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SAO--鼠と鴉と撫子と

作者:紅茶派
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11,砕けぬもの――汝の名は

 
前書き
亀更新前、最後の投稿。
戦闘なしです。 

 
滔々と流れる生命の営みを感じ取る。
あくまで信号処理の施された偽物だけれども、今も心臓は現実で静かに拍動しているに違いないのだ。

澄み切った空。
屹立としてそびえ立つ岩壁。

チュンチュン、と小さなスズメが自然と一つとなった俺の方に止まる。
トクン、心臓の拍動と同時に俺はカッと眼を見開いた。

「はぁぁぁぁぁぁぁ」

全身全霊を乗せ、右の拳を解放する。
渾身の正拳突き。

一撃のもとに集約した力――砕けぬものなど無い!!

「割れるわけねェェェ」

澄み切った空。
屹立としてそびえ立つ岩壁。

俺の1,000回目の挑戦は、またもや敗れ去ることになってしまった。




物事の帰結には全てすべからく原因がある。
それは現実だけではなく。人の創ったMMORPGでも同じ事で、クエストにはフラグが必ず存在し、その可否はフラグの回収数によって左右される。
故に、現実でMMORPGのSAOなら、尚更といっていいほど結果と原因はリンクする。

恐らく俺の場合は3日前の一幕が最大の原因なのだろう。




その日は、アホ忍二人から逃げるため、ソロで行動していた日だった。
一層ではいよいよレベリングも厳しくなり、俺は転移門で二層の主街区<ウルバス>へやってきたのだ。

巨大な岩壁に外周を囲まれた石の街は、第一層が明るい出発を起草させるのであれば、夕暮れの帰り道の見合う町並みとでも言うべきか。
ゆったりとしたオーボエの音色が、昔と寸分も違わぬ哀愁を醸し出している。

一層とは真逆の印象に、第一層が攻略できたという事実を実感し、宿屋への道中で感動をかみしめたのは今も忘れない。

俺が向かったのはこの第二層の象徴とでも言うべき牛の角を屋根にあしらったカウボーイ映画に出てきそうな宿屋だ。
ウエスタンドアを両手で払うように開け、テンガロンハットを被ったNPCに僅かばかりのコルを渡す。
極上の笑顔で、NPCは右腕の親指で、俺の泊まるべき部屋を指し示した。
ありがとう、と部屋に向かおうとした所で、サイドボードに見慣れない張り紙が貼ってあることに気がついた。

それは手配書とでも言うべきなのだろうか。新聞屋か情報屋の始めた新サービスなのだろう。
一番上には「WANTED」という文字が大きく人の目を惹きつけ、最下段には「10000コル」という魅力的な数字がとらヘタ視線を釘付けにする。
このご時世で10kコルとは、と金には困っていないが興味がそそられる。それだけアレば当分は金の心配をしなくてもいいなぁ、と当のお尋ね者の顔を見た所で俺の思考がフリーズした。

数秒のタイムラグを持って、俺は迅速に手配書を引き剥がし、自分の部屋へと引き篭もる。何かの間違いで有って欲しいと願いながら、ゆっくりと持っているデータで作り上げた紙媒体を覗いた。
写っているのは、プレイヤーの横顔。

耳まで完全に覆った黒髪。
日本人にしてはやや地黒な肌。
詳細に書き込まれた決闘の内容

疾走中で髪が顔の半分以上を隠れているが、俺自身であることは疑いの余地もなかった――





「――クロちゃん。死んでるのか?」

天から降ってくる声に俺は思わず、俺の意識は覚醒した。
休憩のつもりが疲れで長い間、眠ってしまったらしい。現実の時間に合わせて暗くなるアインクラッドの天井は水色からオレンジ色に染まっていた。
視線をずらせば、そこには呆れ顔でアルゴが立っている。

一瞬、ベストアングルかと思ったが、そう言えばこいつ革のズボンの装備じゃねぇか、と思い出す。
悟られるとネタにされそうなので、俺はそそくさと立ち上がる事にした。

「こんな所で寝るなんて相変わらずPKを気にしなさすぎだナ。あ、これ差し入れダ」
「サンキュー。ま、気ィつけた所で、ココに他のプレイヤーが来るなんて思えないけどな」

違いないと頷くアルゴの横で俺は差し入れで持ってきて貰ったなぞの肉まん?に食らいつく。
中身はどちらかと言えばクリームパンだったみたいだが、ココしばらく飯すら食べていない身としては文句も言っていられない。

