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英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇

作者:sorano
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第1話

~近郊都市リーヴス~



「ここがリーヴスですか………」

「どことなくトリスタと似ている町だな……っと。あれがそうか。話に聞いていた通り、確かにまだ完成したばかりの施設みたいだな。」

駅から降りたセレーネは初めて見る光景を興味ありげな様子で見回し、リィンはかつて関わったある町を思い出した後町の奥に見える建物に気づいた。

「えっと……ヴァリマールさんは敷地の格納庫に運んでくれるとの事ですわよね?」

「ああ。」

「マスター。」

「ん?どうしたんだ、アルティナ。」

セレーネの言葉にリィンが頷いたその時アルティナがリィンに声をかけ、声をかけられたリィンはアルティナに視線を向けた。

「わたしは先に学院に向かいます。入学案内に書いてあった”生徒”の分校の入学式の集合時間が迫っておりますので。」

「兄様、私達も宿舎の方に向かいますのでお先に失礼します。」

「ああ、わかった。みんな、また後でな。」

アルティナとアルティナに続くように答えたエリゼの言葉にリィンは頷いた。

「ふふっ、今日から2年間、お互いに頑張りましょうね、旦那様♪」

「ムッ………」

「ア、アハハ………」

「えっと……せめて生徒達の前でその呼び方で俺を呼ぶのは止めてくれないか、アルフィン。何て言うか……公私混同しているように見えて生徒達に教官としての示しがつかないし。」

アルフィンのリィンに対する呼び方を聞いたエリゼがジト目になり、エリゼの様子を見たセレーネが苦笑している中リィンは困った表情でアルフィンに指摘した。

「ふふっ、そうですか?わたくしと旦那様の関係が”夫婦”である事は周知の事実なのですから、わたくしは別にわざわざ呼び方を変える必要はないと思っていますわ。」

「……まあ、確かに少なくてもエレボニアの人々にとってマスターはアルフィン様との関係の件も含めて”あらゆる意味で有名”ですから、マスター達の”夫婦”としての関係を生徒達が見てもあまり驚かないと。」

「ア、アルティナさん。」

「それでもエレボニアの人々は確実に驚くわよ……アルフィンは”元”エレボニアの皇女で、”帝国の至宝”の名で有名な事もあるけど、アルフィンはエレボニアがメンフィルと和解する為―――つまり政略結婚で”仕方なく”兄様に嫁いだ事になっているのだから……」

アルフィンの言葉に同意しているアルティナの様子にセレーネが冷や汗をかいている中、エリゼは疲れた表情で呟いた。

「うふふ、だったらいっそ”仕方なく”旦那様に嫁いだはずのわたくしが旦那様との仲がとても良好である事を見せる事で、わたくしの事を心配してくださったエレボニアの人々を安心させるべきかもしれませんわね♪」

「頼むから、プライベートはともかく俺との関係は生徒達の前や公の場では宿舎の管理人として振る舞ってくれ………」

からかいの表情で答えて腕を組んで豊満な胸を押し付けてきたアルフィンの言葉と行動にエリゼ達が冷や汗をかいて脱力している中リィンは疲れた表情で指摘した。



「ふふっ、愛する旦那様の頼みなのですから、仕方ありませんわね。―――それでは”リィンさん”、わたくし達は一端失礼いたしますわ。」

「ああ。――――ベルフェゴール、リザイラ。以前に打ち合わせた通りアルフィンとエリゼの護衛、よろしく頼む。」

「ええ、大船で乗った気でいていいわよ♪」

「ふふふ、まあ私達の出番がない事が一番いい事なのですけどね。」

アルフィンの言葉にリィンは頷いた後ベルフェゴールとリザイラを呼び、呼ばれた二人はそれぞれリィンの身体の中から出て来た後リィンの指示に頷いた後それぞれ魔術で自身の姿を消してアルティナとは別の方向へと向かって行くエリゼとアルフィンの後を追って行った。

