クール=ビューティーだけれど
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第四章
大臣が率先してストレッチをしている。その中にはアンリエッタもいる。
黒のシックなジャージ姿の彼女を見て周りはこう囁いた。
「やっぱり似合うよね」
「黒もね」
「というか着こなしも上手いし」
「ジャージでもいい感じだよ」
「まさにパリジェンヌ」
それらしくお洒落だというのだ。
「凄く速そうだし」
「文武両道だろうね」
「さて、どんな感じかな」
「どんな速さかな」
皆彼女は運動もできると思っていた。しかしアンリエッタは浮かない顔だった。その彼女にバロアが尋ねた。
「何処か体調が悪いのかな」
「いえ、別jに」
ストレッチでアキレス腱を伸ばしながら返した言葉だった。
「悪くはありません」
「しかし顔色は悪いよ」
「そうでしょうか」
「何処も悪くないよね」
「大丈夫です」
こう返すアンリエッタだった。
「本当に」
「だといいけれどね」
「ではそろそろですね」
アンリエッタは浮かない顔のままバロアに返す。
「大臣が先頭に立たれて」
「そうだよ。ランニングだよ」
それがはじまるというのだ。そうした話をしてだった。
大臣と外務省の面々はランニングをはじめる、やはり大臣が彼等の先頭に立ち明るくはじまりの声を出す。それからだった。
彼等はパリの街を走りはじめた。ペースはゆっくりとしたものだった。
しかしアンリエッタは徐々に遅れていく。それを見て。
外務省の面々は驚いた顔で言った。
「あれっ、アンリエッタさん遅れてるけれど」
「どうかしたのかな」
「何か走るの凄い遅いけれど」
「今も結構ペースが遅いけれど」
一行のすぐ傍に子犬を連れて散歩をしている人がいるがその人と同じ位の速さである。だが。
アンリエッタはその人よりも遅い、どんどん離れていく。
「やっぱり何処か悪いんじゃ」
「というか遅過ぎるけれど」
「足か腰怪我してるの?」
「まさか」
皆そう思った。アンリエッタはどんどん遅れていく。
それでランニングが終わると。全身で息をして今にも死にそうな顔で屁垂れ込む。
その彼女にバロアが心配する顔で問うた。
「あの、本当に大丈夫なのかい?」
「別に何も」
「風邪をひいたとか怪我をしているとかは」
「ないです」
この返答は変わらない。
「安心して下さい」
「いや、本当に保健室に行ってね」
バロアは上司としてアンリエッタに告げる。
「見てもらうべきだよ」
「どうしてもですか」
「うん、どうしてもね」
バロアは彼女を気遣いあえて強く告げる。
「そうしてくれるかな」
「わかりました」
アンリエッタは死にそうな顔で答える。その顔は彼女が今まで誰にも見せたことのないもので外務省の面々も驚きを隠せなかった。
保健室での診断は異常なしだった。バロアもこの話にまずはほっとした。
しかしスーツ姿に戻りいつもと変わらないクールな顔で仕事をする彼女を見ながら彼女以外の部下達にこう囁いた。
「どう思う」
「やはり何かありますね」
「それは間違いないですね」
「それが何かはわかりませんが」
「幾ら何でもあれはないですよ」
「ちょっと異様です」
「そうだな、やっぱりな」
バロアも部下達の言葉にその通りだと頷く。
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