俺が指名手配されたから、アルゴから他のプレイヤーから身を隠せる場所の情報を買い、潜伏している。
険しい道をくぐり抜けたこの隠れ家は、エクストラスキル「体術」の習得用マップ。

手持ち無沙汰でどうせここでダラダラしているくらいなら、強力なスキルと名高い「体術」を修得することにしたわけだ。
なんでも2層の攻略では体術使いがMVPやらLAを独占したらしいから有用なスキルなのだろう。

こんなに大変だとは思わなかったけど。

「しかし、2日半叩いてるのに割れないってどうなってんだよ。実は破壊不能オブジェクトなんじゃねぇの?」
「オイラは止めたのに、修行なんてやるからだゾ。その顔が元に戻るまで、最低でも3日はかかるからナ」
「だって……軽業は育ってないから取り直しで問題ないし、手数は俺の死活問題だし、とにかく必要なんだよ」

それだけカ?と笑ってから、アルゴは自分の方の肉まんをパクパクと食べ始める。
心の中を透かし見られたようで、俺の方は思わず、肉まんを食べる手を止めた。

今言ったことは全て真実だ。3つしかないスキルスロットの埋め方も、戦闘スタイルも嘘はない。
ただ、それだけか?と聞かれればそれにはノーと言わざるおえないだろう。

ネットゲーマ―である俺が思ったのは、そんなシステマチックな現実ではない。
ただ体術の「希少性」に惚れたのだ。

他の人の知り得ない秘境での特訓と、それにより得られる使い手の少ないスキル。
他者への優越感を求める根源的な欲望には抗いがたいものがあった。

「優越感なら、サッサと名乗り出てヒーローになればいいじゃないカ?」
「う~~ん。なんか違うんだよなぁ」


アルゴによれば、俺が見つかれば、即戦力として攻略組に強制参加させられるらしい。
母数が少ない攻略組の主力パーティーはこのところ、有力だが攻略未参加のプレイヤーに招集をかけているそうだ。
彼らからすれば、レイド人数に足りない現状ではとにかく人数を稼ぎたいのだろう。

別に、目指すものが違うわけではない。紛いなりにも俺は攻略をするためにココにきた数少ないプレイヤーだ。
ヤヨイに聞いた時も「私にはお構いなく、参加して下さい」と言われてしまったし。

だけど、正直に言って今の攻略組をイマイチ好きになれないのだ。
好みの問題というか、食わず嫌いの食べ物への些細な嫌悪感に似ているかもしれない。

無理に言葉で理由をつけるなら、そうそれは

「あの集団、強迫観念で動いてるじゃん」
「言うと思ったヨ。攻略組の大半は義務感やら恐怖で行動しているのは間違いないナ」

俺のココにきた理由、それに正義感やら攻略が含まれてないわけじゃない。
だけど、あの日の病室で言われて思ったのは、もっと単純な気持ちだった。

また、あのゲームで楽しめる。

ゲームの本質はデス・ゲームになったとしても変わらない。このゲームは今も昔も「ソードアート・オンライン」だ。
ベータテストの時と同じなのに、皆なぜ楽しもうとしないんだろう?

確かにプレイングを誤れば、死の危険はある。だけど、現実ではそれはないのか?
1メートル車線からズレて走行したら死んでしまうと言って車に乗らない人がどれ位いるのだろう?運転ミスをしなければ、安全なのに。

「俺は俺で好きにやるさ。誰がどう言おうと、俺はこの足で誰よりも世界を見てみたい。だから――俺が見つけた情報は任せるよ。相棒」
「任せロ、相棒。ただそのクロえもん顔で言われても、面白いだけだゾ」
「うるせぇ。今すぐ取ってやるから待ってろよ」

俺は立ち上がり、石の方へと向かっていく。後ろからニヒヒと笑う声が聞こえた。

それでいい。これでいいんだ。
クロウが探して、アルゴが売る。その関係は今も、昔も変わらない。

胸の中心に小石を置く。すぅ、と深く吸い込んだ息は、夕暮れらしい澄んだ空気で心地良い。

俺は砕けぬものに向かって、1001回目の正拳突きを繰り出した。
 
 

 
後書き
タイトルはお気に入り。どうだったでしょうか?

さて、ここで皆さんにお願いがあります。
主人公のクロウのスタイル的にこれからスピード感ある戦闘シーンが大事になるんですが、個人的にそういう戦闘シーン苦手なんですよね。

なんでそんな主人公選んだの?という叫びはごもっとも。

なんか、イイ小説(WEBでもラノベでも単行本でもなんでもいいです)ありましたら教えてください。

よろしくおねがいします。
 
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