「リィン君にセレーネちゃん……?」

「え………」

「まあ……!トワさん、お久しぶりですわね……!」

突然聞こえた聞き覚えのある声にリィンが呆けている中、自分達に声をかけた人物―――トワに気づいたセレーネは目を丸くした後女性に微笑んだ。

「あははっ!うん、二人とも本当に久しぶりだね……!はあ~っ………リィン君は雑誌とかで見てはいたけど大人っぽくなったねぇ!セレーネちゃんも、以前の時より更に大人っぽくなったように見えるよ!」

「フフッ、そうですか?お兄様と違って、わたくし自身は身体の成長はしていないのですが……」

「ハハ、セレーネの場合は精神的に成長しているって意味だと思うぞ。―――って、ちょっと待ってください!どうしてトワさんがそんな恰好で俺達の就職先の街にいるんですか!?」

トワの言葉に苦笑しているセレーネを微笑ましそうに見守りながら指摘したリィンだったがある事に気づくと困惑の表情でトワを見つめた。その後リィンとセレーネはトワと共に学院に向かいながら、トワからトワがリーヴスにいる事情等を説明してもらった。



「はあ……まさかトワさんが分校の教官に就職していたなんて……」

「本当に驚きましたわね……」

「ふふっ、ごめんね。わたしの方は知ってたけど。でも、二人の方だってある程度は聞いてると思ってたよ。」

それぞれ驚いている様子のリィンとセレーネに苦笑したトワは話を続けた。

「いえ、2ヵ月前に突然”分校”の臨時教官に就くようにプリネ皇女殿下達を通してリウイ陛下から指示が来まして……この2ヵ月間、プリネ皇女殿下達の補佐に教官としての心構え等を学ぶ事も加わりましたから、俺とセレーネは色々と忙しかったので……」

「一応レン皇女殿下―――いえ、レン教官もわたくし達のように分校の臨時教官として赴任する事だけは説明されていますわ。」

「そうだったんだ……ふふっ、2年間だけとはいえ、リィン君達とまた一緒に協力し合う事になるなんて、わたしにとっては嬉しいサプライズだったよ。」

「トワさん……――――遅くなりましたが、改めましてご卒業おめでとうございます。」

「ご卒業おめでとうございます、トワさん。」

「……二人ともありがとう。ふふっ、ちょっと嬉しいな。わたしも二人にとっての『先輩』になったのだから。」

一端立ち止まってリィンとセレーネの祝福の言葉に微笑んだトワは嬉しそうな表情で二人を見つめた。

「ハハ、そうですね。―――改めてよろしくお願いします、トワ先輩。」

「お兄様共々、頑張りましょうね、トワ先輩。」

「えへへ……うん!」

リィンとセレーネの言葉に嬉しそうな様子で頷いたトワはリィン達と共に再び歩き始めた。



「それで……先輩は一足先に赴任したんですよね?トールズ士官学院の”分校”………実際どういう状況なんですか?」

「うん………二人ともここの臨時教官を務める話が出た時に色々な事を言われたと思うんだけど。多分、思っている以上に難しくて大変な”職場”だと思う。」

「それは………」

「そうですか……話を聞いて覚悟はしていましたが。”同僚”の方々とは一通り?」

リィンの質問に答えたトワの答えを聞いたセレーネは不安そうな表情をし、リィンは静かな表情で呟いた後質問を続けた。

「うん、もう挨拶して二人が最後になるかな。これから紹介するけど……その、心を強く持っててね?」

「え、えっと……それはどういう意味でしょうか?」

「………なんだか胃がキリキリしてきそうなんですが。」

トワの忠告にセレーネは表情を引き攣らせ、リィンは疲れた表情で呟いた。

「だ、大丈夫、大丈夫!わたしだって同じ立場なんだから!それに”同僚”の中には二人の”知り合い”もいるから、大丈夫だよ!」

「へ……俺達の”知り合い”、ですか?」

「それはレン教官以外の方を示しているのでしょうか?」

トワの言葉にリィンが呆けている中セレーネは不思議そうな表情でトワに訊ねた。

「うん、会えばわかるよ。同じトールズの教官として……かつて一緒に戦った”特務部隊”の仲間として力を合わせて乗り越えて行こうね!」

「ふう………了解です。―――っと、あれが………」

学院の正門に到着したリィンはセレーネと共に学院を見上げた。



「……デザインは違っても同じ”有角の獅子紋”なんですね。」

「うん、わたしたちの新たな”職場”の正門………――――ようこそ、リィン君、セレーネちゃん。ここリーヴスに新たに発足する”トールズ士官学院・第Ⅱ分校”へ――――!」

