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和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する

作者:笠福京世
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第二部 北斗杯編(奈瀬明日美ENDルート)
  第17話 実力十三段

H13年中秋

 いくつかの囲碁ニュースを眺める。この世界でも9.11は起ったが僕にはどうしようもない。

>「私ね。和-Ai-の手について何とか他の人に分かるように説明しようと言葉を選ぶんだけど…、
> 和-Ai-のことを理解するには言葉にしない方がいいのかもって思うことがあるんだ。
> 何かの映画の台詞だったけど、考えるな、感じろ(Don't Think. Feel)っていうのかな?」
>
> 月刊碁ワールド『和-Ai-ネット最強棋士の概要』より奈瀬女流二段のインタビューから抜粋。

 あのときは感情的になって奈瀬に酷いことを言ってしまった。後悔はしてるけど覆水盆に返らずだ。

 けど心の中のありったけを吐き出したからこそ少しは冷静になれたし開き直れたことがある。

 今までヘンに近すぎたのだ。お互いに遠慮もあったし依存しあってた部分もあった。

 今でも奈瀬は和-Ai-のノートパソコンを使って囲碁の勉強をしてるけど僕に甘えてくることは少なくなった。ヤマアラシのジレンマじゃないけど互いの距離を手探りで測っている。

 和-Ai-の活動については思うことはあるのだろうが僕の好きにさせてくれている。

>「今や和-Ai-はネット最強棋士として実力十三段と称されている。
> プロなら置石一つ当たり2段のハンデ。
> 和-Ai-はプロの九段に2子を置かせる実力があるから実力十三段という訳らしい。
> 本来、実力十三段と称揚されるのは「棋聖」と呼ばれる四世本因坊道策のことである。
> その為か和-Ai-の正体を「現代に蘇った本因坊道策」という者もいる。
> 確かに史上最強の棋士として、道策の名を挙げる人も多い。
> 近年世界中で流行しており和-Ai-も打つことがあるミニ中国流の打ち方も道策は試用していた。
> 21世紀になって道策が再評価され全集も増版されている。
> 道策人気が高まるにつれ普段一般公開されていない岩見の国にある道策の生家のツアーも検討されている。
> 日本棋院は3年後に迎える創立80周年記念事業の一環として野球殿堂を参考に囲碁殿堂を設立しようと考えている。
> 近代囲碁の祖である道策が第1回囲碁殿堂に選出されることは間違いないだろう。」
>
> 週刊碁のコラム『現代に蘇った本因坊道策?』より抜粋。

 和-Ai-も有名になった。ヒカルの碁の漫画もアニメもない世界では秀策は一般的には知られていない。僕らの世代では本因坊といえば秀策ってくらい知られてたと思うとヘンな感じがする。

>「囲碁はメンタルゲームとも呼ばれている。精神状態により天国と地獄がすぐ隣である世界が囲碁界だ。
> 最近、棋聖と名人の二つのタイトル戦で囲碁界の天国と地獄を味わった一柳棋聖にインタビューを行った。
> 
> 以前より長期間の不調が続き年齢による衰えがあるともされてきた一柳棋聖だが、
> 今年になって復調し棋聖位は見事に防衛し、名人リーグも勝ち抜き畑中新名人と名人位を第七局まで争った。
> 復調の原動力を尋ねると一柳棋聖は今話題の和-Ai-との出会いについて話し始めた。
>
> 私が偶然にネット碁で初めて和-Ai-と戦ったのが二年前ですわ。
> 初戦にそりゃあ恥ずかしい負け方をしてしまってからずっと注目していた存在ですねよ。
> 私とは感覚的にどうもかなり違って、初めには変な手が多い打ち手だなーって思ってましたよ。
> もしかすると私の感覚が異常になるんじゃないかって悩みましたし禿げましたけど(笑)
> ふとある瞬間から視野が広くなる感じを受けましたねー。
>
> 和-Ai-の碁の棋譜を読み解くとね。私たちにはどうも偏見というか固定観念があることに気づかされるわけだ。
> どう打っても良い勝負になるのが碁。あくせくしていても仕方がない、なるようになるという気持ちが大事だね。
>
> それでさ新年を迎えて「結果に関係なく後悔をしない碁だけ打とう」て目標をたてると、
> すぐに嘘のように目の前の霧が晴れ始めたってわけだ。
>
> 一柳棋聖が言うにはメンタルを鍛えるには運動も大きい役割を果たしたらしい。
> サイクリング、軽いジョギングなど多様なスポーツで衰えてた体力を充電した。
>
> だからさあ引退して中国リーグに行っちゃった塔矢さんにも言ったのよ身体が資本だって。あの人は入院もしたでしょ?
>
> 一柳棋聖のメンタル改造は確実な成功作と見えた。ネット碁での出会いが棋風を若返らせた。
> 激戦ともいえる名人戦の後も次を見据えている。長いお喋りが終わった後、必ず載せて欲しいと低い声で一言加えた。
>
> 私は持ち時間3時間で和-Ai-と対局したい。もちろん勝算もある。
> 七大タイトル最高位である棋聖のタイトル保持者として現代に蘇った本因坊道策と戦うに相応しいという自負もある。」
>
> 原文は国際棋戦に参加した際の海外記者のインタビュー記事を翻訳して抜粋

