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IS~夢を追い求める者~

作者:かやちゃ
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最終章:夢を追い続けて
  第62話「集合」

 
前書き
―――待ってろ。大馬鹿者共


いつまでもグダグダやってるよりも、多少強引にでも展開を持って行った方がいいと判断しました(文章力がもっとあればまだマシだったんですけどね)。
と言うか、展開的に全然進まないので、時間を飛ばして地の文でまとめた方がわかりやすいと思います。
そういう訳で、今回と次回で一気に時間が飛びます。
……色々とさらっと流してしまいますが、もう描写しきれないんです。本当にすみません。 

 





       =秋十side=





「……ふぅ」

 溜め息を吐く。現在は藍越学園の()()()
 あれから無事俺は藍越学園に入り、そして二年半が経っていた。
 藍越学園には元IS学園の生徒も他に何人かいた。
 日本人の生徒は割とこっちに来ていたみたいだ。
 箒やマドカ、兄さんもこっちに来た。他にも静寐さんやなのはとかも来ていた。
 小学校や中学校が同じだった生徒もいたせいで、一悶着あったが……そこは俺や弾たちで上手く仲裁して、取り持った。

 弾たちのISについてだが、性能は測った所、大体第三世代と第四世代の間ぐらいの性能をしているらしい。…と言っても空中での機動性からの推測だがな。
 でも、それは一般的に見たらで、俺達は夢追と同じ最終世代だと思っている。
 つまり、弾たちの想いや成長度によって進化していくと見ている。
 あまり乗る機会はないものの、乗る度に弾たちとISの相性は良くなっていると思う。

「よう、随分と深いため息だな」

「弾か。いや、卒業式だし、結構緊張してな」

「まぁな。緊張するし、もう卒業するかと思えばな」

 ここ数年、それなりに進歩があった。
 まず、各国が徐々にIS宇宙開発へと向けていくようになった。
 そのために、ISに再び乗れる、もしくは新たに乗れる人が増えてきた。
 最初の頃はごく一部しかいなくなった操縦者が狙われていたが、そこは束さんと桜さん。きっちりと監視の目を働かせ、実行に移った途端叩き潰されていた。
 このまま行けば、ISは本来の使い方になっていくだろう。

 その他に、ワールド・レボリューションで画期的なゲームが出た。
 据え置き型ではなく、アーケード系だ。
 もちろん、そのゲームは以前から言っていたフルダイブ型VRゲーム。
 名前は“ブレイブデュエル”。
 ゲームプレイ時にカードを手に入れ、仮想空間で戦うと言うものだ。
 醍醐味となるのは、仮想空間内でのバトル。
 仮想空間なので、空を飛ぶ事はもちろん、魔法となるものも扱えるのだ。
 それが子供達に受けたらしく、稼働直後から人気爆発だった。
 ISっぽい装備もカードであるため、そっちから気に入る人もいるようだ。
 なのはも空を飛びながら戦えるのが楽しいようで、藍越学園で新たにできた友人と共に休日はゲームセンターに遊びに行っているらしい。
 惜しむらくは、筐体が限られたゲームセンターにしかない事だな。
 フルダイブ型VRゲームは設置場所に困るという難点があるし。

「会社の方は大丈夫か?」

「今は人気の対処で大忙しだからな…。でも、俺にはできる事少ないし、信じるしかないさ。人手も増えたんだし、大丈夫だろう」

「信用回復からの就職希望者爆発だもんな。見事な掌返しで少し笑えるぜ」

 問題があるとすれば、未だに残っている女性権利団体と自称レジスタンス。
 権利団体は過激派が未だに権利を主張しているし、レジスタンスも同様だ。
 …と言っても、もう勢力はほとんどない。発言力もないに等しいだろう。
 世界中の治安組織などが少しずつ勢力を減らしていた。
 束さんと桜さんも動いていたのか、軒並みの基地は潰されていたし。

