い手を増やすためには、「劇的な変化」とやらが必要らしくて……

「でも、それだったら私が行く意味…」

「君の『アレ』はまだ不安定だろう。あれは禁手(バランス・ブレイカー)に似て非なるモノだとは思うが、おそらく根幹の部分は同じだ。ひょっとすると、君の力はもともとは神器(セイクリッド・ギア)だったか、そのシステムだけを模倣したものである可能性が浮上してきた」

そう。定期的に曹操に検査してもらってる私の力―――仮称『万霊殺しの霊刃(カース・オブリビオン)』―――も、どうやら変化した、というか……次の段階に進んだみたいで。
曹操曰く、それが禁手(バランス・ブレイカー)に似ているのだとか。あまりよくわからないけど…

「……とにかく、襲撃に同行すればいいの?」

「ああ。基本的に君の判断で行動してくれて構わない。作戦の大枠さえ頭に入れてくれれば、自由に動いてくれ」

「…ん、分かった」

こうして曹操から自由裁量権を貰って、時々襲撃の援護などをすることになった。



今回の襲撃場所はこの前行った駒王町だった。なんだか、複雑だけど仕事だし。
あらかじめ曹操に渡された簡易の転移魔方陣発生装置(ゲオルクに作らせたらしい)を確認して、愛用の刀を背負う。
服装はいつも通りの黒の上着と黒のズボン。夜に活動するなら、この姿が一番目立たない。

「じゃ、ちょっと襲撃に同行してくるね」

「ああ、好きにするといい……だが、ほどほどにして戻ってくれ。……君はまだ、知られるわけにはいかない切り札なのだから、文姫」 

……切り札と言うほど私は重要な存在ではないんだけど。曹操はたまに、私を過大評価している気がする。

「……ん、分かってる。ちゃんと曹操のところに帰るから」 

「…わかっているならいいさ」  

「うん」

いつも通りのやり取りをして、私は転移魔方陣を起動する。
―――さて。とりあえず、どこで戦闘になるかわからないから、早めに合流しないと。



そして現在。
他の構成員より先についてしまった私は、とりあえず町に潜り込んでいた。
確か、今日襲撃地点に選んだのは……町はずれに在った工場のはず。ゆっくりと、不自然にならないように注意を払いながらそっちに向かっていたのだが……

「――ついてない」

流石に刀を背負って歩き回るのは失敗だったようで……明らかに悪魔とわかる人に見つけられてしまった。本当についてない…つけられてる。
けど、向こうも刀を持っているんだけど……まあいいや。

「……邪魔をするなら。叩き潰す」

路地を曲がって相手の視線を一瞬振り切り―――その一瞬で抜刀する。
さて、久しぶりの悪魔との実戦。残念ながら、私はスタミナはある方ではないから、仕留めるなら一瞬が望ましい。
さて、あの悪魔はどの『駒』だろうか……多分、『騎士(ナイト)』だとは思うけれど。
フッと嫌な予感がする。その感覚のままに、一歩飛び退く。
ざっと空気を割く音と共に、さっきまで私の頭があった空間を白刃が薙ぐ。うん、予想外に速かったけど―――やはり、『騎士(ナイト)』かな。

「――避けられた!?」

「殺気があからさますぎ」

仕方ない。相手が相手だから、出し惜しみもできないね。
いつも通りに力を引き出す。蒼いオーラが刀身を覆ったのを確認して、一歩。次の一歩で、ギアを一気に引き上げる。
ギィィィイイイィィンッ!
咄嗟に反応した相手が刃を受け止める。打ち合わせた衝撃で甲高い金属音が響き、火花が視界を灼く。その一瞬、相手の顔が見えた。

「……ソーナ・シトリ―眷属の騎士(ナイト)(めぐり)巴柄(ともえ)か」

資料にあったこの町を縄張りとする二人の上級悪魔のうち、現レヴィアタンの妹であるソーナ・シトリ―の眷属。
若手の悪魔の中では筆頭格の眷属。リハビリにはちょうどいい。
騎士(ナイト)』の特性であるスピードを生かした高速の斬撃が私を襲う。それに呼吸を合わせるように体を揺らし、ギリギリのところで避ける。
―――残念だけど。私の『眼』なら、まだ見える。