 一柳棋聖は僕が知る原作から乖離してる気がする。なんか本因坊リーグでもアキラに勝っちゃいそうな勢いだ。やたら和-Ai-をライバル視してるので戦うチャンスを作ってあげたいと思ってしまう。

 それにしても和-Ai-の影響で奈瀬が強くなって日本で囲碁ブームが起こっているのが不思議な感じだ。逆に韓国では囲碁人気が失速しているらしい。大丈夫か?僕は問題ないけど。

 日本棋院が和-Ai-のネット碁の対局の大盤解説中継を行わなかったのは大英断だったのだろう。

 ふと思ったんだけど僕の生きた世界では90年以降に国際棋戦を席巻した韓国の囲碁界の強さは80年代に韓国出身のプロ棋士が日本の名人になって起きた韓国の囲碁ブームの影響が大きかったはずだ。
 その棋士は前人未踏の本因坊10連覇を果たした不世出の棋士だがヒカ碁にはそれっぽいキャラはいない。というかヒカ碁の日本棋院の所属のプロ棋士たちは不自然なまでに日本人しか登場しない。
 桐嶋和の師匠だって台湾出身のトッププロだし、考えたら院生が日本人ばかりってのもヘンな感じだ。調べたらヒカ碁の世界にも欧米出身のプロや韓国、台湾出身のプロもいるが少ないし殆ど活躍してない。

 まあヒカ碁は少年漫画だから、その辺は単純な設定にしたんだろうなって思ってる。お陰で人気も出た。暴言に近いけど純日本人のプロ棋士たちばかりが活躍するから佐為消失までのヒカ碁人気が成立したのだといえる。

 僕はヒカ碁のキャラクターに対する愛着はあっても囲碁界に対する敬意があんまりない。桐嶋和に出会わなければ僕はヒカ碁で囲碁を少し覚えただけの人間だったし、ヒカ碁が連載してたときも当時の名人や本因坊が誰かとか気にしたことなんてなかった。

 少しずつ舞台の用意は進んでいる。和-Ai-を倒す可能性のある棋士は誰なのだろう?



――ヒカルの碁における真に最強の棋士は誰だろう?

2日制の対局、早指し、トーナメント、リーグ戦、番勝負。

塔矢行洋、緒方精次、一柳棋聖、桑原本因坊、畑中名人――国内のタイトル保持者たち。

国際棋戦、日本ルール、中国ルール。

徐彰元、王星、華松力――海外のトッププロたち。

トッププロ、若手、アマチュア、台湾、欧米。

倉田厚、安太善、楊海――国際棋戦で活躍する棋士たち。

高永夏、塔矢アキラ、進藤ヒカル――北斗杯で活躍する新鋭たち。

藤原佐為の消えた今。

現在“世界”最強の棋士は決まっていない――。 
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