ハイスクールD×D 聖なる槍と霊滅の刃
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第二部 英雄派と月の姫君
四織の受難
翌日。
「え、えっと……」
「ほら、少しじっとしてなさい」
なぜだか私は、部屋に訪れたジャンヌに服を着せられていました。えっと、どうしてこうなったんだろう。
それより、なんでジャンヌは自分の服もこんなにもってきているんだろう。ていうか、たくさん服持ってる…私の何倍かな。
そんなことを考えている私の前面に服を当てて、ジャンヌが何やら眺めている。
……うーん、あんまりそんな可愛い服持ってこられても、似合わないんだけど。
「ほら、じっとしてなさいよ。あんたの場合、素材はいいんだからこういうときくらい着飾ってみればいいのよ。服だって持ってるでしょ?」
「…あんまり?」
基本的におしゃれに興味もない。何より、あまり可愛くもない私が着飾ってもあまり意味はないと思うのだけど…ジャンヌに言わせると、「素材はいい」のだそうで…と言っても、全く私には実感がない。
「……あんたはもうちょっと身だしなみに気をつかいなさい。ていうか、今度服買いに行くわよ」
「……ん」
これ以上は反論しても無駄だとわかったので、諦めて身を任せる。
……着たことのない服がいっぱいある。こういう機会でもない限り着ることもないだろうから、せめてそれを楽しもうかな…。
◆◇◆◇
「…こんなものか」
駒王町に潜入調査をしに行くということで、あまり目立たないような服装と考えた結果、結局いつも通りの服装になってしまった。
まあこれでいいだろうと外に出る。幸い、天気のほうは問題はないようだ。文姫の準備ができ次第、すぐに出発できるだろう。
昨日、ジャンヌに「しっかりエスコートしてやんなさいよ」と言われたが、別に特別何かをしてやろうとは考えていない。
そんなことを考えていると……
「ごめん、遅くなった」
聞きなれた文姫の声が耳に届く。遅かったじゃないかと言おうと振り返って。
予想外の光景に、珍しく俺は固まった。
「……曹操?」
目の前に立った彼女は、今まで見たことのない服装をしていた。
薄い桜色の、花柄の刺繍が入ったワンピースの裾がふわりと舞い上がる。ワンポイントで付けられている花のコサージュに、意識しなくても視線が流れてしまう。
いつも黒一色、あるいはモノトーンを好んで着る文姫が。こんな服装をしているのが少々意外で、思わず言葉を失ってしまった。
「曹操?」
疑問符を浮かべながら首を傾げる文姫。何度か見たことはあるが、文姫の体の曲線がはっきりとわかり、思わず思考が止まる。
文姫がこんな服装をしたことはこれまでの記憶の中にはなく、それが新鮮で。思わず見つめてしまった。
「……………」
「曹操。何か言う事があるんじゃないの?」
無言のまま固まる俺を、何故かいるジャンヌが小突く。
…おそらく、着飾らせたのはジャンヌだろう。全く、余計なことを。
だが、さすがに何も言わないのは失礼なのも事実だろう。
「……………ん、ああ。似合っていると思うぞ、文姫?」
「…そう、かな?」
そう言ってやれば少しだけ笑みを浮かべる文姫。いつも感情を表に出すことがなく、無機質な印象を与える彼女がこういう表情をするのは非常に珍しい。
―――少し、血が動いた気がした。
「調査に行くには、慣れない服装は動きにくいと思うが」
「馬鹿ね、いつもの格好のあんたら二人だと目立つわよ?それこそ、調査にならないでしょうが」
文姫に聞いたというのに、なぜかジャンヌが答える。何やらニヤニヤしているのは気に食わない。が、今回の目的は秘密裏に駒王町を見て回ることなので『目立ってはならない』という理屈は分かる。
だが、それと文姫を着飾らせるのは違うだろう。何より、着飾った文姫は間違いなく男の視線を集めるだろう。それは少々、面白くない。
「……まあいい。行くぞ、文姫」
「ん」
「あ、曹操。ちょっと待ちなさいよ」
既に用意してある転移魔方陣のほうに歩こうとすると、なぜかまたも邪魔をする声が。
いい加減なんだと目線で問いかけると、ジャンヌは声量を落として話しかけてくる。文姫には聞かせられない話なのか。
「あんた、ちょっとあの子に服買ってあげなさいよ」
「……なぜ俺が」
「あら?あの子が可愛くなればあなただって嬉しいでしょう?今だってほら、見とれてたみたいだし?」
「……」
もはや反論する気も起こらなかったので無視して歩く。
文姫のほうは少し戸惑っていたようだが、結局はいつも通り後ろをついてくる気配が感じられた。
―――さて、行くとするか。
◆◇◆◇
転移魔方陣を通って少し離れたところに出て、交通機関を乗り継いで駒王町とやらに到着した。
今日の私の仕事は、曹操の護衛だ。いらないような気もするけど、お仕事ではあるから。
曹操のすぐ後ろを歩く。いつもの服装と違うからか、少し体がむずむずするような気がする。
