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真田十勇士

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巻ノ百四 伊予へその十

「思わなかったわ」
「そうじゃな、しかしな」
「今は思う、そして猿を超えてじゃ」
「わしもじゃな」
「超えるわ、山の神よりも強くなり」
 そしてというのだ。
「殿の御為に働くわ」
「そう考えておるな」
「これまで以上にな、しかしな」
「しかし?」
「もう幕府はじゃ」
 それはというと。
「固まりつつある」
「そうか」
「わしもそう見るし」
「天下の流れがか」
「そうなってきておるわ」
 まさにというのだ。
「流れがな」
「ではか」
「豊臣家の天下はじゃ」
 それはというのだ。
「もうなくなっておるしじゃ」
「これからもじゃな」
「戻らぬわ」
「そういう流れか」
「大体じゃ」
 大介は猿飛にまた言った。
「お拾様だけじゃな、豊臣家は」
「最早な」
「若しお拾様に何かあればじゃ」
 まだ子供と言っていい彼がというのだ。
「豊臣家は誰もいなくなるな」
「お家断絶か」
「そうした心許ない家じゃ」
「そうした家ではか」
「例えあの富と大坂城があってもじゃ」
 豊臣家にはまだこうしたものが備わっている、つまりそれだけの力がまだあるというのだ。
 だがそれでもとだ、大介は言うのだった。
「しかしな」
「もうか」
「そうした状況ではな」
「天下はか」
「戻らぬわ」
「天下も人おってこそか」
「まだ子供のお拾様だけでどうなる」
「そう考えると徳川家か」
「大御所殿は身内も多い」
 秀頼が全く持っていないそうした者達がというのだ。
「家臣の方々だけでなくな」
「では」
「うむ、だからじゃ」
「徳川家がな」
「天下を定めるか」
「せめて関白様がおられれば」
 ここで幸村が言った。
「違ったであろうな」
「あの方ですか」
「そうじゃ、あの時のう」
 幸村は目を閉じ悔やむ顔になって述べた。
「拙者が関白様をお救いしていれば」
「高野山においてですな」
「無理にもな」 
 秀次の意志をあえて無視してだ。
「そうしていればな」
「その時はですな」
「こうなっておらんかったかもな」
「そうですか」
「家も天下も人あってこそ」
 大介と同じことを大介自身に言う。
「まさに」
「その人がおらぬのでは」
「どうにもならぬ」
「だから豊臣家はですか」
「ああなった、もうこうなってはな」
 豊臣家はというのだ。
「せめてお拾様が長生きされ」
「そうしてですな」
「その長生きの中で出来る限りな」
「お子をもうけられるしかですか」
「ない」
 そうだというのだ。 
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