セレーネの言葉に頷いたトワは振り返って笑顔でリィンとセレーネに歓迎の言葉をかけた。



~トールズ第Ⅱ分校・本校舎・軍略会議室~



「――――よく来たな。リィン・シュバルツァー君にセレーネ・L・アルフヘイム君。鉄道憲兵隊所属、ミハイル・アーヴィングだ。出向という形ではあるが、本分校の主任教官を務める予定だ。」

トワの案内によって会議室に通された二人を迎えた金髪の青年――――ミハイル・アーヴィング少佐は自己紹介をした。

「ハハッ、まさかこんな形で再会する事になるとはな。―――久しぶりだな、リィン、姫。」

「ランディ!?ああ、久しぶりだな……!」

「フフッ、トワさんが言っていたわたくし達の”知り合い”とはランディさんの事だったんですね。」

「うん。確かランドルフ教官はディーター元大統領の”資産凍結宣言”がされるまでいた二人の”職場”の同僚なんだよね?」

赤毛の青年――――ランディは苦笑しながらリィン達に声をかけ、声をかけられたリィンは驚き、セレーネは微笑み、セレーネの言葉に頷いたトワはリィンとセレーネに訊ねた。

「はい。だけどどうしてクロスベル帝国軍に所属しているランディがエレボニアの士官学院の教官に?」

「それに関してはお前達と同じ理由による”出向”だよ。……ま、最初そこのお嬢ちゃんまで、俺達の”同僚”である事を知った時はマジで驚いたがな。」

リィンの疑問に苦笑しながら答えたランディはセレーネやトワのように女性用の教官服を身に纏っている菫色の髪の娘―――レンに視線を向け

「うふふ、その言葉、そのままそっくりお返しするわ♪レンもランディお兄さんを見た時は驚いたわよ♪」

「よく言うぜ……俺と会った時も『久しぶりね、ランディお兄さん。これから2年間、”同僚”としてお互いによろしくね♪』って言って、全然驚いていなかったじゃねぇか………どうせ俺達の事も予め”英雄王”達から聞かされていたか、クロスベルの時みたいにハッキングで分校の情報を手に入れたんだろう?」

小悪魔な笑みを浮かべたレンの言葉に呆れた表情で呟いたランディは疲れた表情になってレンに訊ねた。

「クスクス、さすがランディお兄さん。ランディお兄さんの推測の”どちらか”は正解しているわよ♪」

(”どちらか”というか”どちらとも”と思うのですが………)

レンの答えにその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中セレーネは心の中で苦笑していた。



「ハハ………え、えっと……それよりもランディに聞きたい事があるんだが……」

「ん?何を聞きたいんだ?」

「その………何で”その人”まで、この場に――いや、俺達の”同僚”なんだ?……というか、”色々な意味”で”その人”がこの場にいて大丈夫なのか?」

リィンは困った表情でランディの隣にいる仮面を付け、赤い鎧を身に纏っている大柄な男性に視線を向け

「んー?まさか俺の事で訊ねているのか?俺とお前達とは”初対面”だぞ?」

「いや、会った回数はそれ程ありませんでしたけど、実際に会って話もしましたし、オルキスタワーの奪還の時は俺やロイド達と共に協力してオルキスタワーを奪還しましたよね!?」

