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世界に痛みを(嘘) ー修正中ー

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支配の終わり

 蹂躙
 圧倒的暴力による蹂躙劇が続く。

 アーロンとアキトの戦闘はもはや戦いと呼べるものではなかった。
 アキトによるワンサイドゲームが変わらず続いていた。

 長年ココヤシ村を恐怖に陥れ、苦しめてきたあのアーロンが為す術なくやられていることにナミ達は信じられなかった。

 煙が晴れると満身創痍のアーロンと無傷のアキトの姿があった。
 アーロンの姿は酷いもので至る所から血を流し、自慢の長鼻は途中で折れ曲がっている。
 
 これでは傷の無い箇所を探す方が難しい。
 両者の間には埋めようのない絶対的な実力の差が存在しており、勝敗は誰の目に見ても明らかだ。

 奇しくもアーロンがココヤシ村を偶然、襲撃した時と同じ状況がナミの前で起きていた。
 予期せぬアーロンの8年前の襲撃、アーロンの予期せぬアキトの襲撃

 ナミはアーロンを圧倒するアキトの姿に愛するベルメールさんの姿が重なって見えた。
 ただ一つ異なることは圧倒しているのはアーロンではなく、アキトであることだ。

 アーロンの剛腕による攻撃を躱し、アキトがアーロンの顎を蹴り上げる。
 軽い脳震盪に襲われ、ふらついたアーロンの顔面を掴み地面に叩き付け、アキトはアーロンパークへと放り投げた。

 冷めた目でアーロンを見下ろすアキト
 魚人至上主義を掲げるアーロンにとって、自分達魚人を見下すように見下ろすアキトの視線が我慢ならなかった。

「舐めるんじゃねェ、下等種族風情が!!」

 吠えるアーロン
 口だけは達者であり、アーロンの身体は傷だらけで説得力は皆無である。

「どんな気分だ?これまでこの島の人達に行ってきたことが自分に返ってくる気分は?」

 アキトはアーロンに淡々と語り掛ける。

「っ……!!」

 自分の今の状態に何も言えないアーロン
 ただ、目の前のアキトを睨みつけることしか出来ない。

 推測の域を出ないが、アーロンがここまで人間を憎むのには何か理由が有るのかもしれない。
 だが、アキトは彼の過去を何も知らない。
 ここまで人間という種族を憎悪し、狂気に身を落とすような悲惨な出来事があったのかもしれない。

 しかし、だからと言って何の罪もないナミやこの島の人達を苦しめていい理由にはならないはずだ。

「吠えるな! 人間!! 俺達はこの東の海(イーストブルー)を足掛かりにアーロン帝国を築き、魚人至上主義の国を作り上げるのだ!!」

 アーロンは魂の叫びを上げる。

 叫ぶと同時に眼前の敵に向かい満身創痍の体とは思えないほどの速度で駆け出す。
 これまでのアローンとは思えないほどの速度だ。

 しかし、いくら速くても所詮は東の海(イーストブルー)レベル
 アキトにとって歩いているのと大差なかった。

 どのような形であれお互いに譲れないものを胸に両者は対峙した。

 アキトは強く踏み込むのと同時に背後の斥力の力を爆発させ、アーロンでは認識できない速度でアーロンの懐に忍び込む。

 アーロンが気づいた時には既に遅すぎた。
 アキトは手の平に斥力の力を圧縮させ、速度を落とすことなく全体重をかけた掌底をアーロンの心臓部に叩き込む。

 途轍もない威力の掌底だ。
 尋常ではない衝撃がアーロンの体を貫通し背後に暴風が吹き荒れる。

 血を大量に口から吐きながら、声にならない言葉を吐き出すアーロン

 だが、想像を絶する痛みのせいで声を出すことも出来ない。
 その場に踏みとどまることすら出来ずにアーロンは吹き飛ばされる。

 もはやアーロンに意識はなく、力なく背後のアーロンパークに轟音を立てながら激突した。
 アーロンパークはそれがとどめを差す形となりあっさりと崩れ落ちる。

その様はアーロンによる長年の支配の終わりを示しているようだった。







▽▲▽▲







 周囲に湧き上がる歓声

 長年のアーロンによる支配がついに終わりを迎えたのだ。
 人々の魂の叫びである。
 見れば嬉しさの余り互いに抱き合う者や泣き出す者までいる。

 そんな中1人だけ前方のアキトを見つめる者がいた。
 ナミである。

 ナミはアーロンによる支配が終わったことを未だに実感出来なかった。

 アーロンに子供の頃から8年という長い間縛り付けられてきた日々
 どうあがいてもアーロンを倒すことは出来ず、死んでも嫌だったにも関わらずアーロン一味に加わった。

 その後、アーロンの指示で海図を描き、村を解放するために8年の間死に物狂いでお金を集めてきたのだ。
 そんな日々が唐突に偶然この島を通りがかったアキトの手によっていとも簡単に終わりを迎えた。
 ナミはまだ現実を直視出来なかった。

