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真田十勇士

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巻ノ百十六 明かされる陰謀その六

「それが今の世か」
「大久保殿の様な武辺の方が報われず」
「そしてですな」
「あの親子の様な者が上がっていく」
「それが今の世ですか」
「幕府は三河以来の武辺の者達を何と思っているか」
 大久保は苦くかつ悲しみに満ちた顔でこうも言った。
「報われぬ、しかしな」
「それでもですな」
「三河以来の家の者として」
「大久保殿はあくまで、ですな」
「幕府に忠義を尽くされますな」
「尽くさずしてどうする」
 こう言うのだった。
「わしがな、だからな」
「若し急が起これば」
「その時はですな」
「大久保殿は自ら槍を取られ」
「そのうえで」
「大御所様をお護りするわ」
 この決意は変わらなかった、その武辺の者として。
「例え鬼神が来ようともな」
「大御所様をお護りし」
「一切傷つけさせぬ」
「そうされますか」
「そうするわ、三方ヶ原の様なことはならぬわ」
 あの時の様な惨敗はないというのだ。
「わしが大御所様をお護りする」
「では及ばずながら」
「我等もです」
「大御所様をお護りします」
「三河以来の家の者として」
「頼むぞ、わしにも意地があるわ」
 その武辺のそれがというのだ。
「お主達の様な者達がいてくれるしな」
「もう戦はないかも知れませぬが」
「若し戦になれば」
「その時は」
「やってやるわ」
 こう言って引かなかった。
「おそらく大坂で戦があるが」
「あるでしょうか」
「大御所様は穏健にとお考えの様ですが」
「それでもですか」
「戦になるでしょうか」
「わしにはわかる、空気じゃ」
 いくさ人の勘でだ、大久保は感じ取っていた。語るその顔の言葉も随分ときついものになっている。
「戦は起こる」
「江戸と大坂で」
「そうなりますか」
「また天下を大きく分ける」
「そうした戦になりますか」
「まああちらにつく大名はおらぬわ」 
 大久保はそれはないと言った。
「おそらくな」
「そうですか」
「加藤家も福島家もつかぬですか」
「どの家も」
「左様ですか」
「うむ、しかしな」
 それでもというのだ。
「銭で多くの浪人を雇うであろうからな」
「あの多くの銭で、ですか」
「そうしてきますか」
「それでは、ですな」
「戦になれば」
「激しいものになるであろうな」
 大久保はこのことも直観として感じていた。
「大きくな」
「堅城ですしな、大坂城は」
「まさに天下の城です」
「噂に違いませぬ」
「我等もかつて見ましたが」
「あの堅固さはまさに天下無二です」
「恐ろしい城です」
「果たして戦になればどうなるか」
「わかりませぬな」
「何、豊臣家だけなら陥とせる」
 大久保はこう言ってその大坂城でも攻め落とせると言い切った。 
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