 他に問題があるとすれば…その桜さん達の事だろう。
 未だにユーリは拉致された扱い……なのは桜さん達の思惑通りとして。
 裏で何気に秩序を保っているが、指名手配なのは変わっていない。
 世界の“絶対悪”として存在し続けているのだ。
 そのおかげで今世界は割と安定しているというのに、見つけて捕まえた暁には桜さん達は一生牢屋から出られなくなるかもしれない。

「(それは、何としてでも止めないとな)」

 問題はIS関連だけじゃない。
 忘れがちだが、環境問題も深刻になってきている。
 ISによる発展や、世界が混乱した事で、地球温暖化とかが進んでいるのだ。
 発展国ではそれを危険視しているが、そこまで対策は意味を成していない。
 ……対抗できるとすれば、それはおそらく桜さんと束さん……。

「秋兄~!!」

「っとぉっ!?猛スピードで突っ込んでくんな!?」

 そこで思考を中断させられるようにマドカが背中から突っ込んできた。
 鍛錬は怠っていないため、それぐらいなら大丈夫だが…驚いてしまう。

「相変わらずだな……お前ら」

「俺が奪った時間の分、甘えてるんだ。大目に見てくれ」

「………」

 弾の呟きに、後から来た兄さんがそう答えた。
 ……皆の関係は、既に和解してあまり気負わなくなっていた。

 兄さんに至っては今までの償いをするかのように、ボランティアや雑用などをなんでもこなしていた程だ。…偶に自虐を入れてくるのが玉に瑕だが…。
 やっぱり、やらかした自分を責めているのだろう。

「あ、そうだ。あっちで布仏先輩が来ていたぞ」

「え、マジか!?」

「良かったな弾。蘭には言っておくから行ってやれ」

 兄さんの言葉に弾が慌ててそっちへと向かう。
 ……弾は虚さんと付き合う事になっていた。
 あの初対面の日、帰る際に弾が虚さんの事を色々聞いてきたのだ。
 どうしてそこまで気になるのかと聞けば、顔を赤くしていた。
 さすがに俺もそこまで来れば気づけるので、同じく気づいていた蘭や数馬と共に背中を押していく事にした。……そしたらあっという間にくっついていた。
 初対面で一目惚れで両想いってのは珍しいが、幸せなら別にいいだろう。

「数馬は何か予定あるのか?」

「あー、とりあえず卒業したから色々と家でやる事があるな」

「そうか…」

「秋十はどうするんだ?」

「俺は…とりあえず、ワールド・レボリューションに行ってくるさ」

 はやてとの特訓はあれからずっと続けている。
 ちなみに、未だに勝てた事はない。……さすが天才。
 ……後少しなんだけどなぁ。

「そういや、正式に入社するんだったな」

「元々テストパイロットだからな。どう言う事をするかも大体わかるし、やりやすいからな」

「テストパイロットは大抵その会社に就職するらしいしね」

 セシリアのように金持ちとか、何かしら理由がない限りテストしている会社に就職する方が色々動きやすいしな。

「ってか、そういう数馬だって弾共々うちに来るじゃねぇか」

「そりゃあ、支えるには傍にいないとな」

 弾と数馬も俺と同じように進路は就職だった。
 しかも、就職先は同じワールド・レボリューション。
 就職希望者多数の中を良く受かったものだな。
 …まぁ、俺がある程度アドバイスしていたからおかしくはないけど。
 ちなみに俺は会社側からの推薦…と言うか、テストパイロットには就職しようと思えばできるようになっていたから、受かる受からないの心配はなかった。

「鈴とか、他の奴はどうなんだ?」

「楯無さんに聞いた限りじゃ、そろそろこっちに戻ってくる手配が済むらしい。元IS学園も、捜索拠点に使えるようになったみたいだ」

 俺達が関与できない場所で、色々と準備は進んでいた。
 千冬姉も今まで忌避していたブリュンヒルデとしての影響力を有効活用して、桜さん達を捕まえるための準備を進めている。
 ……結局、俺にできる事は来るべき時のために精進し続けるぐらいだったな。

「それじゃあ、俺達は会社に行ってくるから」

「おう」

 マドカを連れて数馬と別れ、兄さんは普通に家に帰る。
 言い忘れていたが、色々な理由から狙われる可能性が俺達だが、それらも落ち着いてきたので、普通に家で暮らせるようになった。
 一応、更識家の者が監視しているらしいが。
 ちなみに、兄さんは基本裏方だ。表に出て何かするよりも、食事や雑用で支える方が合っているとの事。