「ギュランドロス司令―――いえ、ギュランドロス皇帝陛下ですわよね?」

男性の答えにリィンは疲れた表情で指摘し、セレーネは冷や汗をかいて苦笑しながら男性に問いかけた。

「惜しいッ!我が名はランドロス・サーキュリーだ!二つ名は”仮面の紳士”!よろしくな、”灰色の騎士”!」

「え、え~と………ギュランドロス皇帝へ、いえ、ランドロス教官、でしたか?二つ程伺いたい事があるのですが……」

男性――――ランドロスの答えにその場にいる多くの者達同様冷や汗をかいて表情を引き攣らせたリィンは困った表情でランドロスに問いかけた。

「おう、何でも聞いてくれ!」

「その………ランドロス教官の二つ名は本当にそれでいいんですか?」

「”仮面の紳士”か?ハハァッ、いいに決まってんだろ。」

「完全に貴方の本来の二つ名ではありませんけど、それでいいんですか?」

「かっこいいだろ!」

リィンの質問に対してランドロスは胸を張って自慢げに答え、ランドロスの答えを聞いたリィン達は再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。



「そ、そうですか。では最後に………その、あえて分校に来た理由は聞きませんけど、顔は仮面で隠したからいいとして、服装くらいは変えようと思わなかったのですか?」

「何が言いたいのか良くわからんが、赤とこの鎧には深~いこだわりがあってだなぁ………」

「…………(メサイア、ギュランドロス皇帝陛下が何を考えているか、わかるか?)」

(も、申し訳ございません。私もギュランドロス陛下のお考えは全く理解できません―――というか、そもそも私自身、ギュランドロス陛下と会話をした事があるのはこの世界に来てからですので………ギュランドロス陛下のお考えを理解できるとすればそれこそユン・ガソルの”三銃士”であったルイーネ様達くらいかと。)

自分の質問に対して答えたランドロスの答えに冷や汗をかいたリィンはメサイアに念話で訊ね、訊ねられたメサイアは疲れた表情で答えた。

「その……ランドロス教官の服装だけ、わたくし達と違いますけど、よろしいのでしょうか?」

「……正直な所全くよろしくない事だが、分校の長である”分校長”も認めている以上、”仕方なく”認めている。」

「うふふ、だったらレンも分校長に他の服装にしてもいいか、お願いしようかしら♪この教官服のデザインも悪くはないけど、毎日同じ服っていうのはレディとしてどうかと思うし。トワお姉さんもそう思わない?」

「え、えっと…………」

セレーネの質問に答えたミハイル少佐の答えを聞いたレンに話を振られたトワはどういう答えを返せばいいかわからず、困った表情で言葉を濁していた。

「先輩を困らせるのは止めてください、レン皇女殿―――いえ、レン教官。………ランディ。俺がおかしいのか、ランドロス教官がおかしいのか、どっちなのかわからないから、何とかしてくれ。」

「無茶言うなよな………お前達より付き合いが長い俺だって、未だにこのオッサンの事は全くわかんねぇんだぞ………というかリア充皇帝やルイーネ姐さんどころか、”あの”エルミナ皇妃すらもこのオッサンの今回の無茶苦茶な行動を止める事を匙を投げたんだぞ!?あの連中ですら匙を投げたのに、俺が何とかできる訳がないだろうが!?」

疲れた表情をしたリィンに視線を向けたランディも疲れた表情で答えた後心の奥底から思っていた本音を口にした。

「え、えっと………ランディさんが出向してきた理由の一つはもしかして、ギュランドロス皇帝―――いえ、ランドロス教官の”お目付け役”ですか……?」

「ああ…………不本意ながら”一応”それも出向の理由の一つだ。ったく、こんな無茶苦茶の塊のオッサンを俺が制御できる訳がないっつーのに、エルミナ皇妃達も無茶言うぜ………」

苦笑しているセレーネの推測に頷いたランディは疲れた表情で溜息を吐いた。

「おいおいおいおい、何を暗くなっていやがる。何を勘ぐっているのか知らねぇが、俺は以前俺が惚れて力を貸した男の親友が色々と”訳あり”な学校を務めてガキ共を導く教師を探しているって聞いて興味を持ったから、山から下りてきたんだぜ。これからはあんた達の同僚として、全力で働くからよろしく頼む、なっ♪」

「ハ、ハア………?――――改めてよろしくお願いします、ミハイル少佐、レン教官、ランディ、ランドロス教官。」

「お兄様共々よろしくお願いします。」

ポンポンと馴れ馴れしく肩を叩いてきたランドロスの言葉に戸惑いながら答えたリィンは気を取り直してミハイル少佐達に言葉をかけ、セレーネもリィンに続くようにミハイル少佐達に言葉をかけた。

