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ハルケギニアの電気工事

作者:東風
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第14話 会った! 別れた! 帰ってきた!!

 
前書き
ミッションは無事にコンプリートといった感じです。
先の見通しも立つようなので、いったん帰りましょうか? 

 
 おはようございます。アルバートです。

 昨日はエルフの女性(アルメリアさん)を助けて、夕食をご馳走してから夜遅くまで色々な話をしていたら、朝まで夢も見ないでぐっすり眠ってしまいました。

 目が覚めると今朝も昨日と同じように良い天気です。今日で屋敷を出てから3日目の朝になります。『ヴァルファーレ』も、もう起きていますね。

「『ヴァルファーレ』、おはようございます。」

[よく眠れたかな?大分遅くまで話し込んでいたようじゃが。]

「ぐっすり眠れました。つい話が弾んでしまいましたが、楽しかったですよ。」

 アルメリアさんはまだ寝ているようですね。流石に疲れていたのでしょう。今のうちに朝ご飯の準備をしておきましょうか。
 実は、昨日の夕飯で食料を使いすぎたので、残りは2人分しかありません。海に潜って魚を捕るか、森の奥に行って獣を見つけて狩りをするかしないといけませんね。
 たいした食材は残っていないので朝食の準備はすぐにできました。さっそくアルメリアさんを起こします。

 朝食後は、最後までとっておいた紅茶を出しました。練金でカップを作って2人分の紅茶を入れます。ミルクはありませんがこちらもとっておいた砂糖を入れて一つをアルメリアさんに渡しました。

「こんな西の地に来て人間の子供に会って助けられ、諍いも起きずに朝から紅茶を頂けるとは夢にも思わなかった。生きていると面白いことがいくらでも見つかるものだな。」

「いやいや、それほどの事でもないと思いますが。ところでアルメリアさんはこの後どうするのですか?」

「そうだな。一人での行動は危険が多すぎることも判ったから、一度戻るとするか。持ってきた荷物もなくなってしまったしな。」

「その方が良いと思いますが、ここから一人で戻るのも危険ですよ。こうして知り合ったのも何かの縁でしょうから家まで送りましょうか?」

「そうしてもらえると非常に助かるが、君の都合は大丈夫なのか?」

「ええ、大体目的の調査も済ませましたから、後は色々片付けてお昼位には動けると思います。そう言えば食料がもうないのでどこかで狩りをしないといけないんでした。この辺に食用に適した獣っていますか?」

「もしかしたら、私が昨日食べすぎたからかな?それは悪いことをしたな。どうだろう、助けて貰った事と送って貰う事のお礼も兼ねて、私の家で一晩泊まっていってくれないか。私の集落の代表にも紹介したい。帰りには旅に必要な食料も提供しよう。どうかな?」

「それは助かりますが人間を集落に招いて良いのですか?」

「命の恩人を招くのだ。誰も文句は言わないさ。」

「そういう事でしたら、宜しければお邪魔させていただきます。」

 話も纏まりましたので、僕は昨日設置した容器の回収に行くことにしました。アルメリアさんにはベースキャンプで待っていて貰います。ここなら『ヴァルファーレ』もいるので安心ですからね。
 林の中に入って、ゴムの木を廻って容器を回収しましたが、どの容器も2/3位樹液が貯まっています。零さないように羊皮紙で蓋をしてベースキャンプまで持ち帰りました。
 昨日回収しておいた樹液と一緒に、屋敷から持って来ていた大きめの瓶に集めます。合計11個の容器を使いましたが、結構な量が集まったのでゴム作りに役立つことでしょう。
後は椰子の実を20個ほど集めて此方も持って来た網に入れます。毛布とかのキャンプ用品と一緒に『ヴァルファーレ』の座席の後ろに固定しました。
 キャンプの後始末もきちんとして、これで帰る準備は完了です。

「それでは、済みませんがアルメリアさんがまず座席に座ってください。」

 アルメリアさんが『ヴァルファーレ』の翼を上って座席に座ります。

「これは座りやすいイスだな。体型に合わせて変形するようだ。良くできている。それでアルバートはどこに座るんだ?」

「僕は失礼してアルメリアさんの膝の上に座らせて貰います。二人乗り用の座席ではないので我慢してくださいね。」

 生憎、二人乗り用の座席ではないのでこの方法でしか乗ることができません。僕も『ヴァルファーレ』の背中に上ってアルメリアさんの膝の上に座らせて貰いました。ベルトは伸びるので二人纏めて固定することができます。頭の後ろがとても柔らかいのは気にしないことにしましょう。別に役得とかではないですよ。

