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女寿司職人

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第二章

「そんなことで美味い寿司が出来るものか」
「じゃあ美味しいお寿司が出来る様になるには」
「何処がどう悪いかをしっかり言うんだ」
 その出来ない相手にというのだ。
「そして何度も何度も教える、そうしたらどんな不器用な奴でもやる気があればな」
「出来る様になるの」
「やる気がない奴は放っておけ」
 それでいいというのだ。
「やる気が出たら相手をしてな」
「ないとなのね」
「適当でいい、しかしやる気がない奴にもな」
「怒鳴ったり殴ったりはなのね」
「するな、わかったな」
「包丁を使っていてもなの」
 そして火も使う、寿司職人も危険と隣り合わせなのだ。
「その時もよね」
「そうだ、何度でも言うんだ」
「けれどなのね」
「こっちが頭に来ても怒鳴ったり殴るな」
 暴力は駄目だというのだ。
「御前も暴力は嫌だろ」
「それはね、私も殴られたりしたら」
 珠緒もこう返した。
「嫌よ」
「だったらな」
「自分はするなってことね」
「自分がやられて嫌だったらだ」
「相手にもするな」
「そうだ」 
 そのこともあってというのだ。
「だからだ」
「お寿司を握る時も人を怒鳴ったり殴ったりするな」
「ものを投げたり蹴ることもだ、いいな」
 とにかく暴力は駄目だというのだ、こう話してそしてだった。父は珠緒に寿司の握り方だけでなく人への教え方も話した。このことは珠緒の心に強く残った。
 その珠緒にだ、彼女が所属しているチアリーディング部の同級生達が文化祭の出しものについてこう言ってきた。
「うちはお寿司出すことになったみたいよ」
「さっき部長さんが言ってたけれどね」
「握り寿司じゃなくて巻き寿司だけれどね」
「あのクレープみたいに巻く方」
「ああ、あのお寿司ね」
 珠緒も言われてすぐにわかった。
「あれを作って出すの」
「そうなったの」
「何がいいかってお話してね」
「それで珠緒ちゃんもいるからってことで」
 寿司屋の娘で寿司自体を知っている彼女もというのだ。
「だからなのよ」
「それで巻き寿司になったから」
「色々皆に教えてね」
「私達にも後輩の子達にもね」
「じゃあね」
 それならとだ、珠緒も頷いてだった。
 チアリーディング部は文化祭で巻き寿司を出すことになった、それで皆で寿司を巻いて出すことになったが。
 皆巻くのに慣れていなくてだ、困った顔で話した。
「これはちょっと」
「難しいわね」
「簡単って思ったら」
「実は違うのね」
「あっ、このお寿司はね」
 ロールのそれはとだ、珠緒がその彼女達に話した。
「コツがあるの」
「コツ?」
「コツっていうと?」
「口で言うよりもね」
 それよりもとだ、珠緒は寿司飯彼女が炊いたそれを海苔に入れてネタも置いてそうして巻いてみせてだ。
 そうしてだ、皆にあらためて言った。
「こんな感じで」
「ええと、丁寧?」
「それでいいの?」
「急がないと体温がお寿司にいくっていうけれど」
「そうしなくてもいいの」
「そうね、乱れるよりもね」
 それよりもと言う珠緒だった。
「その方がいいの、まあ御飯とネタはちょっと少なめがいいわね」
「多いよりもなのね」
「その方がいいのね」
「そう、そうしたらいいから」
 だからだというのだ。
「幾分ね、それでさっきの私みたいな感じでね」
「巻いたらいいのね」
「そうなのね」
「そうしてね、まあ難しいことは考えないで」
 実は珠緒自身もものごとを難しく考える性分ではない、明るく簡単に考えてものごとを進める性質なのだ。
「巻いていきましょう」
「それじゃあ」
「そうしていくわね」
「そうしてね」
 珠緒もこう応えてだ、そしてだった。 
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