「ああ、こちらこそだ。内戦を終結させたあの”特務部隊”の総大将にして”灰色の騎士”の勇名――――共に働ける事を光栄に思う。だが、ここで求められるのは”騎神”を含めた英雄的行為ではない。教官としての適性と将来性、遠慮なく見極めさせてもらおう。」

「………肝に銘じます。(鉄道憲兵隊(T・M・P)………正規軍きってのエリート部隊。まさかその佐官クラスまで派遣されているとは思わなかったが………まあ、ランドロス教官の事と比べれば”今更”かもしれないな……)」

ミハイル少佐の言葉に頷いたリィンは心の中で苦笑していた。



「えっと……これで”教官”は全員揃いましたね。少佐、ランドルフ教官とレン教官、それにランドロス教官も改めてよろしくお願いします!」

「おう!」

「うふふ、よろしくね♪」

「ああ、君には遠慮なく期待させてもらうつもりだ。卒業時の鉄道憲兵隊の勧誘――――蹴ってくれた埋め合わせの意味でもな。」

「あ、あはは………ご存知だったんですか。」

「へえ、見た目と違ってずいぶんと優秀みたいだな。飛び級してるみたいだが17くらいは行ってるのかい?」

ミハイル少佐とトワのやり取りを見守っていたランディは興味ありげな様子でトワに訊ね

「……その……21歳になるんですけど。」

「え、マジで?てことは俺の3つ下か………」

トワの年齢を知ったランディは驚きの表情でトワを見つめた。



「教官が7名………学生数に対してちょうどいいくらいでしょうか。このメンバーで一通りのカリキュラムを?」

「ああ。学生数を考えればちょうどいいくらいだ。平時の座学に訓練、それ以外の細々とした業務も行ってもらう。………まあ、特別顧問や分校長にも一部手伝って頂くつもりだが。」

「特別顧問……?そんな人がいるんですか。」

「それに分校長も……どういった方々なんですか?」

「それは………」

「いや、なんつーか………分校長は俺やリィン、姫も会った事がある人物なんだけどな……まさかあんなとんでもない存在が俺達の”上司”になるなんて、世の中わからないもんだな。」

リィンとセレーネの疑問にミハイル少佐が答えを濁しているとランディが苦笑しながら答えた。

「へ………」

「わ、わたくし達やランディさんが会った事がある方……ですか?」

「あ、あはは……その、驚かないでね?実は分校長もリィン君達やランドルフ教官達と同じで”出向”という形で分校長に着任しているんだけど………その人はランドルフ教官も言っていたように、リィン君達とも面識のある方なんだけど―――――」

そしてそれぞれ困惑しているリィンとセレーネの様子を見たトワが苦笑しながら答えかけたその時扉が開いた。

「―――フフ、どうやら全員揃ったようですね。」

「………ッ………」

「っと、噂をすれば。」

「クスクス、分校長―――いえ、”聖女”の登場ね。」

「クク………」

扉が開かれた事によって姿を現したある人物を見たミハイル少佐は表情を引き締め、ランディは苦笑し、レンは意味ありげな笑みを浮かべ、ランドロスは不敵な笑みを浮かべて白衣の老人と共に部屋に入って来た分校長である金髪の女性を見つめた。



「…………………へ。」

「ええっ!?あ、あの方は………!」

「え、えっと……お待ちしていました。」

(これはまた………”エレボニアにとっては”リィンに負けず劣らず有名な存在が来たわね………)

(え、ええ………リウイ陛下達は一体何をお考えになって、あの方を派遣されたのでしょうね?)