「終わりましたよ、ナミ」

 呆然としているナミにアキトが声をかける。
 アーロンを圧倒していた時とは雰囲気が和らぎ、ナミに優し気な表情を浮かべている。

 ナミはそんなアキトを見上げることしか出来ない。

「これでナミを縛り付けるものは何もありません。だからもうこれ以上ナミが苦しむ必要はないんです」

 アキトはナミの不安を取り除くように優し気な表情でゆっくりと話し掛ける。

「終わったの……?本当に……?」

「ええ」

「本当に……?」

「ええ、終わったんです」

 肩を震わせ静かに泣くナミを自分の胸に引き寄せ、軽く抱きしめた。

 ナミはここが限界だった。
 アキトの胸を力一杯抱き締め、これまで溜めこんでいたものを全て吐き出した。

 先程まで騒いでいた村人達はそんな2人のやり取りを温かい眼差しで見守るでのあった。



「落ち着きましたか、ナミ?」

 ナミは皆の前で泣いてしまったことが恥ずかしくなり、顔を真っ赤にする。
 
 ナミは無言でアキトから距離を取る。
 羞恥心で前方のアキトの顔を直視出来ない。
 そんな様子を周りの村人達は微笑ましそうに見ていた。

「ナミ、少し聞きたいことがあるのですが構いませんか?」
「えっと、何?」

 しどろもどろになりながらもナミは答える。
 心なしかその顔はまだほんのりと赤いままだ。

「アーロンパーク内にナミの私物はあったりしませんでしたか?」

 アキトは頬を右手の人差し指で困ったように掻き、ナミに苦笑いを浮かべて尋ねる。
 恐らくナミの私物をアーロンパーク諸共破壊してしまったことに後悔しているのだろうとナミは推測する。
 しかし、それは取り越し苦労だ。

「えっと、その、私がこれまで書いてきた海図があったけど、大丈夫。むしろアーロンパークと一緒に壊してくれてすっきりしたから……」

 憎きアーロンパークは崩壊し、アーロンに無理やり描かれた海図に心残りなどない。
 むしろ手加減なく破壊してくれて清々している。

 アキトは彼女のその言葉にどれだけの意味が含まれているのかと考える。
 それはきっとナミ本人にしか分からないことだとしても、考えずにはいられなかった。

 だが、今の彼女は笑顔を取り戻しつつある。
 その事実がアキトには嬉しかった。

 村人達がそんな2人の輪に入ろうと駆け寄ろうとし……










 全身血だらけの状態でアーロンがアーロンパークの残骸から立ち上がり、再びナミ達の前に立ち塞がった。
 
「アーロン……ッ!」
「まだ、生きていたのか……ッ!」
「この死にぞこないが……!!」

 ゲンさん達は即座に臨戦態勢に移り、憎々し気にアーロンを睨み付ける。
 彼らはいつでも攻撃出来る様にアキトの背後で武器を構えた。

 アキトはナミを庇う様に再びアーロンを見据える。

「……」

 憎々し気に睨み、止めを刺そうとするゲンさん達をアキトは手で制し、この場から避難するように促す。
 村人達は渋る様子を見せたが、アキトに再びアーロンを任せることにしたのだろう。
 ゲンさんの指示に従い、即座に出来る限り遠くまで非難を開始した。

 見ればアーロンはまるで怨念と執念に憑りつかれた様に口を動かし続けている。
 アーロンの口から溢れるは人間への憎しみか、それとも別の何かか
 何という執念と生命力だろうか

 だが、正直、アキトにとってアーロンの人間への憎しみなど至極些細なことだ。

 アーロンはやり過ぎた。
 どれだけ大層な理由があろうとも、どれだけ人間への憎しみを正当化する過去があったとしても、アーロンのココヤシ村の支配を肯定する理由になどなりはしない。
 人の命を奪い、弄んだ者が支払うべき対価は命だけだ。
 命は命でしか償えない。

 アキトはここでアーロンを生かしておくつもりなど毛頭ない。
 人の命を軽々しく奪っておきながら、アーロンが今後も生きているなど虫唾が走る。
 ここで確実にアーロンの息の根を止め、長きに渡る魚人によるココヤシ村の支配に終止符を打つ。