けど、せっかくジャンヌが見立ててくれたものだし、曹操も似合ってるとは言ってくれたからいいかな。
曹操はこういうことで嘘は言わない。それは分かっているし、傍においてくれるだけで満足だから何か言う気もない。
いつもならそうなんだけど……うん、今日の曹操には少し、不満があるかな。
「文姫」
あ、呼ばれている。少し距離が開いてしまったみたい。考え事をしているせいかな。周りの警戒もしてるけど。
慌てて足を速めて曹操に追いつく。と、突如指先が何かに包まれる。
「……曹操?」
「放っておくと迷子になってしまいそうだからな、君は」
私の手を掴んですたすたと歩きはじめる。引きずられないように、慌てて付いていく。別に手を繋ぐのは初めてではない。二人で放浪していたころは、難所などは助け合って突破したものだし。
こうやって歩いていること自体はいつも通り。だけど―――少しだけ、面白くない。
「……二人だけ、なのになぁ…」
ぽつりと呟いた私の声は、風に溶けて消えて行った。
◆◇◆◇
「(………ああ、そういえば)」
ぽつりと呟かれたその言葉に。この町に来てたから感じていた違和感がストンと腑に落ちた気がした。
今改めて見れば、本当に微かにだが不満そうな色が見える気がする。
……全く。いつもならばこんなことは気にならないが、相手が文姫だからか。
「……行くぞ、“四織”」
言い捨ててさっさと歩きだす俺に、彼女は少しだけ驚いたように息を詰め……
「…うん」
小さくだが、本当に嬉しそうに笑った。
それを視界に収めながら、手を掴んで歩く。行先はもう決まっている。
―――別に言われたからというわけではないが。何も買わずに帰った場合、ジャンヌが何かしら言ってくるのは確実だろう。
そう思いながら歩を進める。しばらく歩けば見つかるはずだ。
ああそうだ、ついでにこの町もしっかり見ておかなければ。もともとはそのために来たのだから。
歩くこと十数分。文姫を連れて行ったのは。
「……?」
「いらっしゃいませー」
普段の俺ならば絶対に寄りつかないような、大きな服屋だった。
戸惑う文姫を連れて中に入る。店の中は様々な衣服が所狭しと並び、客でにぎわっている。
そんな中を、戸惑いがちに握ってくる手を引っ張って歩く。彼女のほうもきょろきょろとあたりを見回しては、首を傾げている。そんな姿を見て、並べられている衣服と見比べる。
「(…なるほど。文姫がこんな衣装を持っているというイメージは、なかなか思い浮かばないな。もっと着飾れば、そこらの男など一ひねりにできるくらいの器量はあるだろうに、勿体ない)」
もともと、こういうものに興味が薄いのだろうが。少しはこういうものを持っておくのもいいのではないか。
店員を手招きし、近寄ってきたところで彼女を指差す。
「すまないが、この娘に似合いそうなのをいくらか見繕ってくれ」
「……え?」
「かしこまりましたー!」
店員が嬉しそうに答えて、有無を言わさず彼女を連行していく。
それの後についていきながら、ふと一つの服を手に取る。すっきりとしたデザインで、彼女が好みそうなシックな色合いの服だ。
「…あとで着させてみるとしよう」
◆◇◆◇
「おお~、お客様ってば結構着痩せするんですねー。それだとこんな服も似合うと思いますよー?」
「は、はぁ…」
現在。曹操の意外な発言と共に試着室まで連行された私は、本日二度目の、他人の着せ替え人形になっていた。
試着室の中で様々な服を着せられる。普段着たことのない服ばかりで戸惑う私を余所に、曹操から依頼を受けた店員さんは実に楽しそうに私の衣装をとっかえひっかえする。
実に楽しそうだし、曹操が依頼した以上、この人にとってこれは『仕事』の一環ということになり、邪魔をするわけにはいかなくなってしまった。
……他人を着せ替えるってそんなに楽しいのだろうか。
「四織。今いいか?」
そう思っていると曹操の声が外からする。
あ、助かった?そう思った私は試着室のカーテンを急いで開ける。
「どうかしたの?」
「ああ、君ならこういうものもどうだろうと思っただけだ」
そう言って曹操が手に持っていたものを見せてくる……前に、店員さんに渡されてしまった。
「おおっ、彼氏さんってば良いセンス!!それじゃあこれも着てみましょうねー」
……なんだか、店員さんのテンションが大変なことになった。
これは嫌な予感がする。そう思って、そっと目に留まらないよう逃げようとするけど、狭い試着室の中ではそんなことができるわけもなく……
「そ、曹操………た、たすけ………」
「……ふむ。やはりこういうのは店員に任せるに限るな」
なんだか満足そうな顔をして頷いている曹操。……見捨てられた?
カーテンを閉める前に一瞬だけ見たけど、少しだけ楽しそうに笑ってた。ひどい。
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