「……………」

「さぁ…どないする?」

 所変わって会社。俺ははやてとチェスをしていた。
 初めの頃は決められた状況から提示された条件すら出来なかったが、やはり俺は実践経験を積んでいくタイプなのか、徐々になれていった。

「……ここだ」

「……ほー、やるやないか…」

 ありとあらゆる戦局を経験したからか、割とやり合えるようになった。
 気づいてないと思ったか?はやて。
 ……冷や汗を掻いている事、隠せていないぞ?

 …まぁ、まだハンデありきだけどな。

「(そう来たか。なら……)」

「っ!?……やるようになったなぁ」

 そろそろ分かりやすく顔が引きつるようになった。
 ……さて、俺の経験からすれば、もうはやての勝ち筋は……。

「……参りました」

「……ふぅ……」

 ―――ない。





「……見てて、どうだった?」

「頭がグワングワンしてきたぜ…」

 シャルとヴィータが見ていた感想を言っている中、俺はようやく勝てた余韻に浸っていた。

「……ようやく、ハンデありで勝てたか…」

「いやぁ、ここまでやるようになったとはなぁ」

 何度も言っているが、これでもハンデありだ。
 当然、本来のはやてはこんなものじゃない。

「別に私を完全に打ち負かす必要はないねん。……これだけできるようになれば、あの天才二人に完封される事はないやろ」

「後は別のアプローチ次第……か」

 状況判断や、読み合いにおいてこれ以上はあまり見込めないだろう。
 元より、凡才以下の俺だとあまり伸びしろが良くない。
 ここからは…物理的な強さで勝負するしかないだろうな。

「よし、ほなここまでにしとこか。そんで、ヴィータはどないやった?」

「あー、そうだなぁ。博士んところの奴と一緒にやってたんだが……何人で行ってもなのはに勝てねぇ……」

「ゲームで本気出しすぎな気がするよ……」

 ヴィータはブレイブデュエルのテスターとしてよくプレイしている。
 普通にプレイヤーとしても強豪として有名だが……その上を行くのがなのはだ。
 初見惨敗、シャルから話を聞いて対策を立てても惨敗。
 友人を集めて複数で掛かっても惨敗と、なのはには負け続けているらしい。
 なのはの友人とは中々拮抗した戦いができるらしいが……。

「御神流、ゲーム内でも猛威を振るうのか」

「加えて、なのはは空を飛ぶのが好きみたいだね。この前、私と遊ぶついでに会社に来てくれた時、ISも認めてくれたからね」

「その結果が現チャンピオンか……」

 ブレイブデュエルには大会がある。人気が出てから開催するようになったようだ。
 それで、なのははあっさりと優勝してしまった。
 …恭也さんとかもブレイブデュエルはプレイした事があるが、その時は俺との特訓で参加していなかった。もし参加していれば勝敗が判らなかったかもな。
 あ、ちなみに俺もプレイ自体はしたことあるぞ?
 これでも一社員だからな。テストプレイもしたことがある。
 体感としては……やっぱり画期的なゲームだな。滅茶苦茶楽しい。

「接近したら刀みたいな奴に斬られるし、離れたら砲撃バカスカ撃ってくるしよー…どうすりゃいいんだよあれ」

「ついた通り名が“白い魔王”やもんなぁ」

 何とも反論したくなるような通り名だな…。俺は勘弁だ。

「けど、そこまで強いとなると、挑戦者とかは……」

「あー、案外なのはも負ける時はあるんだ。あたしが勝てないのは、あたしとあたしの友達でやってるからだ。なのはに勝てるチームも存在するぞ」

 なのはだって無敵と言う訳ではない。御神流も恭也さんとかに結構劣るからな。

「最近じゃあ、あのチヴィットのAI達もつえーな」

「シュテル達か」

「指示、遠距離、近距離ってバランスがいいからな。なのはだって多勢に無勢って奴だぜ」

 ディアーチェが指示を出し、シュテルが遠距離、レヴィが近距離って所だろう。
 確かに、チヴィットの時の動きでもそんな感じだったからな。
 ちなみに、チヴィットの三人だが、ゲーム内では普通の少女ぐらいの姿になっている。チヴィットの姿はまた別のAIでNPCとして動くようだ。

