| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

真田十勇士

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

巻ノ百十四 島津忠恒その二

「城を築いて守るよりもな」
「人がどうか」
「そうしたお考えでしたな」
「あの信玄公は」
「そうでしたな」
「拙者は残念ながら殆ど覚えていない」
 信玄のことはというのだ。
「拙者が幼い頃に亡くなられた」
「左様でしたな」
「殿がご幼少の頃ですか」
「その頃にお亡くなりになられ」
「殿もですな」
「殆ど覚えれおられませぬな」
「四郎様は覚えておる」
 武田家の次の主であり最後の主となった彼はというのだ。
「よき方であられ」
「主としても将としても」
「そうでしたな」
「殿がお話されていますな」
「時折」
「暗愚どころかな」
 巷でそう言う者もいるがというのだ。
「しかし実はな」
「違いますな」
「それは」
「実に優れた方」
「立派であられたと」
「そうであった」
 実にというのだ。
「滅んだから言われているだけでな」
「実は、ですな」
「言われる様な方ではない」
「そうなのですな」
「そうじゃ、右府殿が凄過ぎた」
 信長、彼がというのだ。
「四郎様も退くに退けず」
「鉄砲の前に敗れ」
「そうしてでしたな」
「遂には追い詰められ」
「滅んでしまわれたのですな」
「そうであった、戦も政も暗愚ではなかった」
 決して、というのだ。
「むしろその逆でな」
「非常に聡明であられ」
「劣勢の中でも奮起されていて」
「大殿が決して見捨てなかった」
「そうでしたな」
「真田の家は生き残ることを家訓としておる」
 何といってもというのだ。
「だからな」
「いざとなればですか」
「四郎様が駄目と見ると」
「その時は、だったのですか」
「情はあってもそれにこだわっていて家が滅ぶなら」
 即ち真田の家がというのだ。
「父上はそうされていた、しかしな」
「大殿はですな」
「何としてもでしたな」
「四郎様を見限らず」
「あくまでお護りしようとした」
「そうでしたな」
「うむ、若し四郎様が巷で言われている様な方なら」
 暗愚な者ならというのだ、勝頼が。
「決してそうはされなかった」
「どうにもですな」
「それはされずに」
「最後の最後まで四郎様をお護りしようとした」
「上田にお迎えして」
「織田の大軍を前にしても」
「そう決意されたからには必ずお護りするのが父上じゃ」
 昌幸だというのだ。
「その自信もおありだった」
「大殿がそこまで忠義を尽くされた方」
「それが四郎様ですか」
「人として決して暗愚ではない」
「そうなのですな」
「うむ、だからじゃ」
 それでというのだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