「それでは出発しましょう。飛び上がったら、方向を教えてください。」

 アルメリアさんにはそう言って、『ヴァルファーレ』に出発の合図をします。大きな羽で羽ばたくと『ヴァルファーレ』は上昇を開始しました。500メール位で停止します。

「アルメリアさん、どっちですか?」

「……………。」

 返事がありません。僕の体を包むようにしているアルメリアさんの腕を軽くたたくと反応がありました。

「アルメリアさん。大丈夫ですか?」

「ああ、済まない。まさか、こんな巨体があんなに軽々と上昇するとは思わなかったので驚いてしまった。もう大丈夫だ。このままやや南寄りに東の方に飛んでくれ。目標が見つかったら教えるから。」

 いきなり垂直上昇はきつかったでしょうか。僕はすっかり慣れてしまって気にしなかったのですが、申し訳ないことをしました。

「判りました。『ヴァルファーレ』東の方へ、少し南寄りに飛んでください。」

 周りには他の幻獣も見当たりません。いつも通り順調な飛行で東の方に向かいます。それほど距離を飛ぶことはないと思うのでゆっくり飛んで貰っています。
 しばらくすると蛇行する河と一本の高い木が見えました。川の水がキラキラ輝いて眩しいくらいです。

「あの河と木が目標だ。川を越えたら北東に進路を変えてくれ。あと少しで着くだろう。」

「解りました。ところで、いきなり『ヴァルファーレ』で近づいて、攻撃されませんか?」

「………!?そう言えばその恐れがあったな。」

「もしかして考えていませんでした?」

「済まない。失念していた。まあ、いきなり無警告で攻撃して来ることはないと思うから、ゆっくりと進んでくれ。」

「はい。『ヴァルファーレ』、ゆっくり高度を下げながら進んでください。」

 北東に進路を変えて、ゆっくり高度を下げながら進みます。やがて密林の中に大きな集落が見えてきました。同時に風竜が3匹飛び上がってきます。近づいてきた風竜が話の届く距離で止まり、乗っているエルフから声が掛けられました。

「接近中の幻獣に警告する。直ちに向きを変えて立ち去れ。さもないと攻撃する。」

 『ヴァルファーレ』に退去するように警告されました。

「アルメリアさん。お願いします。」

「判った。彼は知り合いだから任せてくれ。お~いカイス。私だ。アルメリアだ。この幻獣に危険はないので安心してくれ。」

「アルメリアか?何でそんな幻獣に乗っている?おまえは西の地の探検に出ていたのではないのか?それにその子供は何だ?」

「詳しいことは降りてから話す。一緒に乗っているのはこの幻獣の主で、私の恩人だ。私が保証するので一緒に村に入れてくれ。」

「恩人?よく解らないが、おまえが言うのだから良いだろう。しかしその幻獣の大きさでは広場には降りられないだろうから、村はずれの草原に降りろ。先導するから付いてこい。」

 そう言って、風竜を操って降下していきます。

「あのカイスの風竜に付いていってくれ。」

「解りました。『ヴァルファーレ』、頼んだよ。」

 カイスの後について降下し、草原に着陸します。ベルトを外して『ヴァルファーレ』から降りると、カイスが立っていました。

「しかしでかい幻獣だな。こんな幻獣を人間が使い魔にしているとは驚きだ。アルメリアとそっちの子供は一緒に来い。代表に説明してもらう。この幻獣は此処で待たせておけ。」

 そう言われても、このまま待たせておくのも可哀想ですから、『ヴァルファーレ』には異界に戻ってもらいましょう。

「『ヴァルファーレ』、ちょっとこちらの方と一緒に村まで行ってきます。帰ってくるまで異界に戻っていてください。」

 『ヴァルファーレ』は軽く頷くと空に裂け目を作り飛び込んでいきました。見ていたアルメリアとカイスは呆気にとられています。アルメリアも初めて見るんでしたね。

「『ヴァルファーレ』は、本来のすみかに戻ってもらいました。この方が皆さんも落ち着くでしょう?」

「いったいこの人間の子供は何なんだ?見たことの無い幻獣を使い魔にしているわ、その幻獣は空を切り裂いて入っていくわ、訳がわからん。ともかく代表に会ってもらう。二人とも付いてこい。」