 アキトの足元に微風が吹き、宙に浮き上がっていく。
 満身創痍のアーロンを見下ろし、アキトは天へと昇っていった。

 アーロンパークは無残にも崩壊し、既にその場に立っているのは朦朧とした意識の状態のアーロン一人のみ
 魚人海賊団はアーロンを除き、全滅した。 

 ナミ達の避難は既に完了し、島の端から此方を見ている。
 この距離ならば彼女達が被害を被ることはないだろう。

「彼は一体何をするつもりだ」
「信じられん、宙に浮いているぞ」
「アキト……」

 アキトはアーロンパークを一望し、斥力の力を高めていく。
 コノミ諸島の全域を一望出来る高さまで浮き上がり、アキトは宙に制止した。 







 両手を天へと掲げ、コノミ諸島を、アーロンパークを、アーロンを見下ろす。
 その紅き瞳はどこまでも冷徹で、アーロンを鋭く射抜いている。 



痛みを感じろ

痛みを考えろ

痛みを受け取れ

痛みを知れ

痛みを理解し得ない者がこれ以上彼女を苦しめるな



 アーロンパーク

 魚人による支配の象徴
 天へと突き立つ様にそびえ立つ白亜の城はこの島に根を張っている。

 この忌々しい支配の象徴をアーロン諸共、完全に破壊する。
 姿も残しはしない。

 風が吹き荒れ、アキトを中心に不可視の力が集束していくのを眼下のナミ達は無意識に感じ取った。
 吹き荒れる風も強まり、コノミ諸島の森林を揺らす。
 空を覆いつくす暗雲から一条の光がアキトを照らし出した。

 アーロンはただアキトを見上げることしか出来ない。
 哀れで、愚かな罪人の処罰の刻だ。

 そして、ナミ達は視た。
 天より降り注ぐ暴力の化身を






 途端、アーロンパーク全土に暴風が吹き荒れ、景色が一変した。
 不可視の衝撃波が大地を抉り、アーロンパークの残骸を一瞬にして粉微塵と化していく。

 その力は天を突き破り、暗雲を吹き飛ばす。
 太陽の光が降り注ぎ、コノミ諸島を神々しく照らし出す。

 その光に照らされ、今なお宙に浮遊するアキトの姿を捉えることは出来ない。
 その姿はどこか神々しく、破壊の化身にすら見え、それがアーロンが生涯にて見た最後の景色であった。

 大地が抉られ、砂が巻き上がり、地面が剝き出しの大地と化していく。
 瞬く間にアーロンパークの姿は消失し、見渡す限りの更地が広がる。

 爆風が止み、全てが消し飛んだ後には何も残ってなどいない。
 アーロンパークがそびえ立っていた大地は更地と化し、アーロンパークは文字通り消滅していた。

 ナミを、ココヤシ村を縛り付けてきたアーロンパークは存在しない。





いつでも笑っている強さを忘れないで

何があっても憎しみに囚われず、生きて、生き延びて、笑っていて……

ノジコ、ナミ、大好き

アーロン一味に入って、測量士になるの

もう泣かないと決めたの

一人で戦って、ココヤシ村を解放する

そりゃぁ不運だったな

また1億ベリーを集め終えた時に村を返してやるよ。俺は約束を守る男だからな

シャハハハ!

知っていたよ、全て。ナミ、お前が私達のためにアーロン一味に入り、お金を集めていたことも

……あ

あ、あ"あ"ぁ"あ"ぁ"あ""あ"あ"ア"ア"ア"ア"!!!!

誰か助けて、助けてよ……

あんた、さっきの……

あんたこの島から立ち去ったんじゃ……

その件ですが俺にアーロンのことを任せてくれませんか?

彼女の頑張りを無駄にしたくないんです

生きていれば楽しいことが沢山起こるから

最後まで諦めなければ、きっと救われる

きっと救いの手が指し伸ばされるから

ノジコ、ナミ!女の子だって強く、逞しく生きなくちゃならない!!



「……」

ベルメールさん、見てる?

 ナミは宙に浮遊するアキトを見据え、アーロンの支配が遂に終結したことを実感していた。
 眼前には倒壊したアーロンパークの姿があり、既に長年ココヤシ村を苦しめてきたアーロンは存在しない。







良く頑張ったね、ナミ

流石は私の自慢の娘だよ

「……っ」

 涙を流すナミの肩に手が置かれた気がした。
 背後を振り返るも誰もいない。

「ベルメールさん……」

うん、私、頑張ったよ、ベルメールさん


- こうして長きに渡るアーロンの支配は終わりを告げた - 
 

 
後書き
※主人公がナミに対して堅苦しい言葉遣い別に親しい仲ではないからです。
以前、主人公がナミに対して馴れ馴れしいという指摘を頂き、このような言葉遣いに変更しました。
主人公は距離感がある相手や初対面の人とは堅苦しい言葉遣いを遣う癖があります。
実際に、初対面のゲンさんやノジコ、赤の他人であるナミには敬語を遣っています。

ですので別に主人公のキャラがぶれているわけではありません
主人公が時と場合、相手に応じて言葉遣いを使い分けているだけです 
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