「動きが読まれてるっ!?」

私の『眼』は動体視力が飛びぬけている。ただそれだけのものだけど。
生まれてから曹操に拾われるまで、ただひたすらに戦い続けた経験と、その眼が合わされば。膨大な経験から次の動きを「予測」することも可能だ。
その恩恵をフルに活用して、高速の剣舞をギリギリで避け続ける―――見えた。
僅かに刀の角度を変える。ギンッ!と衝突音と共に相手の刀が火花を散らし……わずかに傾けた刃に沿って、流れていく。

「なっ」

「―――終わり」

勢いを流されて大地に食い込む刃。その一瞬を縫うように、体のバネを使って刺突を打ち出―――

「ッ!!」

そうとしたところで新手の接近に気が付く。そのせいで、僅かにずれた刺突は心臓ではなく、肩を貫いてしまう。
崩れ落ちた姿すら確認せず、すぐに逃走に移る。複数の気配がこちらに近づいてきてる。流石に、多勢に無勢となると勝ち目はない―――

「巡先輩!」

「誰にやられました!?」

「元ちゃん、あっち!」

……残念。どうやら、見つかってしまったようだ。
何とか撒いて、襲撃グループと合流しないと―――。



屋根伝いに逃走しながら、集合場所である工場に向かおうとする。後ろと近くの路上にはシトリー眷属らしきメンバーが私を追跡していて、一筋縄では突破できそうもない。

「元士郎先輩!」

「おう!」

後ろでそんな声がしたかと思うと、何かが伸びてくる。これは、まさか……
そう思った時にはぴたりと私の体にラインがくっついていた。そして、グイッと引っ張られる感覚。

「―――ッ!!」

思いっきり引っ張られて引き寄せられる。向こうは悪魔の膂力もプラスしているのか、体重の軽い私くらいなら簡単に持ち上げられるようで。
咄嗟にオーラを纏った刀でラインを切り裂く。空中とはいえ自由を取り戻し、勢いのまま刀を一閃。

「きゃああっ!!」

「仁村!」

すれ違いざまにこちらを蹴ろうとしていた少女を斬る――――浅い。
歯噛みしながらもそのまま飛ばされ、二軒離れた家の前に落ちる。咄嗟に受け身をとったためダメージは免れることができた。
すぐさま移動し、できるだけ気配も完全に殺す。これで、追っ手のほうはとりあえず見失ったはずだ。
この間に工場まで行きたいところだが…さっき投げられたことで、想定していたルートから外れてしまった。
時計を見る。あ、もう襲撃が始まっているはずの時刻だ……となると、シトリー側にも情報が行っている可能性がある。最悪、工場までの道に眷属が配置されることも考えなければならない。
だったら、頭数を減らしておくべきかな……とりあえず、移動しないと。
足音も殺してそっと移動する。先ほど私を放り投げた元士郎と呼ばれていた悪魔の気配は少し遠ざかったが―――

「……困った」

やはり行先は工場だと気がつかれたのか。何人かの人影が、工場方面を警戒しているのが見えた。
こうなってしまえば、正面からの強行突破は無理に等しい。ならばどうするか。
―――仕方ない。ここは、一人ずつ確実に仕留めていこう。
そう考えながら、預かったものを起動する。これで、少しは楽できるといいんだけど…



ドサリ、とウェーブのかかった長髪の女の子が倒れる。さっき落とした戦車(ルーク)の子も合わせて、これでほとんどシトリー眷属は無力化したはず……
一秒でも早く工場に向かうため、殺すのではなく無力化にとどめる。最初から殺す気で行ったら、気がつかない間に殺気が漏れ出て感知されるかもしれないから、基本的に無力化に止めている。
首にかけた輪をなでる。曹操がゲオルクに作らせて、私に持たせた魔法具の一種で『隠遁』の術式を発動させることができる。簡易的なものだから過信は禁物だけど、ここまではしっかり効力を発揮してくれた。おかげで、固まっていたシトリー眷属を背後から気が付かれずに奇襲し、効率的に無力化することができた。完全に気配を消して背後から奇襲で落とせるのならば、だいぶ労力は違う。