 どうやら、他の2匹の風竜は先に村の方に降りているようですね。カイスの先導で村に入らせてもらいます。村の中には老若男女併せて沢山のエルフがいました。大体200人程度の人口でしょうか。みんな、怪訝な顔で僕を見ています。こんな所まで人間の子供が来ることは、今まで無かったでしょうから、よほど珍しいのでしょうね。
 そのまま少し歩いて村の中で一番大きな建物に連れてこられました。集会場のような所でしょうか。高床式になっている建物の正面にある階段から上がって、中に入ります。
 周りの窓を開放しているので中も結構明るく、風も通って良い状態です。奥の方に敷物が敷いてあり、年を取ったエルフが座っていました。
長命種のエルフでこのくらい年を取った外見になるというと、いったい何歳になるのでしょうか?おそらくこのエルフが長老で代表ということになるのでしょうね。
 案内してきたカイスが頭を下げて代表に話しかけます。

「アル・アミーン。西の地の探検より戻りましたアルメリアと、アルメリアが恩人という人間の子供を連れてきました。」

「ご苦労。アルメリア。ずいぶん早い帰還だな。たしか予定では2ヶ月と聞いていたが。」

「アル・アミーン、申し訳ありません。己の力を過信し、油断から獣たちに襲われました。危うく命を落とすところを、偶然居合わせたこちらの人間、アルバート殿に助けられ、獣たちに受けた傷を癒していただいた上に食事と休む場所を提供して貰いました。その際の経験から単独では危険が有りすぎると判りましたので、出直す準備のためと、助けて貰ったお礼にアルバート殿に一晩我が家に泊まって頂こうと一旦戻った次第です。」

「なんと、お主ほどの者が命を落とすところだったと?その上、人間に助けられるとは驚いた事だ。アルバート殿と申されるか。人間の子供と見えるが、我が同胞を助けて頂いた事、礼の言いようもない。我が名はアル・アミーンと申す。この集落の代表を務めておる。見知りおき願いたい。」

「ご丁寧に有り難うございます。私はアルバート・クリス・フォン・ボンバートと申します。人間の世界にありますゲルマニアという国の伯爵家嫡男です。この度は偶然にもアルメリアさんを助ける事が出来、幸いでした。未だ子供の身ではありますが、よろしくお願いします。」

「ほう。子供の身というが、なかなか見事な受け答え。同胞が助けられた事といい、ただ者では無いようだの。して、このような遠方まで何用で参ったのだ?」

 その後、僕がこんな遠くまでやって来た理由を話し、アルメリアさんも助けられた時の状況などを話した結果、今日、アルメリアさんの家に泊まる事と、不足している旅の食料を分けて貰える事が決まりました。また、今回のお礼として今後この集落に自由に出入りする事が許されました。信じられない幸運です。まったくの予定外の事ですが、これでエルフとの通商の窓口が出来ました。
 また、『ヴァルファーレ』の事も説明し、先ほどの野原を離着陸の場所に指定してもらえました。これで、何時でも『ヴァルファーレ』で来る事ができます。この集落に来ていれば、その内もっと大きなエルフの町に行く事もできるかもしれません。

 領地の特産品や名産品をこの集落まで持って来て売ったり、こちらの物産を買い取ったりする事や、西の地で椰子の実やゴムの樹液を採取する事など、色々な事の許可を得られました。何かとっても良い事ずくめで話が進みましたので、代表にお礼を言って集会所を後にアルメリアさんの家に移動しました。

 アルメリアさんの家に着いてすぐ昼ご飯になりました。海が近いという事もあってか、魚介類が豊富でアルメリアさんが料理して、鱒のような魚の塩焼きや貝のバター焼きのような物、ベーコンのような物が入ったスープなど、生前食べていたような家庭料理が食べられました。アルメリアさんて料理が上手だったんですね。この集落で捕られている魚介類や肉類の加工品などを輸送できれば、それだけでいい商売ができそうです。

