探し求めてエデンの檻
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プロローグ
前書き
これは、彼女の数あるトラブルの一つだった。
“蒼”を思わせる女が奉られる偉業の一つ。
あらゆる存在と闘い、そして屠り、屠殺者という在り方にまで至る道筋。
これはその物語の一つ。
それは、彼女がグアム海域の事に訪れたある日の事だった―――。
「……ぅぅわあああぁぁあぁあ!!?」
大きな悲鳴が轟いた。
辺りを包み込む機械音とさざ波の二重奏に、轟くような男の悲鳴が混じる。
次に水柱を立てて激しい着水音。
それが三度続けて響いた。
陽光を浴びる綺麗な水しぶきは煌めきながら舞い散った。
そしてすぐに、音は機械音とさざ波のリズムに押し流される。
水平線までコバルトブルーの海が広がる光景に、黒い煙を吐き出す大きな貨物船が停泊していた。
ついさっきグアムの港に着いたばかりのその船には、海に揉まれた屈強な男達が荷出し作業に精を出している。
物資が積まれたコンテナがクレーンに吊られて次々と貨物船から運び出されていた。
だが…貨物船から降ろされるのは物資だけではなかった。
三人の悲鳴と悲鳴と同時に、甲鈑から船乗りの男達が、蹴落されて海の藻屑となったのだ。
貨物船というものは大きい。 大量の物資を運ぶために比例するサイズは巨大化するため、甲鈑と水面との距離は広がる。
何十メートルものの高さから落とされたその男らは死にはしなかったが、一定の高さを超えたダイビングは物理的にダメージを与える。
これがちゃんとしたダイビングであればフォームによって切り裂くように着水するものだが、蹴落されていてはそんな事が出来るわけもない。
三人の土左衛門もどきが浮かぶ中、それを見下すように甲鈑に彼女はいた。
「全く…下衆だこと。 寝込みを襲うとか、とんだ安眠妨害よ!」
ふんっ、と鼻息を鳴らして憤慨するのは―――天信睦月。
日本人らしからぬ空のような蒼い色髪を束ねたポニーテール。
欧米生まれの母譲りの海色に似た深青の瞳と、その上で斜に構えた強気を表す柳眉。
ミニのデニムスカートと、シャツの上に長袖のジャケットを身に纏った出で立ち。
年齢よりも若干若く映る童顔は、その感情を隠すことなく表に出している。
怒りのままに荒くれの船乗り達を素手で叩きのめした彼女は、横から吹いてくる潮風にポニーテールを靡(なび) かせた。
蹴落された男達には一瞥すらせずに、天信睦月は周りの船員達を掻き分けて貨物船をあとにした。
―――。
「最悪だわ」
下船してもまだ収まらない怒りが口に出て嘆いた。
「ほかにルートがなかったとはいえ、貨物船はないわー…それもタコ部屋とか最悪だわ」
臭いはひどく、汗を充満させる野獣が大勢いる所にいたから、それは不機嫌なのも当然だった。
そこを我慢して部屋の隅で寝ていたのに、ボディタッチして安眠妨害する不届き者がいたら当然睦月はキレる。
不規則に眠りを繰り返す天信睦月にとって、夢なき睡眠は貴重なものだ。 それを妨害する事は三大タブーに触れる。
それを知らずに、女日照りで色々と溜まっていた船乗り達が蛮行に及んだ結果…ボコボコにされて三十メートルも上の甲鈑から蹴落とされるに終わった。
サメの一尾でもいたらけしかけてやるところだったから、あれで軽く済んだ方である。
彼女の故郷である日本に帰ろうとしたのだが、彼女が元いた場所では飛行機を飛ばすには危険な地域だった。
だから船で安全圏にまで離れて空港から飛行機に乗る手はずになっていた。
それがたまたま貨物船であって、たまたまグアムだっただけの話だ。
「飛行機に乗る時間は…明日か。 グアムは旅行ならともかく、遠回りで通りすがる場所じゃないわよね」
グアムは旅行地としては有名であり、リゾートとしては行ってみたい所の一つであろう。
だがしかし、睦月にはそんなゆとりがあるはずもない。
人生は既に壊れている。 一つの目的のために、旅行など一縷の興味も抱いていなかった。
「…海辺か。 皆楽しそうね…人がいなければ、野宿も出来たんだけど」
金は有限であるため睦月の持つお財布様は決して寛容ではない。
海辺で野宿した経験は多いが、流石にこんなリゾート地で野宿とかしたら変人でしかない。
何より周りの視線が痛い。 睦月はそこまで無神経ではない。
「ん? やけに日本人が…というか若い子がやけに多いわね?」
その海辺には日本人らしきアジア系の顔付きの男女がかなりいた。
数にして200人弱…十代半ばの青年少女達がこんなに集まっているのは相当だ。
そこで睦月は修学旅行なのだと思い至った。
よく見てみれば、青年の一人が学生服を着て佇んでいる。
しかし、それはそれでおかしいものだ。
周りの同年代は水着ばかりだというのに、一人学生服だけってのもかなり浮いている。 しかも金髪の長身だ。
「…変なの」
蒼髪青目である睦月が言えた事ではないが、赤の他人であるから別にどうだってよかった。
「…ん」
学生らしき少年達の中から、ビデオカメラを構えた子がいた。 この容姿だから奇異な目を引くのだから仕方ないのだろう、だから寝込みを襲われるのだ。
ここにいてもカメラ目線に晒されるのはあまり好ましくないので、睦月はその場を立ち去っていった。
二度と会う事はないだろう、と彼女は大して気にも留めない。
だが…その思惑は大きく外れ、天信睦月は数奇な巡り合わせに巻き込まれる事になる。
後書き
■重要な事
この作品に、転生・神様特典・原作知識・オリ主ハーレムなどの要素はございません
原作の絶望感を損なう軽いパワーバランスの変動も含まれますのでご注意ください。
原作準拠ですが、大なり小なりの事象変化が起こり、オリジナル展開になります。
■方針とお願い
リアルタイム執筆による不定期投稿です。
誤字脱字などの誤りがある場合遠慮なくご一報ください。
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