「まぁ、なにはともあれ、ワールド・レボリューションが完全に立て直せて良かった良かった」

「後は、軌道を安定させて、やるべき事をやる…やね?」

「……ああ」

 こっちで出来る事はほとんど済ませた。
 後一か月もしない内に俺達は動き出すだろう。

「私らはこうやって裏で支える程度しかできひんけど…頑張ってや」

「ああ。……分かってる」

 決着の時は近い。



















       =out side=







 IS学園跡地。
 学園としては機能しなくなったものの、施設はそのまま残っていた。
 そこへ、今日この日、志を同じくしたの者達が集まった。

「……錚々たる顔ぶれだな……」

「各国から有力者を集めたからね」

 各国の暗部や軍人などが集まっている。
 その中に、秋十やマドカも混ざっていた。

「久しぶりだな、兄様」

「ラウラ。久しぶりだな」

「立場上軍人としてだが、私としては元生徒として、何よりも一人の“ラウラ”としてここに来たつもりだ。……よろしく頼むぞ」

「こちらこそ」

 もちろん、中にはラウラも混ざっていた。更識家も来ているだろう。

「秋十さん!待たせましたわね!」

「セシリア!来てたんだな!」

「スポンサーとしてここに来るようにしましたの。もちろん、その気になれば私自身も動きますわよ」

 そして、セシリアもスポンサーとして来ていた。
 今までは立場上自由に動けなかったが、今回は逆にそれを利用してきたようだ。

「ちょっとちょっと!あたしも忘れてもらっちゃ困るわよ!」

「鈴!久しぶりだな!」

「ここに来れるようにこぎ着けるまで、苦労したわ」

 人の間を縫って鈴もやってくる。
 これで、学園がなくなった事で離れ離れになった者達は全員集合した。

「……秋十は良く平気だな……。これ、各国の人が集まってんだろ…?」

「通訳の人とかもついているから大丈夫だ。それに、俺も英語とドイツ語辺りなら普通に話せるし」

「…すげぇな」

 堂々としている鈴たちに対し、弾と数馬、蘭は完全に気後れしていた。

「ここまで集まったとなると……箒たちはどこだ?」

「モッピーなら~、お嬢様達と一緒にいたよ~」

「うおっ!?本音、いつの間に!?」

 ふわっとした雰囲気と同じように気配もふわふわしているのか、本音は秋十達に気づかれない内に近くに来て、秋十の疑問に答えた。

「というかモッピーって…」

「箒から関連づけてみたんだ~」

「……一応、あいつそれで呼ばれる事を嫌ってるからな?」

 小学校の頃もそれで散々からかわれていたため、箒はそういったあだ名を嫌っている。

「そーなのー?じゃあ、やめとくねー」

 “それならどんな呼び方がいいかな~”と言いつつ、本音は伝えたい事は伝えたのか、そのまま去っていった。

「……ふと思ったけどさ、各国から集まっている割には結構知っている顔が見えるよな…」

「さすがに集まっている人数も多いし、気のせいじゃないかな?」

「……そうだな」

 実際は、割と各国に知り合いが多く、その知り合いがこの場に集まっているから知っている顔が多く感じるだけである。

「あの、シャルロット先輩は?」

「多分、ハインリヒさんとグランツさんの所だな」

「アミタとキリエもそこにいそうだね」

 余談だが、この場に来るにおいて、シャルロットとハインリヒは正体がバレない程度にイメージチェンジしている。

「……さて、そろそろ俺達も体育館に行くか」

「結構時間かかるよな?……俺、眠らずにいられる自信がないんだが」

「俺も……」

「安心しろ、その時は小突いて起こしてやる」

 もうすぐ体育館……厳密には、もう体育館ではないが、そこで設立の挨拶的な事が行われる。当然、時間もかかり、次に自由に会話などができるのはそれなりに先となる。









「……案外、眠くならなかったな」

「そうだな」

「お前らな……」

 数時間後、再び秋十達は集まっていた。
 眠くなると思っていた弾と数馬だが、無事に済んだらしい。