 沢山食べて、食後の一休みも終わりました。特にやることもないので集落のことをアルメリアさんに聞いたり、ついでに案内してもらったりして時間をつぶしました。案内の途中ではエルフの奥さんや子供達にも紹介してもらい、皆さん驚いていましたが、とても優しい人たちばかりでした。初めての経験ですが、同じ年くらいの子供達も大勢いて仲良くなることが出来ました。
 たしかにエルフも人間を蔑んでいるところがあると思います。でも基はと言えば人間がエルフに対して一方的に仕掛けていることが原因で、それも聖地奪還とか言っている誰かさんのせいだと思うのです。こんな事をハルケギニアで大きな声で言ったら、即異端認定を受けて死刑でしょうけどね。

 アルメリアさんの家で一晩お世話になって、帰りの食料の提供も受けました。なんか結構な荷物になってしまいました。魚の干物や干し肉、珍しい干した果物などの乾物の他に、真っ白な砂糖や焼いたばかりのパンになんとお酒までくれました。このお酒には両親も喜ぶでしょう。エルフのお酒なんて口にする機会は今まで無かったでしょうから。
貰った食材は残ったら料理の研究材料にできます。魚も肉もハルケギニアでは見た事がない物ばかりなので、うまく調理して貴族などの口に合う料理ができれば、流行にする事もできるでしょう。それに真っ白な砂糖なんてこちらで生まれて始めてみました。これはなんとしても通商できるように頑張らないといけません。

 さて、日もだいぶ昇ってきましたから、そろそろお暇する事にしましょう。貰った荷物を着陸した草原に運ぶ途中、代表の所によってお世話になった挨拶をして村を出ます。荷物はレビテーションを使ったので楽に運ぶ事ができました。仲良くなった子供達も一緒に着いてきて見送りをしてくれるそうです。嬉しいですね。
 さてみんなの前で『ヴァルファーレ』を呼びましょう。

「『ヴァルファーレ』、おいで!」

 空が避けて咆哮と共に『ヴァルファーレ』が飛び出してきます。やっぱりみんな驚いていますね。でも僕が『ヴァルファーレ』の頭をなでてあげていると安心したのか、みんな近づいてきて羽や足を触ってみています。そのうちみんなも乗せてあげることを約束しました。
 着陸した『ヴァルファーレ』の背中に登って、荷物を纏めて座席の後ろに固定します。しっかりと固定しないと、途中で落としたりしたらもったいないですから、最後にもう一度チェックをして準備完了です。

「アルメリアさん。お世話になりました。こんなに貰ってしまって済みません。」

「なんの。助けて貰った事に比べれば大したことではない。またいつでも来ると良い。歓迎する。」

「有難うございます。ちょくちょく来させて貰いますね。それから、アルメリアさんに僕の国を見て貰いたいので自由に来られるようになるよう、僕も頑張ります。そうなったら是非来てくださいね。それでは出発します。」

 子供達には少し離れてもらって、『ヴァルファーレ』に乗り、ベルトを締めます。準備完了。
 みんなに手を振って、『ヴァルファーレ』に合図して離陸しました。ぐんぐん小さくなっていくアルメリアさんや子供達にもう一度手を振って、一路北に向かいます。

 帰りは一旦来るときに休憩した海岸に寄って休憩した他は特に寄り道もせず、3時間程度で無事に屋敷に帰ってきました。1往復して大体の地形を覚えましたから、同じ経路を使う限り迷うこともないでしょう。
 着陸する頃には帰ってきたことが伝えられたようで、母上がメアリーと一緒に迎えに来ていました。少し離れたところに二人のメイジもいます。すぐにベルトを外し『ヴァルファーレ』から降りました。

 地面に降りて振り返る前に、後から母上に抱きしめられました。

「無事で良かったわ。お帰りなさい。」

 やはり心配掛けてしまったようですね。申し訳ありません。思わず涙ぐみそうになりました。

「母上、メアリーただいま帰りました。」

「兄上、お帰りなさい。」

 メアリーも嬉しそうにしています。

 こうして、僕の生まれて初めての旅は終わりました。 
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