デブは嫌
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第一章
デブは嫌
佐藤太は身長一七五で体重は百キロきっちりある、誰がどう見ても肥満体で体格もそうだ。
その彼がだ、太った丸い身体でクラスメイトの一人である雅知子を好きになった。知子は一五〇程の背で長い黒髪に切れ長の目の美人と言っていい顔立ちをしていた。
高校生故の若さでだ、太は誰にも相談せずに知子に告白をした、だが知子はその彼に呼び出された校舎裏で冷たく言った。
「はあ?何であんたなんかと?」
「えっ?」
「えっ、じゃないわよ。私デブは嫌いなのよ」
虫を見る目で告げた言葉だった。
「特にあんたみたいな百貫デブはね」
「デブは嫌って」
「何度も言うわ、デブは嫌いなのよ」
言葉の冷たさはドライアイスの如きだった。
「汗かくし臭いし暑苦しいし」
「それで・・・・・・」
「お断わりよ、もう近寄らないで話しかけないで」
冷たさは増すばかりだった。
「いいわね、二度とよ」
「・・・・・・・・・」
あえてだ、知子は太の横を通ってけっ、という顔で睨んで去った。太はその場に蹲り暫く立てなかった。
それから数日彼はショックで部屋のベッドから出られずだ、泣いて暮らしていた。知子の言葉が常に忘れられなくなっていた。
そしてだ、彼は遂に決意したのだった。知子の言葉を受けて。
スイミングスクールに入り毎日放課後に泳ぎ朝は雨でも走り夜はストレッチをしてだった。
食事は油ものを完全に止めて甘いものを止めて量自体も制限した、すると急激にだった。
太は痩せていった、百キロあった体重が一ヶ月で二十キロ減ってだった。
二ヶ月で三十キロ、さらにダイエットしてだった。
気付けば六十キロになっていた、その彼を見て友人の豊田彬は心配して彼に対して言った。
「おい、どうしたんだ最近」
「どうしたって?」
「だからその身体だよ」
痩せ細ったその身体を言うのだった。
「滅茶苦茶痩せたじゃないか」
「うん、今六十キロだよ」
「一七五センチでかよ」
「もっともっと痩せるから」
そのすっかりこけた頬で言うのだった、しかも笑顔で。
「どんどんね」
「どんどんってどれ位だよ」
その細い面長の顔でだ、彰は太に問うた。見ればもう数ヶ月前の太は何処にもおらず棒の様になっている。
「一体」
「痩せられる限界までだよ」
「限界!?」
「うん、限界までね」
黒い詰襟ももうぶかぶかになっている。
「痩せるから」
「馬鹿、もう限界だよ」
彬は怒って言った、黒髪にも元気がない。尚彬は少し赤毛でそれを伸ばしている。
「御前にとってな」
「まだだよ」
「まだ!?」
「うん、痩せるから」
「それ以上痩せたら危ないだろ」
「食べるものは食べてるから」
「嘘つけ」
すぐにだ、彬は言い返した。
「御前食う量半分になってるだろ」
「そうしてるんだ」
「腹減ってないのか」
「空いてるけれど」
「痩せたいのか」
「うん」
その通りという返事だった。
「まだね」
「何でそこまでするんだ」
彬は自分の前に座っている太に問うた、前の席を借りてそのうえで彼と話をしているのだ。
「一体」
「だってデブは嫌だってね」
「聞いてるぜ」
彬はここで知子を睨んだ、クラスにいる彼女を。赤いブレザーに黒いミニスカートの制服だ。ブラウスは城でリボンは黒だ。
「何があったのか」
「そうなんだ」
「あのな」
彬は真剣な目でだ、太に言った。
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