「まぁ、いいや。……それよりも、この面子は…そう言う事か」

 秋十が見渡すと、そこには千冬やグランツと言った、見知った面子ばかりだった。
 桜と共に関わった人物が、今ここに集まっているのだ。

「組織として集まったというよりは、情報などを持ち寄っただけだからね」

「そう言う事だ。……充分な情報は揃っている。これ以上を望んだ所で、あいつらには筒抜けだろう」

 そう。IS学園に集まったのは、組織としてよりも、情報を一か所に集めるため。
 桜たちを捜索する必要はない。なぜなら、もう場所は()()()()()()のだから。

「まず、あの二人が拠点としている場所は、ここよ。見た目はそこまで変わっていないけど、実際は要塞と化しているわ」

 楯無が示したのは、地図に載っていない無人島。
 衛星から撮った写真を使ってその島がわかるようにしていた。

「アメリカ、ドイツ、イギリス…他の捜索した国も万場一致でこの島に基地があると言っていた。もちろん、私の勘としてもここだと分かっている」

「……さすが…」

「数年もあればここまでできるさ」

 数年の間に、桜たちの居場所自体は完全にわかっていた。
 しかし、それでも各国が協力しなければ突破できないような罠が張り巡らされていたのだ。

「機械類の操作は全て近づくと無効化される。おそらく、向こうから操作してくる事もできるだろう。衛星から写真を撮る事は許してくれたが、それ以上は……って事だね」

「ヘリでも、船でも、潜水艦でも、近づいたら操作不能に陥る。その後は向こうが誘導したのか、戻されてしまうと言う事だ」

 近付く事すらままならない。
 それほどまで、桜たちの基地は攻められない状態だった。

「じゃあ、どうすれば……」

「原点回帰とでも言おうか。……アナログだ」

「……冬姉、それってまさか……」

 機械類がダメならば、それを使わなければいい。
 つまりは……。

「……手漕ぎで近づくと?」

「その通り」

 まさかとは思いつつ尋ねた秋十の言葉に、千冬は肯定の意を返した。

「えっと……」

「……まぁ、困惑するのも分かる。だが、限界まで船で近づいてそれで近づくのが確実だ」

「……確かに」

 しかし、それだと一遍に乗り込める人員が限られる。

「止めるにしても、説得するにしても、乗り込む際には制圧する必要がある。やから、まずは相手方の戦力とこちら側の戦力を把握する必要があるんやけど……」

「それならこっちで調べておいた資料があるわ。……と言っても、把握できている訳ではないけど……」

 ちゃっかり面子に混ざっているはやての言葉に、楯無が答える。

「……まず、桜さんと束さんは確定で、それに加えて……」

「私達の両親……つまり、元亡国企業穏便派総帥を筆頭にした面子…」

「そして、ジェイルと彼について行った娘たちだね」

 秋十、マドカ、グランツが資料を流し見しながら呟く。

「……やっぱり、気づいていたんだね。私達が元亡国企業の人間だって」

「更識の力を舐めてもらっては困るわね。……でも、気づいたのはIS学園がなくなる直前辺りよ。まさか、学園に二人も元亡国企業の人間がいたなんてね」

「……悪いが、そういう話はまた後でやってくれ」

 今はあまり重要な話ではないので、千冬が話を戻す。

「……ユーリは、どうなの?」

「…ユーリは便宜上、人質と言った扱いになってる。……でも、彼らとの関係を考えると、向こうに味方していてもしていてもおかしくはないと思われる」

「……やっぱり、か」

 マドカの疑問に簪が答える。
 その返答は大体予想していたものだが、簪はそれでも信じたがっているようだ。

「……なぁ、ユーリって誰だ?」

「っと、数馬は知らなかったな。ユーリ・エーベルヴァイン、うちの会社のテストパイロットで、以前IS学園が桜さん達に襲撃された際、そのまま拉致されたとなっている」

「テストパイロット……って、“されたとなっている”?」

 ユーリを知らない数馬の問いに、秋十が答える。