「……とりあえず、急がないと」

だいぶ工場にも近づいてきたので、足を速める。
工場のほうからは何か大きな力のぶつかり合いと複数の気配を感じる。もしかしたら、グレモリー眷属はそちらの方に出張っているのかもしれない……
一瞬だけ気が散じる。その瞬間を狙いすましたかのように、びゅっと風切り音。
咄嗟に避けたけれど―――あ、まずい。魔法具に相手の攻撃が当たり、パキンッと乾いた音がする。


「……やはり、ここで張っていて正解でしたね。姿を隠しているようでしたので、魔力を使って探していたのですが」

一回転して着地した私の聴覚に冷静な声が滑り込む。見れば、長い黒髪に眼鏡をかけた女性がこちらに歩み寄ってきていた。その手には長刀(なぎなた)がある。その前には、先ほど私をラインで投げ飛ばした元士郎と呼ばれていた男の子の姿も見える。拳を振り切った態勢をしているあたり、攻撃を仕掛けてきたのはこっちのほうだろうか。
―――まあ、どっちでもいいや。二対一の状況で、正念場に変わりはない。

禍の団(カオス・ブリゲード)、英雄派の構成員ですね?ここから先、通すわけにはいきません」

「俺の仲間をやってくれたんだ。ただで済むと思うなよ…!」

鋭い殺気と怒気が向けられる。
一瞬のち、戦端は開かれた。



先手を取ったのは相手のほうだった。男の子の右腕が黒い蛇のようなものに覆われる。
これで彼の正体は確定―――曹操から聞いていた五代龍王の一体、『黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)』ヴリトラの力を使うというソーナ・シトリー眷属の『兵士(ポーン)』、匙元士郎だろう。―――無力化しておくに、越したことはない。放っておいて合流したら、絶対に追いかけてくるだろうし。
次々と伸びてくるラインを、ジグザグに走って躱す。これだけなら大したことはないけど…何を企んでいるかわからない以上、用心しないと。

「ハッ!」

振り下ろされてくる長刀が視界をよぎる。それと連動するように、視界の隅に放たれたラインが見えた。長刀を受け止めるか避けようとして足を止めればラインにつかまり、ラインを避けようとすれば長刀の餌食になる可能性が高い。
でも、残念だけど。

「読めてる」

長刀はリーチこそ長いけれど、それ故に懐に飛び込まれればなんとでもなる。
一足飛びに女性のほうへ飛び込む。すかさずラインが繋げられるが、これも想定内。何かしかけられる前に、女性のほうを落とせばいい。
弧を描いた剣閃が少女に向かう―――

「っ!『追憶の鏡(ミラー・アリス)』」

刃が届く寸前、装飾の施された鏡が出現。これは、神器(セイクリッド・ギア)―――?
勢いの乗った刃が、鏡をやすやすと切り裂く。その瞬間。割れた鏡から、波動が。
―――やられた、カウンタータイプ!事前に話を聞いていたはずなのに……焦りが生んだ失策に臍を噛む。波動を受けた体の中で、痛みが弾ける。受けたダメージを上乗せして返すタイプ……厄介極まりない。返された衝撃によって体が悲鳴を上げるのを無視して、もう一撃―――!

「やらせるかよ!」

メキッ!と嫌な音がして、私の体が宙を舞う。視界の端で見えたため、咄嗟に拳の突き出される方向に飛んだが――それでも、少しダメージが入ってしまった。
ゴロゴロと二転して跳ね起きる。いい一発をもらってしまったが、体はまだ大丈夫だ。内臓へのダメージもない。その代わり、体をかばった腕に痛みが走る。先ほど返された衝撃もあるけど、まだ動ける。

