カオスになる心
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第七章
「それならな」
「うん、ただね」
「またそれかよ」
「お金持ちだから付き合うとかは」
やはりこう言うのだった。暗い顔になって。
「嫌だからね」
「あんたそういうところ本当に厳しいっていうかね」
「固い?」
「真面目っていうんだろうな」
ジュゼッペはそれだというのだ。
「芸能界って遊んでるんじゃなかったのか」
「そういう人もいるけれどね」
その辺りは人それぞれだというのだ。
「遊ばない人もいるよ」
「あんたみたいにか」
「それにお金目当てって人もいるけれど」
「そうじゃない人もいるか」
「本当に人それぞれだからね」
芸能界といってもだというのだ。
「その辺りはね」
「そうなんだな」
「そうだよ。それにね」
「チェチーリアさんともか」
「やっぱり真面目にお付き合いしたいね、ただ」
「ただ?何だよ」
「お金のことが気にならないって言ったらそれは嘘になるよ」
正直な彼は友人にこのことも話した。
「やっぱりね」
「そこでそう言うか」
「うん、やっぱりね」
「そうか。けれどか」
「いい人だよね。だからこれからもね」
チェチーリアとは交際していきたいというのだ。
「一緒にいたいよ。それで」
「結婚か」
「できたらいいね」
言葉は切実なものになっていた。
「やっぱりね」
「そういう歳だからね。僕もそうだけれどさ」
「君は相手は」
「実はもういるんだよ」
友人は楽しげに笑ってジュゼッペに返す。
「二人ね」
「二人は嘘だよね」
「ははは、半分だよ半分」
つまり実際は一人だというのだ。
「ちゃんといるよ」
「そうなんだ、もういるんだ」
「いるよ。それであんたもね」
「結婚だね。本当にそういう歳だし」
三十近いと殆どの人間が結婚を意識しだす、これは多くの国でそうだ。
「僕もね」
「昔は十代で結婚だったけれどな」
「それが羨ましくもあるよ」
「十五で子供を作ったりとかあったしな」
これはイタリアでも他の国でも同じだ。日本の将軍徳川家斉が最初の子供をもうけたのは十五の時で生涯に五十五人の子供を授かっている。
だがそれはあくまで昔のことだ。今はどうかというと。
「皆三十までに結婚できるかどうか」
「死活問題だからね」
これが今だった。その現実を深く感じながらジュゼッペは考えていた。
チェチーリアとは何度も会い話をする。その度に彼女への好意を深めていく。
それはチェチーリアもだ。二人の関係はまさに両思いだった。
だがその関係が深まっていけばいく程彼は迷い困惑していた。それで友人にこう漏らすのだった。
「凄く素晴らしい、ずっと一緒にいたい人だよ」
「性格美人だよな」
「性格が外見にも出てね」
そうした美人であるというのだ。性格は表に浮き出て来るものだから。
彼はチェチーリアの心を愛していた、だが。
それと共にこう言うのだった。
「どうしてもね」
「お金のことかい?」
「やっぱり。否定はしてるけれど」
それでもだった。今の彼は。
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