 ちなみに、弾と蘭も名前だけでは誰か分からなかったが、買い物の時一緒にいた子だと秋十が教えると思い出したようだ。

「……この面子なら話してもいいか。ユーリは、実際には桜さんに自らついて行ったんだ。周囲からの視線などに追いやられてな」

「当時、桜さん達が全世界に向けてハッキングした事で、ワールド・レボリューションの立場が非常に悪くなったの。それで、テストパイロットだったユーリも周囲の悪意で追い詰められて……」

「それは……」

 “唆されたのか”と数馬は思う。
 心の弱った所に付け込まれれば、ついて行ってもおかしくはないからだ。

「……でも、彼女の立場から考えれば、ついて行って“拉致された”と言う事にするのはちょうど良かったのよ」

「なっ……!?それってどういう……!」

「“被害者”になれば、彼女が追い詰められる事はないからよ。……それに、彼らは元々彼女を“保護”するために学園を襲撃したの。……世間上はテロとしてね」

 事実、そのおかげで世間上でのユーリに対する印象は同情が強くなった。
 なお、この襲撃の件で桜たちの罪はさらに重くなっていたりする。

「……まぁ、味方になっているにしろ、私達の行動は変わらない」

「……ちなみに、その所はどうなんだ?白」

【黙秘権を行使したい所だけど……どちらでもないって所かな。彼女は大人しくお母さんの基地で暮らしてる。それこそ、普段の日常のように】

 秋十がダメ元で白に聞くと、白はそう答える。

【これ以上は答えないよ。私は“見届ける”立場だから】

「…分かってる」

「とにかく、これであいつらの戦力の大体は分かったな。……だが、把握できたという考えは今すぐに捨てた方がいい。……私達の予測など、全て想定されていると思え」

 そういって、千冬は秋十を見る。

「……桜の相手は、お前が適任だ。秋十」

「俺……?千冬姉でもいいんじゃ……」

「私は私で、あいつよりも相手にしなければならない奴がいる。それに、あいつに打ち勝つために、様々な手を施してきたのだろう?」

「……分かった。……今度こそ、勝つ」

「それでこそだ」

 手を握り締める秋十。それ見て、千冬は満足そうに頷いた。

 ………その後も、話し合いは続いて行く。





















「………もうすぐ、もうすぐだ」

 その日の夜。元IS学園のテラスで、千冬は夜空を見上げていた。

「……長い事、待ったな。三人であの空を飛び立ちたいと願ってから」

 誰かに言うように、千冬は独り言を漏らす。

「お前たちは、こんな世の中になって、常に不満を持っていたんだろうな。無駄に天才なお前たちの事だ。思い通りにならないのは我慢ならなかったんだろう」

 この場には千冬以外誰もいない。
 監視の目もなく、あるとすれば衛星から桜たちが盗聴している可能性くらいだろう。

「……それでも、お前たちは賭けた。天才ではない、凡才の可能性に」

 千冬は秋十を思い浮かべながら、そういう。
 秋十は最初こそお世辞にも才能があるとは言えなかった。
 しかし、努力を続け、その経験を活かし、人並み以上にこなしてみせた。

「秋十は、強くなった。一夏の愚行によって、限界まで……いや、生きるのを諦める程に追い詰められたのもあってか、本当に心身ともに強くなった」

 酷い事をしたという気持ちは、千冬の中にまだ残っている。
 だが、それと同時に、乗り越えて強くなった事に嬉しさもあった。

「……覚悟しろよ、桜、束。……凡才の身であり、私の自慢の弟は、お前たち天才を今度こそ超える」

 掌を空へと伸ばし、拳を握り締める。
 来るであろう決戦に、千冬は笑みを浮かべた。















   ―――……待ってろ。大馬鹿共













 
 

 
後書き
時間が経ったため、シャルロットの一人称が“私”になっています。(男装のために“ボク”と言うようにしていた設定) 
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