カオスになる心
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第五章
「じゃあ中に入ろうか」
「ご案内致します」
「こちらです」
メイド達が応えてくる。こうして。
二人は屋敷の中に案内される、ジュゼッペはその奥行きまである屋敷の中の廊下を進みながらまた友人に囁いた。
「本物だね」
「豪奢だっていうんだね」
「天井にはシャングリラがあって」
見上げれば黄金に輝くそれが連なっている。
「下は赤絨毯」
「いい生地だね」
「壁も奇麗だし」
しかも時折絵画や甲冑、それに彫刻が置かれている。
「凄い場所だね」
「これが本当のお金持ちっていうのかな」
「貴族?ひょっとして」
「代々ね」
やはりそうだった。
「そうだよ」
「ううん、貴族って」
「まあ人間であることに変わりはないから」
「けれど凄過ぎるじゃない」
ジュゼッペは困惑を隠せなかった。
「こんな凄いお屋敷なんて」
扉も左右に連なっている。それも幾つもある。
「ホテルみたいだよ、本当に」
「まあまあ。驚くのはね」
「これからっていうんだね」
「そうだよ。驚かない驚かない」
友人は微笑んでさえいる。
「この家の人達にとっては普通だからね」
「これが普通って」
「僕達の普通とこの家の人達の普通って違うんだよ」
「普通も一つじゃないっていうんだね」
「そうだよ。じゃあドイツ人の普通は僕達にとって普通かい?」
「ドイツ人と!?」
イタリア人にとっては古い友人である。やたらとイタリアに観光に来るし何かと世話を焼いてくれる、神聖ローマ帝国もオーストリアもプロイセンのドイツ帝国もナチス=ドイツも今のドイツもそれは同じだったりする。
「あの人達とね」
「そう、文句を言いながらも助けてくれる彼等と僕達の普通は一緒かい?」
「堅苦しいからね、ドイツは」
これがイタリア人のジュゼッペの返答だ。
「時間には厳しいし」
「だろ?ドイツ人の普通と僕達の普通は違うじゃないか」
「だからこの人達の普通と僕達の普通は」
「違うんだよ」
友人は笑って彼に話す。
「そういうことだよ」
「そういうことなんだね」
「そう、それじゃあ奥に入ろうか」
「うん、それじゃあ」
こうして屋敷の奥に行くとそこには白い華麗なドレスを着た美女がいた。
見事なハニーゴールドの髪に黒の瞳、小柄だが見事なスタイルである。
顔立ちは鼻が高く肌は白い。やや細長く唇は紅で薄めだがやや大きい、その彼女が頭を下げてそのうえで挨拶をしてきた。
「はじめまして」
「うん、久し振りだね」
まずは友人が明るい声で応えた。
「元気そうだね」
「はい、それでそちらの方がですね」
「テレビで観てるよね」
「ジュゼッペ=マルスキーノさんですね」
「うん、そうだよ」
友人が美女とやり取りをする、見れば美女の外見はジュゼッペ達と同じ位だ。
「彼がね」
「あらためてはじめまして」
「はい」
今度は美女とジュゼッペが挨拶をする。再度という形で。
お互いに頭を下げて挨拶をしてから美女は名乗った。
「チェチーリア=デル=シミオナートです」
「シミオナートさんですか」
「はい、そうです」
ジュゼッペはここで思い出した、シミオナートといえばかつてこの辺りの領主だった。侯爵の爵位を持っていた。
今もかなりの資産家で様々な事業を行っている、その家の人間だったのだ。
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