金髪の女性を見たリィンは一瞬石化したかのように固まった後呆けた声を出し、セレーネが驚いている中トワは姿勢を正して答え、その様子を剣やリィンの身体の中から見守っていたアイドスとメサイアは苦笑していた。

「フン………何を呆けた面をしている。―――――こうして顔を合わせて話すのは初めてか、リィン・シュバルツァー。私の自己紹介は必要か?」

「い、いえ………俺達も一応貴方の事は知っています。―――初めまして、シュミット博士。これからよろしくお願いします。」

「わたくしの方もよろしくお願いします、シュミット博士。」

白衣の老人――――シュミット博士の言葉にリィンは戸惑いながら答えた後会釈をし、セレーネも続くように会釈をした。

「――――特別顧問という肩書きだが私は自分の研究にしか興味はない。せいぜい役に立ってもらうぞ、シュバルツァー―――いや、”灰の起動者”。」

「え、え~と………」

「………ふう…………」

シュミット博士の言葉にリィンが困惑の表情をしている中ミハイル少佐は疲れた表情で溜息を吐き

(………50年前に導力器(オーブメント)を発明したエプスタイン博士の三高弟の一人………贋物って訳じゃないんだよな……?)

(あ、あはは……間違いないと思いますけど。)

「………なるほど、俺の分校への赴任にも貴方の件も含めて色々な思惑が絡んでいそうですね。まさか………貴女までいらっしゃるとは夢にも思いませんでしたが。」

「その………お久しぶりです、サンドロッド卿。」

ランディに小声で訊ねられたトワが苦笑している中リィンは疲れた表情で呟いた後表情を引き締めて金髪の女性を見つめ、セレーネは苦笑しながら女性に会釈をした。

「フフ………最後に会ったのはリウイ陛下達の視察の際ですから、半年ぶりになりますね、”灰色の騎士”に”聖竜の姫君”よ。改めてになりますが、晴れて教官となる貴方方全員に名乗らせて頂きます。かつて結社”身喰らう蛇”の”蛇の使徒”の第七柱―――”鋼”のアリアンロードであった者にして、今は”英雄王”と”聖皇妃”の守護者たる者。リアンヌ・ルーハンス・サンドロッド――――これより”トールズ第Ⅱ分校”の分校長を務めさせて頂きます。」

金髪の女性――――リアンヌ分校長はリィンとセレーネに微笑んだ後名乗り上げて宣言した。



「ハハ、最初俺が知った時も度肝を抜かれたぜ。鉄道憲兵隊の少佐殿も大変だなぁ?そこの無茶苦茶過ぎるオッサンに加えてあんなとんでもない存在まで見張らなくちゃならないんだからな。」

「フン…………―――分校長。そろそろ定刻ですがいかが致しますか?」

ランディの軽口に鼻を鳴らして流したミハイル少佐はリアンヌ分校長に訊ねた。

「ええ、始めるとしましょう。ハーシェル教官、雛鳥達をグラウンドへ。」

「は、はい。―――リィン君、セレーネちゃん、後でね。」

リアンヌ分校長の指示に頷いたトワは部屋から退出した。



「さーてと、どんなメンツが揃っていることやら。」

「クク、そしてどんな”才”を持っているのだろうなぁ?」

「クスクス、今から楽しみね♪」

「シュバルツァー、アルフヘイム。君達も遅れないように。」

ランディの軽口に続くようにランドロス教官は獰猛な笑みを浮かべ、レンは小悪魔な笑みを浮かべ、ミハイル少佐はリィンとセレーネに忠告をした後それぞれ部屋から退出した。

「えっと………?」

「皆さん、どちらに向かったのでしょうか……?」

「フフ……これより第Ⅱの新入生全員の入学式を兼ねた挨拶があります。」

ランディ達の行動にリィンとセレーネが戸惑っているとリアンヌ分校長がランディ達の行動の意図を説明をした。

「そ、そうだったんですか!?俺達は何も――――」

「フフ、貴方達には何も伝えず、日時だけを指定しましたので。他には、クラス分けと担当生徒との顔合わせもあります。”特務部隊”の”総大将”にして”灰色の騎士”の気骨、雛鳥達に示して差し上げなさい。」

リィンに自身の意見を伝えたリアンヌ分校長は部屋から退出した。

「そ、その………トワ先輩が仰っていたように、色々な意味で大変で難しい”職場”のようですわね?」

「ああ…………まあいい。一応、”これ”を付けておくか。行こう、セレーネ。」

「はい、お兄様。」

そして懐から眼鏡を取り出したリィンはセレーネと共にグラウンドへと向かった――――――


 
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