| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

フランケン

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

第四章

「人間として正しい教育を受ければな」
「立派な人間になれる」
「そういうことだ、私も実はな」
 博士もだ、助手と同じことを言った。
「ここまでなってくれるとは思わなかった」
「そうでしたか」
「立派な人間になって欲しいと思っていたが」
「あそこまで高潔な人間になるとは」
「思わなかった、もう彼は人の手で生み出された人間ではなく」
「立派な人間ですね」
「むしろ私達以上のな、もう彼に教えることはない」
 最早、というのだ。
「一人立ちもしている、ではな」
「ここからはですね」
「彼の願う様にしてもらおう」
「学問を究めて」
「修道院で己を磨いて生きていってもらおう」
 こう言ってだ、ヴィクターの望む様にしてもらった。こうしてヴィクターは修道院に入ったがそこでだ。
 当初は傷だらけの巨体を驚かれたがだ。
 その深い学識と人間性、気品を見られてだ。修道院の者達に認められた。
「記憶を失くした流浪者だったというが」
「実に見事な方だ」
「あれだけの方は滅多にいない」
「しかも向上心が凄い」
 学び生活を慎み神に近付いているというのだ。
「あれだけの方ならばな」
「これからもどんどん素晴らしくなられる」
「我々も負けていられない」
「あの方の様にならねば」
 何時しか他の修道僧達の手本になっていた、そうしてだった。
 修道院長になりそこから大司教にまでなった。その出自は博士と助手以外は誰も知らなかったが。
 ローマ教皇もだ、彼がローマに来た時に笑顔で言った。
「貴方のことは聞いています」
「猊下も」
「はい」
 口数の少ないヴィクターに笑顔で応えた。
「非常に素晴らしい方だと」
「いえ、私はまだ至りません。それに」
 彼自身その出生を知らないがこう言った。
「博士の基に入るまでの記憶もです」
「なかったのですね」
「はい」
 そうだというのだ。
「それ以前の私がどういった者か」
「私も知りません、神と主だけがです」
 教皇は己の前で跪き語る彼に話した。
「知っています、ですが」
「それでもですか」
「今の貴方は神と主に見られ」
 そしてというのだ。
「祝福されていることは間違いありません」
「だからですか」
「そうです」
 まさにというのだ。
「ですから」
「それでは」
「今の貴方なのです」
 神が見ているのはというのだ。
「過去の貴方ではありません」
「そうなのですか」
「ですから」
「今の私をですか」
「誇りそしてです」
「これからもですね」
「神を信じ学ぶのです」
 そうせよというのだ。
「わかりました」
「そうですか、それでは」
「これからもお願いします」
 教皇はヴィクターに優しい声で告げた、そしてヴィクターも教皇の言葉に応えてだった。
 徳のある神の僕として生きた、博士と助手は年老いてからもその彼を見て笑顔になっていた。ヴィクターはその二人についてこう言っていた。
「あの方々がおられてこそ今の私があるのです」
 後に二人から自分の出生について告げられてもこう言えた、彼には既に確かな信仰と信念があったからだ。それでだった。
 今の自分こそが大事なのだと信じていて動じなかった、そうして死ぬまで学問と信仰に生き清らかに生きた。周りからその徳を讃えられたうえで。


フランケン   完


               2017・7・24 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