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クール=ビューティーだけれど

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第一章

                 クール=ビューティーだけれど
 アンリエット=ド=ルクブルールはパリ生まれのパリ育ち、言うならば生粋のパリジェンヌだ。背は普通位だが見事な栗色のロングヘアに青い勝気な瞳、そして小さく形のいい唇に白いきめ細かな肌、細面のバランスのいい顔立ちを持っている。スタイルもモデルの様だ。
 しかも有名大学を出て日本で言うキャリアとして外務省に勤めている。才媛として政界でも社交界でも知られている。
 その彼女を見て周囲はよくこう言った。
「ああいうのを才媛って言うんだろうな」
「そうだよな。美人でしかも頭がいい」
「尚且つ性格も真面目でしっかりしててな」
「清潔だしな」
 フランスの政治家、官僚の腐敗は日本よりも酷いという。その日本で言うキャリア制度の特権化、いや貴族化のせいだ。
「普通偉いさんって威張るだけだけれどな」
「あの人は違うからな」
「とにかく真面目だよ」
「厳しいけれどな」
「いつも冷静に着々と仕事をしていく」
「ああいう人がいてくれて助かるよ」
「全くだね」
 ノンキャリアになる圧倒的多数の普通のフランス人達からも評判がよかった。アンリエットは若くしてフランス外務省きっての才媛と言われる様になっていた。
 その彼女に上司のバロアはこう言った。
「一つ聞きたいことがあるのだがね」
「何でしょうか」
 今二人で外務省の食堂において食事を摂りながら話していた。二人共オムレツにスープとサラダ、それにワインというメニューだ。無論パンもあるしデザートとしてフルーツもある。
 その中のオムレツをフォークとナイフで品よく切りながらアンリエッタはバロアに対してこう言葉を返した。
「私のことですね」
「うん、君はいつも仕事をしているが」
「趣味のことですか」
「あっ、わかったんだね」
「そう思いましたので」
 先読みをしたというのだ。この辺りに切れ者であるところが出ていた。
「そうだったのですね」
「うん、君の趣味は何かな」
「読書です」
 アンリエッタはまずはこれを挙げた。
「それに後は」
「他には何かな」
「音楽鑑賞も」 
 ありきたりな趣味ばかりだった。
「クラシックを聴きます」
「クラシックかい」
「ラヴェロにベルリオーズに」
 そうしたフランスの音楽家達の名前を挙げていくアンリエッタだった。
「その他にはビゼーもですね」
「ビゼーっていうとカルメンかな」
 彼の代表作の歌劇であり世界中で上演されている名作である。
「それだね」
「カルメンも好きですが真珠取りも好きです」
「ああ、あれもだね」
「はい、好きでして」
 こう答えるアンリエッタだった。
「よく聴きます」
「ふむ。いい趣味だね」
「そう仰って頂き何よりです」
「他の趣味は何かな」
「他は特に」
 アンリエッタの返答は終わった。
「ありません」
「読書と音楽だけだね」
「映画も観ます」
 一応それもだと答える。
「こちらは日本映画も観ます」
「成程な、日本のものもか」
「中々素晴らしい趣があるかと」
「日本の文化は独特だね」
 バロアもこう答える。尚彼も外交官として日本にいたことがある。
「一度触れると忘れられないものがあるよ」
「はい、本当に」
「そうだね。それで他の趣味は」
「そう言われますと」
 アンリエッタは淡々と述べていく。表情もそうした感じだ。 
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