「くっ―――!」

「先輩!!」

女性が苦痛に顔をゆがませながら崩れ落ちる。浅かったとはいえ、万霊殺しの霊刃(カース・オブリビオン)に切られた傷は、悪魔であろうと天使であろうと、神器(セイクリッド・ギア)であろうとも、呪毒のように相手の体を蝕む。その濃密すぎる呪いは、魔力や光力を呪い殺す(・・)ことができるほどだ。魔力などで援護しようとすれば、さらに苦痛は増す。これで、あの女性は無力化できたはず。
あとは、ヴリトラだけど。こちらは接近戦で私の間合いに持ち込める分、やりやすくはある。そう思っていると。
突然、地面が揺れる。カンに任せて、咄嗟に大地を蹴ると―――降ってきたのは、コンクリートの塊。
見れば先ほど私が避け、ラインがくっついていた地面がめくれ上がっていた。
なるほど、私を引っ張ることができたならそれ以外のものだってくっつけちゃえば引っ張れるよね。そこは盲点だった。
引き剥がされたコンクリートの雨が降ってくる。当たってもあまり威力はなさそうだけど、厄介なことになるかもしれない。何より、これ以上のダメージは避けたほうがいい。
そう判断して駆け出す。狙うは、触手を操っているヴリトラ。
向こうもそれはわかっているようで、拳を打ち出してくる。悪魔の膂力も合わさっているから、威力は十分。スピードも申し分ない。きっと、凄絶な修行をこなしてきたんだろう。
その拳を躱して、腕を狙って斬り上げる。その軌道をそらすように、刀身に拳が合わせられる。逸れた斬撃がラインを切り飛ばすが、それだけ。お返しの様に叩き込まれる蹴りを、咄嗟に飛びのいて距離をとる。
神器までしっかり切り裂いた。これなら、いずれ万霊殺しの力が侵食するはず。だけど、そんなのに頼らない。

「――あなたは、ここで確実に倒す」

一足飛びに間合いへと飛び込む。打ち出される拳を回避し、繋げられるラインを切り飛ばして。突き込んだ切っ先を弾かれて、代わりに蹴りを腹に埋め込んで。強烈な拳に突き放されて。
思考と五感をフルスロットルにして、攻防を繰り返しながら好機を探る。相手は徐々に万霊殺しに蝕まれていくが、私のほうもスタミナが少し心もとない。
覚悟を決めたのか、腰を落とすヴリトラ。莫大な戦闘経験値が教えてくれる。そのまま、最後の力を込めて拳を放つ。当たれば、間違いなく私は沈む。
だったら、こっちが先に仕留める。それだけだ。
拳を打ち出してくるヴリトラの動きに合わせて、突っ込む。砲弾の様に突き出される拳、それを見切ることだけに照準を合わせる。
突き出されてくる拳が体に届く―――寸前、ギリギリのところで身を捻る。
危うい賭けではあったが、ヴリトラの拳は空を切り……

「――終わり」

すれ違いざまの一閃が、その体を切り裂いた。



二人の悪魔を戦闘不能にした私は、工場へと向かいながら自分のダメージに顔をしかめていた。さすがに二対一は無茶だったかもしれない。
腕は折れてこそはないけれど感覚が怪しい、カウンター系神器(セイクリッド・ギア)で受けた傷は、体中につけられておりじくじくと痛む。
仕方ない……万が一にと曹操が持たせてくれた『とっておき』を使うしかないか。
誰も見ていないことを確認し、それを取り出す。液体の入った小瓶を開け、中身を振りかける。『フェニックスの涙』。いかなる傷もその場で癒すことが可能なアイテム。
シュゥゥゥゥゥ…と煙を立ち昇らせながら、傷が治っていく。スタミナの消耗だけはどうにもならないけど、こればっかりは仕方ない。
さて、工場に向かおうかと気を取り直したとき―――背中に氷を入れられたかのような寒気が。
この気配……間違いなく上級悪魔クラス。もしかして、ソーナ・シトリーが眷属が撃破されたことを悟ったのか。だとしたらまずい。これ以上、イレギュラーで予定を狂わすわけにはいかない。
全力で工場へと向かう。間に合えばいいけど……
廃工場へ無事にたどり着き、屋根に上ってちょうど空いていた穴から中に潜入する。気配を殺して除いてみれば。中には、今まさに転送されていく構成員の姿が。

「(間に合わなかった、か。任務失敗だね。ごめん、曹操)」

ポケットから携帯を取り出し、少しの間操作する。
あらかじめ打っておいた成功と失敗の報告用メールのうち、失敗のほうを選択して、ボタンを押す。
さて、じゃあ私も撤退しよ―――

「……そこにいるのは、誰ですか?」

……………………どうやら、今日は本当に厄日みたい。 
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